血まみれヒーローと黒の少年   作:べにこ

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第1章・黒い転校生①

 

 爽やかな五月晴れの空に、キーンコーンと高らかなチャイムの音が響く。小高い坂の上に建てられた立派な校舎が、窓に太陽の光を受けて眩しく輝いている。毎年優秀なヒーローを幾人も輩出する名門中の名門、雄英高校。そこに通う生徒たちの一日が今日も始まる。

 

 

「オラお前ら、さっさと席につけ」

 

 

 肩にバインダーを担ぎ、気だるげに1-Aの教室に現れたのは担任教師の相沢消太だ。彼に気づくと、1-Aの生徒たちはおしゃべりをやめて速やかに席に着いた。相澤の口癖は「時間は有限」。まだ入学して1ヶ月ほどしか経っていない生徒たちの無意識下にも、徐々にその教えが刷り込まれ始めている。

 

 

「えー、突然ではあるが、今日は転校生を紹介する」

「ええええマジで!?」

「おぉー!! ほんとに突然!!」

「何か学校っぽい行事キター!!」

「女!? 女か!?」

 

 

 つかの間の静けさも一転、相澤の開口一番の発表に教室が一気にざわつき始めた。あまりの唐突さに突っ込みをいれる者、いかにも学校らしいイベントに胸を躍らせる者、まだ見ぬ転校生に妄想を巡らせる者。ヒーロー志望の中でも指折りの実力を持ちここに座している彼らではあるが、そのあどけない反応はいかにも高校生らしい。

 

 

(て、転校生かぁ……1年生の5月に転校って珍しいな。それに、雄英の編入試験って一般試験よりも難しいって聞くけど……やっぱりすごい優秀な人なのかな……どんな個性の人なんだろう)

 

 

 そんな風に思いを馳せているのは1ーAの生徒の一人、緑谷出久だ。周りには一切秘密にしているが、ヒーロー界の頂点に立つ平和の象徴・オールマイトに認められ、彼の個性「ワン・フォー・オール」をその身に受け継いだ数奇な運命の中にある。憧れであり目標であるオールマイトに一歩でも近づくため、日々奮闘中の彼が転校生の性別や容姿よりも個性の方に思いを馳せてしまうのは、もはや性であるとも言える。

 

 

「入ってこい」

 

 

 相澤の呼びかけに教室のドアの向こうから「はい」という澄んだ声が応えた。がらりとドアが開き、真新しい雄英の制服に身を包んだ生徒が入ってくる。

 

 

 それは少年だった。背はすらりと高く、このクラスの生徒である轟焦凍とほぼ同じくらいだろうか。濡れたような黒髪の下から、ふたつの鮮やかな赤い瞳がのぞく。ひどく整った顔立ちにその血のような色は異様に映えて、出久はその目と視線が合った瞬間、本能的に目をそらしてしまった。

 

 

 転校生の登場に教室の騒がしさは頂点に達した。「やっばい、超イケメンじゃん!!」「何だよ男かよ~チェンジ!!」喜びと落胆と様々な声が入り交じるただ中に放り出され、前に立った転校生は少々居心地が悪そうだ。

 

 

「初めまして、一ノ瀬翔と言います」

 

 

 教室が静けさを取り戻すのを待って自己紹介を始めた少年の声は、りんと鈴が鳴るかのように美しく澄んでいて、出久の心臓は思わずどきりと跳ね上がった。まだ未成年とは言え、ほとんどが声変わりをしている男子高校生にあって、その声は少し浮いてしまうくらいに甲高く、優しく、柔らかい調子を含んでいた。

 

 

 まるでそう、女性のように。

 

 

(な、何を思ってるんだ僕は……!? 男の子の声を女の子みたいだなんて、失礼すぎるだろ!)

 

 

 出久はぼさぼさ頭を左右に振り乱してたった今浮かんだ思考を打ち消した。何やってんだ緑谷、と転校生が男だと分かって早くも興味を失った後ろの席の峰田実が白い目を向けてくる。

 

 

「この度編入試験を受けて、雄英で学ばせてもらうことになりました。皆より遅いスタートで、色々迷惑をかけると思うけど、精一杯がんばります。よろしくお願いします」

 

 

 一ノ瀬翔と名乗ったその少年はそう言うと、ぺこりと小さく頭を下げた。もう一度よく耳を澄ませて聞いてみたけれど、その声はやはり自分たちと同年代の少年といった感じで、しっかりと声変わりもしており、少女のようにも中性的にも聞こえない。先ほどの声は聞き間違いだったのだろうかと、出久は首をひねった。

 

 




主人公登場です。
真面目で、強くて、向こう見ずで、ちょっと泣き虫な主人公です。
どうぞ末永く見守っていただければ幸いです。
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