血まみれヒーローと黒の少年   作:べにこ

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序章・罪の子

 

 死にたいと思っていた。

 それは、感傷とか、甘えとか、そういう類のものではなく、ただ純粋に、真面目に、前向きに、がむしゃらに、それは俺の願いだった。一等星のようにきらきらひかる、美しい目標だった。

 

 

 だって、俺がすべて悪いから。

 俺がいなければ、こんなことにはならなかったはずだから。

 

 

 みんな、みんな、死んでしまった。

 ここでは死はあまりにも呆気なく、まるでそうなることを生まれた時から決められていたように、たくさんの命が日々奪われていった。俺の命は俺の手にはなく、強い力を持つ誰かの手のひらの上で、握りつぶされ殺されるのをただ待ちわびる日々が、意味もなく延々と続いていた。

 

 

 大切だった、大好きだった人たちはもう、とっくの昔にいなくなってしまったのに。

 

 

 終わってしまった。ここから先はない。俺はもうどこにも行けない。それならもう、希望は死以外の形をとらない。恨みも哀しみもない。ただ底の見えないまっくらな穴が、足元に口を開いて俺を呼んでる。あとは前に一歩足を踏み出して、暗い暗い穴の底めがけて、飛び込むだけだった。

 

 

 そのはずだったんだ。

 

 

「痛かったな。苦しかったな。でも、もう大丈夫だ」

 

 

 誰かが俺に話しかけている。優しい声だ。こんな風に語りかけられたのなんて、いつぶりだろう。

 

 

 俺は声のする方を見上げた。崩れた研究所の外壁から柔らかく差し込む太陽の光。それを背に受けて、白い服をまとった、白髪の男が立っている。夥しい量の血でべったりと全身を濡らしながら、それでも凛と背筋をのばして立つそのひとに、俺は今まで信じてもいなかった神様の存在を思った。

 

 

「俺と来い。生きたいんだろう」

 

 

 男はそう言って、血に塗れた手をさしのべた。その言葉を聞いて、理解して、それでやっと、俺は自分が生きたかったのだということを知った。滅茶苦茶に傷つけられて、孤独と罪悪感に苛まれたまま死ぬために、今日まで生きてきたわけじゃなかったんだと。

 

 

 俺がすべての元凶だ。

 俺がいなければこんなことにはならなかった。

 でも、それでも、生きることを許してもらえるのなら。

 俺は生きたい。本当はずっとそうだった。

 どれだけ苦しくても、つらくても、生きたい。

 生きて、この罪を償いたい。

 

 

 血で浸されたリノリウムの床。原型をとどめないたくさんの死体に囲まれながら、おそるおそる握った救いの手は、死んでいるみたいに冷たい。男が笑った。泣いているみたいな顔だと思った。

 

 

 

 

 国内随一の犯罪者、前代未聞の凶悪殺人犯は。

 たったひとりの、俺のヒーローだった。

 

 




気の迷いで削除してしまった本作品、再び連載していきます。
前回ブクマ、感想送ってくださった方は削除してしまい本当に申し訳ありません……。
今度こそちゃんと更新していきます!よろしくお願いします!
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