銀河英雄ガンダム 作:ラインP
区切りどころ良いところが無かったんだよね。
今回は色んな意見を聞こうと、部の男子たち、銀英伝を読んでる子もいたので意見を出し合ってもらって、
あれだそう、こういう展開とかどうかなって話し合ってるうちに封印していた中2ハートが再燃して何か良く分からないものが産み出されました。
でもお待たせしてしまった分、濃厚になったと思います。
お楽しみください。
イゼルローン要塞陥落から同盟軍の帝国領侵攻作戦までの間に、もしかしたらありえたかも知れないシェーンコップの冒険物語。
銀英伝ちょっとだけオリジナル入ってるストーリー開幕です。
「日本は魔境やけん。気ばつけんしゃい」
ラインハルト艦隊を離れた後、アステロイドベルトの船着き場から小さな渡し船に乗り込んだシェーンコップ。
日本へと頼んだ際に、年老いた船頭に一言だけ忠告された。
何の事か分からず困惑していたシェーンコップ。
お兄さん、日本は初めてかい。重そうな背負子を足元へと置きながらヨッコラショと対面に座った年配の行商人がシェーンコップへと問う。
船頭とシェーンコップ、それに行商人の3人が乗ればもう満員という小型の船。
先程の意味を聞こうにも船頭はもうこちらを見ずに黙々と櫓を漕いでいる。
日本には魔物がいるんですよ。面白がるように行商人は言う。
外の国の人には与太話に聞こえるかもしれんですがね。気をつけなさい。彼処は魑魅魍魎が跋扈する本当の地獄ですから。
奈良県法隆寺五重塔。
琵琶湖の畔で船を降りたシェーンコップはIS国家代表選手選抜試験会場である法隆寺へと来ていた。
法隆寺中門を潜り抜けた先、五重塔がある広場には50億人を超える人がおしくらまんじゅうのように集まっていた。
これらはIS国家代表選手選抜試験へと望む猛者たちであった。
集まった人々を一目見て、シェーンコップは船頭や行商人の話を思い出していた。
確かにこれは魔物の群れであるな。
シェーンコップの肌にはビリビリと圧力めいたプレッシャーを感じ取っていた。
ここに集まっている者、誰一人として弱いものなどおらず、装甲擲弾兵一個師団を指先一つでダウンさせる程度の力はそれぞれ持ち合わせている。
それが確信できる。
修練で研ぎ澄まされたシェーンコップの知覚はオフレッサーをも超える戦闘力すら何人も感知していた。
それによくよく見れば人間とは思えない姿かたちをした者もいる。
「鬼や獣人、妖怪たちも参加しているのですよ」
不意にかけられた言葉に後ろを振り向くとそこには船で一緒になった行商人。
「三種の神器、ムラクモソードが遺失してから、この国の龍脈を制御していた封印が溶けてしまいましてね」
行商人が言うに、この国は神話の時代から列島を流れる龍脈、その魔力の影響で鬼や妖怪、そして特殊な力を持った人間が蔓延る魔の島であったそうだ。
それを神々が封印して、その封印を制御する為に三種の神器をこの国を治めるエンペラーへと与えたそうだ。
それこそが『ミラー・オブ・ヤタ』、『ヤサカニ・マガダマ・ストーン』、そしてオーブのアスハ氏が強奪した『ムラクモソード』である。
代々エンペラーはその神器を使い国を治めていた。
だが、行き過ぎた左翼主義且つ改革思想の塊であった当時の総理アスハ氏が、学生運動グループSHELLsを武装化させクーデターを起こした。
そのクーデターによって起こった混乱の最中に私兵と共に宮中を襲撃、『ムラクモソード』を奪い国外へと脱出したのだ。
三種の神器は三つ揃うことにより封印を万全のものにしていた。
なので『ムラクモソード』が欠けることにより、封印が一部解かれ、龍脈より噴出した魔力により御伽噺と思われていた鬼や妖怪、そして平安京エイリアンなどが封印から目覚めるようになった。
また、日本で暮らす人々も魔力に中てられ、人外じみた能力を獲得していった。
「故に、連合もプラントも日本には手出しできずに未だに独立を維持しているんですよ」
両軍とも何度も日本を制圧しようとしたが、海を越えて本土へと入ろうとした戦闘機やMSはそこら辺の主婦が適当に投げた物干し竿に貫かれて悉く撃破されたそうだ。
つまりここにいるのはそういう人外どもばかりということか。
「ヒャッハー!また一人自殺志願者がやってきたぜ!」
火炎放射器を持ったモヒカンヘッドの革ジャン男が広場に入ってきたシェーンコップを見て舌なめずりする。
だがその次の瞬間にはそのモヒカン男は空から急降下してきた大男に掴まれ、頭から丸のみにされる。
かと思えば、その大男も足元から急に現れた大きな口に下半身を食われ絶命する。
まさにここは一瞬でも気を抜くと食われる弱肉強食の世界。
「ではそろそろ私も肉の仕入れをしてきますので、ご武運を」
行商人はそういうと背負子から取り出した特大の牛刀を振りかざし、近くにいる男たちを解体し、背負子の中に次々と詰め込んでいく。
どうやら食肉を扱うカラテ商人だったようだ。
そのカラテの冴えは凄まじく、たった一振りで100人近くが細切れになり、部位ごとに手早く解体されていく。
巻き込まれてはいけないと、シェーンコップは人込みを掻き分け、五重塔へと向かう。
あちらこちらで血気盛んなカラテ家どうしの血で血を洗う殺し合いが繰り返される中、五重塔から厳かな鐘の音が響く。
その鐘の音に皆が五重塔へと注目したとき、その4階の壁が粉砕され、中から血塗れの人間が飛び出てきて地面へと頭から叩きつけられる。
周囲の者たちは悲鳴や驚きの声を上げるが、その声冷めやらぬ前に今度は3階の壁を突き抜けて黒焦げになった人間が落ちてくる。
次は2階の壁から。四肢が切断された人間が飛び出す。
最後は1階、正面の扉を稲妻が突き破り、帯電した人間が転がり出る。
どの者も既に事切れてピクリともしない。
その光景に先ほどまで喧騒で賑わっていた広場は物音一つせず凍り付いている。
そして事切れたその4人の遺体を見ていた一人の男がポツリと言う。
「おい。4階から落ちてきたあいつ、確かIS日本代表の最有力候補の更識楯無のストーカーじゃないか」
「3階から落ちたやつはあの有名なシスの暗黒卿、ダースベイダーのコスプレイヤーだ」
「2階のやつはよく見たら範馬勇次郎のそっくりさんだぞ!」
「1階のはうちの近所の八百屋のオヤジだ!」
更識楯無、ダースベイダー、範馬勇次郎、八百屋のオヤジ。
どいつもこいつも銀河帝国にまで名が聞こえる超有名なカラテ家ではないか。
そんな化け物たちがゴミのような遺体になって目の前に転がっている。
夢だ、夢に違いない。
あまりに現実離れした現状に思わず立ち眩みをしてしまう。
「おい!見ろ!」その声に五重塔を見上げたシェーンコップ。
すると先ほど飛び出してきた1階から4階までのそれぞれの穴からフードで覆われた4人が現れる。
そのうちの4階の者が「傾注せよ!」と声を張り上げる。
「ここに集まりし命惜しまぬ愚かな者共よ。IS国家代表選抜試験は既に始まっておる!試験内容は至極簡単。1階の門より入りて、各階にいるわれらカラテ四天王を一人ずつ戦って殺し合い、最上階にて『レジェンダリー・カラテ・絶対・マスター』に勝てば終わりよ」
「そこに転がっているものは、その試練に敗れし者どもよ」
「ふん、先ほどの更識の者、4階まで辿り着けたそいつが今回の最高記録だ。とはいっても今回のIS国家代表選手選抜試験が始まってから約1000年。その間、誰一人として最上階にまで辿り着いたものなど居らんがな」
「IS国家代表などという無謀な夢など我ら四天王がいる限り、絶対叶うことなどないのだ」
カラテ四天王はそれぞれ嘲笑しながら説明する。
その余裕、まさに強者の威風。濃密な死の気配がぷんぷん丸だ。迂闊に近づくと瞬く間に俳句を詠むことになるだろう。
だがそれを感じ取れない愚か者というのはどこにでもいるものだ。
人込みの中から槍を持った4人の男が飛び出す。
「俺ら恵比寿の団子屋4兄弟!連携攻撃なら日本一の力を見せてやる!俺らの連携必殺カラテ技『花びら大回転』を食らって死ぬがいいね!」
4人の男はそれぞれ各階の四天王に猛烈な勢いで槍を突き出す。
だが、
「ぬうううううん!四天王"4階の切り裂きジャック"秘儀『千尋の刃』」
「四天王"3階の煉獄王"の灼熱パンチを食らうがいい!」
「私は四天王"美しき2階目の魔闘家"。貴方如きでは相手にもなりませんね」
「そして私が四天王最弱の戦士!"1階のとりあえず電撃使い"!必殺のカラテ魔法ライトニングボルトで感電死するがいい!」
それぞれ先ほどの焼き直しとばかりに、血塗れ、黒焦げ、四肢切断、感電死となり遺体となりはてる。
「おいおいおい、あの団子屋4兄弟がなすすべなくやられるなんてマジやばいぞ」
「こんなの聞いてねーぞ!勝てるわけねえ!」
それを見ていた周りの者たちは恐怖にかられ、一目散に中門から逃げようと走り出す。
だが無情、あと一歩のところで中門が閉ざされ、広場から出られなくなる。
『どこに行こうというのだお前たち。この選抜試験は途中リタイアは死亡しない限り無効だよ』
広場全体に怪しげな声が響く。この声は四天王ではない。
見るといつの間にか5階の窓が空いていて暗い人影がボウっと浮かんでいる。
「おお、マスターよ」
四天王達が一斉に跪く。
『ふふふ、私が姿を見せるのはいつぶりだろうか。今日は特別に気分がいい、今回の試験を盛り上げるために少しアトラクションを用意しようではないか』
暗い人影、『レジェンダリー・カラテ・絶対・マスター』は窓から右腕をヌゥっと突き出す。
その右腕が黄金に輝き、矢を空へと放った。
矢は黄金に輝き、空を裂き、地球を飛び出し宇宙を駆ける。そして遂にラインハルト艦隊の旗艦へと直撃する。旗艦の正面装甲を容易く貫いた黄金の矢はなんと獅子帝ラインハルトの心臓へと突き立った!
それはまさに一瞬の出来事。天鱗の才能を持つラインハルトも不意を突かれたその一撃を避けること叶わずドゥっと大の字に倒れる。キルヒアイスやオフレッサーが慌てて駆け寄る。その黄金の矢は心臓の中心へと見事に突き刺さっているが、奇跡的に出血などはない。だが少しでも触ると心臓が裂ける絶妙な状態だった。
『聞け、参加者諸君。たった今、私は獅子帝ラインハルトの心の臓を黄金の矢で射抜いた。この矢は無理に取ろうとすればたちまち心の臓を突き破る。黄金の矢を抜く手段は唯一つ、モンド・グロッソに優勝すること。そして優勝賞品であるキン肉族の秘宝である黄金のマスクと銀のマスクを手に入れることだけだ』
『ただしっ!』とレジェンダリー・カラテ・絶対・マスターの右腕は東、東大寺の方向を指差す。
すると大地を揺るがす地鳴りが響く。
見ると東大寺のある方角から大仏様が見えてくるではないか。
東大寺の大仏様が下から柱で突き上げられ、ここ法隆寺から見える高さまでせり上がる。
その大仏様の下にある柱をよく見ると時計のように外周に12干支が配置されている円模様が彫り込まれている。更に12干支が配されている場所に一つ一つ炎が計12個燃えている。
『よく見ると良い。あれは火時計である。これより2分おきにあの火が一つずつ消えていく。すべての火が消えたときが獅子帝ラインハルトの命が燃え尽きるのだ。奴の命を救わんとするなら急ぐことだな、ふはははは!』
レジェンダリー・カラテ・絶対・マスターはひとしきり笑い終えるとサムズアップをしてから窓を締めた。
「おお、さすが慈悲深き尊い御方。こんな有象無象共に猶予を与えていただけるとは。お前ら、これに感謝して試験を楽しむのだぞ」
「でもさすがにこの人数は少し面倒だな」
「よかろう、お前たち、これからお互い殺しあうがいい」
「そして最後の一人になったものにこの五重塔への挑戦権を与えよう」
そういうと四天王は五重塔の中へと消えていった。
かくして生き残りをかけた参加者同士の殺し合いが始まった。
シェーンコップが身構える間もなく後ろから殴りつけられる。
辛くも前転受け身を取り衝撃を殺すも、横合いから他の者がサッカーボールキックを顔面へと目掛け繰り出す。
顔を背け、逆立ちになり蹴りつけた相手の顔面へ蹴り返してやる。
更にひっそりと切りつけようとしていたカラテ家の剣の峰へと飛び乗る。
足の指でその剣をつかみ、体をひねらせることで剣を奪い取る。
そしてサーフボードのように剣に乗り、他の男たちの頭の上に飛び乗り、波を渡るかのように次々と切り裂いていく。
それで30人ほどを屠ったところで剣での前進が止まる。
見ると剣を歯で受け止めている男がいるではないか。
これは危ない、シェーンコップはすぐさま飛び降りる。次の瞬間には剣はすべてその男に食われ、あと一歩遅れれば自身の足も呑まれていたであろう。
地面へと降りたシェーンコップに周りの者たちが襲い掛かる。
「菩薩拳!2倍!」
シェーンコップは修練で身に着けた菩薩の拳を発動する。
この人数、通常の菩薩拳では捌ききれぬか。相対する人数とその力量を瞬時に見て取ったシェーンコップ。やむを得ないと、無心の心を通常の2倍まで高める。
心を無にすることで至れる菩薩の心。無の深度を深めれば深めるほど菩薩へと近づき、その練度は高まる。
だが闇雲に深度を深めれば人間の心は容易く形を喪い菩薩へと飲まれ戻ってこれなくなる。
故に菩薩の拳を使えるようになっても使うのは2倍までにするようにと子供の頃に父から厳しく言われていた。
なので2倍は切り札として置くと決めていたのだが、こんな序盤で切ることになるとは。
悔しさで頭が沸騰しそうになるが、そんなことはとりあえず置いておく。
今はここを乗り切らねば何も始まらぬ。
無心の拳が次々と襲い来る敵へと炸裂する。
如何な化け物じみたカラテ家たちだろうが、認識できねば避けられぬ。
通常の2倍の希薄さになった菩薩の拳が次から次へと湧いてくるカラテ家の頭を無情に砕いていく。
相対したカラテ家たちは俳句を詠む間も与えられず、次々とその儚い生涯を閉ざしていく。
「アイエエエ!カラテナンデ!?」その獣めいた断末魔が耳にこびりつく。
シュッポシュッポシュッポシュッポ!拳を振るうたびにシェーンコップの胸は高鳴り、さらに拳の回転数を上げていく。
うぉぉぉぉ!俺はまるで人間蒸気機関車だ!
ぐるぐるぐるぐると両手を回転させ、目の前にいる敵、敵、敵の悉くを菩薩の拳で粉砕して突き進む。
すでにシェーンコップが屠ったカラテ家は100万を超えていた。
このまま全員倒しきれるか、そう考えていた時期もありました。
その男は快進撃を続けるシェーンコップへと卑怯にも背後からバールのようなもので殴りかかった。
頭をかち割られ、もんどりうったシェーンコップ。
あまりの衝撃に地面を転げまわるも、気力を振り絞り殴りつけた相手へと向く。
そこには大型バイクに乗ったリーゼントの男がバールのようなものを肩に担ぎ立っていた。
そいつはガタイの良い特攻服を身にまとった17か18歳程の不良少年だった。
カラテマスターの集まるこの試合会場には余りにも不釣り合いであった。
「"魍魎"の、"武丸"だよぅ」
その男、武丸はシェーンコップへとメンチを切ってきた。
「あんまチョーシくれてっと、ひき肉にしちまうぞ。小僧」
シェーンコップも負けじと武丸にメンチを切り返す。
二人の間に一瞬空気が凪いだ。
次の瞬間、
二人の頭が弾け飛ぶ。
武丸の顔面に菩薩の拳が叩き込まれ、同時に武丸が持つバールのようなものがシェーンコップの頭を殴り飛ばしたのだ。
両者の頭から血しぶきが舞う。
ぐらりと体が崩折れそうになるも、直ぐ様立て直し、またもやお互いの頭を跳ね飛ばす。
二人共、相手の攻撃を認識など出来ていない。
ただ、己の攻撃を当てる、それだけの本能で殴り合う。
シェーンコップと武丸の頭が面白いようにポンポンと跳ね上げられる。
両者全く同じタイミングで殴り合っているのだ。
だが相手は唯の不良少年。シェーンコップは菩薩の拳で無心の境地に至っているというのに、なぜ打ち勝てぬのか。
確かに武丸はカラテマスターではない、唯の不良少年だ。
しかし、その力は普通ではなかった。
『全集中・不良の呼吸』
それは人間が鬼のように強くなれる特殊な呼吸法である。
本来なら鬼を狩る剣士達が極意として身につける技なのだ。
だが武丸は産まれてから十何年もの間、ありとあらゆる相手にメンチを切って喧嘩三昧の生を送ってきた。
横浜の暴走族を潰し、連合軍基地へと殴り込み、妖怪共をぶちのめし、最終的には鬼を相手に命のやり取りを繰り広げてきた。
故に、その戦いの中で彼の喧嘩殺法は磨き抜かれ、いつの間にか独自の呼吸法を生み出していた。
それが武丸の『不良の呼吸』である。
相手を殴れば殴るだけ、そしてダメージを受ければ受けるだけ、どんどんと呼吸が研ぎ澄まされ、理性を無くしていく代わりに膨大な力を生み出す特殊な呼吸法。
死に迫れば迫るだけ鬼の如き力を、否、鬼そのものへと至っていくのだ。
そして武丸のその呼吸法は相手への攻撃最適解を導く。
武丸は荒々しい攻撃をしているように見えながら、その実、全ての攻撃が最短で相手へと叩き込まれている。
相手の認識の隙間を縫うタイミングをその呼吸法で無意識的に取得しているのだ。
これによって菩薩の拳と同等の効果が得られている。
故に、シェーンコップは武丸の攻撃を認識できず、結果、両者相撃つ事態へとなっている。
このままだと、引き分けになるようにも見えるが、実際不利なのはシェーンコップの方であった。
武丸はダメージを蓄積すればするほど呼吸法が冴え渡り、力を増す。
だが、シェーンコップはそのような特殊能力を持たない普通の人間である。
これ以上攻撃を受けると、菩薩の拳を維持することも難しい。
悔しいがこのままでは勝てぬ。そう悟ったシェーンコップ、武丸の攻撃を受けた反動を利用し、大きく後ろへと飛んで間合いをあける。
「ぬう、一体どうしたもんか。奴のタフネスは尋常ではないな」
頭から流れる血を拭いながら苦悶の表情のシェーンコップ。
「武丸のタフネスさは特殊な呼吸法によってその身に特殊な力の流れを形成していることです。その流れを解除しなければ倒すことは出来ませんよ、シェーンコップさん」
「どこから湧いてでたユリアン・ミンツ」
武丸の力についてアドバイスするユリアン・ミンツ准尉。そしてその唐突さに驚きを隠せないシェーンコップ。
「いつもニコニコあなたの隣に這い寄る従士、ユリアン・ミンツ、です」
なにそれ怖い。
「武丸の力を浄化するにはアレしかありません。シェーンコップさん、コレを持って私に合わせてください」
シェーンコップはユリアン・ミンツから折りたたみ携帯電話を渡される。
いきなりなんのことやら戸惑うシェーンコップの手をユリアン・ミンツが握る。
そして二人は繋いでいない方の手を空へと掲げ叫ぶ。
「「デュアル・オーロラ・ウェーーーーーーブ!!!」」
「って俺は何を言ってるんだ」
自然と口から出た言葉に戸惑うシェーンコップ。
だが、すぐに変化が訪れる。
シェーンコップとユリアン・ミンツを包むように虹色の光の柱が現れる。
柱の中でいつの間にか裸になったシェーンコップとユリアン・ミンツ。
その身を包むようにシェーンコップには黒の、ユリアン・ミンツには白の、それぞれ可愛らしいドレスが装着される。
渡された折りたたみ携帯電話はそれぞれの腰のポーチに収納され、そして変身が完了する。
「な、何が起こっている!」
眩い光に武丸は戸惑いの声を上げる。
「光の使者!キュアブラック!」
可愛らしい黒いドレスを纏ったガチムチのシェーンコップが名乗る。
「光の使者!キュアホワイト!」
こちらも可愛らしい白いドレスを纏った中性的なユリアン・ミンツが名乗る。
そして二人は寄り添いながらポーズを決め、
「「ふたりはプリキュア!」」
「闇の力のしもべたちよ!」
「とっととお家へ帰るがいい!」
ユリアン・ミンツ、そしてシェーンコップが武丸を指差しながら宣告する。
ここに銀河の黒歴史がまた1ページ。
「な、なんじゃこりゃー!!!!」
正気に戻ったシェーンコップが頭を抱えて叫ぶ。
その横でユリアン・ミンツことキュアホワイトは、
「さぁ読者の皆。マジカルライトでプリキュアを応援するクポ!プリキュアー頑張れーー!」
と明後日の方向に向かって何やら手を降っている。
さぁみんな、シェーンコップを応援するんだ。
プリキュアー!頑張れー!
負けるな!プリキュアー!
がーんばれーがーんばれー!
もっとクポー、もっと必死に応援するクポー!
ぶりきゅあああああああああああああがんばれええええええええええええ!
まけるなあああああ銀河の平和はおまえにかかってるぞおおおおおおおお!
その言葉が届いたのか、ふらりとシェーンコップ、いやキュアブラックが立ち上がる。
キュアブラックの目はなんだか虚ろになっていてトランス状態だ。
「キュアブラック、やっと正義の心に目覚めましたね」
キュアホワイトは優しげな瞳でキュアブラックを迎える。
そして二人は再び手をつないで叫びを上げる。
「ブラックサンダー!」
「ホワイトサンダー!」
二人のもとに黒と白の雷が降り注ぐ。
「プリキュアの美しい魂が!」
キュアホワイトが叫ぶ。
「邪悪な心を打ち砕く!」
それに負けじとキュアブラックも力強く叫ぶ。
そして二人の力が合わさり、絶大な浄化の力が顕現する。
「「プリキュア・マーブル・スクリュー」」
技名を発すると同時に、その力の奔流が武丸を飲み込む。
「ざけんなああああああああああ」
あまりの意味不明な展開に武丸の叫びが響く。
数瞬後、シェーンコップが正気を取り戻すと共に、武丸を包み込んでいた浄化の光が消える。
そこに立っていたのは
「"魍魎"の"武丸"だよぅ」
ちょっとだけ綺麗な武丸だった。
「なんと、アレを受けても生き残るなんて、なんてしぶといんでしょうか」
慄くユリアン・ミンツ。
いや、殺しちゃうのかよプリキュア・マーブル・スクリュー。
お互い、正気を取り戻したシェーンコップと武丸が再び向かい合う。
「なんだか分かんねぇがちょっとスッキリした。こうなったらよ、お互い走りで勝負決めようじゃねぇか」
ちょっと綺麗な武丸が、シェーンコップに最後の勝負を挑む。
「走り、というとチキンランで良いのかな少年よ」
昔ちょいワル武勇伝でヤンチャしてたシェーンコップが答える。
「勝負は、あの五重塔まで。どちらか先にブレーキを踏んだほうが負けだ」
武丸は自慢の単車に跨がり、五重塔の扉を指差す。
「良いだろう、来いっ!"
呼ばれてどこからともなく現れる"
ちなみに格好は未だにミニスカートのキュアブラックなので、後ろから見ると締まりの良いガチッとしたケツが丸見えだ。きっと読者サービスなのだろう。読者の皆、ここが今回の抜きどころだ。ユリアン・ミンツもそれを見て顔を少し赤くしている。
いつの間にか肉の仕入れが終わった行商人が側に立って合図役を担当してくれる。
「お互い、準備はいいかね?カウント………5、3、2、スタートッ!」
なんと素数カウントだ。
慌てて飛び出す二人。
両者とも迷わずアクセル全開。頭のネジがゆるゆるなので。
そして走る最中、お互い相手のブレーキレバー目掛けて無数の拳を繰り出す。
先程までの死闘で力を消耗している二人は菩薩の拳も不良の呼吸もままならず、だがそれでも常人離れした速さのパンチを放つ。
だがどちらも負けじと必死のハンドルさばきで互いの攻撃を避ける。
そうこうしているうちに元々五重塔まで距離が短いためすぐにゴールが見えてくる。
お互い覚悟を決め、ブレーキのタイミングを図る。
バイクの速度は今や200キロを超えている。
扉激突まで、20メートル。通常ならこの時点で手遅れだが、両者の技量ならまだ大丈夫。
15メートル。ブレーキと共に後方へと全力で引けばなんとかなるか。
10メートル。いやいや、もうバイクは諦めて飛び降りれば。
5メートル。あれ?これ死ぬんじゃないか?
1メートル。もう無理だ!武丸はブレーキと同時に車体を横へと倒し、地面へと蹴りを放ち、足を大地へと埋めることにより何とか静止に成功する。
0メートル。シェーンコップはノンブレーキで突き進む。
シェーンコップと"
「くっ・・・意識が少し飛んでいたか」
扉を突き破り、派手に転倒したシェーンコップは数瞬意識を失っていたが、何とか立ち直る。
"
とりあえず私の勝ちで良いのかな。そう考えつつ、周りを見渡す。
どうやらここは五重塔の中のようだ。
四方を険しい山に囲まれ、地面は硬い石で覆われ、部屋の中央には石の床に4本の支柱とロープで正方形に区切られたリングが設置されてあった。
シェーンコップはリングへと入り、四天王とやらが現れるのを待つ。
『ほほう、どうやら外のコロシアイを生き残った挑戦者のようだな』
部屋に響いた声にシェーンコップは辺りをすばやく探る。
声の主は正面の山の上にいた。
ローブを被っていた1階の四天王だ。
『今までは手ぬるい奴らばかりで飽き飽きしていたのでな。少しは長生きしてくれることを期待しているぞ』
四天王は纏ったローブを脱ぎ捨てる。
その下から現れた姿。
それはまさに奇怪としか言えなかった。
岩?いや山?それに柔道着をまとわせたような姿だ。
更に身の丈3メートル近い巨漢である。
ただの人間ではありえないその姿にシェーンコップは数歩後ずさる。
「あいつは!」
「知っているのか雷電!」
リングの脇にあるテーブル席に座った司会と解説の男が四天王を指差し声を上げる。
「やつは7人の悪魔超人の1人だ!」
解説の雷電が叫ぶ!
「そうよ!俺様が四天王が一人、悪魔超人!ザ・魔雲天様よ!喰らえ!マウンテンドローーーーーップ!!」
名乗りと同時にザ・魔雲天が天高く飛び上がりキュアブラックことシェーンコップへと飛びかかるのだった。
キラ・ヤマトが参戦するまで後4時間36分。
プリキュアと悪魔超人。正義の戦士と悪魔の戦士の宿命の戦いが始まるのだった。
次回はもう少し早く書き上がれば良いなぁ。
でもそろそろ中間テストが…。