相澤は目を疑った。Save。政府子飼いの超法規的エージェント集団。凶悪敵集団へのスパイ活動、政府要人の身辺保護、脱走死刑囚の秘密裏の捕縛等々、危険かつ後ろ暗い任務を一手に請け負う「静かな軍隊」。彼らはけして公に出ることなく、出たとしても『Save』所属であることは生涯に渡り秘匿し続ける。一人残らず希少かつ強力な個性を持ち合わせ、その戦闘能力はプロヒーローに匹敵するほどだという――というのが、世間の『Save』に対する見解、もっと言えば噂話だ。
実際のところ『Save』所属の人間は表舞台に出てくることはないから、どの話も信憑性がなく様々な憶測が好き勝手に飛び回っているのが現状だ。中には、『Save』などという団体は存在しない、小説やドラマなんかでよくある「政府所属の秘密組織」なんていうありきたりな設定あたりが噂の出所だろうと言う者までいる。政府もその存在については一切言及していない、いわば都市伝説のたぐいのものだ。
その存在するかどうかも定かでない組織の一員であると、この男は言い張っているのだ。とてもではないが信じられず、むしろ信じてもらえると向こうが思っていることも信じられず、思わず声が漏れる。
「セーブ……まさかそんな……」
「そのまさかなんですよねえ。びっくりするのも無理ないですけど。世間じゃ『Save』の存在は都市伝説みたいなところありますしねえ。まァでも、火のない所に煙は立たないってヤツですよ。何事もね」
相澤の疑心をよそに、白銀はゆったりと足を組んだまま何でもないことのように言ってのけた。その余裕綽々とした態度からは、こちらを騙そうとしているような意図は欠片も窺えない。一対一で差し向かいながらこれほど冷静でいられるのは、相当に図太い神経を持ち合わせているのか、よほど騙しの腕が立つのか――それとも本当に真実を口にしているのか。その飄々とした態度からは予測がつかない。
「まァ実際のところ、世間で言われているほど『Save』の存在は秘匿されているわけでもないですよ。他庁の機関や民間企業に協力をあおぐことも少なくないですしねえ。私みたいな下っ端構成員なんて特に、やってることは公務員とほぼ変わりません。都市伝説的に扱われているのはまァ、単純に仕事上の秘匿義務が資しているところが大きいでしょう。どんな仕事だって同じでしょうがね、業務内容を他に漏らさないっていうのは」
白銀はしみじみといったふうに語り、小さく息をつくと、話が逸れましたねと言って足を組み直した。
「私の身分もそうですが、うちの孤児院……『アザミの家』も特別なものでしてねえ。表向きはごく普通の孤児院ですが、実際は違法研究の犠牲となった子どもの保護を行う特別指定を受けた孤児院なんです」
まるで隠していた宝物を披露して自慢するかのように、終始笑みを含ませながら白銀は話す。
「というのも最近、裏社会で複数の組織がそうした希少な個性を持つ子どもをさらってきては、非人道的な研究をしたり調教したりと好き勝手やってましてねえ。しかしその実状は表社会にはほとんど露呈しない。表向きはきちんと特許を得て、まっとうな個性の研究所をうたっているのでね」
個性の違法研究。その言葉がどういうことを意味するのか相澤はよく知っていた。そういう研究の餌食になった人間はほとんどが肉体的に耐えきれずに死ぬということ、よしんば生き残ったとしても、重い後遺症やPTSDでまともな生活が送れないようになることも。
……だがそんな非人道的なものが横行していたのは十数年前も前の話だ。そうした違法な個性研究への取り締まりは昨今とみに厳しくなり、最近では事件数もめっきり減ったはずだ。専用の孤児院を設けなければならないほど多くの子どもが、違法研究の犠牲になっているとは到底思えなかった。まして、転校生がその犠牲者の一人であるなどと言われても、俄には信じられない。
「まァ、違法研究なんて今に始まったことじゃないですけどねえ。個性がこの世に発現してよりの伝統、とでも言うべきでしょうか……もしかして、平和な今の世の中ではそんなものがまかり通るわけがないと思ってます? まァそう思うのも無理はないでしょうが、実状は違うんですよねえ。警察やヒーローの権限が大きくなり監視が厳しくなった分、そこの網目を一度くぐってしまえば最早止める者など誰もいない。網目をくぐるにはどうしたらいいか。まァ簡単に言えば収賄、汚職、ですよね。知ってます? 昔は警察内部に、捕まえた犯罪者や保護した子どもを違法研究所や敵に売り飛ばす人材トレーダーがうじゃうじゃいたのを。昔ほどではないですが今もいますよ。あろうことか、仕事にあぶれ金に困ったヒーローがやった、という事例もあります。寄生虫のように湧いてくるんですよ、ああいう連中は」
まるで相澤の心理を見透かしたように白銀は語った。それが嘘か本当かの区別はやはりつかない。ただ揺らぎのない静かな瞳が弧を描き、栗色の髪の間からこちらを窺ってくるだけだ。
原作の設定をことごとく破壊していくゥ!
あとで収集つかなくなりそうな壮大な捏造設定を考えるの大好きです。
辻褄合わなくなったり原作で似たような設定登場したりして苦しめられるのは自分だというのに……。
もしそんな目にあったら思い切り笑ってやってください←
『Save』に所属する夢主なんかも後々登場させたいと思いますので、楽しみに待っていただければうれしいです。