血まみれヒーローと黒の少年   作:べにこ

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第6章・謎の少年⑥

 

「大丈夫か? 太陽。立てるか?」

「ごめんなさい……ごめ、ごめ、なさ……」

 

 

 翔が優しい声で呼びかける。しかし少年はその声が聞こえないのか、頭を抱えうずくまりながら譫言のように「ごめんなさい」を繰り返す。怒鳴りつけられたことがそんなにショックだったのだろうか。それにしても怯え方がひどく極端に見える。

 

 

「太陽、俺だよ。分かるか?」

「ごめ……う、う、翔にぃ?」

「そうだよ、俺。翔だよ。大丈夫か? どこも痛いとこない?」

 

 

 翔は柔らかな声で問いかけながら、壊れ物のように少年の肩に触れた。その優しい声に凍えた恐怖心が融けだしたのか、ようやく少年は顔を上げて翔を見る。

 

 

「急に怒鳴ったりして悪かった。ごめんな。外は車が通ってるから、今度は注意して渡ろうな」

 

 

「う、うん……ごめんなさい」

 

 

 翔は少年を立ち上がらせ、足早に雄英の校門側へ戻ってきた。あわや事故かという危機一髪の事態を目の当たりにした1-Aのクラスメイト達は、ここにしてようやく胸をなで下ろすことができた。少年が突然道路に飛び出すなんて誰も想像していなかったので、皆の交わす声には拭いきれない緊張が色濃く残っている。

 

 

「大丈夫だった?」

「間一髪だったな~」

「てか何だよあの運転手。感じ悪ぃ」

 

 

 少年とともに無事に戻ってきた翔を、労いと驚きと運転手への悪口でもって迎え入れる。

 

 

「い、一ノ瀬くん。大丈夫?」

 

 

 呼びかけてしまってから、しまった、と出久は思った。さっきのあわや事故かという危ない場面を目の当たりにして、彼と距離を置かなければならないということをすっかり失念していたのだ。

 

 

「俺は大丈夫だよ。心配してくれてありがとうな」

 

 

 出久の心中など何も知らないというふうに、翔は屈託なく笑った。出久は思わず息をのむ。何か得体の知れない、激しくうねる感情が喉元までせり上がってきて、顔が歪んでしまうのを止められなかった。

 

 

「ていうか、その人だれ? 一ノ瀬の知り合い?」

「兄ちゃんとか? でも似てないな」

 

 

 翔をひとしきりねぎらった後、クラスメイト達の関心は彼の後ろで身を縮こまらせている少年の方へ傾いた。関心を向けられた少年はびくりと震えますます身を縮めるが、翔より10cm近く大きい体躯は完全に隠れきることはできない。

 

 

「あ……こいつは、なんというか……その……」

 

 

 翔は後ろの少年を確認するかのように左右に視線をさまよわせ、言った。

 

 

「……いとこなんだ。うちに居候してて。名前は西浦太陽」

 

 

 嘘だ。

 

 

 出久はそう直感した。なぜかは分からない。この一週間穴が空くかというほど翔を観察していたから、自然と観察眼が養われたのかもしれない。彼のあの、視線をさまよわせる仕草が何か嘘をつくときのものだと知っていて――。

 

 

(いや、違う)

 

 

 似ていたからだ。目をせわしなくうろつかせ、最終的にある一点に視線を止めて、不安や罪悪感からくる胸の痛みに、僅かに耐えるようなあの表情。あれはまるで――。

 

 

(僕だ)

 




翔が咄嗟についた嘘に気づく出久くん。
嘘をつく人、何か隠し事がある人って嘘に敏感なんじゃないかなーっていう。
秘密は物語の始まりですからね!(適当
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