宇宙戦艦ヤマト2202外伝 波動実験艦武蔵   作:朱鳥洵

7 / 8
全7話で書いてきた武蔵の物語も遂に最終回を迎えました。
この物語は、結末をヤマトに託して今回で一旦完結いたします。


今回はヤマト2202第6章の19話から21話の間にあたる時系列です。
この話数のネタバレを含むのでお気をつけください!


第7話 「武蔵の願い」

 ――ヤマトは沈んだ。

 ――人類が生き延びるために、ヤマトの遺伝子を。

 前線に出た銀河率いる地球、ガミラス連合艦隊の奮戦むなしく、白色彗星は地球へ向けてのワープを敢行した。

 ガミラスの臣民の盾によってそれは阻害され、今は火星宙域に釘付けにしてはいるものの、依然としてガトランティスの勢力は絶大であった。

 地球、ガミラス連合軍は時間断層をフル稼働させ徹底抗戦の姿勢を見せる反面、ヤマトのクルーである加藤の反乱行為の代価としてガトランティスから与えられた遊星爆弾症候群の特効薬の開発も並行して進めている。

 そんな地球の現在を憂い、誰もが死んだと思っている一隻の艦に望みを託そうとする男の乗る艦は、ただ1人を乗せて青き星を飛び立った。

 ヤマトと同様の色で塗り分けられたそれはしかし、以前と変わらぬ威容を秘めている。

 ――アンドロメダ。

 艦長の山南は、ヤマトが生きていることに望みをかける。

 誰よりも近くで、キリシマの艦長として沖田と土方を見てきた男だ。彼らの意思を継ぐ古代達の乗るヤマトがそう簡単に死ぬはずはないという確信があった。

 自らが正しいと思った道を歩んできたが、それも裏切られてしまった。

 それを償うことはできない。だからこそ。

 ――せめて、ヤマトだけは。

 

 

地球

 ここ数週間は、テレビも何もかもがガトランティスの侵攻と防衛作戦についての報道しか流していない。

 外に出てみても、たくさんの艦が地底から湧き出ては空に向かっていくだけだ。

 白色彗星が火星宙域に現れたと言っても、地球からそれが肉眼で確認できるわけではない。

 イマイチ実感の湧かない現実。けれど飛び立つ戦艦の姿を見ると、認めずにはいられない。

 地球の人々にとって何より大きなニュースは、ヤマトの消息不明であった。心のどこかで、ヤマトなら、と誰もが思っていたのだろう。

 それは彼女も例外ではなく。

「……お兄」

 艦が飛び立つ空を見上げて足を止めた。

 潮風になびく髪をそのままに、英雄の丘と呼ばれるそこで彼女は兄の姿を思い浮かべた。

 ヤマトに乗る前に亡くなった長男でなく、今、まさに宇宙にいるだろう兄の姿を。

「今、どこにいるの……?」

 地底から次々と現れる巨艦。その名前を彼女が知るはずもない。

 ただ、地球からガミラス様式の艦艇が飛び立つさまはなんとも言えぬ違和感を覚えるものだった。

 

 

太陽系/月軌道

 月軌道の外側へとワープアウトした武蔵は、遠くに見える白い尾を引く彗星をはじめて目の当たりにした。

「あれが……白色彗星か……」

 有賀は息を飲む。

 それは彼が思うよりもはるかに大きく、強大であった。

 ワープを示す光がいくつも見える。恐らくは報告のあった突撃艦隊であろう。

「戦列に加わりますか?」

 艦長へと指示を仰ぐ来島から一ノ瀬へと視線を移すと、彼は首を横に振った。

「事前に通達があった通り、本艦とディフダは月のサナトリウムにいる人々を地球へと送還する任務に移る」

「了解」

 三原が舵を傾けると同時に、突如としてサブコンピューターとして設置されているAU-09タイプが喋り始めた。

「本艦カラ波動実験艦銀河へ調査結果ノ送信ヲ開始。銀河ノ指揮AIカラノ緊急命令ノタメ、りそーすヲ送信ニ使用スル」

「な、なんだ、急に⁉︎」

「銀河の指揮AIからの緊急命令……?」

「どういうこと? 説明しなさい」

 柑奈の指示を受けてぐるりと頭部を回転させると、彼女のモニターに命令文を表示させた。

「銀河ノ指揮AIヨリ『G計画』発令提案ガ成サレタ。ワタシハ有事ノ際、本艦ノ調査結果ヲ銀河オヨビ地球司令部へト送信スル権限ヲ持ッテイル」

『艦長、本艦から急速にデータが送信されています! 送信先は……銀河と司令部です』

「それは水月の側からは制御できないの?」

 そう問う柑奈に、画面の向こうで首を横に振る。

『さっきからやってるけどどうしようもないの。データの放出がどうやっても止められない!』

「なにそれ……私達の知らないところで、何かが始まるっていうの……?」

 レーダーでは徐々に速度が落ち武蔵に置いていかれ始めるディフダが観測され、武蔵の速度そのものも落ち始めていた。

「機関長、エンジントラブルですか⁉︎」

「いや、違うな」

 冷静に答えた機関長は、艦長を仰ぎ見る。

「リソースを割くということは、艦内の設備を稼働させる演算をも蝕むということなのでしょう。このままではいずれ慣性制御も利かなくなる……それだけではなく」

「武蔵が止まる、か」

 徐々に弱くなる機関音、武蔵からの指令が届かず落伍していくディフダ。

 G計画とは。

「それは……今目の前で救える命よりも優先すべきことなのか」

 拳を握りしめる。

 G計画が、人類を生かすために必要であることは理解しているつもりだった。

 だが同時に、武蔵から銀河へと送信されているデータは大半がトラピスト1星系の調査結果である。これは即ち、G計画は地球を救う作戦ではないという事でもある。

 それは――。

 

『全艦優先通信! 聞こえるか⁉︎ ヤマト発見!』

 

 刹那、思考を断つようにはるか彼方からの通信が入った。

「この通信……白色彗星内部、アンドロメダ……山南艦長のものです!」

 一ノ瀬の言葉に、全員が窓の外遠く見える白色彗星を見つめる。

『一瞬だが光学的に捕捉した。ヤマトは生きてる。だが、強い重力場に阻まれて脱出は困難!』

「ヤマト……」

 思わずその名をつぶやき立ち上がる。

 山南艦長の声だけでも分かる。彼が、どれだけあの艦のためを思っているのか。

 ヤマトの救出、ただその一点に賭けているのか。

『本艦は只今より単艦で中心部へと突入、敵重力源の破壊を試みる!』

 ただそれだけを告げて通信は終わった。

「山南艦長。あなたの想い、確かに伝わりましたとも」

 そして近藤は、一度だけ会ったことのある銀河の艦長の顔を思い浮かべる。

 あの聡明な長官のご令嬢だ。そのための力を与えられた銀河のすべき事は理解しているだろう。

 艦長席から立つと、近藤は艦橋の面々を見渡した。

「聞いたな。アンドロメダはすべき事をなす。我々も、多くの命を救おうじゃないか」

 その言葉に頷いた彼らは、次々と行動を始める。

「水月、武蔵の全ての通信機を遮断して。リソースをそこに割かれるわけにはいかないから」

『でも柑奈、勝手にそんなことしたら』

「構わない。技師長の指示どおりやってくれ、情報長。銀河には、もう必要ないものだ」

『……了解しました、艦長』

 言葉とともに水月は頷いて自らの通信を切る。

 瞬間、全ての計器が再起動するような音を発して艦の機関音が大きくなる。

「ディフダとのリンク再接続、本艦操作をトレース」

「サブコンピュータ沈黙、以後全操作を手動に移行します」

 柑奈と棚橋の言葉に続いて、航海長が振り返る。

「機関長! 機関再起動、速度全速まで上げ!」

「機関再起動。速力全速まで上げ」

 大きくなる駆動音と共にエンジンが火を噴く。

「月へのコース修正!」

「艦長、白色彗星内部にワープアウト反応です! 艦識別。波動実験艦……銀河!」

 それは近藤にとって想定内のこと。

 ヤマトの遺伝子を引き継ぐならば、コスモリバースシステムを持つ唯一の艦であれば、そしてあの艦長なら。

 こうするのが当たり前のように。地球を愛し、ヤマトに希望を託す人々を代弁するように。

「白色彗星内部に未知のエネルギー放射を観測! 波動エネルギー……? アンドロメダの波動砲がこれまでにない出力を出しています!」

 彗星のガスに阻まれていても、そこから遠く離れていても見える人の輝き。

 人工知能が叩き出した最適解ではなく、人々が選び取る希望に満ちた茨の道。これが地球の選んだ道なのだと、宇宙へと知らしめる輝き。

「銀河の力……なのか?」

「いや、違うな」

 振り返る有賀の目を見つめ、艦長は言葉を続ける。

「これは、機械の力じゃない。それを使う、人類の力だ」

 光が消える。

 その光に導かれたように、レーダーが感ありの音を出す。

「微弱ですが、新たに一隻の識別を確認。……これは……ヤマトです!」

 望遠モニターに映し出されたそれは、アンドロメダに牽引されて飛ぶヤマトの姿。

 人類の希望、大いなる和を紡ぐ艦の帰還である。

 後に続く銀河に全てを任せるように、ゆっくりと火星へ没し始めるアンドロメダに有賀達は万感の思いを抱き敬礼をしていた。

 

 

月/宇宙港

 武蔵を迎え入れた宇宙軍月面基地には、既にサナトリウムから避難した子供達とその親が集まっていた。

 武蔵とディフダの両隣には戦闘で損傷した艦が停泊し、怪我人を運ぶ人々や伝令を行う兵がせわしなく動いている。

「……武蔵……」

 気密された港内へと入った女性は、我が子を抱きながらその艦を見つめた。

 それは彼女がかつて一年間勤務し、愛する人と出会った艦に似ていた。

「ママ、このフネ、ヤマトみたいだね」

「うん、そうね」

 クルーの誘導に従って2隻に分乗していく親子も皆、口々に子供達を安心させる言葉を重ねていく。

 彼女はまだ知らない。

 病に苦しむ我が子を救えるという一縷の望みにかけ、夫が自らの艦を沈めたという事実を。

 もしもそれを知った時、自らの罪を償うために死に場所を探していた夫に彼女はなんと言うのだろう。

 それを知る者は、まだこの世界にはいない。

「あなた方が最後です。加藤真琴さん、加藤翼くん」

「……はい」

 戦術科を示す制服に身を包んだ若い男性は、彼女達に微笑みながら敬礼をした。

「お会いできて、光栄です」

「今は私、ヤマトのクルーじゃないですよ」

 青年に答えてタラップに足をかけると、彼女は止まって口を開いた。

「ヤマトは、生きているんですね」

 青年を見ることはなく、足元を見たままの彼女に、彼は「はい」と答える。

「アンドロメダ、山南艦長の活躍によりヤマトは敵本星からの脱出に成功しました」

「そうですか」

 それだけを答えて一歩踏み出す彼女に、彼は「それと」と付け加える。

「アンドロメダから山南艦長を救い出したのは、銀河に移乗していたヤマト航空隊長の加藤二尉です」

「……そっか、さぶちゃんが……」

 天を仰いだ彼女は振り返り、青年へと向き直る。

「あなた、名前はなんていうの?」

「武蔵の戦術長、有賀義弥です」

「あなた、古代さんにそっくり」

 彼に笑いかけた真琴は、足早に艦内へと入っていった。

 

 

武蔵

 気密服に誘導灯を持った誘導員が手を振る中、武蔵とディフダは月をあとにした。

「火星付近に艦隊が集結している……」

「火星宙域で、損傷したヤマトのパーツを銀河と交換したりしてるみたいですよ」

 丹生に答えた柑奈は振り返り、窓の外を見る。

「これで、私たちの任務は終わりですね」

「寂しいのか?」

「はい、ちょっとだけ」

 有賀は「そっか」と返し、眼前に見える青い星を見つめた。

「火星宙域より離脱する艦あり。パネルに投影します」

「これは、ヤマトか」

 丹生によって映し出されたのは、改装を加えられ今まさに決戦に向かわんとするヤマトの後ろ姿であった。

 人類の希望を背に受けて、今力強く進むそれは雄々しく、大きく見えていた。

「総員、ヤマトへ敬礼!」

 艦長の号令に従い、立ち上がって敬礼をするクルーの面々。

 そしてもう1人、右舷展望室からヤマトに敬礼を送る人がいた。

「お願い、生きて帰ってきて……さぶちゃん……ヤマト……」

 裾を引く我が子には見せまいとしてきたが、これからヤマトに待ち受ける苦難を思うと自然と涙が溢れる。

 それを、仲間の側で、愛する人の隣で支えられない自分が悔しかった。

「大丈夫だよ、ママ」

 不意に翼が口を開く。

「だってヤマトには、パパがいるんだから」

「……うん……うん。そうだね」

 我が子を抱きしめ、実感する。

 たとえこの先どんなことがあろうとも、この子は守ってみせると。

「両舷前進強速、武蔵、地球へと帰還する」

 艦長の言葉と共に武蔵は地球へと舵を向けた。

 今まさにヤマトが守らんとする青き星。

「俺たちには、何もできないのか……」

「それは違うと思いますよ、義弥さん」

 うつむき呟く有賀の隣に立った柑奈が窓の外を見ながら答える。

「私たちは、直接でなくてもヤマトの戦いに貢献できているはずです。月の子供達を地球へ。この行為もきっと、ヤマトが思いっきり力を発揮するために必要なんですから」

 艦に軽い衝撃が走る。

 大気圏再突入の用意のため、艦の姿勢が変わった揺れであった。

 

 

地球

 空に見える二つの影は次第に近くなり、いつしかその形が見えるまでになっていた。

「あれって……」

 潮風とは違う風が吹き始める。

 どこか懐かしい、いまここに立つ彼女が待ちわびた風。

 艦首にマーキングされた武蔵の文字が陽に照らされて光り輝き、堂々たる帰還を報せる。

「武蔵……帰ってきた!」

 頭上を低空で航行する艦を追いかけて、少女は走り出した。

 満艦飾を輝かせた2隻の巨艦からは、旅立った時にはない力強さがあるように見える。

 水しぶきを上げながら着水した武蔵は、無線誘導に従い宇宙港ドックへと向かうディフダに別れを告げて一足先に入港した。

「お兄!」

 人ごみの中で兄の姿を見つけた美佳は飛びつくように力強く抱きしめた。

「うわっ、どうした?」

「おかえり。お兄」

 その一言で、義弥は自分の不在が彼女にどれだけ負担をかけていたのか少しわかった気がした。

「やっぱり好かれてますね、義弥さん」

「えっ、いや、これは……」

「何? お兄の彼女?」

 その様子を見ていた柑奈が茶化すように声をかけると、美佳は慌てる兄と彼女を交互に見た。

「彼女じゃないですよ、私は」

 笑いかけた柑奈をじっと見て、美佳もまた笑顔を向けた。

「お姉さんみたいな人がお兄の彼女なら安心なんですけど」

「それはどういう事だよ……」

 妹の言葉に返した義弥は、すぐに空へと顔を向けた。

「……地球は、どうだった」

「ずっと同じニュースばっかり。ヤマトが沈んだってニュースも」

「そうか」

「……ねぇ」

 兄につられるように空を見上げた美佳は、それまでより低い声色で兄の服の裾を掴みながら続けた。

「地球は、大丈夫なのかな」

「俺たちにできるのは、信じることだけだ」

 空の彼方でただ一隻、敢然と脅威に立ち向かおうとする艦を思い、言葉を続ける。

「地球は大丈夫だ。絶対に」

 拳を握りしめ、不思議と希望に満ちた目で、その名を告げる。

 希望のフネの名、地球の最後の砦。

 

「この星にはまだ、宇宙戦艦ヤマトがいる」

 

 その瞳には既に、兄の死を引きずる青年はいなかった。

 人々が紡ぐ希望の輪は、あの艦へと通じ力となって、やがて宇宙を包む愛となる。

 いずれその時が来るまで、彼らの戦いは終わらない。

 今は眠ったように静かな武蔵には、再び飛び立つ時が来る。

 これから先の地球が、戦禍に見舞われることのないように。

 いつか本当に、兵器の必要もない愛に満ちた宇宙となるようにと願いながら。

 ――今は眠れ。地球の未来を、大いなる和を紡ぐ希望の艦へと託して。

 

 

        ――第七話 「武蔵の願い」――

 

           ――――完――――




全7話という短い期間でしたが、読んでいただいてありがとうございました。
大いなる和の一部にはこんな物語があればいいなと思い書いていた本作でしたが、3月に公開される「宇宙戦艦ヤマト2202第7章 新星篇」へと結末を託して今回は完結とします。
もしかしたら再び武蔵の物語を語ることがあるかもしれません。その時はどうかよろしくお願いいたします。

あとあと今作に登場したキャラクター、艦艇、惑星の簡単な設定を公開する予定です。ただし、この設定は公式設定ではないという事を前提に見ていただけたら幸いです。

最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
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