宇宙戦艦ヤマト2202外伝 波動実験艦武蔵   作:朱鳥洵

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第1話です、良かったら見ていってください。
2話以降は書け次第順次乗せていくつもりです!
キャラクターの大半と艦名はオリジナルです。
ヤマト2202のネタバレを含むかもしれません、第6章まで見ていない方でネタバレ避けたい方はご容赦ください。
全7話予定です。


第1話 「発進」

 ――西暦2203年。

 宇宙戦艦ヤマトが惑星シュトラバーゼを旅立ち、テレザートを間近に見る頃の事である。

「私に艦長になれ、と」

 藤堂長官に呼び出された男は、長官の言葉を反芻した。

「そうだ。君をアンドロメダ級の艦長から外したのは、この任務を遂行してもらうためだ。頼まれてくれるかね、近藤くん」

 近藤武(こんどういさむ)。

 52歳になったばかり、長身で無精髭をたくわえた男。

 山南、安田らが次々とアンドロメダ級の艦長に決まる中、有力視されていた彼が外されたのは、軍の中でも意外だと語られていた。

「しかし、なぜ今になって私がヤマト級の艦長になるのですか」

「……人類が、生き延びるために。”G計画”のために必要なのだ」

「そんなものを発令する時が来ると、長官はお考えですか」

「もしものためだ。それに今回の任務には、様々な試験も含まれている。君になら任せられる」

 艦長クラスにも秘匿にされ続けているG計画の要領は得ないが、長官の強い信任を受けて、断る理由はなかった。

「私で良いのなら、受けさせていただきます」

 

 ――クルーには明朝◯七◯◯に艦(ふね)の前で待つように伝えてある。

 長官にはそう言われたが、艦長として艦を預かる以上、いち早く艦を見て、それを知る必要がある。

 そう考えた近藤は、地球軍司令部を後にしたその足で宇宙港へと向かう。道中乗組員の名簿にも目を通した。科長クラスが皆クセがありそうだが、問題はないだろう。

 宇宙港では、艤装の換装が行われている最中であった。

 かの英雄、宇宙戦艦ヤマトによく似た艦型だが、艦橋は大きなドームが見える。

 艦橋後部に伸びた構造物は飛行甲板の役割を果たし、その下には艦名が大きく描かれていた。

「『武蔵』か……良い名だ」

 ヤマト級二番艦、波動実験艦武蔵。

 ヤマト帰還後すぐ、波動機関の可能性を調査するために建造された艦である。ヤマトの大航海で得られたデータをもとにアンドロメダをはじめとする新造艦に搭載するための武装テストまでをも行い、その問題点などを洗い出した。

 アンドロメダ級とドレッドノート級の設計完了と同時にその役目を終えたはずの武蔵であったが、今目の前にあるそれは出撃の時を今や遅しと待ち焦がれているようであった。

「あなたは?」

 声の方へと向き直ると、そこには若い女性が立っていた。

 青の艦内服が、彼女が技術科の人物であると示している。

「私は、明日から武蔵の艦長になる近藤だ」

「はっ……⁉︎ し、失礼しましたっ!」

 彼女は驚いた顔を見せた後、直ぐに姿勢を正して敬礼をする。

 その様子に苦笑いしながら、近藤は彼女に語りかけた。

「まあまあ、まだ私は艦長ではないんだ。それに、そんなに畏まらなくてもいい。自然体でいてくれ」

「は、はぁ。そうですか」

「で、君の名前を聞いてもいいかな」

 そう問うと、彼女はまっすぐ近藤を見て答える。

「技術科所属、佐伯柑奈(さえきかんな)です。確か辞令では明日から武蔵の技師長を務めることになっています」

「君が技師長の佐伯くんか。いやはや、資料では見たが、随分若いな」

「よく言われます。こう見えて私、ヤマトの真田副長の下にいたことがあるんですよ。だいぶ前ですけど……」

 ゆっくりと目をそらす佐伯に、近藤は武蔵を見ながら問いかける。

「明日から配属なのに今日来るとは、随分熱心だな」

「いえ、私は武蔵の初期クルーなんです。最初から乗っているので、もうこの艦が家よりも落ち着く場所になってきちゃいました」

「はははっ、すっかり船乗りになったようだな」

「ですから、武蔵に戦うための武装をつけて戦いに出すのは……あまり気が進みません」

 佐伯の武蔵を見る瞳は、まるで愛しい人を見るようで。

 近藤はそんな彼女を見ながら、えも言われぬ心情を抱いた。

「私は作業に戻ります。失礼します、艦長」

 彼女の美しい敬礼に思わず敬礼で返すと、佐伯は微笑んで艦内へと駆けて行った。

「武装をつけるのは気が進まない、か」

 今まさに武蔵に載せられようと吊り下げられている砲塔を眺めながら、近藤は呟いた。

「戦わなくていいのなら、俺もその方がいいさ」

 封印された波動砲口を見つめ、近藤はその場を後にした。

 

 

 ――俺が、戦術長?

 言い渡された辞令を頭の中で反芻しながら、なんとも言えない複雑な感情で頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだった。

 有賀義弥(あるがよしや)、22歳。遊星爆弾とガミラスの攻撃で妹以外の家族全員を失い、ガミラス憎しで生きてきた。

 ――ヤマトには、兄さんが乗るはずだった。

 古代守が戦死した後、一時は彼の兄がヤマトの臨時の戦術長として内定していた。

 しかし、あの日の攻撃で彼の兄は死に、古代守の弟である古代進が戦術長を務めることになった。

 彼はそんな古代を心から妬んでいた。

「くそっ!」

 道に落ちていた石ころを蹴飛ばした直後、ポケットの中の端末が震えた。

「なんだ、通話?」

 端末を開き通話に出ると、彼にとって聞き慣れた声が聞こえた。

「美佳か? どうした?」

『あっ! やっと出たなお兄!』

「やっと?」

『そうだよ! 何回も何回も何回も何回もなんっっかいもかけてんのに!』

「そうだったのか、悪かった」

『悪かった、じゃないわバカ兄貴! どこほっつき歩いてんのか知らないけど、ご飯もうできてるからね!』

「わかった、すぐ帰る」

『ん、なら良い。待ってるからね、お兄』

 その言葉で、美佳からの通話は一方的に切れた。

「これは、帰ったら大目玉かなぁ」

 そんなことを思いながら、彼は家へと歩き出した。

 時は春から移り行こうとしている。よく晴れた夕暮れの中を、心地よい潮風が流れていた。

 

 

翌日

「今度はちょっと長くなるかもしれない」

「うん、分かってる」

 玄関先で妹の美佳から荷物を受け取ると、義弥は妹の頭を撫でた。

「うわっ、何、どしたの」

「別に何でもないぞ」

「……そっか」

 少し暗い顔の美佳の顔を覗き込もうとするが、彼女は兄から顔をそらした。

「じゃあ、もう行くからな」

 そう言って美佳に背中を向けた義弥だったが、背後から裾を掴まれ妹に向き直った。

「美佳?」

「あっ、いや、なんでも、なんでもない!」

 慌てて手を離す妹の手をとると、兄として妹を安心させるように彼女の身体を抱きしめた。

「大丈夫。今度は危ない任務じゃないから」

「……待ってるこっちは不安なんだから、早く帰ってきてね。お兄」

「ああ、必ず」

「あと、フネに着いたらポケットの中見てね。絶対だよ」

「ん? ああ、分かった」

 美佳は兄の体を離すと、音がなるほど強く背中を叩く。

「いたっ⁉︎」

「あたしの願掛け。ありがたいと思いなさいよ、お兄」

 家から離れていく兄の姿を笑顔で手を振りながら見送り、彼女は扉を閉めた。

 深いため息とともに扉に背中を預けた彼女は、果てしなく続くとも思える廊下を向いた。

「あぁ……また1人かぁ……」

 自らの身体を抱きしめながら力無く座り込む。

 兄の温もりを、あの感覚を忘れないように。

「……寂しいよ……」

 少なくともここから数ヶ月、彼女は一人でここで暮らさなくてはならない。

 ――兄が、もう帰ってこないかもしれないという不安を抱えながら。

「あたしの事も考えなよ……バカ兄貴……」

 

 

宇宙港

「技術科員は全員持ち場について発進準備」

「戦術科、兵装チェック」

「機関始動準備」

「波動コイルの設置完了まであと10分……レーダー設備問題なし」

「通信テスト。……異常なし」

「航海用設備点検終了。全工程異常なし」

「気象観測装置点検完了、各部問題なし」

 ブリッジでは、発進のための用意が着々と進められていく。

「おー、みんなやってるな。ご苦労ご苦労」

 近藤がブリッジに入ると、艦橋の席にいた面々は一斉に立ち上がり彼に敬礼する。

 それに近藤も敬礼で返し、艦長席へと腰を下ろす。

 ――俺が、この艦を……。

 感慨とも感動とも違う、これからのしかかる重責に対する緊張のようなものが彼の中に広がる。

 乗組員総勢430人。その全員の命を預かる者としての重荷が、今彼の肩にその腰を据えた。

 それを振り払うように立ち上がると、彼を見るブリッジの人員の顔を一人一人見回して口を開く。

「私がこの艦の艦長、近藤武だ」

 その瞬間、緊張の面持ちが緩み始める。

「戦術長、有賀義弥」

「はい」

「航海長、三原泰平」

「はい!」

「技師長、佐伯柑奈」

「はいっ」

「船務長、丹生美華」

「はいっ!」

「気象長、棚橋小百合」

「はい……」

「砲雷長、来島理沙」

「……はい」

「機関長、谷村義晴」

「はいッ!」

「通信士、一ノ瀬海斗」

「はっ」

「……艦長として、俺はまだ至らない部分があるかもしれん。その時は、君たちの力を貸してくれ。頼りにしている」

 近藤にとってはくすぐったいくらいの彼らの目線を受けて、先程まで感じていた重圧は既に消えていた。

 ――艦長とは、こういうものなのか。

「さあ、任務に行こう。発進用意」

『了解!』

 彼の号令に反応し、彼らは敬礼の後席に着いた。

「各部チェック終了、異常なし」

 副長を兼任する機関長の谷村の言葉で、近藤はその彼に目を配る。

「波動エンジン始動」

「波動エンジン始動。フライホイール回転」

「フライホイール回転数良好」

 機関長に続き、航海長が状況を伝える。

「補助エンジン始動、点火。ガントリーロック解除」

 武蔵が停泊する発進ゲート内に補助エンジンで巻き上げられた砂煙が起こり始め、同時に武蔵を固定するロックが艦を解放する。

 艦から発する慣性重力で船体を安定させると、巨体が進み始めた。

「主翼展開」

 ゲートから海上へと出た武蔵の船体から赤色の巨大な翼が姿をあらわす。

 海面のすぐ上を通る巨体が起こす風で水面が波立つ。

「フライホイール接続、点火!」

 艦内にエンジンの回転音が響き始め、次の瞬間メインノズルから炎が伸びる。

 それは海水を巻き上げ、長い眠りから覚めるように轟いて艦を加速させた。

「艦首上げ。武蔵、発進!」

 艦首が空に向くのと同時にエンジンの炎が海水を蒸発させながら船体を押し上げていく。

 水面が凪いだ頃には、既に地上から武蔵の姿は見えなくなっていた。

「大気圏外航行に切り替えます」

 武蔵の主翼が船体へと滑り込む。

 エンジンノズルから出る炎が強くなり、武蔵は更に加速していく。

「月軌道艦体、アンドロメダ級6番艦アルタイルからの電文入電」

「読み上げろ」

「『当該宙域に艦隊集結。貴艦の合流と同時に出撃する』」

 通信士の言葉が終わるのとほぼ同時に、艦橋から肉眼で月と数隻の艦艇が確認できた。

 武蔵がアルタイルの飛行甲板を見ながら横を通過すると、艦隊が同時にエンジンを点火して武蔵に続く。

「ドレッドノート級無人艦、デネブ、ドューベ、デネボラ、ディフダと磯風改駆逐艦の黒潮から武蔵へと指揮信号受信。以後本艦からの稼働指示に従い行動する」

 技師長の佐伯がパネルを操作すると、武蔵の表示の下にそれぞれの艦名表示と「LINK」の文字が追加される。

 今回の航海で武蔵に課せられた任務の一つは、この無人艦のオペレーションである。

 時間断層で艦船を建造しても、人員には限りがある。

 そこでまずは完全な無人ではなく、指令艦からの指示で動く艦艇としての運用を行うという。

 完全なる無人艦隊は、ヤマト級三番艦の銀河の就航を待つ、ということを近藤は聞いていた。

 手始めとして、武蔵はドレッドノート級4隻と急ごしらえの駆逐艦1隻の5隻を操るということである。

 また、武蔵が万一遠隔操作不能に陥った時のためにアルタイルにも同様のシステムが装備されている。

「さて、初任務だ。本艦の任務は、まず輸送船むつきを護衛し資源惑星ザリシアへと向かうこと」

 近藤の説明に、舵を握る航海長以外の全員が振り向く。

 資源惑星ザリシアは太陽系から銀河系外縁部へと約15光年の位置にある恒星系の三番惑星である。ガミラスが開拓し、時間断層の利用権の代わりに地球へと譲渡された。

 宇宙艦艇の建造に不可欠な金属とコスモナイトが多くとれる惑星であり、時間断層運用の要とも言われる星だが、ここ数日は連絡が途絶えているらしい。

 地球型の惑星であるザリシアだが、地盤のほとんどが金属質で構成されているため居住可能区域は限りがあり移住には向かないという事が分かっている。

 今回の武蔵は、輸送船むつきと護衛艦、パトロール艦を無事ザリシアまで送り届けることを第一の任務としている。

「全艦、資源惑星ザリシアへワープ準備」

「ワープ準備、波動エンジンワープシークエンススタート」

 武蔵の赤色の炎が青く変わり、船体が加速し始める。

 武蔵の変化とほぼ同時に、全ての艦も同様にワープ速度へと加速を始めた。

「カウントスタート。ワープまで10秒前、9、8……」

 船務長、丹生の少し緊張した声が響く。

 既にヤマト以外の艦も、武蔵でも何度も成功しているワープ航法ではあるが、彼女のように宇宙艦艇での任務がこれで初めてとなる人員には緊張の瞬間なのだ。

「3、2、1」

「ワープ!」

 航海長の声と共に、艦はワームホールへと突入し、光となって通常空間とは隔絶された空間へと消える。

 艦隊が消えた後の月上空には、艦の影すらも残っていない。

 今ここに、武蔵の旅が始まったのである。

 

 ――第1話 「発進」――




読んでいただきありがとうございました。
戦術長、艦長、技師長以外のキャラがあまり話してないじゃないかとお思いかと思いますが、今後登場が増えていくと思います。
これからもっと面白くしていこうと思うので、よろしければこの後もよろしくお願いします。
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