「異世界人……?」
「意味ぐらい分かるだろう? 思春期真っ盛りなお年頃なんだからさ」
「……俺の中学時代のあだ名っすか?」
「そうなんだろうがそうじゃない」
「……マジですか?」
改めて、目の前に集まる人達を見回す。
ここに居るのはみんな……一人ぐらい例外は居るが、みんな見た目は俺と同じ普通の人間だ。でも……普通の人間じゃ説明出来ない事がいくつもある。
「……本当に、異世界人なんですか?」
「ああ」
「炎を操ってたのも……?」
「異世界人だから」
「人間離れした動きをしてたのも……?」
「異世界人だから」
「なんか魔法陣っぽいの出してたのも……?」
「異世界人だから」
「胸が大きいのも……?」
「それは単なる発育の暴力だ」
衝羽根さんの冷静な返答とツッコミに、少しだけ動揺が収ま……
「――るか! なんですか異世界人って! 訳分かんないっすよ!」
「え、まだ分かんないの? 想像力足りないなオイ」
「把握は出来ても納得出来ないですよそんなの! 異世界人とか、そんな……」
「あー、はいはい分かった分かった。とりあえずそこら辺も含めて説明してやるから、客間戻るぞー」
ガシッと、衝羽根さんは俺の首根っこを掴み、リビングから立ち去ろうとする。
「ああ、そうだ」
が、ふと足を止めてリビングに居る皆を指差す。
「大人しくしてろよテメェーら。今度暴れたら今日の夕食、冷え切ってめっちゃ伸びたカップラーメンにすんぞ」
「なんですかその地味な嫌がらせ……」
「じゃ、後片付けしとけよ」
そう言い残して、衝羽根さんは客間に向かった。
彼女に引きずられ、再び元の場所に戻った俺。先と同じ位置に座り、衝羽根さんは軽く咳払いをしてから口を切る。
「さてと……とりあえず、まずは質問タイムとするか。さあ、どうぞ」
「……いや、色々あり過ぎて何から聞けばいいか分かんないです」
「そ。じゃあ勝手に話進めるぞ。つまりあいつらは異世界人で――」
「待って待って待って。流石に付いていけないです。せめてなんというか……情報が欲しいです。なんで、異世界人なんて存在が居るんですか?」
「面倒だな……そこはなんとなくでいいから納得しとけ。『あ、居るんだ。へぇー』ぐらいのノリで」
「そこまでお気楽になれないです」
「チッ……」
舌打ちしたよこの人……もうヤダ。
「わーったわーった。一から十まで説明してやるから、しっかり聞いとけ」
ようやくちゃんと説明してくれるようだ。一字一句聞き逃さぬように、耳を傾ける。
「確か……うん十年前ぐらい……だった気がする。なんかよく分かんないけど、どっかに、えーっと……ナントカ、つー異世界に繋がるゲート的な何かが現れてー、なんやかんやで互いの世界で交流を深めよう的な事になって、そんでなんやかんやあって向こうの世界の住人がこっちに来るようになった……って感じ」
以上終わり、と最後に付けて衝羽根さんは口を閉ざす。
「なんすかその二から九を省いたような説明! なんやかんや多用しすぎでしょう!」
「うっせーな、細かい事は気にすんな。大体の説明はなんやかんやで済むんだよ」
「な訳無いでしょう!」
「まあつまりだ。この世界には別の世界に繋がるゲートがあって、あいつらはそこから来た奴らって事。それが分かればもう他はどうでもいいの。オーケー?」
「うっ……まあ、それはなんとなく分かりましたけど」
なら良しと言わんばかりに、衝羽根さんは頷く。
こっちとしては全然良くないんだけど……結局細かいところは不明な点多いし。……まあ、もういいか。あんまり難しい事言われても、理解出来る気しないし。
「それにしても、異世界に繋がるゲートって……そんなものがあるなんて、知らなかった……」
「まあ、その事を知ってるのは国のお偉いさんとか、ごく一部だからな。確か向こう側がそういう要求をしてきた……とかだっけかな」
「なんでですか?」
「知らんし興味ない」
「……そうですか。でも、だったらどうして衝羽根さんはそんな事知ってるんですか? しかも、異世界人と一緒に居るし」
こんな壮大な話、ただの寮の管理人が知っているのはおかしい。きっと何か理由があるはずだ。
まあ、どうせなんやかんやで済まされるんだろう。そう思っていたが、意外にもちゃんとした答えが返ってきた。
「そりゃ、ここは政府公認の、異世界留学生用の寄宿舎だからな」
「……異世界留学生? なんすかそれ」
「言葉通りだよ。異世界からの留学生。あいつらはそれ」
「留学って……それも、さっき言ってた交流の一つなんですか?」
「みたいだな。まあ、外国からの留学と大差ねぇから」
ノリが軽いな……もう、気にしたら負けなんだろうな。
「というか、政府公認って……随分大それてますね」
「政府って言ってもあれだ、政府が関わってる異世界との交流を管理する……的な組織だよ。もちろん一般には公開されてない、秘密組織ってやつだ。まあ、そこは知らなくていい」
「はぁ……で、なんでここが異世界留学生の寄宿舎なんかに?」
「まあ、色々あるんだよ。それにここ以外にもあるしな、そういう寮。異世界人とかこっちに大量に居るし」
「えっ、マジですか!?」
「おう、一人居たら百人居ると思え」
「台所にでも居るんですか異世界人……」
参ったな……衝撃的な事実が多すぎて処理しきれない……とんでもないとこに来ちまったな。
「……ん?」
「どした?」
「ここって、異世界留学生用の寄宿舎なんですよね?」
「おう」
「普通の……いわゆるこっち側の人は居ないんですか?」
「まあ、私以外は全員異世界人だな」
「じゃあ……なんで俺、ここに来れたんですか……?」
当然俺は異世界人じゃないし、異世界の事も今知った一般人だ。なのに何故、俺はここに招かれたのだろうか?
すると、衝羽根さんは思い出したように手を叩く。
「ああ、そうだそうだ。本題はそれだよ。ほら、例のチラシに書いてあったろ? 管理人の仕事手伝え的な事」
「はい……」
「でだ、その手伝ってほしい仕事の一つが、一般人じゃなきゃダメなんだ。お前、田野関学園だろ? ここら辺そこしか無いもんな」
「まあ、そうですけど」
「ならオッケー。単刀直入に言う。お前には、あいつらの監視役を頼みたい」
「……はい?」
言ってる意味が分からず、思わず大きな声が出る。
「どういう事ですか? 監視役?」
「あいつら……ああ、さっきの奴らな。お前と同じで今度田野関学園に入学するんだよ。で、お前にはあいつらを学園内で監視してほしい訳よ」
「いやだから、なんで監視なんてするんですか?」
「物分かり悪ぃな。いいか? 異世界人の存在は、基本一般人には知られちゃならんの。だからもしも、さっきみたいな事を外でやらかしたらどうなるか、分かるよな?」
「……まあ、異世界人と分かるかどうかはともかく、普通じゃないって、目立ちますよね」
頷き、衝羽根さんは言葉を続ける。
「だからそうならないように、お前に監視してほしい訳だ。問題を起こさないように。そういうのも管理人の仕事な訳だが、私じゃ学校までは監視し出来ないからな」
「……事情は分かりました。だから、あんな募集を?」
「そういう事。異世界人に異世界人の監視頼んでも、意味無いしね。監視役が問題起こしかねない」
「……一つ、いいですか」
「どーぞ」
と、衝羽根さんは適当に右手を差し出す。
「その仕事、何かリスクとかはあります? 仮にその監視対象が問題起こして、異世界人の事バレたりした時とか」
「うーん、前例が無いから何とも言えんが……まあ、気楽にやればいいよ。あ、もちろん他言無用な。もし言ったら……まあ、あれがあれだから」
「変に誤魔化さないで下さい逆に怖いです。……もう一つ。もしここで俺が断ったら、どうなります?」
「秘密保持の為に脳みそをコチョコチョーっと」
「そんな恐ろしい事するんですか!?」
「冗談冗談。でもまあ、絶対他言しないって誓約書的なのは書かされるかも。後は私しーらない」
呑気な……やっぱりこんな怪しい案件に手を出すんじゃ無かった……タダより高いものは無いと言うが、本当だな。
正直、何も聞かなかった事にして帰りたい。でも……
「でも、あんたあんな怪しいチラシに釣られて来たんだから、住む場所無いんでしょ? 今後どうすんの」
「うっ……」
「ま、どうしようがあんたの自由だけど。安心しな、オススメの公園と防寒性能抜群のダンボールを紹介してやる」
「出来れば紹介されたく無いです……」
「じゃあどうする? ウチ住む?」
「そ、れは……」
「……何度も言ってるように、気楽に考えな」
衝羽根さんは腕と足を組み、口元を笑うように吊り上げる。
「難しい事考える必要はねーよ。お前は、ただあいつらと一緒に暮らして、友達になりゃいいだけだ。で、友達がいけない事しようとしてたら止める。ただそれだけだよ」
「友達って……なれますかね、俺」
「あいつらは馬鹿だが、悪い奴らじゃねぇ。すぐに溶け込めるだろ」
確かに、彼女達は俺に対してフレンドリーに話し掛けてきた。なろうと思えば、すぐ仲良くなれそうだ。異世界人とか、そういう事は関係無く。
最初は異世界とか、未知の事に困惑したけど……よく考えてみるとそこまで悪くない、のかな? 異世界人と仲良くなるなんて、二度と無い機会だろうし。それに何より、行く当ても無いし。
「……本当に、難しい事無いんですよね」
「おう」
「じゃあ、お世話になろう……かな」
「……決まりだな」
ニッ、と口角を上げ、衝羽根さんはソファーから立ち上がる。
「ようこそツクバネ荘へ、伊瀬界人。私達は、お前を歓迎する」
「……はい、よろしくお願いします」
なんだかとんでもない事に巻き込まれた気がするが……後先気にしても仕方ない。今はポジティブに、住み家が見つかった事を喜ぼう。
「いやー、なんとか見つかってよかったわ!」
グッと背伸びをしながら、衝羽根さんは愉快な笑い声を上げる。
「これで私も肩の荷が降りるってもんよ! これから頼むわよ、管理人代行!」
「はい、出来る限り……ん?」
今、なんか俺の知ってるのとは違う言葉が聞こえたような。管理人……代行?
「あの……管理人、補佐じゃ? チラシにはそう書いてあったんですけど?」
「あ? そうだっけ? まあ、やる事は変わんないから」
「……代行って事は、衝羽根さんの代わりを俺がやるって事ですか……?」
「まあそうだな。ああ、安心しな。別に全部の仕事やれって訳じゃないから」
「…………その管理人代行、主な仕事内容は?」
俺の質問に、衝羽根さんは指を折り曲げながら答えた。
「えーっと、例の監視でしょ。後は朝食と夕飯作って、廊下とか風呂とかトイレとかの共有スペースの掃除、食材や消耗品の買い出し、戸締りに……住人のトラブル対策かな」
「ほぼ全部じゃないですか! 手伝いじゃなくて肩代わりじゃないですかそれ!」
「安心しろって、掃除とかは休みの時でいいから。私もたまには手伝うから」
「立場逆! あんた、監視とかよりこっちが本命でしょ!? 自分が楽したいだけでしょ!!」
「うっせーな。家賃タダにしてんだからそれぐらい頑張れ。細かい手続きとかは後でなー。はー、明日から楽出来るぞー! うっひょひょーい!」
「な、ちょっと待て……」
慌てて声を掛けるが、俺の制止を無視して衝羽根さんは客間を後にした。
「…………やっぱり、帰りたい」
でも、今日からここが俺の家。もう、逃げられない。
こうして、俺の都会暮らしが始まった。愉快な異世界人達と一つ屋根の下、波乱の管理人代行生活が。