宇宙戦艦ヤマト2202外伝 波動実験艦武蔵   作:朱鳥洵

5 / 8
いつもありがとうございます。
第5話です。この話を含めてあと3話となりました。
……無事に畳めるのか少し心配になってきそうですが、どうか最後までお付き合いいただけると嬉しいです!


第5話 「ファーストコンタクト」

武蔵/第一艦橋

「はぁ……」

 機関音とモニターの音だけが響く空間に、一際大きなため息がこぼれた。

「彼女、元気ないのか?」

 有賀が水月を見ながら泰平に問いかける。

「さあ、俺は知らないけど」

「お前もうちょっと関心持とうとか思わないのか……」

 彼の態度に肩を落とす有賀だったが、その視線は明らかに元気のない情報長に向かっていた。

「気になるなら聞いてきたらどうですか」

 彼の横を通りすぎた棚橋の言葉に、素直にそうだな、と返すことはしなかった。

 視界の隅にそんな彼女を彼よりも心配そうに見ている船務長が見えたからだ。

 ちらりと戦術長を見た丹生は少しハッとした顔をして立ち上がり、彼の席の横でしゃがみこむ。

「な、何、急に」

「有賀くんって、妹いたよね」

「妹? ああ、四つ下の妹がいるけど」

「じゃあさ、彼女達の相談乗ってあげてよ」

「はぁ?」

「『はぁ?』じゃなくて。もうすぐ非番でしょ? 断る理由は無いよね」

「……君がどちらかを請け負うならな。1人で2人は無理だ」

「分かったわよ……私が水月ちゃんの話聞くから、有賀くんは柑奈ちゃんの方お願い」

「よし、そっちは任せた」

 不意に立ち上がった有賀はまっすぐエレベーターへと向かっていった。

「なんだかんだ面倒見いいよね、彼」

 戦術長がいなくなった席の傍らで丹生はしみじみと呟く。

「アイツなりに思うところもあるんじゃないか?」

「そうかも。さて、私も行きますか」

 航海長に返すと、丹生も水月へと話しかけて2人でエレベーターに乗り下へと降りていった。

「美華さんもなかなかですけど」

 遠目で話を聞いていた来島が席に座りながら言う。

「2人ともまるで妹を心配するみたいに……」

「それがお兄ちゃんとお姉ちゃんってもんなんじゃないか?」

 背もたれに体重を預けてはにかむ航海長の横顔を見て、来島は首をかしげた。

「私には……よく分かりません」

 彼女はそう言って視線を前に向けた。

 そんな彼らの様子を、親のような目で機関長が見つめていた。

 

 

武蔵/士官自室

 ディスプレイから出るわずかな光だけが部屋の中に灯る中、チャックを下ろして艦内服を着崩したままベッドに横たわる少女が一人。

 彼女の目はじっと部屋の壁を見つめていた。

 艦の重低音だけが響く部屋の中に、不意に来客を告げるブザーが鳴る。

「ん……?」

 この世になかった心を戻して起き上がり、入り口にあるディスプレイに触れる。

「誰でしょう」

『休んでいるところ申し訳ない。戦術長の有賀だ』

「……私の交代でしたか」

『いや、そういうわけじゃなくて。君と話がしたいなって』

「…………」

 無言で扉を開けると、外から入る強烈な光に目を覆った。

 明るさに慣れて目を上げると、少し顔を赤らめて固まる戦術長の姿。

「佐伯くん、その格好……」

 彼の視線の先を追うようにして自らの身体を見た彼女は、ようやく過ちに気付いた。

「……っ⁉︎」

 胸を隠すようにして後ろを向く彼女と同時に有賀も視線をそらす。

 そのまま気まずい沈黙が流れた後、やっと柑奈が口を開いた。

「…………見ましたか」

「見ようとしたわけじゃないけど……」

「いえ、変なこと聞きました。戦術長は悪くないです、すみません……下着姿で……」

「いや、俺こそ。ごめん……」

「……」

「……」

「……。中、入ってください」

 言われるまま中に入り、二人並んでベッドに腰掛けた。

 彼女は衣服を正し、大きくため息をつく。

「お話ってなんですか?」

「戦うのは怖いか?」

 思わぬ問いかけに背中を向ける。

 部屋の明かりは暗いまま、有賀なりの気づかいの表れだった。

「昔、私には大事な友達がいました。その人が、ガミラスとの戦争で命を落とした……怖いんです、また誰かを失うんじゃないかって」

「……そうか」

「おかしいですよね、私、今は軍人なのに……怖い、なんて」

「おかしくなんかないさ。戦うのは誰だって怖いし、誰かを失うのも怖い」

「戦術長も、怖いんですか……?」

 有賀の横顔を見ると、彼は天井を仰ぎ見て語り始めた。

「俺はこの艦の戦術長を拝命した。だからこそ思う。戦いを指揮する者として、一瞬の迷いが、一つの間違いが、誰かの命を奪う事がある。そしてその責任は全部、俺が背負わないとならない」

「……」

「ガミラスの遊星爆弾で両親が、ガミラスの攻撃で兄が死んで、今は妹が唯一の家族だ」

「……っ!」

「だからこそ、誰かを失うんじゃないかって恐怖は多分君と同じだ。戦闘中は、足が震えて立てないくらいだよ」

 有賀が笑顔で横を見ると、柑奈は下を向いて涙声で言葉を紡ぐ。

「戦術長は……家族をなくして……なのに私は、こんなに弱い……私、ダメなんです……戦術長みたいに、強くはなれません……」

「それでいいじゃないか」

 その言葉に顔を上げると、彼は手を重ねて、まるで妹にするように彼女の頭を撫でる。

「誰かをなくすのは怖いし、亡くした心の傷は一生残るもんだ。たとえそれが友達でも、家族でも。家族だからとか、友達だからとか、そこに違いなんてない。その人が自分にとってどれだけ大切だったかなんて、自分以外には分からないんだから」

「有賀さん……」

「友達を亡くした程度でなんていうヤツは、人の心の傷を理解しようとしないだけだ。そんなヤツ信じなくていい。君が信じたいと思う人を、君が大切だと思う人を守ることを考えればいいんだ。今の俺たちには、その力が与えられている」

「……はい……」

「弱くたっていい。それでいい……無理に強くあろうとしなくていい。それは、自分で自分を傷つけるだけだ」

 彼女の肩に手を乗せると、まっすぐ目を見つめながら有賀は笑顔を向けた。

「一人で考えて、抱え込む必要はない。俺が力になる。きっと、彼女もそう思ってるよ」

「……本当は、分かってたんです。あの時、水月がどうして持ち場を離れてまで私のところに来てくれたのか。でもなんか、水月に突き放された感じがして……本当は……心配してくれてただけだったのに……」

「そう思うなら伝えないとな。彼女は同じ艦の仲間だ。いつでも伝えられる」

 その言葉に笑顔を見せる柑奈に頷くと、有賀は立ち上がった。

「急に来て悪かった。俺は――」

「あっ、ま、待ってください」

 扉へと歩き出す彼の裾を掴んで引き止めると、彼の背に身体を預けた。

「あの……もう少しだけ、お話してもいいですか……?」

「……ああ、いいよ」

 柑奈に言われるまま戻ると、彼女は部屋の照明をつける。

 突然の明るさに目を細めると、彼の視線は壁のショーケースへと向いた。

「これは……」

 そこに置いてあったのは、しっかりと固定された武蔵の模型であった。

 だが、彼が知る武蔵とは少しばかり形が異なる。

「それは建造されてすぐの頃の武蔵です。ダミーの砲塔と波動砲を搭載していたこと以外は今とそんなに変わらないですよ」

「波動砲?」

「はい。最初は、ヤマトに搭載する波動砲のテストが武蔵の任務でしたから」

「……ずっと、聞こうと思ってたんだ。どうして武蔵の波動砲は封印されているんだ?」

 その問いに、柑奈は彼の隣で武蔵の模型を見ながら語り始めた。

「本艦は、ヤマトへ施す予定の改装と、ヤマト搭載予定の波動砲をテストするために作られました。けれど、波動砲のテストで事故が起こった」

「事故?」

「収束波動砲の他に、新たに艦隊戦用の拡散波動砲のテストも兼ねていたんです。もちろんこれもヤマトに搭載予定でした。ですが、テストは失敗に終わります」

「失敗……」

「波動砲は撃てましたし、拡散まで至りました。けれど、拡散波動砲のために収束波動砲では起き得なかったエネルギーの逆流現象が起こった。エンジンへの回路を遮断しエンジンそのものの破損は免れましたが、波動砲の薬室で逃げ場をなくした波動エネルギーは、武蔵の装甲を突き破って外へ逃げ出そうとしました」

「それは……」

「武蔵の波動砲口は大破。拡散波動砲のためには専用のユニットが必要な事がわかりましたが、ヤマト級での試験は不可能な事も分かり、武蔵の波動砲の修復も新造艦建造の為に後回しにされたので、今は砲口が弱点になるのを防ぐために封印栓で塞がれているんです」

「そうだったのか」

「そもそも、波動砲なんて外宇宙を調査するこのフネにはいらないと思うのでいいと思いますけど」

 言いながらベッドに腰を下ろすと、すぐ隣を小さく叩いて有賀を座らせた。

「有賀さん……私の話聞いてくれて、ありがとうございます」

「佐伯さんは仲間だから、心配だったんだ」

「ふふっ……優しいですね。あ、私のことは柑奈って呼んでください」

「分かった。俺のことも義弥と呼んでほしい」

「年上ですから、それはちょっと……」

「そんなに年は変わらないし、階級も同じだから気にすることはないさ」

「そうですか……分かりました、義弥さん」

 微笑みかける彼女を見て、有賀は地球で待つ妹の面影を重ねた。

「きっと義弥さんの妹さんもしっかりした方なんでしょうね」

 立ち上がって柑奈は壁に身体を預けた。

「妹は俺よりしっかりしてるよ。そういえばこの艦に乗る時お守りを渡されたんだ」

 ポケットからヒモに吊るされたお守りを出すと、それを見た柑奈が突然笑顔になった。

「どうしたんだ?」

「義弥さん、ウラ側、見ましたか?」

「ウラ側?」

 言われるまま背後を見ると、貼り付けられた白い布地に妹の字で言葉が書いてあった。

「『気をつけて、早く帰ってきてね。お兄』ですって。愛されてますね、妹さんに」

「アイツ……乗ったら見てくれってこれのことだったのか……」

「見てなかったんですか、今まで」

「ああ、見てなかった」

「はぁ……ちゃんと見てあげてください。妹さん悲しみますよー」

 少しおどけた言葉と共に、彼が持つお守りに手を重ねた。

 彼の手を握り、少し目を閉じた彼女は、目を開けるのと同時ににっこりと笑う。

「頑張りましょうね、一緒に」

「ああ、頑張ろう」

 

 

武蔵/食堂

 有賀と柑奈が2人で食堂へ来たのは、丹生にとって計画通りだった。

 ただ一つ、彼らの距離感が少し近づいているのは予想外だったようだが。

 2人にわかるように手を振ると、有賀の手をとって柑奈と水月から距離を置いた。

「ちゃんと上手くできたんだね、有賀くん」

「まあなんとかな。そっちはどうだ?」

「こっちも大丈夫、あとは2人だけにしよっか」

 2人の視線がこちらに向いているとはつゆほどにも思っていない柑奈達は、どちらからともなく口を開いた。

「「あのさ」」

 あまりにもぴったり声が重なり、2人に笑いが漏れる。

「あのさ、水月。ごめんね、あの時は。なんか、意地張っちゃって」

「ううん、こっちこそあんなこと言って、ごめん」

 しばしの沈黙の後で、柑奈は後ろのメニューを見て水月の手をとる。

「なんか、甘いもの食べよっか」

「柑奈は甘いもの好きだよね。いいよ、何食べる?」

 しばらくして席に戻った2人は、同じパフェを口に運ぶ。

 その時にはすでに有賀と丹生は食堂を去っていたが、2人がそれを知る由もなかった。

「んっ、これ美味しい」

「そうだね。ね、柑奈、ちょっと気になったんだけど」

「ん?」

 イチゴを頬張ったまま顔を上げる柑奈に構うことなく水月は続ける。

「ちょっと明るくなったよね、恋でもした?」

「んぐっ⁉︎ んっ、けほっ、けほっ……な、何言ってんの⁉︎」

「ビンゴでしょ」

 パフェ用のスプーンで指された柑奈は視線を横にそらした。

「そんな事ないよ」

「柑奈は恥ずかしかったり嘘ついたりすると視線そらすよね」

「そ、そんな事ないってば」

 思わず身を乗り出して顔を近づける柑奈をなんとかおさめると、水月はウエハースを口に入れながら「で?」と続ける。

「相手は戦術長?」

「えっ、いや、だから何言ってんの?」

「分かりやすすぎでしょ……顔赤いし、言葉詰まるし、もうちょっと上手く隠せたらいいんだけどねぇ」

「……余計なお世話ですよー」

「あぁ拗ねちゃった……そういうことじゃないから、柑奈は今のままでいいから」

「じゃあこれで許してあげる」

 水月のカップからひょいとイチゴを取ると、そのまま口へと運ぶ。

「好きだねーイチゴ。にしても、戦術長ねぇ……ま、かっこいいとは思うけど」

「水月は義弥さんのことどう思う?」

「えっ、ちょっと待って柑奈達どこまでいってるの?」

「え? ……名前で呼び合うくらい」

「本当に? 昨日まで『戦術長』って呼んでたのに? ちょっと詳しく聞かせて」

 その後、水月に根掘り葉掘り聞かれた柑奈は、多少のごまかしを入れながらも律儀に答えていくのだった。

 

翌日――

 いつものように船体に纏う氷を砕き、武蔵と無人艦ディフダは宇宙空間へと姿を現した。

「ここが、星系外縁部か」

 武蔵の現在位置はまさに目的地であるトラピスト1星系である。

 恒星トラピスト1は太陽よりも小さな赤色矮星である。その光も遠くまで熱をもたらすほどの力はなく、恒星の最も近い位置から六つの惑星までがハビタブルゾーンと呼ばれる生命体が存在できる可能性の高い領域である。

 太陽に比べ生存可能域が広く、近い軌道を複数の地球型惑星が周回しているのが特徴として挙げられるが、地上からの観測ではそれぞれの惑星の自転周期と公転周期が同じであるため、全ての惑星が恒星に対し同じ面を向け続けていることが分かっている。

「……思ったよりも、小惑星が多いな」

 戦術長の呟きに航海長もうなずく。

「これだけの地球型惑星を要していて、この星間物質の量は普通じゃない。アステロイドベルトと同じくらいあるぞ」

「……。いえ、これは半分は小惑星じゃありません」

 棚橋の言葉に振り向くと、続いて第二艦橋にいた水月から第一艦橋へ報告が来た。

『半分どころじゃなくて、武蔵の周りに浮いてるのは6割以上が何かの残骸だと思われます』

「残骸?」

『そう、例えば、内惑星航行用の宇宙戦艦とか』

 柑奈に答えるのとほぼ同時に、艦体に衝撃が走る。

 傾く船体を立て直すと、武蔵とディフダは即座に波動防壁を展開した。

「発砲位置は⁉︎」

「本艦右舷……デブリ帯の中……えっ、何これ……」

「どうした」

 レーダーを見たまま言葉を止めた丹生に近藤が続報を仰ぐと、彼女は近藤を見ながら続ける。

「デブリ帯の中に複数の熱源反応! 総数30……囲まれます!」

「応戦しますか」

「いや待て。艦識別、既知の艦艇か」

 有賀を制止した近藤は技師長を向くが、彼女は首を横に振った。

「いえ、ガミラスでもガトランティスでもありません!」

「艦長、正面の船団中央の艦艇から入電しました。見たことない言語です……解析を試みます」

「頼む。総員に通達、第1種戦闘配備のまま待機」

 艦長の指示の直後、柑奈にだけの秘匿通信が第二艦橋から来た。

「水月?」

『もしかしたら戦闘になるかもしれない。代わろうか?』

「……ううん、大丈夫。私、頑張ってみる。この艦のために」

『そっか。なら、第二艦橋から柑奈をサポートするね。一緒に頑張ろ』

「うん。ありがと、水月」

 通信を切ると同時に、通信長が解析完了を告げる。

「読み上げろ」

「はい」

 

『我らはラーゴラス。我らの安息の地に何用か、異星系の旅人よ。我らの審判を受けられよ、我らを超えて見せよ。さもなくばミルタに立ち入ることは許さぬ。逃げぬというならば、ここに命を置いていけ。ここから去るというのなら追いはせぬ』

 

 艦内に沈黙が流れる。

 最初に口を開いたのは有賀であった。

「つまりなんだ、ヤツらを倒すか、倒されるか、ここから去るかしか俺らは選べないってことなのか」

「そうだろうな。ファーストコンタクトだってのにもうちょっと親しくはできないのかねぇ」

 航海長の言葉に再び黙り込む。

「通信長。こちらからの返信を打電しろ。我々はこの星系の調査のためやってきた。侵略の意思はない、どうか考えを改めていただきたい。以上だ」

「はい」

 視線を艦長から計器に落とした来島は、そこから見える艦隊を眺めつつ呟く。

「どうしたって、敵には戦うって選択肢しかないじゃないですか」

「理沙ちゃん?」

 丹生の声に彼女は振り向いた。

「戦うことしか考えられないヤツに交渉の余地なんかありません。今私達の目の前にいるのはガトランティスと同じ考え方しかできない国家ですよ」

「そう考えるのは早計だと思うぞ。我々もガミラスとの戦争の時は戦端を開いた立場だ。何か事情があるかもしれない」

「ですが戦術長、あんな要求をしてくる国家なんて……」

「彼らは俺たちの進行を止めるために第一射を放った後は一切攻撃しないで俺たちに警告してきた。メンタリティは同じだと思う」

 有賀が視線を前に向けるのとほぼ同時に、眼前の艦に動きがあった。

 武蔵を取り囲んでいた艦は徐々に距離を開き始め、正面の艦隊は旗艦と思しき艦を後方に下げた。

「戦術長、もし戦闘になったら波動砲で正面に穴を開けて突破するのが最善策だと思うのですが」

「待ってください。この場で波動砲を使うのは反対です」

 来島の声に立ち上がった柑奈は彼女の方をまっすぐ見据える。

「なら他にどんな手があるというんですか? 戦闘の定石は味方には最小限、敵には最大限の損害を与えること。この場を突破するのに拡散波動砲は最善策です」

 席を立ち柑奈を睨む来島だが、彼女は「けど」と食い下がる。

「それでは、私達はガトランティスと同じになってしまう。波動砲は侵略のためのものじゃありません。あの力は地球を守るためのもの。他の星の人たちを殺すためのものじゃ、絶対にないんです」

「敵の攻撃で武蔵が沈む可能性を考えれば自艦防衛のために波動砲を使うのは正当な手段ではないですか」

「彼らの星系をおびやかしたのは私達です。彼らに私達が侵略者に見えても仕方がない。最初にガミラスと遭遇した時、地球が先制攻撃をしたのは地球が侵略されるという恐怖があったからじゃないんですか。今の彼らはあの時の私達と同じです。ここで波動砲を使って彼らを屈服させるのは、イスカンダルの言う『愚行』なんじゃないですか」

 イスカンダル。

 かつて地球に救いの手を差し伸べ、ヤマトにコスモリバースを託した地球の恩人。

 イスカンダルの王女スターシャはヤマトにコスモリバースを渡す際に波動砲を最初に作ったのはイスカンダルだと告げ、宇宙を血に染めた過去と共に、わたくし達のような愚行を繰り返さぬようにと沖田艦長に約束した。

 その愚行が何を表すのかについては、地球政府でも意見が分かれている。

「波動砲は――」

 柑奈は、かつてヤマトのクルーから聞いたことを頭の中で反芻しながら続ける。

「波動砲は、地球を、救うべき星を守るための力です。私は……私達は、波動砲を、侵略なんかに使うために作ったんじゃありません」

 彼女の演説に気圧された来島はやり切れぬ表情で席に着いた。

 席に戻る柑奈の姿を横目で見ながら、有賀はある方策を考えていた。

 直後、通信を告げる音が艦橋に響き渡る。

「艦隊より入電。『ならば審判の時。見事我らを超えて見せよ』です」

「本艦を包囲する敵艦隊に熱反応、発砲来ます!」

「っ、やっぱりこうなる!」

 来島の声とともに艦首の主砲が指向し始め、宇宙は敵が放つ光線に染められる。

「主砲発射用意――」

「待て」

 来島を止めた有賀は立ち上がるとまっすぐ艦長を見つめる。

「艦長、自分に考えがあります。この場を任せていただけませんか」

 彼の目は、これまでにない決意をたたえていた。

 部下の成長に表情が緩む。

 近藤は有賀に向き直ると、立ち上がって艦橋にいる面々へと告げた。

「現時刻をもって、本戦闘の指揮権を有賀戦術長に一任する! 有賀。頼むぞ」

「はい!」

 敵が放つ光線砲が波動防壁に遮られて跳ね返される。

 その光を受けながら敵艦隊を睨む有賀の瞳は、確かな自信に満ちていた。

 

 ――第五話 「ファーストコンタクト」――




読んでいただきありがとうございます。
第3話が短かった反動でしょうか、少し長めになってしまいました。
第5話、物語も終盤ということでクルーの距離感に少し気を使っています。
戦術長が主人公ポジを確立させてくれたので、星巡る方舟的な展開となりました。皮肉なものですね、古代っぽく活躍してくれます。
各キャラや艦艇の設定などは7話投稿後に順次1話の前に入れていきたいなと思いながら編纂中です。
それでは次回、第6話でお会いしましょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。