宇宙戦艦ヤマト2202外伝 波動実験艦武蔵   作:朱鳥洵

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戦闘から始まる第4話です。
今回は自分なりに本編に出てきた「アレ」についての解釈と初使用を書いてみました。
よろしくお願いします。


第4話 「トランスワープ」

 艦橋に鳴り響く警報音と、船体をかすめる陽電子の光が漆黒の宇宙に色をつける。

 幾度も敵の砲火が船体に直撃するも、それらは全て波動防壁に弾かれて宇宙へと消えていく。

 敵、ガトランティス艦隊の戦力は強大である。

 旗艦と思しきメダルーサ級と2隻のカラクルム級を主戦力として、ミサイル艦と駆逐艦をその周囲に展開している。その総数は20隻にも及ぶ。

 背後から攻撃され追われる身となった武蔵は、こちらへ突撃し最接近した駆逐艦2隻を撃破したものの、攻勢には出ず守護陣形を整えた。

 後部に砲塔を持たないアルタイルを武蔵と無人艦隊で囲み、黒潮を除く主力戦艦と武蔵が応戦のため青い光線を放つ。

「本艦からの砲撃が当たってない……⁉︎」

「ギリギリ射程外なんだ。だから効いてない。こっちの波動防壁だって、避弾経始圧に変化はないだろ」

 丹生の言葉に返しながら、有賀は三原に目を配る。

 彼が頷き返したのを合図に、有賀は席を立ち艦長を見た。

「戦術長、意見具申。このまま逃げていてもどこまでも追って来るだけです。反転して応戦しましょう」

「迷っている暇はないか……転舵反転!」

「おーもかーじ」

 三原の復唱とともに船体が傾き、姿勢制御スラスタを開いて信地旋回のように敵に向き直る。

 武蔵の反転と同時に無人艦隊とアルタイルも反転、航空隊展開のためカタパルトハッチを開いたアルタイルを守るように横一列に展開する。

 背後から武蔵の前へと躍り出た磯風改型の黒潮が最大速力で敵の只中へと突入するのを支援するために大型艦は火砲を撃ちながら速度を上げた。

 前に展開した艦隊の上下左右からアルタイルの航空隊が敵艦隊へと飛び去っていく。

 ――その刹那。

「黒潮の前方にワープアウト反応に酷似した反応を確認!」

「泰平、回避だ!」

「任せろッ!」

 空間を裂いて出現した炎の柱が艦底部をかすめ、波動防壁を削り取る。

 眼前では艦底を灼かれた駆逐艦が溶けるように爆散、その破片すら高熱により塵も残さず消えていった。

 辛くも直撃や損傷を免れた武蔵や無人主力艦隊は隊列を乱しつつも足を止めることはない。

「火焔直撃砲……!」

 艦載機の発艦を終えたアルタイルが武蔵の横に並ぶ。

「棚橋、火焔直撃砲の出現位置を特定できるか」

「問題ありません。ヤマトと浮遊大陸戦のデータがありますから」

 艦長の問いに答えた棚橋はすぐに作業に移り、アルタイルとのデータリンクを始める。

「戦術長、まずは火焔直撃砲を無効化する。射程に入り次第メダルーサ級を狙え」

「了解。丹生、射程まであとどのくらいだ」

「このままの速度であと五分。それまでに火焔直撃砲はあと2回来るかも」

「回避は泰平に任せる。頼むぞ」

 有賀はすぐに航海長から砲雷長へと視線を移すと、次は彼女へと指示を飛ばす。

「メダルーサが射程に入る前にミサイル艦と駆逐艦が射程に入る。まずは旗艦とカラクルム級を守る邪魔な船を沈めるぞ」

「はい」

 艦首側の砲塔が左右に向き、それぞれの砲身が別の角度をとりつつ砲撃を始める。

 そして丹生の予想通り、それはやってきた。

「反応あり、航海長にデータ転送します」

「回避行動!」

 今度は左側へと艦を振り、船体に砲撃をかすめもしない完璧な回避を見せる。

「メダルーサ級、射程まであと2分!」

 丹生の言葉と同時に武蔵とアルタイルが放った陽電子砲がミサイル艦の艦首ミサイルと船体に直撃、内部誘爆を起こして轟沈した。

 にわかに速度を上げた武蔵は艦首から魚雷を放ち、敵艦隊の中に6つの火球を起こす。

 それに呼応するように、航空隊が対空砲火をものともせずに駆逐艦へと急降下爆撃を敢行、装甲を貫いた対艦ミサイルによって駆逐艦は誘爆した。

「あと1分!」

「火焔直撃砲、本艦正面に出現します」

 淡々と、確実に伝えられた着弾点から逃れるために武蔵は一時的に降下、艦橋への着弾を避けるためにバレルロールを行なって左舷を炎が通過する。

「左舷波動防壁避弾経始圧低下、防御可能限界を下回りました」

「ドーム部二重防壁以外の防壁を解除! 余ったエネルギーは砲撃と推進力に回せ!」

 高熱で侵される左舷が溶け出す前に直撃砲が通過し、武蔵は体勢を立て直す。

 その背後では一隻の主力戦艦の補助エンジンが融解し、主砲を撃ちながら艦尾に爆発を起こす。

「デネブのエンジンが融解!」

 丹生の言葉とほぼ同時に、艦橋の扉が開く。

「はっ……⁉︎」

 艦橋の窓から外の様子を見た水月は息を呑む。

「柑奈っ!」

 水月が駆け寄ったのは、小刻みに体を震わせモニターも満足に見えていない技師長の席。

「み……づ、き?」

「柑奈は今すぐ艦橋から出て」

「……だめ。私は……」

「今のアンタに何ができるの⁉︎ ここにいたって足手まといになるだけ!」

「でも……私……」

 その顔は今にも泣き出しそうなほど頼りなく映る。

 敵の砲撃がドームに直撃し、艦橋に光が差す。

「っ……!」

 それから目をそらす柑奈の姿に、水月は耐えられなかった。

「いいからどいて。私が代わるから」

 彼女を避けさせて強引に座り、戦闘に入ってから満足に操作されていなかった計器を手早く操作する。

「今の柑奈がここでできる事はないよ」

「……そんなの……分かってるんだよ……」

 呟いて艦橋を出る彼女の背中を、丹生は心配そうに見つめていた。

 補助エンジンが融解した主力戦艦は行動を止めたわけではなく、波動エンジンを噴き上げて煙を引きながら再加速をかけた。

 直後、武蔵から放たれた主砲の一射が発射体勢に入っていた火焔直撃砲の砲口に風穴を開けた。

「砲雷長、次だ」

「はい」

 それに慢心することなく、即座に接近していた駆逐艦2隻の艦橋に砲撃を当て、行動を止める。

 直前に放たれていた火砲が両舷に当たるが、それを物ともせずに武蔵は前へ進む。

 被弾したメダルーサ級を守るべく2隻のカラクルム級が前へ出てくると、それらは子機のような機体を周囲に飛ばす。

「来るぞ……」

 カラクルム級を回る回転数が上がっていく。

 それらが緑の光を帯びた時、上空からその輪を断ち切る矢が落ちた。

 続いて敵艦の横腹を数多のミサイルが直撃すると、その上を航空編隊が飛び去っていった。

 コスモファルコンだけで編成されたアルタイル航空隊の練度は高く、最新鋭機であるコスモタイガーと見間違うような高速機動を描いて艦隊へと再突撃をかけると、対空砲火を避けながら的確にカラクルム級の火器装備を破壊していく。

 そこに武蔵やアルタイルからの艦砲射撃が正面装甲を貫き、爆炎とともに艦を宇宙を漂う塵とした。

 残った数機の遠隔機体と火砲で武蔵を狙ったカラクルム級の攻撃は無人艦のデネブが割って入ったために失敗に終わり、同艦の砲撃によりその砲塔は完全に沈黙した。

「敵艦急速接近! 体当たりしてくるつもり⁉︎」

 突如として急加速したカラクルム級は煙をあげるデネブを避けて武蔵とアルタイルに向かって突撃をかけてきた。

「泰平、回避だ! 主砲照準、接近してくるカラクルム級戦艦!」

 それぞれに回避をはじめる巨艦だったが、武蔵の砲撃が敵の艦橋を撃ち抜いた直後、回避行動中のアルタイルの後部へとその巨体を衝突させた。

 重たい金属音と火花が散る中、アルタイルは姿勢制御スラスターを噴射させながらカラクルム級の船体に速射砲を叩き込む。

 アルタイル左舷の補助エンジンに艦首をめり込ませた敵艦は、まるで自爆のように突然爆発を起こし、アルタイルを巻き込んだ。

 その背後から飛び出した無傷の無人艦隊が近づく駆逐艦をその砲撃で沈め、武蔵左舷では行動を止めたデネブが爆散した。

 爆炎から飛び出したアルタイルだったが、その後部は大きく破損し、右舷補助エンジンを残すのみとなっていた。

 残された補助エンジンと左舷艦首、船体中央の姿勢制御スラスターで辛うじて直進するアルタイルであったが、波動エンジンの大破により波動砲と主砲が使用不能となり戦闘は困難となった。

 そのアルタイルの前に出た武蔵は、無人艦隊にのこった駆逐艦を任せ、旗艦であるメダルーサ級へと直進する。

「敵旗艦から砲撃来ます!」

 艦首の五連装砲が武蔵に狙いを定める。

 ――だが、砲撃は来なかった。

 敵の主砲とエンジンを撃ち抜いた複数の航空隊からのミサイルによってそれは宇宙を漂う的と成り果て、連続で放たれた武蔵の主砲によって葬られたからだ。

 その背後では三方位を囲まれた駆逐艦が同時砲撃を受けて爆沈した。

「索敵範囲内に敵艦なし。損害状況確認急げ」

 丹生の言葉と同時に、肩の力が抜ける。

 ゆっくりと回頭した武蔵の艦橋から見えたのは、宇宙を漂う破壊された艦艇の残骸と、大きく艦体がえぐれたアルタイルの姿であった。

 

武蔵/中央作戦室

 アルタイルへと接舷した武蔵はこの場での修理が不可能であり、長距離の自律航行も難しい事を確認し、艦長の武田を武蔵へと招き入れた。

 幸いにも現状は生命維持に関わるシステムが動いているが、それもいつまでもつか分からなかった。

「ワープできないんじゃ地球に返すどころかザリシアまでだって戻れないぞ」

「そもそもザリシアでは設備がなくてここまで破損したアルタイルの修理なんてできやしないさ。だから主力戦艦だって簡易的な修理しかできなかったんだ」

 床面モニターに映し出されたアルタイルの状況を見ながら、三原と有賀の言葉が飛ぶ。

「あの、武蔵で引っ張って地球まで行くのはできないんですか?」

 丹生の言葉に、機関長の谷村は首を横に振る。

「武蔵のエンジンだけでは、アルタイルほどの質量を抱えてのワープは無理だ」

「谷村の言う通りだ。もし仮に地球まで送り届けたとしても、我々は再びここに戻らなければならない」

 艦長の言葉に、一同は黙り込んだ。

「アルタイルを現宙域に置いていくしか……」

「そんな! 見捨てて行くなんてできません!」

「なら、他にやり方があると?」

 鋭く聞き返した棚橋の視線に押し黙る水月。

「一つだけ、方法があります」

 場に沈黙が流れ始める前に、佐伯が口を開く。

 床面モニターが切り替わると、アルタイルの姿と2隻のドレッドノート級の姿が三次元的に映し出された。

「航行不能となったアルタイルの両舷に一隻づつ、ドレッドノート級を接舷、固定します」

 彼女の言葉と同時に映像でも同様の事が図示された。

「固定って言ってもどうやって固定するんだ?」

「波動砲発射時に用いる重力アンカーを使えば固定でき、理論上は通常のロケットアンカーを突き刺すよりも遥かに強固に接続できます。そして」

 彼女が接続された艦を指すと、そのエンジンからワープの際に発する発光が図的に表される。

「接続したまま、両舷の艦のエンジンを同調させてワープする事が可能です」

「そんな事、本当にできるのか?」

「アルタイルには不慮の事態を想定して無人艦の制御システムが搭載されています。それを使ってアルタイルから信号を送ればタイミングも問題ありません」

 航海長の質問に答えた佐伯はしかし、懸念材料を一つ挙げた。

「このワープ補助――以後トランスワープと呼称しますが、これを行う場合ブースターとして使うのは同じ艦種でなければなりません。そして波長や出力が著しく異なる場合は失敗の可能性も出てきます。そこで、使用するのに適した艦2隻の選別を行いました」

 床面モニターには、2隻の図面が浮かび上がった。

「ドューベとデネボラか……」

「はい。この2隻は損傷もほとんど無く、撃沈されたデネブを含め本艦と同行していた無人艦の中で最も安定した出力を保っていました」

「アルタイルに2隻をひっつけて地球まで飛ばすとすると、武蔵は一隻だけで守る必要があるのか」

 戦術長の呟きに、艦長は「だが」と続く。

「今はそれしか方法がないのは確かだ。武蔵の防御を考えるよりも戦友を無事に帰すことを考えよう」

「では、アルタイル航空隊から選抜部隊を武蔵へと渡そう。戦闘機格納庫に空きはあるのだろう」

 アルタイルの谷村艦長が近藤の肩を叩く。

 近藤は谷村に頭を下げると、この場の解散を命じた。

 

「柑奈!」

 皆が作戦室から出た後、残っていた柑奈に水月が話しかけた。

「柑奈、さっきは――」

「トランスワープのオペレーションは水月がやるんでしょう?」

「えっ? う、うん、そうだと思うけど……」

「データは入れておくから。あとはよろしくね」

 水月の目を見ようとしないまま、明かりの消えた室内から柑奈は出ていった。

「……やっぱり、怒ってるのかな……」

 データ受信を示す光が端末から漏れる。

 水月はただ、外からの光だけが入る扉の方を見つめているだけだった。

 

 

武蔵/第一艦橋

 会議から1時間後、艦橋ではオペレーションの準備が整いつつあった。

「ドューベとデネボラへの命令信号遮断。指揮権をアルタイルへ再設定」

「設定確認。ドューベ、デネボラのアルタイル接舷開始」

「アルタイル上部飛行甲板から航空隊19機の発艦を確認しました。艦底部ハッチ開きます」

 艦橋の窓からは、アルタイルの艦橋後部に伸びた飛行甲板から垂直に浮き上がったファルコンが編隊で武蔵へと飛来するのが見えた。

 艦載機の収容を終えた武蔵は、後方から静かにアルタイルを見守る。

「重力アンカーによるアルタイルへの固定完了。ワープ準備に入りました」

 眼前では両舷についたドレッドノート級のエンジンから火を噴き、その炎が青く変わるのが見える。

 一体となった3隻は徐々に加速していく。

「ワープカウント開始。10、9、8、7」

 カウントの減少と共に加速度を高めていく。

「アルタイル、ワープ速度へ!」

「3、2、1……」

 暗闇に開いた穴に飲み込まれた艦の姿は消え去り、静けさだけが残った。

「空間航跡探知、アルタイルのワープ開け座標を特定」

 棚橋の言葉から数秒後、静寂を断つように入電音が鳴り響いた。

「アルタイルより入電。『我、ワープに成功せり。地球へ向け数回のワープを行いこの情報を届ける。武蔵は先へと進まれたし。貴艦の健闘と、航海の無事を祈る』」

 艦橋内に安堵の空気が流れた。

「空間航跡確認。アルタイル、予定座標にいます」

「良かったぁ……」

 背もたれに身体を預ける有賀の横で、三原は舵を握り直した。

 艦首を反転させた武蔵は、一路目標地点のトラピスト1星系へと向かう。

 トランスワープに歓喜する艦橋の中、濱内水月だけが視線を落とし、浮かない表情で床を見つめていた――。

 

 ――第4話 「トランスワープ」――




読んでいただきありがとうございます。
遂に武蔵と主力戦艦一隻になってしまいましたね。
第5話も書いている最中です。
この後もよろしくお願いします!
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