早々に戦線離脱させられた鳥男を後目に、遠くに退いていた少女のからかうような笑い声が響く。
「派手な個性だねえ。嫌いじゃないけど」
仲間が為す術なくやられ、眼帯男の顔に明らかな動揺の情が浮かんだ。脂汗を垂らしわなわなと震える男に対して、少女は汗一つかかずいっそ爽やかな微笑さえ浮かべている。
「くそ……くそ……化け物どもがぁあぁあああ!!!」
敵意と殺意を滴るほどに帯びた男の絶叫。しかしそこには今までなかった、底知れぬ力を持つ子供たちへの恐怖の念が感じ取れた。
こいつらは何だ。得体が知れない。逃げられない。殺せない。ーーいや、殺されてしまう!
驚愕と恐怖に絡め取られたその声は、聞きようによっては悲鳴とも受け取れた。
眼帯男は叫び散らしながら、手に持った鉄鞭を思い切り振り上げ、少女に襲いかかった。狼はまだ気絶した鳥男に跨がる形で態勢を戻しきれていない。
まったく驚くべき速さだった。狼の脇をすり抜け、左足を踏み込み、腰を限界まで右に捻って、右手に握った鉄の鞭が放たれるまで、3秒もなかっただろう。火事場の馬鹿力というヤツか。
しかし、少女はあくまで冷静だった。おもむろにポケットに突っ込んでいた手を取り出すと、腕を伸ばして襲い来る鉄鞭の方に手のひらを差し向ける。
「私に「モノ」で攻撃するなんて、」
少女の指先が縄にふれる。と――鋭くしなって少女を襲おうとしていた鉄鞭の動きが、ぴたりと、完全に停止した。まるで少女にふれた瞬間、石になる呪いでもかけられてしまったかのように。中空で、振るわれた状態そのままに固まる様は、まさに「停止」と形容するしかない光景だった。
「ちょっと正気じゃないね」
個性、ちゃんと調べたの? 少女はそう言うと、にこりと人好きのする微笑を浮かべた。爽やかな、いっそ慈悲深さすら感じる笑みだった。
そこからの反撃はまさに電光石火だった。彼女にふれられた鉄鞭は、停止状態から不意にふわりと上空へ浮き上がった。妖精の粉を振りかけられたウェンディ達のような軽やかさで鞭は上昇し続け、ついには持ち手の部分が眼帯男の手からすっぽ抜けた。
「はっ?」
手をすり抜けて飛んでいく己の得物を眺め、男は素っ頓狂な声をあげる。と、瞬間、鞭の縄先がびゅるりと音を立て動いた。その先は少女ではなく――眼帯男だ。
鞭はまるで意思を持つ動物にでもなったかのように、実になめらかに動いた。縄先でびしりと男の右こめかみを殴りつけると、返す手で左頬を叩き払う。一切の迷いも容赦もないその攻撃は、まるで獰猛な蛇が己の獲物を追いつめているかのようだった。
こめかみと頬に打撃を受け、一瞬で二方向に頭部を吹き飛ばされた眼帯男は、声も出せずによたよたとたたらを踏んだ。それでも何とか持ち直し、両手を突き出すようにして防御の体勢をとる。
出久は男の、両手の甲から肘にかけてを包んでいた籠手のような防具が、瞬時に鉛色に染め抜かれるのを見た。おそらく「硬化」の個性を発動したのだろう。男はまだ諦めていない。血走った目を爛々と輝かせ、確実に迎撃するつもりでいる。
それでも少女の表情はちらとも変わらなかった。トレーナーのポケットからもう片方の手を取り出すと、指先をくるくると回し中空に螺旋を描く。するとその動きを真似るようにして、鞭がものすごい速さで眼帯男の周りを回り、両腕ごと男の上半身を縛り付けたのだ。頑丈な鉄鞭にめちゃくちゃに絡みつかれた眼帯男は、防御のために両腕を突き出した格好のまま身動きがとれなくなった。鉄鞭は確固たる意思を持ってその場にとどまっているため、絡みつかれたまま退くこともできない。自由な下半身をむやみにばたつかせたせいで、足が踊り、バランスを崩した。そのまま為す術もなく転倒する。
後頭部を激しく打ち付けた眼帯男を無表情に睥睨し、少女は空を向いたままの人差し指を素早く左から右へと振った。瞬間、男を縛りなお余っていた鉄鞭の先がびしりと男の頬を打ち据える。先ほどの攻撃より、格段に鋭く重い一撃だった。
「ぐうぇっ! あ……」
鞭の打ち据えた方向に頭を跳ね飛ばされ、眼帯男の咥内から勢いよく血が飛び散った。全身から力が抜け、腕が未だ宙に浮いている鉄鞭に吊られたようになる。白目をむいているのを見ると、もう起きあがってきそうにはない。完全に気絶したようだ。
それを見届けてようやく、少女は腕をおろして息をついた。恐怖や緊張から解放されたという感じではない、一仕事終えたと言わんばかりの安堵の感が、その獣を思わせる顔ににじみ出る。
昨日に引き続き、ヒロアカ夢更新です~。
例によって中々筆が進まず、書き溜めはかなりしてあるのですがその先の話をうまく前に進められません。小説って難しい。
しかし長編を冒頭だけ書いて満足するのそろそろ終わりにしたいなとは思っているので……諦めないぞ……(遠い目