学戦都市アスタリスク ≪因果を曲げる者≫   作:まぐなす

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1-2.剣を持つ者

陽が傾き始め、建物を朱く染めた旧市街。

そこを一凪ぎの風が翔る。

それの通った跡の空気は凍てつき、地面は氷っていた。

それはまるで本人の変わらぬ感情を示すように―――

 

 

††††††††††

 

 

背の高い建物に囲まれ外より暗い廃屋。

そこを周囲の光を歪める陽炎が歩む。

それの通った跡の空気は沸騰し、地面は溶けかけていた。

 

 

本人―――ユリスはその事実に気付いていない。

あまりに頭に来ていたユリスは本人の意思に関係なく、周囲に影響を及ぼしていた。

付近の万応素は彼女の感情に感化され、能力の使用に至らないまでも、周囲に集まり、振動し、擬似的な炎を作り出していた。

だが、空間把握能力と万応素への感受性の高いユリスであってもその事に気がつかない程怒っていた。

 

何故なら、唯一の親友である空の命を狙うと言ってきた阿呆がいるからだ。

ユリスとて空がタダ者じゃないことはわかっている。

だがいくら強い星脈世代とて、不意討ちで自らの感知外から攻撃を受けては無事では済まないのだ。

 

空はユリスを単なる友として認めてくれた。

今回のような事が起きても空は構わないと言ってくれた。

だが...だからこそユリスは自分の手で始末を着けようとしている。

それが、ユリスの弱点であるとも知らずに―――

 

 

 

 

「出てこい、卑怯者」

 

指定された場所に行ったユリスは、大胆不敵にも声を上げる。

その声に柱の陰から出てきたのは大柄の、フードを被った人だった。

 

「...舐められたモノだな。万応素の動きを見れば貴様の場所なぞ手を取るように分かると言うのに」

 

基本能力と言うのは万応素を媒介して発動する。

普通は能力の発現箇所の万応素が反応するのだが、ユリス程の使い手であれば、遠隔での能力使用での万応素の動きから使用者の位置を絞れるのだ。

 

「咲き誇れ≪九輪の舞焔花(プリムローズ)≫」

 

ユリスは火球を作り出すと、奥の柱の裏に飛ばした。

 

「おっとと...」

 

それに押されて出てきたのは細身の男だった。

 

「サイラス・ノーマン...」

 

「僕のことなどよくご存知で、≪華焔の魔女≫」

 

おどけたようにそう言って見せるサイラス。

そこには、序列五位を相手するにはあまりにも大きな余裕があった。

 

「...なるほどな、レスターの陰に隠れていたワケか」

 

そう、このサイラス・ノーマンはレスターの取り巻きとして有名だった。

そこにいれば、自分は弱いから強い人に付いていく、という構図ができ、自信の実力を隠せるからだ。

 

「さて、なんのことでしょう?」

 

ここまで来てとぼけて見せるサイラス。

だが、ユリスにも確証があった。

 

「さっきも言ったが万応素を見れば私であれば繋がりがわかる。そこのフードの奴と能力で繋がってるな?確かお前は...物体を動かす能力だったな。としたら人形か?」

 

「くっ...。ふぅ、腐っても序列五位と言うわけですか」

 

サイラスは能力を言い当てられたが飽くまでも大物振っていた。

すると、最初に出てきた大柄の奴が外套を投げ捨てた。

そうして出てきたのは、ユリスの予想通りヒト型の人形であった。

そしてその肩に当たる部分には謎の模様。

観察しているとそれはどこからか巨大な斧型煌式武装を取り出した。

 

「行け!僕の兵隊!」

 

サイラスのその声に反応し、人形が走り出す。

はぁ...っとユリスは一度息を吐く。

そして、

 

「咲き誇れ≪六弁の爆焔花(アマリリス)≫」

 

ユリスより一回り大きな火球を作り出し、飛ばす。

人形はそれに構わず突っ込んで行く―――

 

「爆ぜろ」

 

ユリスが手を握った瞬間、火球は膨れ上がり爆発した。

その爆風に吹き飛ばされ、人形は柱に激突し、動かなくなった。

人形の前面は焼け爛れ、腕は吹き飛んでいた。

 

「ふん、他愛もない」

 

そう言いながらもユリスは少し戸惑っていた。

本当は粉微塵にするつもりだったのだ。

そこまでは行かなくとも、少なくとも貫通するつもりでいたのだった。

恐らくこれ以下の技では倒せなかっただろう。

だがそんな不安を払拭するかのように一歩踏み出した。

 

「なっ...!?」

 

同時に、柱の裏、階下、階上、外、あらゆるところから人形が入ってきた。

 

「まさか、僕とて人形一体であなたを倒せるとは思ってませんよ」

 

そして人形たちは一部を残し、ユリスを四方八方から囲んだ。

ユリスには広範囲でさっきのと同等以上の火力を持つ技はないこともないが、その場合ユリスは瓦礫の下敷きになるだろう。

サイラスもそれがわかってここを指定したようだ。

 

「構わん!全て焼き払うまで!咲き誇れ≪呑竜の咬焔花(アンテリナム・マジェス)≫!」

 

一体の炎でできた西洋風の竜が現れた。

 

「行けッ!」

 

ユリスの声に合わせ、竜が羽ばたき飛んでいくと、人形をその顎で粉砕した。

そこでその竜は止まらず、火を吹き、ユリスに近付こうとした人形を吹き飛ばし、羽ばたき、自らによる人形どもを叩き落とし、その顎で人形を鉄屑に変えて行った。

 

だが人形等は銃型煌式武装を取り出すとユリスに対し、発砲を始めた。

流石のユリスと言えども呑竜の咬焔花を発動しながら別の技を使える程実力がある訳ではない。

そのため、自身も回避しながら竜を自分の前に移動させて、盾代わりにする。

炎の竜は問題なくユリスに降り注ぐ銃弾の全てを蒸発させしめた。

しかし弊害もあった。

 

「くっ...」

 

呑竜の咬焔花を突っ切るように三体、人形が突っ込んで来た。

そう、炎の竜では視界を塞いでしまう上、見た目程威力が出ないのだ。

 

「≪六弁の爆焔花≫ッ!」

 

迅速な対象により、一体は吹き飛ばすことに成功した。

だが残り二体は爆風に煽られた程度でそのまま突っ込んで来た。

そしてその二体にユリスは捕まれ、柱に打ち付けられる。

 

「かは...っ!」

 

気を失いかけるがギリギリで意識を残した。

だが、両腕は人形に捕まれたままだ。

振りほどこうとするが、かなり力が強く、身動ぎするぐらいしかできなかった。

そして悠々と歩いてくるサイラス。

 

「全く...予想以上の被害ですよ。よくやってくれたモノです」

 

と、大げさに頭を振ってみせる。

だが言葉とは裏腹に態度にも、人形の数にも随分と余裕がありそうだった。

 

「ふん...私の炎を直撃させない限り壊せない人形、そんなもの誰でも用意できるわけではあるまい」

 

唐突に話し始めるユリス。

サイラスも余裕があるのだろう、特に動く様子を見せない。

 

「そんなものをこんな量...そんなことができるのはアルルカントくらいのものだ、つまりは奴らの駒か?サイラス・ノーマン?」

 

ユリスも追い込まれながらも、わざと大きな態度を取り、挑発する。

これで激昂して少しでも隙を見せてくれれば...そんな希望的観測があったことは認めなければならないだろう。

だが現実では、サイラスは良くも悪くも大物振っていたためそんなものはなかった。

 

「駒とは言ってくれますね。ですが逆です!僕が奴らを利用していたのですよ!駒としてね」

 

両手を大きく広げてそう言うサイラス。

だがユリスはその真実をちゃんと理解していた。

やはり利用されているのはサイラスだ。

どうせ証拠はないため、何かバレても足切りにされるだけだろう。

 

「さて、性能テストも上々ということで、少々知りすぎてしまったあなたには消えて頂きましょう」

 

そう言いながら、サイラスは静かに右手を持ち上げた。

それに呼応し、付近に寄ってきていた人形のうち一体がその煌式武装を振り上げた。

ユリスはせめて目は瞑るまいと、サイラスを睨み付ける。

 

そして、サイラスは無造作にその右手を振り下ろした。

 

 

 

ザシュッ

 

 

 

生々しい切断音が付近に響く。

そして何かの落ちる音がする。

 

それは腕の肘から下の部分だった―――――

 

 

 

 

 

―――――サイラス・ノーマンの。

 

 

 

 

 

 

「ぎゃぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

自らの腕を押さえて転げ回るサイラス。

そしてその目の前には、()()()()()()()を手にした空がその能力にも似た絶対零度の視線をサイラスに向けていた。

 

 

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 

「空...」

 

ユリスは自分の出した声が掠れていたことに気が付かなかった。

空はくるりとユリスの方へ振り返ると、徐にその刀型煌式武装を振り抜いた。

するとユリスを抑えていた人形二体が崩れ落ちた。

そして空は解放されたユリスを受け止めて―――

 

―――一発叩いた。

 

「いたぁっ!?な、何をする!?」

 

それなりに痛かったのか涙目に抗議するユリス。

今度は思い切りユリスを抱き締めた。

 

「バカ野郎...俺は気にしねぇつっただろ」

 

そう言った空の声は少し震えていた。

そこでようやくユリスも気がついたのだ。

ユリスは空にとっても数少ない大切な友達なのだと。

そしてそんな友が何も言わずにいなくなったら?

誰だって心配するだろう。

怒っていたとは言え、そんな事にも自分は気が付かなかったのかと、ユリスは自分を責めた。

同時に、そこまで心配してくれた友人に、心から感謝したのだった。

 

「な、なぜキサマがここに...」

 

そこでやっとサイラスが復活した。

腕の出血は人形に無理矢理止めさせたようだ。

だが、その痛さのせいか、バランスのせいか、フラフラしていた。

 

「それは企業秘密って奴だ。だがサイラス・ノーマン、お前は絶対に潰す」

 

空は今一度右手に持った刀型煌式武装をサイラスに向け、宣言する。

それに対しサイラスは元の調子を取り戻していた。

 

「うまく不意討ちが決まっただけでしょう?あなたの能力は強力ではありますが、殺傷能力は低い。僕とは相性悪いでしょう?」

 

そう、氷を操る空にはユリスのような攻撃力のある技はない。

あるとしても質量攻撃だが、この限られたスペースではうまく生かすことは出来ないのだ。

そして数。

これらの情報を以ってしてサイラスは自身が有利だと思い込んでいた。

 

空が二体の人形を切り伏せたことを忘れて。

 

「行け!≪無慈悲なる軍団(メルツェルコープス)≫!」

 

サイラスが叫んだ瞬間、一斉に人形達が動き出した。

それぞれ煌式武装を振りかぶりながら突っ込んで来る。

 

「ちょっと失礼」

 

「えっ!?ちょ....!?」

 

そうとだけ言うと、ユリスを左手一本で抱き抱える。

そしてその右手にもつ刀型煌式武装を迫り来る人形に対し、ゆるやかに薙いだ。

するとどうだろう。人形共はきれいに真っ二つになって崩れ落ちた。

 

「なっ....!?」

 

続く人形も同じ要領で斬り倒していく。

次々と分断される人形に声を出せないサイラス。

そして前衛用の煌式武装を持つ人形を全て切ったところで、破壊の波は止まった。

 

「柔を成し剛を成せ...神月流の初心にして極地だ。固いだけの人形なぞ敵ではない」

 

そこまで言って思い出した。

天霧の名をどこで聞いたかを。

大元は神月流の特徴から来るのだが、神月流は時代を、他の流派を飲み込みながら育って行った流派なのだ。

他の流派と戦い、対策を立て、技術を取り込む。

そのため、他の流派の道場に行くことなんて多々あった。

天霧の名も、そのうちの一つで聞いたのだった。

 

「神月流...?何故その名が...?いやまだ僕の兵隊は―――」

 

「終わりだよ、サイラス・ノーマン」

 

周りを見渡して目に入った光景にサイラスは腰を抜かす。

それは、氷漬けになった残りの人形の姿だった。

天井まで隙間なく氷り、全く動ける状態ではなかった。

 

「ユリスを巻き込まなければ色々と方法がある。これもその一つ。見た所お前の能力はその変な模様の書かれた物体を操作することだろう?ならば隙間なく埋めてしまえば能力は使えまい。そうでなくとも能力が人形としてではなく氷も含めた建物を対象として反応するだろう。お前にそんなサイズの物を操れるのか?」

 

普段こそ普通に喋るもののここまで長く話すことは稀である。

これだけでも感情のないはずの空がどれだけ怒っているかわかるだろう。

いや、その逆だ。つまりはノっているのだ。怒りすぎ、激怒の方向に。

それでも理性を保っているのは普段の鍛練の賜物だった。

 

「ま、まだだっ!まだ僕には!奥の手がある!」

 

轟音を響かせサイラスの目の前に降ってきたのは、頭は天井につくぐらい巨大な人形であった。

 

「は、ははっ。行け!僕のクイーン!」

 

サイラスが命令すると人形はその巨大さに似合わず、機敏な動きで距離を詰めてきた。

息を吐きながら腰を落とす。

ユリスを落とさないようちゃんと抱え直してから、右手の刀型煌式武装を左の腰の高さに構えた。

 

「≪斬焔(キエン)≫及び、神月流抜刀術―――『緋扇(ヒセン)』」

 

一閃。

 

動き始めは滑らかだったが次の瞬間には振り切っていた。

上下で二つに別れる巨大な―――いや、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ぇ...」

 

声にならない声を漏らすサイラス。

一度右手の刀型煌式武装を振ると、その切っ先を腰を抜かすサイラスに向ける。

 

「もう一度言う...終わりだ、サイラス・ノーマン」

 

そう言うと空はサイラスに一瞬で接近し、煌式武装の柄で殴り飛ばす。

 

「へぶっ...」

 

間抜けな声を漏らし吹き飛ぶサイラス。

そして建物の外へと消えていったのだった。

なお既に空によって人形ごと切られた柱は氷によって修繕済みのため倒壊の恐れはない。

 

 

 

「空...すまなかった」

 

突然左手に抱いたユリスが謝罪してくる。

それは自身の身勝手によって空に迷惑かけたことへの罪悪感と、抱えられている恥ずかしさからきたものだったのだが、空には前者しかわからなかった。

 

「わかってるならいい...次からはなしにしてくれよ?」

 

言いながら、ゆっくりユリスを地面に下ろした。

地に足をつけたユリスは振り向くと。

 

「ああ!約束する!」

 

夕日に負けない明るい笑顔でそう言うのであった。

 

 

 

 

▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

「ぎゃぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

建物から吹き飛ばされたサイラスは悲鳴を上げながら、地面に着弾する。

星脈世代である彼ならばあの高さからでも死ぬことはない。

だが、寝そべる体は小刻みに震えていた。

それは先程の悪夢。

自分がアルルカントに作らせた最高傑作、レスターの攻撃にも耐えうる耐久を持つ人形が、一人の男にほぼ全て切り伏せられた。

その上腕も切り落とされたのだ。恐怖するなと言う方が酷だろう。

だが、これで逃げられる、そうサイラスはほくそ笑むのであった。

 

 

 

「建物の南側の路地に落とす...流石です、空」

 

声がした。

サイラスがそちらを向くと両手に青と赤の光を揺らめかす武器を手にした少女がいた。

 

「く、クローディア・エンフィールド...!」

 

サイラスは絶望した。

星導館学園の千見の盟主(パルカ・モルタ)と言ったら未来を見ると言われ、最強の一角とも名高いのだ。

勝てるわけがない。

 

「に、にげ...っ!?」

 

「逃がす訳が...あら?」

 

逃げようとサイラスが背を向け、這ってでも動こうとしたとき、クローディアはそれに気がついた。

 

「全く...心配性なんだか...それともそれだけ怒り心頭だったのか...」

 

急に動きを止めたサイラスの足は凍りついていた。

サイラスは忍び寄る絶望感に意識を手放した。

 

「それでは、よろしくお願いしますね」

 

クローディアが建物の陰に向かって声を掛けると、顔に大きな傷痕を付けた少年が出てきた。

 

「りょーかいりょーかい、ちゃんと連行しますよ。にしても高原のやつも、容赦ねぇな...」

 

その少年は、片腕が落ち、両足の氷ったサイラスを担ぐとグダグダ言いながら歩いて行った。

 

 

 

「それにしても...空、あなたは...」

 

クローディアが思い出しているのはつい一時間前のこと。

 

 

 

パン=ドラが震え始めたのを感じたクローディアは、一度取り出してそれが事実だと確認する。

そして、もう一度前を向くと目に入るのは、呪符を掲げ、多量の星辰力を吹き出しながら、何かを見ている空。

 

「空...あなた、何を―――いえ、何が見ているんですか...?」

 

空が何も答えないまま五分が経った時、掲げていた呪符を体の横へ切った。

そして、クローディアに振り返ることなく言った。

 

 

 

 

「過去を見ていた」

 

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