銀河英雄ガンダム   作:ラインP

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第十九話 皇帝崩御

シェーンコップが地下でバトルロワイアルに励んでいる頃。

宇宙でも事件は起きていた。

 

 

 

ラインハルトの心臓をぐりぐりっと抉っていた黄金の矢。

それは刺されてから24分以内にレジェンダリー・カラテ・絶対・マスターを倒さねば心臓を貫通する呪いの矢。

ラインハルト軍の旗艦ブリュンヒルトでは蜂の巣を突いたような大騒ぎが起きていた。

力自慢のオフレッサーが黄金の矢を必死に抜こうとするがピクリとも動かず、逆に時間経過とともに深く刺さっていく。

ただ、本来なら最も動揺して然るべき男、ジークフリート・フォン・キルヒアイスだけは一人冷静に時がたつのを待っていた。

騒然とする艦内に来客を告げるチャイムの音が鳴り響く。

キルヒアイスはやっと来たなと呟き、隔壁ハッチを開く。

艦の外にはマントを羽織った偉丈夫が立っていた。

 

「患者はどこだ。もう大丈夫。私が来た!!」

 

その男はマントを翻し、筋骨隆々に鍛え上げられた肉体をこれでもかと誇示しつつ艦内へと躍り出た。

 

「私がスーパードクターYKKだ!」

 

彼こそが日本の埼玉県春日部市の中でだいたい3番目ぐらいの名医と名高いスーパードクターYKKなのだ。

 

「YKKさん、よく来てくれた。予定通りラインハルト様が呪いの矢で死んでくれ、いや死にそうになっているのだ。今すぐ治療を頼む」

 

キルヒアイスはこの事態を予め予測していて先月から出張治療の予約を取っていた。

それを聞いていた兵たちはさすがキルヒアイス様だ。お貴族様は凄い。と感心しきりである。

すぐさまラインハルトは手術室へと運び込まれていく。

 

スーパードクターYKKはラインハルトに刺さった呪いの矢をじっくりと検査する。

 

「ふむ、これは摩訶不思議なマジカルパワーで固定されているために無理やり心臓から抜くのは不可能だ」

 

「そんな!それではラインハルト様は助からないんですね!そんなことなんて・・・本当に助からないんですね!」

 

スーパードクターYKKの言葉にキルヒアイスは何度も強く確認する。

 

「だが、私にかかれば大丈夫。ラインハルトの体から矢を抜く方法はすでに思いついた!」

 

「な、なんだってーーー」

 

キルヒアイスは悲痛の叫びをあげる。よほどラインハルトが心配なんだろう。顔が脂汗でびっしりになっている。

 

スーパードクターYKKはすぐさまオペを開始する。

彼のメスさばきは目にも止まらぬ早業で、一振りするごとに光が煌めいていく。

 

「逆転の発想だよ。矢が心臓から抜けないのなら―――――――心臓の方を体から抜いてやればいい!!」

 

そしてスーパードクターYKKは呪いの矢が刺さったラインハルトの心臓を抉りだし、頭上高く掲げたのだ。

 

「ラインハルトの体から呪いの矢を抜くという依頼。確かに完遂した。依頼金5千円は全て5円チョコにしてスルガ銀行の貸金庫に送付してくれ」

 

心臓を抜かれてビクンビクンと死後痙攣しているラインハルトを置いて颯爽と去るスーパードクターYKK。

彼は依頼完遂率99%の凄腕ドクターである。得意教科は国語だ。

果たして今回の依頼は99%の方だろうか、それとも…。

 

 

 

 

 

その後、通夜、告別式などで忙しなく時は過ぎ3日経った。

 

結果はともかくラインハルトの矢を抜くという偉業を達成したキルヒアイスはその功績をもって永世元帥を名乗り、ラインハルト軍を掌握していた。

 

「ぐふふ。目障りなラインハルトが居なくなった今、宇宙を滑っている覇者はこの私、新皇帝キルヒアイス様のみよ」

 

なんとキルヒアイスは実はラインハルトのことを疎ましく思っていたのだ。

 

「思えばラインハルトはいつも傲慢で、俺のことを親友と言いながらパシリ扱いしやがって」

 

 

―――キルヒアイス!サッカーやろうぜ!当然ボールはお前な!だってボールは友達だもんな!!

 

幼年学校時代、アニメを見てサッカーにハマったラインハルト少年は蹲るキルヒアイスを何度も蹴り続けた。

 

―――姉さまにもらったホームランバー、半分こしろって言われたからな。半分だけやるよ!

 

アンネローゼ様が貧しい生活の中で買ってくれた1本のホームランバー。半分といいながら棒の部分だけを渡して、アイスはラインハルトが全部食べた。

 

 

思い出すだけでもはらわたが煮えくり返る屈辱の日々だ。

だがもう憎きラインハルトはもういない!

今からは俺が皇帝を名乗るのだ!

 

 

「新皇帝キルヒアイス様。まずはどうしましょう。どうぞご命令を」

 

キルヒアイスの前にはオフレッサー、ロイエンタール、メルカッツ、アッテンボロー、オーベルシュタインといった幹部たちが勢ぞろいして平伏していた。

 

キルヒアイスはオフレッサーの頭に足を乗せながら、そうだなぁと命令するべき事柄を考える。

家臣の頭とは足を置くためにある。ゴールデンバウム王朝ではそう決まっている。古事記にも書いてある。

 

「とりあえず、この艦の名前を変えるぞ。前から思ってたんだ。ブリュンヒルトって名前がダメダメなんだよ。なんだよドイツ語って、中学生かよ。もっと強くてカッコいい名前をつけてやる、ホリー!」

 

キルヒアイスが名前を呼ぶと、艦橋スクリーンに女性の顔が現れる。彼女はこの艦のコンピュータ・ホリーである。

 

「ホリー、今日からこの艦の名前はレッド・ドワーフ号。宇宙船レッド・ドワーフ号だ。どうだ、カッコいいだろう」

 

「了解しました。艦名変更完了です」

 

満足げに頷くキルヒアイス。

 

これで彼、キルヒアイスの下克上は成功したかのように見えた。

 

だが、艦名変更した直後、アラームが鳴り響く。

 

「何事だ!」

 

「艦名変更により、予約されていた特別プログラムを実行中。実行中。プログラム起動完了」

 

ホリーが淡々と状況を説明する。

 

すると艦橋になんとラインハルトが現れたではないか。

 

「おお!ラインハルト様!生きていらしたのですか!」

 

アッテンボローが嬉しさのあまり滝のように涙を流しながらラインハルトに抱き着こうとする。

 

だがそのアッテンボローの巨体はラインハルトの体をスルリとすり抜ける。

これにはみんなびっくりして腰を抜かす。

 

「もしや!これはラインハルトの幽霊か!この化けて出やがって!主砲!目標ラインハルト!ファイエル!!」

 

キルヒアイスの命令に呆然としていた艦橋スタッフが自分の仕事を思い出し、ラインハルトへと照準を合わせ主砲を斉射する。

 

ブリュンヒルト改め宇宙船レッド・ドワーフ号の主砲が3斉射され、あたりは舞い上がった爆炎で覆われる。

 

「いかな亡霊ラインハルトといえど、480ミリ三連装砲の徹甲弾を3斉射もされれば塵も残らぬであろうよ」

 

だが現実は無常である。

 

土煙が晴れた先には無傷のまま立っているラインハルトの姿があった。

 

「ははははは!愚かなりキルヒアイス!この体はホログラムでできているので物理的な攻撃など痛くも痒くもないわ!」

 

なんとラインハルトはホログラム人間だった。

 

「キルヒアイスよ!そなたが何やら地球の者と通信を行っていたこと、俺が気付かないと思ったのか!貴様がなぜ俺の隣の部屋に配置されていたか気づかぬとはな。指揮官室の壁は意外に薄いのだ。壁に耳を当てれば隣の部屋の音など筒抜けなのだよ。お前がエネマグラで毎晩喘いでる声だって高音質で録音できたぐらいだ」

 

艦橋にキルヒアイスの艶めかしい嬌声が流れる。

 

その声に艦橋にいた者たちはつい前かがみになってしまう。

 

「貴様がこの俺をはめようとしていたことは分かっていたのでな。もしお前が俺を排除したらまずはこの艦の名前を変更するだろうと予測してプログラムを仕込んでおいたのだ。俺の全記憶をバックアップしてホログラムで復活できるプログラムをな」

 

勝ち誇った顔で高笑いをあげるラインハルト。

キルヒアイスは絶望し頭を抱える。

 

「貴様の陳腐なクーデターもこれで終わりだ。ホリーよ、全権限を俺に戻せ。そしてキルヒアイスを元の階級に戻すのだ」

 

「ネガティブ。権限移譲は実行できません」

 

ホリーは淡々とした口調で拒絶する。

 

「現在のラインハルト様を自称する貴方はプログラムによるホログラム投影であって、ラインハルト様本人ではありません。ラインハルト様は既に死亡されています。ですので現在の全権限者はキルヒアイス様のみになります」

 

「な、なんだと・・・。まさかそんな盲点があったとは」

 

「ちなみに先ほど流された音声により全権限者のキルヒアイス様の名誉が毀損されたため該当プログラムによるシステムアクセス権限を制限いたします。貴方はこれから外部プログラムの実行に著しく制限がかかります」

 

斯くしてラインハルトはホログラム投影されておしゃべりするぐらいしか出来なくなったのだった。

 

 

 

 

 

 キラ・ヤマトが参戦するまで後4時間32分。

 キルヒアイスによるクーデターはこうして意外な展開を含みつつも成功したのだった。

 

 


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