血まみれヒーローと黒の少年   作:べにこ

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第8章・アザミの家⑤

 

 ーー出久がおっかなびっくり寄っていくと、何故かそのまま怒濤の自己紹介タイムが始まった。

 

「俺は西荻潤。潤でいいよ。よろしくね」

 

 先ほど出久を手招きした、ひょろ長い少年がそう名乗って手を差し出した。

 

 ぺったりとした癖のない黒髪は長めで、襟足くらいまである。前髪も長く、邪魔になるのか赤いピンでこめかみあたりに留めていた。眉はやや太く悲しげで、憂いを帯びた瞳は暗い紫色をしている。全体的に青白く痩せこけていて、今にも意識を失って倒れてしまいそうな頼りなさがあった。Tシャツにジーンズ。そしてなぜか、片手に2リットルのペットボトルをぶら下げている。ペットボトルには水らしき透明な液体が半分くらい入っていた。

 

「ゆ、雄英高校1年の、み、緑谷出久です……よろしく」

 

 どうしよう。どう反応するのが正解なのか。名乗られたので、出久もとりあえず自己紹介して差し出された手を握り返した。

 

 するとそのひょろ長い少年の横から、また別の顔がひょこりと顔を出す。

 

「潤兄さ、自己紹介簡潔すぎ! そんなんじゃ「継承者」くんもリアクション困るっしょ」

「そうかな」

「そうだよ」

 

 ひょろ長い少年ーーもとい潤とは打って変わって、こちらの少年ははきはきとして快活そうだ。身体を横に滑らせ潤の背中から躍り出ると、何やら変な決めポーズをして自己紹介を始めた。

 

「んじゃ改めて。俺は北里明。明でいいぜ! 歳は16! 今年で17!」

 

 びしっとこちらに向けられたピースサインの形をした手に、出久はただ目をみはるしかない。何とも勢いのある人だ。テンションがA組の上鳴なみに高い。

 

 少年は出久と同じくらいの身長で、身幅もほぼ同じ。癖のないまっすぐな黒髪はほどよい長さで、A組のクラスメートの轟とちょうど同じような髪型だ。目はまん丸としていて大きく、果実のような鮮やかな青色の瞳がとても印象的である。

 

 しかしそれよりも、左の額から鼻筋、頬、顎にかけてギザギザに走る黒い傷跡が、とんでもなく目を引いた。皮膚そのものが腐り落ちて黒く染み着いてしまったようなその傷は、左目の虹彩の白さや瞳孔の青さをさらに際だたせ、独特の醜さと美しさとを同時に醸し出していた。

 

 それだけではない。黒い傷は少年のシャツの袖から見え隠れする手首にも走っていてーーそこで出久は思わず肩をびくつかせた。彼の指。よくよく見ると、1、2、3、4、5・・・6本ある。両手ともだ。小指の隣ににょきりと生えた、さらに小さな指。飾りなどではなく、ちゃんと少年の意思に従うように動いている。

 

 ……何故6本も? それに、顔や手首に走っているあの黒い傷はいったい? 言及するのもおそろしく、出久は自己紹介を返すのも忘れたまま生唾を飲み下した。そんな彼の様子を見て、少年がにやりと悪い笑みを浮かべる。

 

「あ、今気味悪ぃと思っただろ~。俺も思う! 指が6本とか、見ただけでちょっとビビるよな!」

 

 少年は出久の奇異な視線などものともせず、6本の指を胸の前で広げてばらばらに動かしてみせた。自虐なのか何なのか分からず、出久は曖昧に笑うしかない。

 

「皆この施設に住んでる孤児なんだ。翔と同じ境遇。実の兄弟で血が繋がってるヤツも多いけど、身寄りがないのは同じだな。学校は飛影学園ってとこに通ってんだけど、知ってる?」

 

 そこでようやく出久は彼らの素性を知ることができた。孤児。翔と同じ境遇。「ここにいる皆は全員家族だ」という翔の言葉が脳裏に呼び起こされる。

 

「し、知ってます……確か、政府の要人護衛をするSPとか、警察や自衛隊の特殊部隊とか、事務所を持たずに政府の組織に属して戦う「特務ヒーロー」を養成する学校ですよね?」

「そうそう! めっちゃ知ってんじゃん! さては君オタクだな?」

 

 快活な少年、もとい明は、おどけたように両手の人差し指(と6本指の彼に言って良いのか分からないが、とにかく普通は人差し指にあたるであろう指)をびしっと出久に向けてみせた。やっぱりテンションが高い。付いていけない……。

 

 




本日分、更新です。
本日分とか言いつつ、毎日は更新できていない現実。
ハーメルンは他のサイトに比べて公開部分が一番遅いのですが、それでも更新頻度は考えないといけないな〜と思ってます。
このままだといつか最新部分に追いついてしまうので…。
自分の遅筆さにはどこまでも苦しめられるばかりです。
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