「へ~そうなんだ!」
「居候って、一緒に住んでるってこと?」
芦戸や葉隠が無邪気に問いかける。出久が感じ取った違和感はどうやら他の誰も気づいていないようだ。
「うん。そうなるかな」
翔は少年を背中に隠したまま、乾いた声で笑った。そこに宿るどこかよそよそしい感じに、やはり誰も気づかない。気づいているのは出久だけだ。
「なら一ノ瀬くんの兄弟も同然だな」
「初めまして~、芦戸三奈です! 一ノ瀬のクラスメート! えっと、太陽さん? 私服だけど、どこか学校通ってたりするんですか?」
芦戸が翔の後ろに首を伸ばして、太陽と呼ばれた少年に溌剌と語りかけた。びくりと肩が揺れ、ひどい怯えの色をたたえた瞳がクラスメイト達を見る。「う、え、あ、ぁ」と吃音症のように意味のない言葉を繰り返しながら、少年は金色の瞳をくるくると所在なげにさまよわせた。胸の前で組み合わせている両手が血の気を失い小刻みに震えている。
「あ……ごめん。太陽はちょっと、何て言うか……」
その明らかに尋常でない反応を隠すかのように、翔は少年を振り返って片腕を広げる。
「すごい人と話すの苦手なんだ。対人恐怖症、ってやつで。悪いんだけど、ひとりひとりゆっくり話してやってくれないかな」
対人恐怖症。その言葉が出てきた途端、好奇心満々に翔の背中にかくまわれた少年をのぞき込んでいたクラスメイト達は、海の波が引くように彼らから離れた。
「あー……なるほど」
「そうなんだ」
「オッケー、理解した」
「ごっめん一ノ瀬。そうとは知らずに矢継ぎ早に話しちった」
こういう心配りが迅速かつ自然にできるのは、さすが雄英生と言ったところなのだろうか。先ほど積極的に話しかけていた芦戸も、手を顔の前であわせて謝罪する。
翔は一瞬驚いたような顔をして、それから柔らかく口の端を綻ばせた。
「いや、芦戸は悪くないよ。むしろ気軽に話してくれたの、嬉しい。ありがとな」
翔は本当に嬉しそうだった。少なくとも、そこに嘘が含まれているようには見えない。
「さっきは急に話しかけちゃってごめんね、太陽さん。えっと、この辺は初めて?」
「……」
再び芦戸が、今度はゆっくりとした優しい口調で話しかける。少年はうなだれたまましばらく黙っていたが、やがてちらりと芦戸に目をやり、ほんの小さく首を動かした。
「……ん」
「そっかー! 一ノ……翔くんを迎えに来たの?」
「ん」
「すごーい! 偉いね!」
まるで小さい子どもに接するような砕けた言葉遣いになってきた芦戸を、横から瀬呂がたしなめる。
「芦戸、さすがに「すごーい」はねえだろ。子どもじゃねんだから」
「あれ、そう? えへへ、むつかしーな」
芦戸は恥ずかしそうに頬をかいた。彼女の愛嬌たっぷりの笑みがクラスメート達に伝播し、その場の雰囲気が少し和やかになる。
そう、確かに、その金髪の少年は1-Aのクラスメート達に勝るとも劣らない立派な体格とは裏腹に、仕草が妙にあどけなく子どもじみていた。立ち振る舞いだけなら、7、8歳の子どもと言っても差し支えないくらいだ。芦戸が幼い子どもに対するような態度になってしまったのも無理はない。
「じゃあ俺、太陽と一緒に帰るから。ごめんな。せっかく誘ってもらったのに、つき合えなくて」
タイミングを見計らったようにそう切り出した翔を、止める者は誰もいなかった。彼を追いかけてきた少年を一人にしていくわけにはいかないだろう。皆「気にしないで!」「また今度一緒に行こうぜー」と口々に別れの言葉を言い、手を振る。翔は笑って手を振り返しながら、校門を出て右手の道を少年とともに去っていく。
その後ろ姿を、出久は見るともなく見ていた。ますます謎めいていく彼を、その秘密を、見つめれば暴けるとでも言うように、未練がましくその姿を目で追っていた。
翔は少年の背中を支えるように手を添え、顔を近づけながら何事かを話していた。小声にも関わらずその内容が鮮明に聞こえたのは、或いは必然だったのかも知れない。
翔と出久。彼らの運命が絡まり合う、その前兆として。
「太陽。今日はどうした? 何か用があって来たんだろ?」
「翔にぃ。あの、あのね、桜ねぇたちが……」
少年が今にも泣きそうな声でそう訴えた瞬間、翔の表情ががらりと変わっていくのを、出久は見た。愕然とした、顔の筋肉がすべて凍りついたような表情だ。
新キャラようやくまともに出ました!太陽です!
こいつも元は別ジャンルで生まれた夢主なのですが、設定もまともに考えなかったせいか性格がふわっふわしてます。
他の夢小説でも出てくる……かも……?
ともあれ彼にまつわる話も考えてるので、翔と合わせて見守っていただければ嬉しいです(^▽^)/