血まみれヒーローと黒の少年   作:べにこ

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第3章・秘密を知る者①

 

 授業が終わり、休憩時間。教室に戻ろうとする出久の背中に転校生が声をかけた。

 

 

「緑谷。ちょっといいか」

「あ、う、うん!」

 

 

 どもりながらも返事をした出久は、演習場と校舎をつなぐ通路の端にいる転校生の元へ駆け寄った。先ほどの戦闘の記憶が脳裏に翻り、妙に手が汗ばんでしまうのをズボンの裾で拭う。

 

 

「改めてさっき、ありがとな。緑谷が忠告してくれたおかげで何とか勝てたよ」

 

 

 転校生はそう言うと、にこりと優しく微笑み手を差し出した。先ほどの戦闘で纏っていた壮絶な気迫はもうすっかりなりをひそめ、柔和な雰囲気が全身からあふれ出ている。

 

 

「い、いやいやいや! そんなお礼を言われるようなことしてないよ! 一ノ瀬くん、すっごく強かったし、僕の忠告なんてなくても全然……むしろ、余計なお世話だったかも。ごめん」

 

 

 差し出された転校生の手を握り握手を交わしながら、段々と卑屈になっていく出久。そうだ。自分の忠告なんてなくても転校生は難なく勝己を打ち負かしていただろう。何しろあれだけ強いのだから。

 

 

 転校生の個性。伸縮自在の爪と翼。個性自体も汎用性が高く使い勝手が良さそうだったが、何より所持者自身の立ち回り方が半端でなく優れていた。勝己の動き・個性・体の位置・周りの状況の把握力、急所への的確かつ最小限の攻撃、先手を打たれたり奇策を講じられても動じない精神力、相手の弱みを見極め的確に迎撃する対応力、個性の汎用性を最大限に生かした立ち回り。すべての力が自分より一回りも二回りも上のレベルで、正直見物する側としては今までになく収穫の多い闘いぶりだった。だからこそますます勝己の暴力性の忠告など、完全に要らぬ世話だったと感じ羞恥心が膨らんでいってしまう。

 

 

「そんな、謝らないでくれよ。ほら、俺、転校してきたばかりだし。皆遠慮してくれるんじゃないかとか、甘えてた所あったから。緑谷が忠告に来てくれて気が引き締まったんだ。だからほんと、ありがとう」

 

 

 転校生は慌てたように両手を顔の前で振り、出久をフォローした。その様子はいかにも気遣わしげで、出久は「いやいやいや……」と控えめになりつつもやはり彼は優しい人だと再認識する。

 

 

 ……だからこそあの、戦闘時に発する刺すような気迫を異様に感じてしまうのかも知れない、とも思った。

 

 

「あ、そうだ。もっと大事なこと。言っておかなきゃいけないんだった」

 

 

 転校生は今思い出した、という風に手を口に当てて言った。今朝会ったばかりで「大事なこと」と言われてもあまり見当がつかず、学校関係の質問だろうかと思い「大事なこと? 何かな?」と聞き返す。

 

 

 しかしその後に転校生が続けたのは、出久が全く予想だにしていなかった、予想もしえないような言葉だった。

 

 

「ワン・フォー・オールの使い方には気をつけた方がいいぞ。まだものにできてないみたいだし。ビビってずっと使わないのもあれだけど、体を酷使して爆弾作ったら、ヒーローになるどころの話じゃなくなっちゃうぞ」

 

 

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