演習場いっぱいに響きわたるような大声で勝己が吠える。体を前傾姿勢にして叫ぶ姿はさながら血の気に溢れた獣のようだ。ごうごうと燃えさかる炎のような怒気を身に纏い、転校生へ向けて突進する。
端から見れば完全に我を忘れているように見えたが、勝己はそこまで考えなしではなかった。先ほど腕一本であしらわれたことを踏まえ、そのまま真正面から攻撃するような真似はせず数メートル手前で左の手のひらを爆発させ上方に跳躍した。そのまま不規則に両手に爆発を起こし、うまくバランスをとりながら急速に転校生に近づいていく。
そのまま頭上から来るか、それとも背後に回り込むのか、その不規則な動きからは予測がつかず迎撃するのはかなり難しそうだ。戦闘センスのずば抜けた勝己だからこそ実現できる一手だった。
だが、そんな勝己の動きを見て尚転校生はほとんど表情を崩さなかった。勝己の襲撃を受け止めるように両翼をいっぱいに広げ、やや後方に跳躍する。そのまま翼の両端を付けるようにして思い切りそらし、ばさりと一度強く羽ばたいた。その瞬間。
「うわっ!」
突如吹き荒れた突風に、出久を含めた1ーAの生徒たちは悲鳴を上げた。転校生の強靱な翼で、体が後ろに持っていかれそうなほどの風が生まれたのだ。離れたところにいた出久たちでさえそうだったのだから、それをもろに正面から受けた勝己はひとたまりもなかった。手のひらの爆発はたちまちにして消え、転校生に飛びかかろうと全身に乗せていたスピードは落ち、そのままべしゃりと腰から地上に落下した。
転校生の攻撃はそれだけでは終わらない。勝己が地上に落ちてくるや否や、ものすごいスピードで前進し距離を詰め、落下の衝撃でうずくまっている勝己の腹部に掌底を食らわせた。立て続けに攻撃を受け、勝己は反撃をしようと構える暇もなくさらに後方に吹き飛ばされた。
バガァン!!
「がはっ……!」
待ちかまえていたビルの壁に、勝己の体が音を立ててめり込む。瞬間的に呼吸ができなくなり声もなく喘ぐ勝己に、休む間もなくさらなる一手が襲いかかった。翼を軽くはばたかせ推進力を得た転校生が、身動きのとれない勝己に音もなく迫ったのだ。
両足を突き出し勝己の腹の両側あたりの壁に着地すると、そのまま上半身を大きく反らせて両腕を引いた。掌底を食らわせたときには引っ込ませていた爪がいつの間にか伸びていて、五月晴れの太陽の光を受けてぎらりと妖しく光る。合わせて十本あるそれはまるで獲物に飢えた獣の牙のように、壁にぶつかった衝撃で動けない勝己の体めがけて一直線に襲いかかった。
出久は息をのんだ。瞬間的に思ったのだ。殺される、勝己が殺されてしまう、と。
「やめ!!」
相澤の強い制止の声がなかったら、出久は間違いなく勝己を助けるために飛び出していただろう。それほどに転校生の攻撃は鋭く、気迫に満ちていたのだ。相澤が声を上げた時、転校生の黒い爪は勝己の全身をビルの壁に縫い止めるようにして突き刺さっていた。小指の爪は腰のすぐ横、薬指と中指は脇、親指は太股、そして人差し指は交差して首を固定している。少しでも身じろぎすればすれすれに突き刺さった爪の鋭い断面が体に食い込み無傷では済まなくなる、まさにぎりぎりの箇所に、転校生は的確に自らの得物を穿ったのだ。これにはさしもの勝己も身動きひとつできず、顔を思い切り歪めて歯噛みするしかなかった。
「爆豪、身動きとれないな? ……一ノ瀬の勝ちだ」
やっと決着つきました!翔の勝ちです。
まあ今回は個性お披露目回なので……翔とかっちゃんはまた組ませたいですね。今度は実力差もほとんどなくなっていると思います。