血まみれヒーローと黒の少年   作:べにこ

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第8章・アザミの家②

「着いたよ」

 

 

 桜が言った。路地裏を抜け、雄英の校舎を遙か後方に見ながら坂を下り、繁華街を抜けたその先。古びた家や灰色がかったビルが居並ぶ下町の一画に、それはあった。

 

 

 白い壁を纏った、平屋建ての建物。いかにも何かの施設といった風体のそれを、出久の身長の倍はありそうな高い塀がぐるりと取り囲んでいる。正面は黒塗りの門扉が取り付けられていて、その間から中の様子が少しだけ見える。門の手前には赤、青、黄色と様々な色に塗られたタイルの道が横断していて、その先はひらけた土地になっていた。タイヤを半分に割って地面に埋め込んだものがいくつか、ブランコやすべり台、うんていも見える。間違いない、子どもの遊具だ。こじんまりとした遊具が設けられた遊び場を、コの字型に取り囲むようにして白い建物が建っているのだ。

 

 

 ここが翔の言う「家」なのか。自身が抱いている「家」に対するイメージとはあまりにかけ離れていて、出久は訝しみながら尋ねた。

 

 

「ここは…?」

「孤児院だよ。俺たちの家」

 

 

 翔がうたうように言った。孤児院。そこでぴたりと思考が停止した。さまよった視線が門扉の傍の塀に取り付けられた白い館名板を捉える。そこには黒い文字でこう書いてあった。

 

 

【特別養護施設 アザミの家】

 

 

「俺にはもう、血の繋がった家族はいない。身寄りも。だからここで暮らしてるんだ。桜と翼も同じだよ」

 

 

 家族がない。身寄りがない。出久はそれらの言葉を飲み込むのにしばらくの時間を要した。言葉の意味は分かるのに、彼のイメージがそれらとかけ離れてすぎていて両者をうまく結びつけられなかったからだ。

 

 

「でもさっき、一ノ瀬くん、いとこって…」

「…ごめん。あれは嘘」

 

 

 出久の指摘に、翔は苦笑混じりに答えた。さっき太陽のことを1ーAの皆に紹介した時と同じ、痛みや申し訳なさを無理矢理飲み下して苦しんでいるような表情。出久が直感した通り、彼は嘘をついていたのだ。

 

 

「太陽とは血は繋がってない。でも、家族なのは本当だよ。ここにいる皆は全員家族だ」

 

 

 翔は門扉に向かって軽く両腕を広げながら言った。彼の言葉には力がこもっていて、そこに嘘が含まれているようには聞こえなかった。

 

 

 と、建物の内側から門扉の隙間を覗く人影が目に入った。いつからいたのだろう。両手を握り合わせてそわそわしている。

 

 

「翔にぃ、翼にぃ、桜ねぇ!」

 矢も盾もたまらず、というふうに人影が叫んだ。聞き覚えのある声。すぐにわかった。さっきの「太陽」という名前の少年だ。

 

 

「太陽!」

 

 

 翔も駆け寄った。門扉の隙間から伸ばされる手をしっかりと掴み、呼びかける。

 

 

「大丈夫だったか?」

「うん」

 

 

 人影ーーもとい太陽は頷いた。どうやら彼は1-Aのクラスメートたちと別れた後、すぐにここに避難したようだった。

 

 

「けが…」

「今日は大丈夫。してないよ。ごめんな心配かけて」

 

 

 翔が握り返した手は小刻みに震えていた。心配していたのだろう。とても優しい子・・・いや、優しい人だ。

 

 

「あと、呼びに来てくれてありがとな。連絡係初めてだったろ? すごく助かったよ」

「! うん…!」

 

 

 翔の言葉に、太陽はたまらなく嬉しそうにコクコクと頷いた。連絡係。太陽はその任務をまっとうするためにわざわざ雄英に来たのか。ということは、さっきの敵との戦闘のようなことがたびたびあるということだろうか。

 

 

 翔は太陽から離れると、門扉に備え付けられたインターホンに歩み寄り、ボタンを押しながら声をかけた。

 

 

「帰ったよ。開けて」

 

 

 返事はなかったが、程なくしてガチャン、と門扉が開錠される重苦しい音がした。両側とも全く同じスピードで開いていく扉。内側にいる太陽ではなく、他の誰かが遠隔操作で開けたようだ。

 

 

 門扉の内側には、やはり太陽がいた。先ほどとまったく同じ服装で、子どものように身を縮こまらせて立っている。太陽は出久を見ると驚いたように肩をびくつかせ、すぐに踵を返した。あんなに身体が大きいのに、何て速さだろう。脱兎のごとく駆け出し、数秒後には建物の玄関口に逃げ込んで消えてしまった。

 

 

「気にしないで。知らない人には大体ああいう態度なんだ」

 

 

 翔が苦笑しながら言った。

 

 





大変お久しぶりです。名前を一時期変えていましたが、投稿初期に用いていた名前に戻しました。紅玉です。
最新の投稿が2021年。あれから自分を取り巻く環境が大きく変わり、生活が目まぐるしく変化する中でもちまちま夢小説を書き進めていました。ハーメルンを始め夢小説を投稿しているサイトもたまに覗いて、未だにブックマークをつけてくださる方がいる事実に申し訳ないような嬉しいような気持ちになっておりました。

現在放映中のhrakアニメの最終クール。正直まだ観れていないのですが、私の頭の中にいるキャラ達とhrakの世界を書き続けたいという気持ちはまだ消えていません。自分自身変化の中にいて正直どこまで書き続けられるかは分かりませんが、とりあえず書けているところまで定期的に投稿していこうと思います。またしばしお付き合いくださると嬉しいです。
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