血まみれヒーローと黒の少年   作:べにこ

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第7章・獣の住処⑧

 出久がそう思ったところで、今まで何の言及も素振りもしなかった少女がじとりとした目で少年を睨めつけた。

 

 

「ちょっと、いつまで全裸でいるつもり? 戻ったらすぐに服着ろっていつも言ってるでしょ」

「服? あー、【家】に忘れちった」

「また? 何回忘れたら気が済むのよ、今日出る前にも言ったのに……ていうか、服ないなら人間に戻らないで。恥ずかしい」

「へいへい、わーってるって。おめーもしつこいよな、桜」

「誰のせいよ」

 

 

 少年のいかにもめんどくさそうな返事に、はあ、と呆れてため息をつく少女。だが彼女のそのような態度は、当の少年には全く響いていないようだ。

 

 

「いつも通り、このまま交番まで持ってく感じでいいよな?」

「……いいけど、その姿で持って行かないでよ」

「いやいやいや、さすがの俺もそこはわきまえてんよ? この状態でこいつら引きずってったら捕まるの確実に俺じゃん?」

「このまま全裸でいる癖ついたら、あんたきっとそのまま人前に出るようになるよ。きっとっていうか、確実に。絶対に。100%」

「おい! 予言すんのやめろ!」

 

 

 二人の掛け合いは何とも軽妙で、端から聞いていてもお互い気の置けない関係であることがひしひしと感じられた。それによくよく見ればこの二人、顔立ちがよく似ている。獣を思わせるアーモンド形の瞳なんか、特にそっくりだ。髪と目の色も同じだし、兄妹なのだろうか。

 

 

 目前の危機が去ったせいだろうか、そうして暢気なことを考えていると、不意に少年の目がきろりとこちらを向いた。ばっちり目があったその瞬間、少年が「うっわ!!」と大声を上げて飛びすさる。その野性的な素早い身のこなしは、狼のそれを彷彿とさせた。

 

 

「びっっっくりした!! え!? 何!? 誰!? 不審者!?」

「いや、どう見てもあんたの方が不審者でしょ。真っ裸だし」

 

 

 出久がここにいることを全く認識していなかったのだろう、ひどく動揺し警戒する少年に対し、少女はいたって冷静だ。ゆったりと腕を組んでさえいる。

 

 

「いやいやいやいやそういう問題じゃねーだろ!? え? 誰? 何でいんの? つかその制服、雄英?」

 

 

 何かに思い当たったらしい少年は、獣のような目をまん丸くして、人差し指で出久をズビシッと指さした。

 

 

「ってことは、お前がウワサの秘蔵っ子かよ!? オールマイトの!!」

 

 

 大声で指摘され、どきりと心臓が喉元まで跳ね上がった。個性を使ってもいないのに、初対面で出久をオールマイトと結びつける人間はまずいない。まして、秘蔵っ子だなんて。

 

 

 確信した。彼らは出久の秘密を知っている。翔と同じだ。少女が、翼、と少年の名前らしきものを呼ぶ。

 

 

「あっちもそろそろ終わる。彼のことは翔が来てからにしよう」

 

 

 言いながらきろりと睨まれ、肩口に怖気が走る。どうしよう、逃げた方がいい? 翔の正体を見極めたくてここまで来た、それは間違いないが、その決意に危うくヒビが入りそうなほど恐ろしい目だったのだ。それに、翔のことをひとまずは信じることにしたとはいえ、彼が敵である可能性だって完全にないわけではない。

 

 

 翔を知っているふうの、この二人こそ、恐ろしい敵であるという可能性は? そうだ、彼らは路地裏とはいえ、私有地ではないところで躊躇いなく個性を使ってみせた。許可された場所以外での個性使用は禁止、戦闘のためとなれば尚更だ。見つかれば法律で罰せられる行為を一切の躊躇なくやってのけ、凶悪な敵をいとも簡単に叩きのめしてしまえる人間が、本当に「善良な市民」と言えるだろうか?

 

 

 しかしそれに気づいたところで、出久にはどうすることもできなかった。ひとたび使えば身体が粉々になる超リスキーな個性で、いったいどれだけのことができるというのだろう。この二人の戦闘の熟達ぶりからして、まず間違いなく無事で逃げ切ることはできないだろうに。

 




一日空いてしまいましたが、今日も何とか更新できました。
ストックはたっぷり溜まっているので、更新する気力さえあればけっこう頻繁に更新できると思います…気力さえあれば…。

前に書いたかも知れませんが、この謎の少年と少女は翔と同様「黒子のバスケ」で最初に考えていた夢主たちを流用してきたものです。
その後「刀剣乱舞」を経てヒロアカ界に登場しました。
これからの話の中心となっていく、とても思い入れのあるキャラクターです。彼らの道程を末永く見守っていただけると嬉しいです。
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