妖精の発光がようやく収まったらしく、私はゆっくりと目を開ける。するとそこは――
「…………………」
いつもの広場の風景だった。だが、少し変だ。具体的に何が変かと言われると、言葉にしにくいのだが、何か違和感がある。だが、それよりも大きな変化があった所為で私は違和感を放置してしまった。
つい先ほどまで寝ていたピカチュウと妖精が居なくなっていたのだ。
もしかしたら、全て夢だったのだろうか?
明晰夢、もしくは白昼夢でも見ていたのかもしれない。そう言えば、先ほどから自分は理解不明な行動を取っていた気がする。疲れているのだろうか?
今日は一度、家に帰った方が良いかもしれない。そう考えた私は、広場を後にして帰路に就き始めた。
◇
私は森の中を進んでいる。それは帰り道であり、見慣れた場所の筈だった。だが、やはり何故か違和感がある。一体何が私に、そう感じさせるのか? だが、私はそれを放置する。夢か現実か分からないが、今の私は精神的にとても疲れていた。一刻も早く家に帰って、泥のように眠りたい。
だが、その前に一つだけ確認して置きたいことがあるため、私はある場所に向かっていた。
それは川である。広場で目を開けた時、持ってきていた筈の靴が無くなっていたのだ。
来る途中で落としたのか、本当にタダの夢で最初から靴を持っていなかったのか分からないが、不法投棄する訳にはいかないので確認ついでに川に向かっている。今のところ、落ちている靴は見当たらない。
「あはは!」
そんなとき、川の方から声が聞こえた。女の子の声だ。
私は声がする方に向かうと、一人の女の子が川遊びをしていた。それを目にした私は、愕然とする。何故ならそこには、今よりも幼い頃の私が居たのだ。
過去に戻ったとでもいうのか? そう考えるよりも早く、私は昔の私に見つからないように草の陰に隠れた。どうしてそうしたのか分からないが、なんとなく会ってはいけないと思ったのだ。
――――ドッボーン!
その次の瞬間、物凄く聞き覚えのある音を聞いた。視線を向けてみるとそこには、川で足を取られて流されている私が居た。
あぁ、そうだ。私は昔、一度ここで溺れて誰かに助けられたんだった。だとすると、この後誰かが助けてくれる筈である。
そして女の子が流されていく、助けを求める声を上げ、そのまま川の中に沈んで行き……ん?
ちょっと待って!? 私を助けてくれた誰かさんは何処!? そう思って辺りを見渡すが、女の子以外の人間は見当たらない。
まっ、間に合えぇえええええええええええええええ!!!!!
私は茂みから飛び出すと、無我夢中で川の中に飛び込んだ。
◇
私は川から上がると、助けた女の子を横に寝かせる。触診してみると、どうやら気絶しているだけのようだ。
「ん、んぅ?」
私が触ったからか目を覚ましたらしく、顔を覗き込んでいた私と一瞬、目が合う。それを理解した私はすぐにその場を去った。背後から声が聞こえたような気がしたけど、私は無視して家とは逆の方向、つまり広場の方に逃げるように走った。
◇
「レビィ! レビィ!」
広場の手前、本来はバードウォッチングをするための場所で私の前に、あの妖精が現れた。一体なんなのだ。過去に戻って、私を助けたとか。となると、昔、私を助けた誰かさんは未来の私だったとでもいうのか。頭が痛い……。
「レビィィィイイイイイ!!!」
また妖精が発光した、その強い光に私は目を閉じる。今度は一体なんだ? いい加減、私を現実に返してくれ。
しばらくして光が収まると、先程まで感じていた森の違和感と一緒に妖精は居なくなっていた。前に目を向ければ、沢山の鳥や小動物とピカチュウが居る。そして―――
「ピカチュウ!」
「うん、美味しいピカチュウ?」
そこには、ピカチュウと腕に載せた津雪 美々の姿があった。
「…………………っ!?」
なに、これ? ちょっと待って、なにこれ!? どういうこと? なんであそこに私がいるの? ………私?
私は誰? 名前は津雪 美々。女の子。趣味は山の中を駆けること。大好きなのは、みんなと一緒に遊ぶこと。
…………違う。
私は、津雪 美々じゃない……。
じゃあ、私は何?
混乱する私は、意識を確かめようと自分の顔を手で叩いた。
その瞬間、私の中のナニカが壊れたような……いや『はがれた』ような気がした。
あぁ……あぁ……。
思い出した。
全部、思い出した。
私は、ずっと、あの子のフリをしていたんだ。
あの時、あの子は川で溺れて死んだんだ。あそこに居た幼い頃の私が溺れているところを、あの子が助けようとして、その代わりに……。
そして死んだ彼女の遺品から残留思念を受けて、ずっと彼女のフリをしてきたんだ。彼女のかわをかぶって、彼女になりきって、自分が人間じゃないことすら忘れていたんだ
それが、今の私が、溺れる筈だった彼女を助けたから、彼女は生きているんだ。
そして、今の衝撃で、私の『ばけのかわ』が、はがれちゃったんだ。
あ、あはは……なんて滑稽なんだ、自分が誰かすら忘れていた私は、恩人である彼女の姿で
あぁ、でも、あの子が生きていて良かった。私を助けようして溺れてしまった心優しい彼女が生きていてよかった。
会いたい。もう一度、あの子に会いたい。会ってお礼を言いたい。
「―――――ッ」
……でも、それはダメだ。『ばけのかわ』が無くなった私が会ったら、きっと怖がらせちゃう。もしかしたら、恐怖で死んじゃうかもしれない。
私は、この山を去ろう。
今のあの子には、あのピカチュウがいるのだ。私の憧れる人気者のピカチュウがいるのだ。
なら、私はもういらない……。
さようなら、人間さん。もう、会うことは無いと思うけど、元気でね……。
でもやっぱり、一人は、少し、寂しいな……。
お話はこれで終わりです。お付き合い、ありがとうございました。
主人公の正体については作中に伏線を作っていましたが、気付いた人いるかな?