血まみれヒーローと黒の少年   作:べにこ

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第8章・アザミの家④

 

 それから数分。部屋から翔が出てくる気配はない。院長室と言うからにはこの施設の責任者のような人と話しているのだと予想はつくが、それらしい会話の声は聞こえてこない。扉にぴったりと耳をくっつければ聞こえるのかも知れないが、そんな盗み聞きのようなことはさすがにしたくない。出久は扉をやや斜め前に見ながらぼうっと突っ立っているしかなかった。

 

 人の気配はない。孤児院と言うくらいだから子どももいるのだろうが、声すら聞こえずひっそりとした沈黙だけが辺りを覆っている。さっき逃げていった太陽はどこへ行ってしまったのだろうか。

 

 何とはなしに後ろを振り返ってみる。この場所は後ろの壁に大きなガラス窓があって、そこから建物に囲まれた中庭が隅々まで見下ろせるようになっていた。さっき正面から見たときは奥まったところにあってよく見えなかった遊具などもしっかり見えて、知らず窓の方に身体が寄っていく。

 

(あ、ジャングルジム。懐かしいなあ……)

 

 個性もなくのろまな出久は、家の近くの公園でもヒエラルキーは最低辺だった。人気の遊具は軒並み勝己以下ヒエラルキー上位の子どもたちに奪われ、砂場の一画を間借りして砂いじりをしたり、人気のない鉄棒に意味もなくぶら下がったりするのが日常だったのだ。門限間際、他の子どもたちが帰っていくのを見はからって、少しの間だけ誰もいなくなったブランコやジャングルジムで遊んだのを思い出す。

 

 そこでふと気づいた。ブランコの傍に何人か人がいる。そのうちの二人はさっき別れた桜と翼だ。翼は人間の姿に戻っていて、きちんと服も着ている。二人とも、なぜかとても楽しそうだ。時々笑い声も聞こえてくる。

 

 そしてーーぎょっとした。桜と翼以外の人間、4人くらいだろうか。全員もれなくバイクのライダーのようなフルフェイスのヘルメットをかぶっている。色は赤、青、緑、オレンジとまちまちでまるで戦隊もののアクターのようだ。皆高身長で、遠くから見ても180cmは確実に超えているだろうことがわかる。女性の中ではかなり高身長な桜が小さな子どものように見えてしまうほどだ。服装はまちまちで、すらりとした体躯の者が多いが皆筋肉質に見える。全員成人男性だろう。

 

 フルフェイスの怪しい男たちと、ティーンエイジャーの兄妹ふたり。端から見れば異様な光景だが、彼ら自身は仲良く談笑しているだけのように見えた。時折肩をたたき合ったり小突き合ったりして、気の置けない仲であることが伺える。誰なのだろう……駄目だ。想像もつかない。

 

「誰だろう、あれ……」

 

 思わず呟いたときだった。窓をのぞき込んでいる出久から見て右手、先ほど翔と出久が歩いてきた廊下の方から、ちらちらとこちらの様子を伺う人間に気づいた。広間の壁に沿って、頭が縦にいくつも並んでいる。

 

 出久は危うく上げそうになった悲鳴を必死に飲み下した。いったいいつから?

 

「あれが?」

「あれだ」

「冗談だろ。あの弱っちそうなのが継承者?」

「翔が連れてきたんだから、間違いないだろうね」

「まじかよ。なんつーか、度肝抜かれるくらいフツーだな」

「兄さん、人を見た目で判断しちゃ駄目だよ……オールマイトが選んだんだから、何かそれなりに理由があるんだよ」

「へッ。だとしたら相当妙ちくりんな価値観の持ち主なんだろーな、No.1ヒーロー様ってのは」

「明。言い過ぎ」

「地味! 地味!」

「陸だめだよ大声出しちゃ。聞こえちゃうよ」

「いやもう聞こえてるっぽいけどね……」

 

 ひそひそ声で話してはいるが、なるほど確かに筒抜けだ。距離もそんなに空いていないし。まったく内緒になっていない内緒話をしていたその頭たちは、出久の視線に気づくと一様に「おっ」「やべっ」などと声を上げた。すぐさま頭を引っ込める者もいれば、そのままじっと見つめてくる者もいる。

 

 どうしよう……どう反応したものか。出久が必死に考えていると、頭のうちの1つがすっくと立ち上がった。この距離から見てもどきりとするほど背が高い。おそらく190cm以上はある。

 

 ひょろりと細い枯れ木のような体躯のその人は、青白い顔で微笑みながら出久を手招きした。

 

「おいで。翔は少し時間がかかるだろうから、その間俺たちと話をしよう」

 

 





お疲れ様です。
ヒロアカ原作沿い夢、本日分更新しました。

ちまちまな文量で申し訳ありません。
できればあまり最新の方に追いつきたくはない……後から書き直す可能性大なので。
原作の設定とか追わないといけないと、中々作品完成させるのは難しいですよねぇ。
まああまり気負わず、気長に書くことにします。

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