出久の不安もつゆ知らず、明は腰に手を当て、実に快活ににぱりと笑った。
「はは。まーはっきり言わしてもらえば滅茶苦茶地味だな! こんなのが日本の将来背負ってくのか~不安だな~って感じ!」
ずしん!と重い石が背中にのしかかってくるような感覚を出久は覚えた。地味・・・こんなの・・・不安・・・。明が放った言葉はおそろしいほど的を得ていて、つまりは図星だった。自分はワン・フォー・オールの力をろくに使いこなせていない。肉体的にまだ器ができていないのはオールマイトにも言われたことだ。ただ改めて他人からそれを突きつけられると・・・自覚しているはずなのに落ち込んでしまう。
「冗談だって!んな落ち込むなよ~」
ショックを受けて表情を固まらせている出久に、明は悪びれもせずその落ちた肩に腕を回して上下に揺さぶってみせた。まるで長年の親友に接するかのような態度だ。
と、そのおどけた表情が急に消え、品定めをするような透徹した目つきに変わった。皮膚も肉も、その裏に隠された脳髄すら見透かそうとするような大きな瞳に、出久はたじろぐ。
「・・・でもこうして見ると、何となく分かるよ、何できみが選ばれたのか。きみは「表」の人間って感じがする。地獄を見たことがないからこそ地獄に飛び込めるタイプの人間だな。オールマイトが選んだのも頷ける」
オールマイトは妙な価値観云々ってのは訂正させてもらうよ。そう言って明は笑った。何かとても面白いおもちゃを見つけたような、心から楽しそうな表情だった。
「ほら次ー。誰か自己紹介しろ」
明は出久の肩から手を離すと、そう言って次を促した。途端、目の前に飛び出してきたのは紺色のジャージを着た少年だ。柔らかそうな金の髪がぴょんぴょんと跳ねている。女の子のように大きな瞳は鮮やかな紫色で、肌はひどく白い。体格も華奢で、ともすると本当に女の子に見間違えられそうな外見だ。
少年はそのくりくりとした瞳を出久に向け、にぱぁっと大口を開けて笑った。
「ひゃっははー! 陸! 陸! 陸だよ! 西荻陸! 潤兄のおとうと! 諒のにいちゃん! よろしくネ! よろしくしてネ!」
両足をそろえぴょんぴょんと跳ね回る少年の奇怪な動きに、出久は危うく2、3歩後ずさりしそうになった。振り切った動きといい、ピエロのような狂気を感じる笑顔といい、人間として大切な何かのリミッターが完全に壊れてしまっているのが、初対面にも関わらず容易に感じ取れたからだ。
「ねえねえねえねえ、みどりくんって呼んでいい? みどりやなんでしょ? みどりくんってね、超カッコ良くない? あだ名! やばい! やばい? いいよね? いいでしょ?」
おそろしいほどの早口でそうまくし立てると、少年はひときわ高く飛び跳ね、出久のすぐ前に勢いよく着地した。きらきらした紫色の瞳が一心にこちらを見つめてきて、出久は言葉が出ない。あまりの勢いに、何を言われたのか理解も追いつかない。
と、出久の返事がないことを訝しく思ったのか、その満面の笑顔に急に陰りが差した。輝いていた瞳はみるみる焦点を失い、口が悲しそうにへの字を描いてわななく。その変わり様は、まるでお面か何かを取り替えたように突然で一瞬だった。
「だめなの? だめ? おれ一生懸命考えたのに。だめなの? 何で? 何で? おれがバカだから? 何もできないから? いつもだめって言われる。だめって。ごめんなさい? 違う。ごめんなさい。違う。ひどいよ、そうだ、ひどい、ひどいひどいひどいひどいーー」
大きな瞳を涙ぐませ、譫言を呟いて今にも泣き叫びそうになった少年を、咄嗟に止めたのは潤だった。流れるように少年の背後に立ち、慣れた手つきでその目と額を大きな手で覆い隠す。
「陸。落ち着け」
「りーく。だめなんて一言も言ってないだろー?」
潤の静かな声と、明のおどけたような、しかし優しさの滲んだ声に、少年は一気に緊張を解いた。肩からみるみる力が抜け、譫言を垂れ流していた口からほぅ、と安心したようなため息を漏らす。
潤は背後から少年を抱き込むようにしながら、出久を見た。明も何かを促すように顎をしゃくりながら視線を送ってくる。出久は混乱しながらも、先ほど少年がまくし立てた言葉を必死に思い出した。確か、あだ名がどうとか言ってなかったか。みどりくん、とか何とか。
「い、いいよ。みどりくんで」
出久は掠れた声でようやくそれだけ言った。語尾が震えてしまったのは偶然か、それともこの明らかに情緒不安定な少年に恐れをなしているからか。
少年ーーもとい陸は、出久の言葉を聞くやいなやすぐさま顔を上げ、目を覆っていた潤の手を豪快に引きはがした。その下から再び現れ出た瞳は、まるで光を浴びるアメジストのようにきらきらと輝いていた。
「ほんと? ほんとに? いいの? いいよね? やったぁ!! じゃあみどりくんで決定ね!」
「うぶっ」
先ほど泣き叫びそうになっていたのは幻だったのかと言うほどご機嫌になった陸は、びょんびょん飛び跳ねながら出久に抱きついた。それはほとんどタックルのような力強さで、突如首から背中にかけて襲った衝撃に出久は思わず呻き声を上げた。入学試験合格のためにオールマイトに鍛え上げてもらった筋肉がなければ、筋でも引いていたかも知れない。
本日分更新です。今日更新できるとは思わなかった。
ちまちま書き進めていますが楽しいです。正直私が生きているまでに完結できそうな気がしないけど(やめて
一応全員どのような結末をたどるかは考えているので、早いところ書いてしまいたいものです。