応接室で緑茶を出されるなり、白銀は声を上げた。
「あ、砂糖もらっていいです?」
「……これ、緑茶ですけど」
「緑茶にも砂糖入れるんですよ、私。渋いの苦手でねぇ」
白銀はへらへらと笑いながら、緑茶にコーヒー用のスティック砂糖を入れ始めた。それも、テーブルに備え付けられたそれらがなくなるほどの勢いで。たっぷりの砂糖を吸い黄色くなった緑茶を美味そうに啜る目の前の男を見て、相澤は思わず目を眇める。
湯飲みをテーブルに置くと、ようやく人心地ついたとばかりに白銀は口を開いた。
「翔は世話焼きで優しい性格なんですけどねぇ、正義感が強いもんで、首を突っ込みすぎて事を大きくしてしまうタチでして。何か問題を起こしたなら謝らせ――」
「一ノ瀬に戦闘技術を教えたのはあなたですか」
相澤の話を遮るような質問に、白銀は一瞬目を見開いて相澤を見た。しかしすぐに察した、というように片眉を上げ、再び湯飲みを手に取り先を促す。こちらの話を聞く気はあるようだ。ならば遠回りな言い方はせず、単刀直入に切り込まなければ。
「一ノ瀬の対人戦闘を今日初めて見ました。非の打ちどころのない優秀な戦い方だった。が、優秀すぎる。転入試験は対人ではなかったので気づきませんでしたが……あれはおよそ高校生の戦い方ではありません」
相澤はそこで一呼吸おいた。今日の対人戦闘演習の記憶を掘り起こしながら、言葉を選ぶ。
「あれは経験者の戦い方です。実際に命を狙われ、危険な敵と対峙したことがある者の」
そう、今日の転校生の戦い方を見て、相澤が怖気のように感じとった違和感の正体はまさしくそれだった。
――転校生くらいの歳頃の子どもの戦い方として、最大の特徴と言えるのは「躊躇」と「迷い」だ。この頃のまっとうな子どもは、例えどれだけ身体能力や個性が長けていても、自分を本気で害そうとしてくる人間と実際に対峙した経験はまずない。スポーツや訓練のようにあらかじめルールに守られた土俵で本気で闘い合うことはできても、ルールも何もない、負ければ己の命をも差し出さなければならないような状況になど、このご時世に早々追い込まれることはないからだ。
そこに突然対人戦闘の演習など取り入れれば、大体は自らの個性で他人を傷つけることに二の足を踏む。どこまで本気を出していいのか。自分の個性を相手にどう使えばいいのか。どの程度の攻撃でどの程度の損傷が加えられるのか。勿論度が過ぎれば相手に大怪我を負わせてしまうので、ほとんどの場合迷い、躊躇い、やがて「手加減」することを覚える。
それは常に最小限の被害で事態を押しとどめなければならないヒーローとしてはけして悪くはない傾向だが、度を超すと敵一人まともに捕まえられないへっぴり腰のヒーローが生まれてしまうことにもなるので、その辺りの調整をするのがヒーロー育成に携わる教師としては重要な仕事になってくる。
だが、転校生の動きにはその、全ての子どもが持っているべき「迷い」や「躊躇」が欠片もなかった。攻撃による損傷の程度、力加減、相手の動きや反撃の仕方を熟知していなければ、あのような迷いのない電光石火の動きはできない。逡巡する間がない分ほかの生徒より一段速く動けるのは、実は異常なことなのだ。
それは本来、これより先の職業体験なりインターンなりで少しずつ身につけていくべきもの。幼少からヒーローになるためのエリートコースをひた走っていたならまだしも、両親を亡くし孤児院に身を寄せている天涯孤独の転校生が、あのような「経験者」の闘いぶりを披露できる所以はないのだ。
それができるとするならば。彼が身を寄せる孤児院『アザミの家』の院長、白銀凪人その人の仕業に他ならない。いたいけな子どもをそのように訓練する理由など考えたくもないが、何か後ろ暗い理由であることには相違ない。ここでそれを暴かなければ、と相澤は膝に置いた拳に力を込める。
「もう一度質問します。一ノ瀬に戦い方を教えたのはあなたですね」
原作を見るに、相澤先生は生徒に関しては非常に鋭い勘を持ち合わせていると思います。
そして多分凪人みたいな人種は嫌いだと……まあ好きな人間の方が少なそうですが笑
生みの親の私が言うのもなんですが、凪人は性格ねじ曲がってます。
中々手の中で転がすのが難しいキャラですが、すごく大事なキャラでもあるので丁重に手綱を握ってまいります。