血まみれヒーローと黒の少年   作:べにこ

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第7章・獣の住処①

 

 人ひとり通れるか通れないかというような狭い路地をひた走る。散らばった煙草の吸い殻を踏みこえ、茶色く濁った液体をたたえるペットボトルを飛び越え、打ち捨てられた旧式テレビの上でまどろんでいた野良猫たちをごめんと叫びながら蹴散らして、ひたすらに奥へ奥へと走っていく。高いビルの壁に囲われた路地は、奥へと進む毎に暗くもの寂しくなっていった。

 

 

 路地は左右にさらに道を分けていて、出久はそういう分かれ道に行き当たるたびに視線を巡らせたが、翔と太陽の姿は見あたらない。先ほど路地に消える翔の背中に一瞬黒い翼が生えたように見えたのを思い出し、もしやビルの屋上を伝っていったのではないかと思い当たり、そこでようやく足を止めた。今さらのように太陽の光の届かない薄暗い路地裏から上空を見仰ぐが、当然二人の姿は見えない。

 

 

 そうこうするうちに、出久はもう元の場所に引き返すこともできないほどに奥へと迷い込んでしまっていた。立ち止まって視線を巡らすごとに新しい道が目に入り、そのどれもがそれらしい道に思えてどちらへ進んでいいのか分からなくなる。息が切れ、どくどくと心臓が血を送る音が耳のすぐ側で聞こえる。喉の奥にわずかに鉄錆のような味も滲んできた。

 

 

「ちくしょう、どこ行ったんだ……!」

 

 

 切れる息で語気を荒らげながら、出久は独りごちた。これだけ探したのだ、もうこの辺りにはいないのかも知れない。半ば諦めの気持ちで、それでも目だけは翔の姿を探す。

 

 

(だってこんな路地裏に入っていくなんて……絶対におかしい。一ノ瀬くんはやっぱり、何か秘密を持ってる)

 

 

 そこに関しては既に、出久が今までに目にした光景がすべてを物語っていた。全く似ていない、いとこだという少年。少年をクラスメートに紹介するとき、わずかにさまよった視線。身を隠すように、音もなく路地裏へと姿を消したその手際。

 

 

 翔には秘密がある。少なくとも、人目を気にしてこそこそと路地裏に潜り込まなければならないような秘密が。そしておそらくそれは、彼がワン・フォー・オールについて知っている理由にも繋がってくるはずだ。こんなところで、絶対に見逃すわけにはいかなかった。

 

 

「あっ!」

 

 

 思わず声を上げた。たった今、出久がいる道から左手に伸びている細い路地、いや、ほとんどビルとビルの間にできた隙間のような狭いスペースに、黒い人影が見えた気がしたのだ。ほんの一瞬だったが出久は迷いなく、そのおよそ人が通るために作られたのではないだろう空間に体を滑り込ませる。

 

 

 けして大柄ではない出久が体を横にしてもほとんど余裕のない狭い空間は、しかし長くはなく、数歩カニ歩きで進んだだけで通り抜けることができそうだった。そこから先は今までと同じようにビルの壁で囲まれてはいるものの、数人がたむろできるくらいの開けた空間になっているようだ。日の射す方向に建つ建物があまり高くないからだろう、今までより数段明るい。

 

 

 お化け屋敷から飛び出すような心持ちで、出久は狭苦しい隙間を抜け出て広い路地に出る。だが安堵の息は吐かなかった。吐けなかった、と言った方が正しい。

 

 

 翔だと思って追っていた人影の正体が、翔ではなかったからだ。

 




お久しぶりです。はい。(震え声)
一ヶ月以上放置していてすみませんでした……作者は元気に生きとります。
年度変わりの色々で執筆が後回しになり、今日まで更新作業ができませんでした。更新を待ってくださっていた読者の皆さんにはご迷惑とご心配をおかけし申し訳ありませんでした……。

またぼちぼち更新再開していくので、何卒宜しくお願い致しますm(_ _"m)
とりあえず新章開幕です!新キャラも登場しますのでどうぞお楽しみに!
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