銀河英雄ガンダム   作:ラインP

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第十一話 老兵は死なず、ただ消えゆくのみ

 

ラインハルト艦隊旗艦の艦橋にて。

 

ラインハルトはちょっと早いお昼を取っていた。

 

「ラインハルト様、お昼のシャウエッセン盛り合わせです」

 

「うむ、分かってるではないか、キルヒアイス。やはりゲルマニア帝国の血を引く帝国貴族たるもの、シャウエッセンは至高。他民族の料理もいいが、やはりゲルマニア料理が一番だ。後は芋だ、蒸した芋も山程もってこい!芋とシャウエッセンこそゲルマニアの宝なのだ!」

 

「ええ、朝におせち料理など作った料理人はすでに処刑いたしました。やはり高貴なる者は高貴なる食事を取るのが一番です。食後のデザートもゲルマニア料理のアイスバインを用意しています。バニラ味とチョコレート味の2種類でございます。チョコレートはベルギー星系の最高級品です。皇帝専属のパティシエを呼びましたから味は格別ですよ」

 

「うむ、キルヒアイスはやはり気が利くなモグモグ。うむこのシャウエッセンは上物だ、皮がパリッとして中から肉汁がジュージュー出て美味い。芋もホクホクだ。熱々の料理を食べた後にヒエヒエのアイスバインをたらふく味合う。これほどの贅沢は他にはないな。自由惑星同盟ではハンバーガーとかいうパンに肉を挟んだ手抜き料理や、芋を油で揚げたりした雑な料理ばかりだと聞く。実に可哀相だとは思わないか?奴らには料理の何たるかが理解で見ないらしい」

 

「えぇ、たしかジャンクフードというらしいですよ。ゴミを食べるなんて野蛮な未開人らしいですね。ラインハルト様、このマスタードをつけても美味しいですよ、モグモグ」

 

「うむむ、ケチャップも良いが、たまにはマスタードも試してみるか。おおう、舌がヒリヒリするぞキルヒアイス。でもこの刺激がたまらんな」

 

ラインハルトとキルヒアイスが楽しげに食べているところに非常警報が鳴り響く。

 

ビービービー

 

ラインハルトは驚き、指揮官席から転がり落ち、床に叩きつけられながらも華麗に立ち上がり誰何する。

 

「何事だ!誰かいるか!状況を説明せよ!」

 

仮眠中だったのだろう、パジャマ姿の兵士が慌てて飛び込んできて状況を説明する。

 

「はっ!艦橋警備担当のイーグエッグ曹長であります!ご報告します!閣下、緊急事態です!外をご覧ください!」

 

「「なんだって!」」

 

ラインハルトとキルヒアイスは甲板から身を乗り出し、外を注視する。

 

すると地球の方向、正確には地球のそばに据えられたジャスティスが異常な状態になっているのに気づく。

 

ジャスティスには未だに100万隻の陸戦艇が接舷している。

その中からアークエンジェルだけが分離して飛び出し、銀河の彼方へ猛烈な速度で飛び去っていった。

いやそれだけではない。

 

 

「む?なんだあれは?」

 

「デストロイガンダムと量産型フリーダムですね。ひのふのみの・・・100個師団と30個師団、あとアークエンジェル級戦艦が100隻居ます。あっ彼らもアークエンジェルと一緒に銀河の中心方面に飛んでいきましたね」

 

「むむ、多いな。あれだけの数、こちらに向かってくると少し厄介だな」

 

「それよりラインハルト様!ジャスティスが膨張しています!」

 

『警告します。ジャスティス要塞は後120秒で自爆します。警告します。ジャスティス要塞は後10秒で自爆します。要塞と要塞の外1万キロはブラックホールに飲み込まれ完全に消滅します。要塞と要塞の外1万キロはブラックホールに飲み込まれ完全に消滅します。要塞内に残っている方は直ちに所定のルートから脱出ポットに避難後、脱出ポットを起動させ退避してください。脱出ポット起動の鍵はアークエンジェルのブリッジで保管しています。各班の班長は直ちにアークエンジェルのブリッジまで取りに来てください。くりかえします。ジャスティス要塞は後120秒で自爆します。ジャスティス要塞は後10秒で自爆します…』

 

 

要塞から大音量の警告音が響いてきた。

ジャスティス要塞の窓から、通路を大慌てで走り回っている両軍の兵が見える。

 

 

「なんだと!自爆だと!この艦は巻き込まれないだろうな!」

 

それを聞いたラインハルトは大慌てでイーグエッグ曹長に尋ねる。

 

「大丈夫であります!要塞とこの艦は1000万キロ離れていますので十分影響外であります!ただ、放射能の影響があるので艦内に戻ってください!」

 

「陸戦隊はどうする!今からでは間に合わんぞ」

 

「それについてもご安心を、報告に来る前に鉄壁ミュラー艦隊に救出を指示しておきました。御覧ください」

 

イーグエッグ曹長は胸を張り、悠然と仲間の救出を行うミュラー艦隊を指さしました。

 

さすが鉄壁ミュラー。

派手さはないが堅実に陸戦隊員を慌てさせず混乱もなく収容していた。

だが、それすらもマリューラミアス提督の罠である。

マリューラミアス提督が帝国軍が味方の救出をすることを計算に入れていたのだ。

その上で、要塞の時計を100秒遅れさせていた。

するとどうだろう、本来なら120秒前にタイマーがセットされている警報が100秒遅れて出されるのだ。

つまり自爆まで120秒の猶予があるように見えて、実際は20秒しかないのだ。

本来なら余裕を持って80秒で収容して安全圏まで撤退するように計画立てられ行動していたミュラー艦隊。

それがたった20秒で自爆が始まり、気づいた頃にはもうブラックホールへと飲み込まれていた。

 

 

イーグエッグ曹長が指さした先には、ちょうどブラックホールに飲み込まれながら諦めの極地で遺書を手紙にしたためているミュラー提督の通信映像が映し出されていた。

 

「閣下。お恥ずかしいところをお見せして申し訳ありません。閣下の覇道に最後までお供できずに汗顔のいたりでございます。せめてこの手紙を家族へとお渡しください」

 

「ああ、ミュラー提督。貴官の勇猛果敢な最後、確実に家族へと伝えようじゃないか。最後までよく仕えてくれた」

 

「ラインハルト様、立派になられて…。小官がおむつを変えて差し上げたのが昨日のように感じられますぞ」

 

「やめてくれ、ミュラー提督。兵が見てる。私も子供時代、よく遊んでくれた貴官が居なくなって寂しい。必ずや貴官の敵を取ることを誓おう」

 

ラインハルトは両の目から滝のような涙を流しながらも、心配をかけまいと胸を張り、ミュラーから受け取った手紙を強く握りしめる。

 

傍に控えているキルヒアイスとイーグエッグ曹長も涙を堪えながらも真っ赤になった目で、と慈愛に満ちたラインハルトと壮絶な最後を遂げようとしているミュラー提督を見つめつつ敬礼をしている。

 

「それではラインハルト様、おさらばでございます」

 

ミュラー提督は最後に最敬礼を行い、その次の瞬間、ブラックホールの超重力に引かれ、闇の中へと落ちていった。

 

 

通信が切れ、後には何も残らない空間を見つめながら、ラインハルトはポツリと呟いた。

 

「絶対に許せん。許せんぞ。私の大切な部下を殺したマリューラミアス!八つ裂きにしてくれる!」

 

「ラインハルト様。明日にはジャンク屋組合へ発注していた艦隊1000万隻が届きます。それが届き次第出撃致しましょう」

 

ラインハルト艦隊は何も無意味にこの宙域に留まっていたわけではない。

アークエンジェル襲撃は本来の目的から注意をそらすための作戦に過ぎない。

「作戦プランB」

つまり、作戦の要はAではなくB。

この場合、囮となる作戦Aがアークエンジェル襲撃であり、そしてそれによって隠された本命の作戦がBである。

 

ラインハルトはライバル貴族の策略により15万隻の旧式艦しか手に入れられなかった。

だから現地でジャンク屋組合に1隻見本として艦艇を渡し、6年かけてコピー艦を作らせたのだ。

その数なんと1000万隻。

銀河帝国の所有する艦艇数が50万隻ほどに対して、それに約20倍である。

皇帝になった後に惑星をいくつか譲るという空手形ではあるが、天才ラインハルトのプレゼンの前には小学校もろくに出ていないジャンク屋組合の社員を騙すことなど造作もなかった。

時間こそかかったが、これでアークエンジェルと銀河帝国を滅ぼすだけの戦力は整えられたのだ。

 

あとは銀河の中心へ向かったアークエンジェルを追うだけだ。

ラインハルトは決意の視線をアークエンジェルの飛び去った彼方へと向け、無言で力強く拳を突き上げた。

 

 

 

「ラインハルトよ、随分と我を楽しませてくれる」

 

黄金の王はその姿をワインを飲みながら優雅に鑑賞していた。

 

 

 

キラ・ヤマトが参戦するまで後4時間48分。

ようやくラインハルトが本気になったようです。




こういう美味しい消え方をする老兵ってのも素敵ですよね。

ラインハルト様の性格がちょっと悪いかもと指摘を受けていたので、
いやいや、ちゃんといいところもあるんですよって話をさせていただきました。
これで銀英伝ファンの方もにっこりですね。

あとおせち料理はちょっとおかしいって指摘もあったので、
他民族の料理もあるけど、ちゃんとドイツの料理をメインで食べてますよって書くために、
ちょっと早いけどお昼ご飯にしてもらいました。
大丈夫、軍人さんだから健啖家だよ。

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