「おい、待てよ。こんな急に……ってか、凪人に何も話してねーじゃん。こいつが信じられるヤツかどうかもわかんねーし。いきなりはさすがにまずいって」
神妙に考えている様子の翔に、少年が咎めるように言った。どうやら少女は翔に何かを促していて、少年はそれに反対しているようだ。
「翔の好きにすればいい。あなたがやめとくと言えばやめるし、連れて行くというのならそうする。私はあなたの判断に従う」
少女は唄うように言った。彼女の金の瞳が、何か強い情念を宿して濡れたように輝きながら翔を見つめていた。恋慕などと言うには清廉すぎるその眼差しを、どう形容すればいいのだろう。崇拝、或いは、盲信か。
「おい、無責任なこと言うなよ桜! それだからコイツが……」
「来てもらおう」
少年の反論を制するようにして翔が言った。
「これ以上疑わせたまま、不安にさせたままにしとくのは……申し訳ない。大丈夫、凪人とは話をつけてる」
強く、自らに言い聞かせるような声。翔の視線はもう下がってはいなかった。苦しそうにしながら、それでもまっすぐに顔を上げて出久を見ている。鮮やかな赤の瞳に灯る真摯さに、出久も自然顔を上げていた。
「ごめん。翼」
翔は傍らに立つ少年に目を向け、顔を歪めるようにして笑った。いつも困らせている相手に、例のごとく迷惑をかけるときに浮かべる、申し訳ないというような、何かを誤魔化そうとするような笑みだった。
「謝んなって、お前。ほんとにさ、もう……」
少年はやりきれない様子で、ぐしゃぐしゃと豊かな金の髪を手でひっかき回した。
「いーよ。どうせお前はいつも自分で決めちまうんだから。俺らが止めたって意味なんかねえんだろ」
拗ねたようにそっぽを向いた少年に、呆れた様子で少女が言う。
「何よ、心配だから勝手なことするなって素直に言えばいいじゃない」
「だっ、なっ、ちょっ……そういう意味じゃねーよ! 変なこと言うな桜!」
少年の慌てふためいた顔に、みるみるうちに朱がさしていく。図星をさされたのが丸わかりだ。こんな状況でなければ――ここが3人の屈強な敵が気絶してごろごろと転がっている路地裏でなくて、さらに彼が全裸でなければ――、微笑ましいとすら思っていたかも知れない。
少年が反論してこないのをみとめ、改めて翔が出久を見据えた。
「ごめん、緑谷。疑ってたんだよな、俺が敵なんじゃないかって。実を言うと、あの時はカマをかけたんだ。お前がワン・フォー・オールの次の継承者だって確証が、こっちにはなかったから……でも、もっとうまいカマのかけ方はあったよな。あんなド直球で核心つかれて、不安にならないわけないよな。危険な目にも遭わせて。本当にごめん」
自嘲するような笑みを浮かべられ、出久は反応に困った。何しろ出久自身、翔に必要以上に関わるなとオールマイトに忠告されていたわけで、これは完全に自分の独断専行だ。まさか謝られるような展開になるとは思いも寄らなかった。
「いや、その、僕は……」
何と返したらいいものか。「いいよ」と言うのも違うし、「気にしないで」と言うのもおかしいような? 返答に窮して慌てる出久を見て、翔の笑みがほんの少し柔らかくなる。
「でも、俺が、俺たちがどうしてワン・フォー・オールの秘密を知ったのかって話になると、ちょっとややこしくて。いや……ややこしいんじゃないな。怖いんだ。単純に。知られるのが怖くて、覚悟が……何しろ、信じてもらえるかどうかも分からないような話だから」
怖い。
彼の放ったその言葉が耳を伝い、心臓にぴたりと吸いつくような感覚を出久は得た。怖い。圧倒的な戦闘力を持つにも関わらず、それが彼の、彼らの何か深い部分を物語っている気がした。
「でも、これだけははっきり言っておくよ。俺は敵じゃない。ここにいる二人もだ……ここでのびてる敵たちについても、後で説明する」
翔はゆっくりと、言い含めるような調子で言った。その眼差しは視線を交わらせたが最後、二度と目をそらせなくなりそうなほど真剣だ。出久は彼の頬に、小さな赤い斑点が散っているのに気づいた。血。怪我ではない。おそらく先ほどの筋肉男の返り血だ。
どうしてだろう。そうした容赦ない暴力の跡を伺わせて尚、彼の瞳の明るさが一分も曇らないのは。
「話すよ。今話しておけることは、全部。疑わせておいて虫の良い話だけど、ひとまず信じて付いてきてくれないか? 俺たちの「家」に」
やっと第7章終わりました~!!
しかし長かったですね。次からはもう少し1話分の文量を増やしたほうが良いかな。
(作品は基本メモ帳やWordで執筆して投稿サイトにコピペしているので、いちおう文量の調整はできるのです)
さて、次回からは新章となります。
さらにとんでもない量のオリジナルキャラが登場しますのでお楽しみに!(笑