血まみれヒーローと黒の少年   作:べにこ

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第7章・獣の住処⑩

「一ノ瀬くん……」

 

 

 名前を呼んでどうする。聞くんだ。ほら。疑問。疑問なら山ほどある。この少女と少年は誰? この敵たちは? 君たちを狙ってるの? だとしたらどういう目的で? さっきの少年は、太陽くんはどこ? どうしてこそこそと隠れるような真似を? 実に奇妙なこの状況にして、分からないことは星の数ほどある。けれどそのどれもここで聞くには場違いのような気がして、口から出る前に喉の奥で溶けてなくなってしまう。

 

 

 とどのつまりは、聞く勇気が出なかったのだ。ここまで追いかけてきておいて何とも間抜けな話だが、このような衝撃的な形で現実を突きつけられ、怖じ気づいてしまったのだ。翔はただの高校生ではない。少なくともこうして徒党を組み、害意を持っているとは言え生身の人間を攻撃した。気絶するほどに容赦なく、あまりに熟達した戦いぶりで。

 

 

 改めて、出久は恐怖を感じていた。少しは覚悟できていたはずなのに、現実はその何百倍も生々しく出久の胸を穿ち、全身をすくみ上がらせている。

 

 

「あの……個性、使って良いの? ここ、許可されてるわけじゃない……よね?」

 

 

 結局口をついて出てきたのは、核心をつくようでつかない曖昧な質問だった。言葉の端々から自分の臆病さや保身ぶりが透けて見えるようで、質問した傍から嫌悪感がこみ上げてくる。

 

 

 翔の方もそのような質問は予想外だったようで、赤い瞳孔をきゅっと細めた。静かに息をつくと、首もとに手を突っ込み、シャツの中から何かを引っ張り出す。出てきたのは、ビニールカバーが取り付けられた名刺大のカードだった。カバーの上部に紐が通してあって、首から提げる形になっている。

 

 

「個性使用許可証。俺は……というか俺たちは、自衛目的に限り公道および無許可私有地での個性使用を許されてる」

「こせいしよう、きょかしょう」

 

 

 出久は幼子のように翔の言葉を繰り返した。個性使用許可証。ここからでは遠くて読みづらいが、確かに翔が掲げているカードにはそのような文字が印刷されている。知らない単語ではない。出久を含む雄英ヒーロー科の生徒達が、2年時に受ける仮免試験に合格した際に取得できるヒーローの「仮免許」も、そういう類のものだったはずだ。

 

 

 だが翔が持っている許可証は当然、仮免許などではないだろう。彼は自衛目的に限り、とも言った。いったいどういう意味なのか。

 翔は下を向いたまま、ちらりと盗み見るように出久を見た。彼も出久に勝るとも劣らず気まずさを感じているようだ。

 

 

「緑谷は、何で……」

「知りたかったんでしょ?」

 

 

 また少女が翔の発言に被せるように言った。このままでは話が進展しないと痺れを切らしたのかも知れない。

 

 

「不安も疑いもこのままにはしておけないから、自分から行動に出た。そんなとこでしょ? なかなかアクティブだよね。見た目は地味なのに」

 

 

 軽口のように言われ、「え、や、その」と馬鹿みたいな反応しかできない。図星だ。

 

 

「お呼び立てする前に、あっちから先に来てくれた。難しく考える必要はないんじゃないの、翔」

 

 

 少女は翔のいる方に首を傾けて言う。翔はそれには答えず、眉根を寄せた表情のまま乗りかかっている筋肉男の胸から地面に降りた。

 




この少年と少女の性格や、翔との関係性を台詞や仕草でそれとな~く伝えたいのですが、なかなか難しいですね(˘ω˘)
とりあえず続きが気になってもらえるように自分が読者になったつもりで書いていきます。
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