血まみれヒーローと黒の少年   作:赤錆はがね

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第5章・教師と院長④

 

「警察やヒーローだけじゃないですよ。そういう違法な研究所には、往々にして政府の上役が一枚噛んでいることが多いんです。個性研究は金になりますからね、おかげで敵団体も誰それ議員も皆こぞって違法研究所に出資する。組織の上層部が絡んでいるから検挙することすら難しく、やっとこさ潰してもまたすぐに新しい施設が建てられる。まさにいたちごっこというわけです」

 

 

 そこまで聞いても、やはり相澤は白銀の話を信じることができなかった。収賄や汚職が横行し、人間の命を安易に弄ぶような連中が増えている、犠牲者も増えている、そんな酷い現状をなぜ、第一線を退いたとはいえまだまだ現役のヒーローである相澤が把握できていないのか。そんなはずはない、全てはこの男の嘘八百だと思う気持ちが正直大半を占めている。いや、本当はそう思いたいだけなのか?

 

 

 裏社会というものはどの時代にも存在する。ヒーローはその職業の性質上、比較的派手で表立った活動が主だ。もしかすると、両者の隔絶は相澤が思っている以上に深刻なものになりつつあるのかも知れない。もはや自分たちヒーローの手の届かない、ともすると知ることすらない世界で、数少ない弱者が食い物にされ殺される、そういう惨状が未だ続いているのだとしたら。ヒーローの台頭により駆逐されたはずの薄暗い世界は、実は表社会から遠ざかっただけで、今も密かに身を隠し生き続けているのだとしたら。

 

 

 相澤の背中を嫌な汗が伝う。こんな風に考えてしまうのは、単なる相澤自身のヒーローとしての性か、それともこの男の道化のような語り口のせいなのか。

 

 

「翔には私が持つすべての戦闘技術を叩き込みました。あれだけ戦えるならヒーローになるにも見劣りはしないでしょう。ですが本来の目的は、あれが敵の手に渡らないようにするためです。いたいけな子どもたちを食い物にする連中、その大元を絶たない限り、翔は常に命を狙われ続ける立場にあります。あれを安全かつ健康に育てるためには、自衛の力を身につけさせるしかなかったわけです」

 

 

 白銀はそこまで話すと、一段落ついたとばかりに痩せぎすの身体をソファにもたれさせた。筋張った指で再び湯飲みを手に取り、すっかり冷たくなった中身を啜る。相澤はその間微動だにせず、じりじりと脳内で思考を巡らせた。

 

 

 今の話の真偽のほどは分からない。今ここに証明するものがない以上、この男が自分で語った身分すら本当かどうか怪しいところだ。だが、転校生がなぜあれほどに熟達した闘いができるのか、その理由としては「いちおう」辻褄が合っている。ならば今の話を真実だと仮定して、その矛盾点をついていくのが先決だ。

 




ヒロアカの原作沿いの夢小説って、ヒーローの庇護や社会の監視の目からこぼれ落ちてしまった悲劇の主人公が多い印象なのですが。
実際ヒーローも知らない、また介入できない領域ってあると思います。
それこそ汚職・収賄の類だったり、権利・責任関係だったり。
きっと手を差し伸べたいから差し伸べられるような単純な世界じゃないんじゃないかな~と思います。そういう世界だからこそ、何者をも救い出す、超人的な存在のオールマイトは平和の象徴として称えられてるんじゃないですかね。

何か語ってしまった(戦慄

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