宇宙戦艦ヤマト2202外伝 波動実験艦武蔵   作:朱鳥洵

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第3話です。
今回はあまり目立った戦闘もなく、クルーの関わりに重点を置いています。
1話、2話に比べると今回割と短めになりました。


第3話 「追跡者」

 資源惑星ザリシアの解放に成功した武蔵は、地球からの防衛艦隊を待ちながら無人艦の応急修理を進めていた。

「あれの修理は結構かかるのか?」

 戦術長席で頬杖をつきながら有賀はそんな問いを投げかける。

「さあな。生命維持装置をつけるわけでもないんだし、直すのは見てくれの装甲だけだからそこまでかからないと思うけど」

 航海長の三原泰平が背もたれに寄りかかって天井を仰ぐ。

「まあ数が数だから多少はかかるだろうさ。宇宙に出ればそれどころじゃないんだ、ゆっくりしようぜ」

「ああ、そうだな」

 地球からの資源惑星ザリシアの防衛艦隊の到着と、被弾、損傷した無人艦の修理を待つために武蔵のクルーには1日の休みが与えられていた。

 とはいえ、資源惑星であるこの星は居住可能区域も少なく住人は大半が地球人、二等ガミラス人の鉱夫とその家族であるため休暇を与えられタラップが下されていても武蔵から降りる乗組員は少なかった。

 無人艦を率いる関係で武蔵において割合が高い甲板科のクルーには休みなどなく、無人艦の補修に弾薬の補充と忙しなく動き回っているし、機関科のクルーもエンジンまわりの点検に交代で駆り出されている。

 完全なオフなのは、甲板科、機関科、主計科を除いたクルーであった。

 それでも「整備にも使えるかもしれない」という理由でヤマトから設計データが地球へと渡されていた機動甲冑により、修理や補給はこれまでの人力と比べ倍以上の効率で行えている。

 ヤマトへの増設前に武蔵で稼働試験が行われていた艦内工場あってこその装備だった。

 地球からの情報では、ヤマトはテレザートを出立し、白色彗星を追って地球へと転進したという。

 地球でもまた、白色彗星がガトランティスの本星であり地球へと到達するまでに時間はあまりかからないという報告を受けて、迎撃作戦のため慌ただしそうであった。

 武蔵が提出した資源惑星解放作戦時の無人艦のデータを元に波動砲艦隊の第一陣が建造を終えており、アンドロメダ率いる主力艦隊への配備は順調である旨が報告された。

「長官、それは本当ですか」

『そうだ』

 通信室で地球との交信を行なっていた近藤は、長官からの言葉に驚きを隠せなかった。

『波動実験艦銀河を、防衛作戦の時は前線に出す。これは決定事項だ』

「しかし、報告ではあの艦は武装が使用できないと聞きました。そんな艦を出すのなら武装艦の本艦が出た方が」

『今度の作戦には、銀河に搭載されたコスモリバースシステムが必要なのだ。ヤマトも地球に向かってくれている。コスモリバースを使えば、白色彗星が地球へ到達するのを防ぐことができる可能性が高い。よって、貴艦には新たな任務を頼みたい』

 

 

「司令部の命令は以上です」

「そうか」

 武蔵の艦長室で近藤の向かいに座るアルタイルの武田艦長が頷く。

 武田はガミラス戦役時に乗っていた艦が沈み、自分だけが生き残ったことから自らをフネを沈めた男として自分を戒めてきた。

 近藤とは同郷であり、訓練学校時代の後輩としてかわいがってきた。そのため今回、彼が行くのならとアルタイルの艦長を引き受けたのだ。

「そのG計画については要領を得ないが、つまるところ地球の人たちが移住できる場所を探してくればいいんだな?」

「そういうことのようです。その星についてもイズモ計画の時に観測されたデータをもとに目処がついているらしいのですが」

 近藤は武田に、端末に表示させた星の図を渡す。

「この星は確か、私の記憶違いじゃなければ人が生きている可能性が高い星のはず。ここを調べてこいということは」

「侵略を意図してのことではなかろう。どれか1つでも使えれば良いのだから」

 しかし、そう言う武田もまた表情は暗い。

「人類移住計画を、本当に実行する時が来なければいいのだが」

 

 

武蔵/食堂

「オムシスって本当に色々作れるんだね」

「ヤマトでは色々大変だったって聞くけどね。補給しないとさ」

「まあそうだけどねー」

 食べ物を口に運びつつ、佐伯柑奈と濱内水月は食堂の端でそんな会話をする。

 今は昼時ということもあり、艦内食堂は非番のクルーで賑わっていた。

「柑奈ちゃんと水月ちゃんだ! 隣いいかな?」

 2人の返答を待たずに柑奈の隣についたのは、船務長の丹生。

「柑奈ちゃんあんまり食べないんだね」

「もう大体食べ終わったんです、あんまり食べてないわけじゃ……」

「えっ、でも今日は少なかったよね柑奈」

「水月は余計なこと言わないで」

「ちゃんと私くらい食べないとダメだよー?」

「美華さんは食べ過ぎ。太ります」

 水月の隣に座った砲雷長の来島理沙が少し冷たい声色で忠告する。

「そうかなぁ、私食べすぎかな?」

 聞かれた柑奈と水月は、彼女の皿を見ながら首を縦に振る。

 彼女の皿には見るからにカロリーの高そうなモノが大量に乗っており、野菜などの姿は見えない。バランスよく適度な量を乗せてきた水月や理沙とは対照的であった。

「もしかして美華さんっていつもそんな感じの食べてるんですか?」

「そうだよ」

 水月の問いに笑顔で答えると、柑奈が横から口を挟む。

「それで太らないんですか……」

「トレーニングとかはあんまり得意じゃないんだけどね。理沙ちゃんはトレーニング結構してそうだなって思うんだけど」

「私は……まあ、結構してるとは言われます」

「へぇ、だからそんな引き締まった身体してるんだ」

 隣の水月が言いながら彼女のお腹へ手を伸ばすと、彼女はそれを止めた。

「何してるんですか」

「あーバレたかー」

「やめてください」

 冷たくあしらった理沙は、一際大きなため息をついてサラダに手をつけた。

「そういえば前から気になってたんだけど、通信長の『イチノセ』くんって銀河の航海長の双子なのかな」

 丹生のそんな問いに、少しあきれた様子で柑奈が端末を突きつける。

「銀河の航海長はこっちの『市瀬』で、通信長はこっちの『一ノ瀬』だから無関係です。ちゃんと名簿見たんですか?」

「柑奈ちゃんよく知ってるね。私日下部うららから名前だけ聞いてたからさ」

「あー、私は……まあ、色々あって……新見さんとかに助言もらったりする中で知りました。それより、日下部さんって」

「銀河の戦術長だよ。同期なの。まああんまり関わりがあったわけじゃないんだけど」

 そう言って唐揚げを口に運ぶ丹生に、理沙が呟く。

「女性で戦術長は尊敬します」

「そう? あたしは別に、彼女ちょっと堅い印象あったし、理沙ちゃんにはもうちょっと素直でいてほしいかなぁ」

 それを聞いた理沙は、少しだけ頬を染めて目をそらした。

「……余計なお世話です」

 弱々しく呟くものの、丹生の目を見ることはできなかった。

 

武蔵/艦橋後部デッキ

「――もう二度と……」

 手に持った写真を撫でるように見ながら、彼女は呟く。

「気象長」

 背後からの声に振り向くと、そこに立っていたのは通信長の一ノ瀬であった。

「何か用?」

「いいえ、別に用というわけでは。なんとなく気分転換に」

「そう」

 気象長の棚橋の横で手すりに身体を預けた一ノ瀬は、彼女を見ることなく問う。

「前の船ですか」

「ええ。貴方、私の経歴は知っているのでしょう?」

「どうしてそう思うんです?」

「私が何を見ていたのか、分かっているじゃない」

「まあ、なんとなくは」

 棚橋は窓に背を向けると、写真を見つめながら語り始めた。

「カ号作戦の時、私以外の全員が死んで、私だけが生き残った。キリシマに回収された私は、その時誓ったの。もしまた私が艦に乗ることがあったなら――」

「もう二度と沈めてなるものか、ですか」

「……少し違う。二度と、私の目の前では死なせない」

「頼もしいですね」

「ううん、そんな事はない。だって私は、一度負けてるんだから」

 そう言って、棚橋はその場を離れた。

「なんであれ、生きていれば勝ちですよ」

 そう呟いた一ノ瀬の言葉は聞こえていたのか。それは本人にしか分からない。

 

翌日

 ほぼ定刻通りに地球からのザリシア防衛用の艦隊が到着し、武蔵管轄の無人艦の修理も完了していた。

 艦隊の到着と同時に、武蔵、アルタイルと無人艦隊はザリシアを離陸しワープアウトする艦隊を尻目に星を離れる。

 ザリシアの星系から離れた後、艦長は次なる任務を告げた。

「これより本艦は、トラピスト1星系へと向かう」

 近藤の言葉に、航海長の三原は驚きの声を出す。

「艦長、その星系は……」

 トラピスト1は、1世紀以上前に発見された赤色矮星であり、星系内に7つの惑星を持つ恒星である。

 地球からは水瓶座の方角に39.13光年の距離にある。

 その大きさは太陽よりも小さいものの、7つの惑星全てが鉄と岩石でできた地球型の惑星であり、最低でも6つには海があると目されている。

 しかし、恒星間航行が可能となって以降もこの星系には調査に赴く事はなかった。

「三原と棚橋は分かっているだろうが、この恒星は生命居住可能領域に6つの惑星を持つ。我々はこれらの惑星への移住の可能性を調査するという任務を請け負った」

「それは、地球を捨てる事を考えてのことですか」

 席から立ち上がった有賀が艦長を見つめる。

「現時点で、我々が地球を捨てる事はない。将来的な展望を含めての調査だ」

 その言葉に引き下がる有賀。

 彼が席に座るのとほぼ同時に、艦体に強い揺れが走った。

「なんだ⁉︎」

「状況報告!」

「レーダーに感あり。本艦隊後方にワープアウト反応! 総数……20隻!」

 艦底部から黒煙を上げる武蔵の後方では、暗闇に不気味に輝く緑の艦艇が艦隊を睨みつけていた。

 それはまるで、彼らをつけねらっていたかのように。

 獲物を見つけた獣のごとく、その目は武蔵を確実に捉えている。

 

 ――第3話 「追跡者」――




読んでいただき、ありがとうございます。
今回は出航が最後の方で、武蔵は基本的に停泊しっぱなしだったので短めでしたね。
次回はちょっと長くなるかもしれません。
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