結論。私に、ほのぼのした話は無理だった。
長い長い旅をした。
森を飛び出し、山を越え、海を越え、空を飛び、村を、町を、街を、いくつも、数え切れないほど旅をした。
見上げても頂上が分からないほど大きな建物で買い物をし、屋上で遊んだ。
迷路のような深い森で迷子になって死にかけた。
水の都と呼ばれる美しい街で水上レースに参加した。
きまぐれでコンテストに参加して、決勝戦まで進んだのに敗北して悔しがった。
ポケスロンに出場して、あのピカチュウと意地を張りながら優勝した。
いろんな出会いがあった、いろんな別れがあった。
だが、それは思い出。所詮は過去に過ぎない。
私たちは今、故郷の山へと戻ってきている。これは彼女の決まった行動だ。一つの地方を回り終えれば一度帰省し、しばらく経ったら他の地方に旅に向かう。
いわば一種の休息のようなものだ。私を含めた彼女のポケモンは、彼女が帰省すると森に放される。普段は彼女と行動を共にしているが、このような時は自由にしていいという彼女なりの気遣いなのだろう。だが――――
「キュー!」
私は叫ぶ。これだったら旅をしていた方が、何十倍もマシであると。
「カンビッ!」
「アクジキッ!」
目の前で争う二つの巨体。いねむりポケモンのカビゴンと、あくじきポケモンのアクジキングである。
世間では、彼女は私を含めた同期の6体しか所持していないと言われているが、それは間違いだ。
確かに彼女は、自分からポケモンをゲットするようなことはしないが、旅をする間に仲良くなったポケモンの方からゲットを望まれることが何度もあったのだ。
もっとも、彼女は公式の試合では頑なに私たち6体を使用する。私たち以外がバトルするのは基本的に野良試合のみだ。もっともそれは、最古参である私たちの方が強いからだ。私たちを置いて大会に出場したいというのなら、バトルで勝利して権利をもぎ取って見せろ。
さて、説明したように彼女は私たち以外のポケモンは基本的に使わない。そして一人のトレーナーが一度に持てるポケモンは6体まで、そうなると残りのポケモンたちはどこにいるのか?
その答えが、ここである。
「ガブッ!」
「リルリルリル!」
「クチーット!」
「バナバァーナ!」
「ヘアッ!」
「ムクホー!」
トレーナーは目と目があったらポケモンバトルをするらしいが、ここではポケモン同士が出会ったら即バトルだ。もちろん、カビゴンとアクジキングがしている多食い対決のような平和的なモノではなく。ポケモンジムで行われるようなガチの真剣勝負である。
「キュー!」
彼女が帰省する数日間、この山は彼女に付いて行くポケモンを決めるバトルフィールドと化すのだ。ちなみに不意打ち、罠、共闘、何でもありで、一度でも敗北すれば彼女に付いて行く権利は失われる。
きっと今も山のどこかで同期のポケモンたちもバトルを繰り広げているだろう。彼女のポケモン全てがバトルに参加する訳ではないが、一匹頭30匹は連続でバトルだ。
さて、覚悟も決まったところで、そろそろ私もバトルを始めるとするか……。
「キュー!」
私はいつものように森の中を走り出した。
この森で、この山で、この私に勝てると思うなよ、未熟者ども! 彼女に付いて行く権利は、誰にも渡さん!
「おーい! ミミッキュー!」
「キュー!」
7日間に及ぶ壮絶な戦いを終えて、私を呼ぶ彼女の声に、私は草むらから姿を出して返事をした。
「あっ、居た。おいでミミッキュ」
「キュー!」
私はいつものように彼女に向かって飛び付いた。そんな私を、彼女は優しく受け止めてくれる。頭の上や肩は、あのピカチュウの場所であるが、彼女の腕の中は私の指定席だ。
「ふふっ。みんなと仲良くしてくれた?」
「キュー!」
彼女の言葉に私はコクリと頷いた。
今頃はみんな仲良く、ハピナスとタブンネの世話になっていることだろう。
「そっか。じゃあ、ここに残る?」
「キュー!」
私は思いっきり身体を左右に振り回し、彼女の提案を否定する。
「だったらまた、私に付いて来てくれる?」
「キュー!」
当然である。私が彼女に付いて行かないなどありえない。今度こそ、私は彼女を守らなければならないのだから。
どこであっても、私は彼女の為に戦い。
どんな理由があろうとも、私は彼女の味方であり続け。
如何なる危機からも、私は彼女を救い出してみせる。
なぜなら私は――
―――彼女のエースポケモンだからな!
その後、合流した同期たちは、私の言葉が気に食わなかったのか。彼女が眠った深夜にバトルをして、地図を書き換えなくてならないほど地形を変えてしまったが、それはまた別のお話だ。
これが私のできるほのぼの(殺伐)だ。