学戦都市アスタリスク ≪因果を曲げる者≫   作:まぐなす

8 / 12
遅れました。
バハムートよりアスタリスクのが書きやすい...


1ー4.吹っ切れる心

「ほんっとうにごめん!」

 

肌寒さが残り、空がグラデーションを描く初夏の早朝。

上下で統一されたトレーニングウェアに身を包み同行者を待っていた空だが、来た当人―――正確にはその連れ人を確認して目を丸くしていた。

 

「は、初めまして、高原先輩。刀藤綺凛...です。本日は、その...天霧先輩に無理を言ってお連れして貰いました」

 

小動物の様に縮こまりながら自己紹介するのは知らない人を探す方が難しいほどの有名人。

星導館学園序列一位、疾風迅雷の二つ名を誇る少女。

見下ろす形に成るくらいの低身長。それに釣り合わない二つの果実。どこか放って置けない可愛いらしさ。

見た目からはその強さの欠片も感じられないが、確かに付いた筋肉や、そのバランスからレベルの高さが知れる。

視線を今一度本来の同行者に向けると、再度手を合わせて頭を下げる。

 

「悪いとは思ったんだけど、刀藤さんを放って置けなくて...」

 

空とて言わんとすることは分かる。分かるのだが...

 

「何故判明したときに連絡しなかった?」

 

やはりこれに尽きる。

この気弱そうな少女が、礼儀を欠いてまで早朝から鍛練の参加を申し込んでくる訳がないだろう。

そう思えば少なくとも昨日の夜には空へ連絡が合ってもおかしくはないはずなのだが...

 

「その...ごめん、教えてもらってすぐに紗夜に捕まっちゃって、ごたごたしてたら忘れてた...」

 

紗夜...恐らくは同じクラスの沙々宮紗夜だろう。特出した話は聞いたことがない。ただ転入後少しして天霧と話しているのを見たことがあるため、何らかの関係はあったのだろう。あとよく寝ている。

 

「...まぁここまで来て帰すのも良心が痛むし今回は見逃そう。が、今後はちゃんと連絡するように」

 

「わかった、ありがとう」

 

「ただし、今日はこれのお仕置きも兼ねて後の手合わせは容赦しないからな」

 

それでこの話は終わりだ、と言わんばかりに二人から視線を外し、準備運動を始める空。

同行者二人はその様子を確認すると、少し顔を見合せ、笑い合うと同じように準備を始める。

アスタリスクの空は単色になっていた。

 

 

 

 

△▽△▽△▽△▽△▽

 

 

 

 

 

星脈世代は身体機能の大半が通常の人間のそれをはるかに凌駕する。それがアスタリスクのトップレベルともなれば言わずもがなだろう。そんな者たちが街中をランニングするわけにも行かず、大半の生徒はアスタリスクの外周を走る。

空や天霧もその例に漏れず、早朝の鍛練は外周のランニングから始めているし、刀藤のいる今回も同じくだった。

 

「はっ...はっ...はっ...」

 

息を吐いて、足を動かし、息を吸って、足を動かす。

いつもと同じように走っている訳だが、綺凛にはいくつか気になっていることがあった。

それは隣を走る綾斗の顔に余裕が無さ過ぎることだ。

いつもこれくらいなら綾斗先輩は体力が少ないのかな...そう思う綺凛であったがその考えが違うことはすぐに分からされた。

 

「ちょっ...空っ、待って...!」

 

息を切らしながら停止を懇願する天霧。

それが聞き届けられたのか、空のスピードが段々と落ちていき、やがて足を止めて振り返った。

現状がとても気になる綺凛は同じように止まる綾斗の隣で静かに次に起こることを待っていた。

 

「どうした?」

 

「どうしたじゃないよ...空...やっぱり結構怒ってるでしょ...」

 

「いや怒ってはないぞ?」

 

「じゃあ!このいつも以上に重いウェイトと早いペースは何なのさ!」

 

困惑を顔に浮かべて声を荒げる天霧。

大人しく見ていた綺凛はこれに納得した。

そう、綾斗の余裕の無さは彼の体力の問題ではなく、そもそものランニングの内容が問題だったのだ。

 

「や、怒ってはないが、何か報復しないと気がすまないなーと思ってな」

 

「それを怒ってるって言うんだよっ!」

 

盲点だった、と言わんばかりに目を見開き驚きをを露にする空。

その様子に疲れていた顔をより一層疲れさせたものにする空。

流石に綺凛もそれに見兼ねて慰めの声を掛けようとしたその時。

 

「っ!」

 

全く違った行動をしていた三人は一斉に一つの方向を向いた。

それは走っていた外周の道から少し内側にあった公園のような所だった。

木々に囲まれたその奥をその場の全員が注視していた。

 

「何か...いますよね」

 

僅かに男共より早く動き始めていた綺凛が、走っている間も腰に吊るしてあった日本刀の鯉口を切りながら声を上げる。

 

「うん、いるね」

 

綾斗も綺凛に同意しながら通常の煌式武装を手にし、起動する。

特に行動を起こすことのない空も視線をそのままに警戒を続ける。

緊張の走る無言の時間が一秒、二秒と過ぎていく。

だがそれが五まで数えられることはなかった。

木々の合間を縫い、垣根を何かが飛び越えて来る。

それに反応して神速の抜刀を披露した綺凛の次の行動、しかしそれは制止であった。

 

「と、トカゲ?」

 

綺凛が少々間の抜けた声を上げる。

ただ、綺凛がトカゲと称したその未確認生物は、それと言うには少しトカゲに申し訳なくなるような姿だった。

似ているとしても頭ぐらいなものである。

 

「トカゲ...というよりは小さい西洋のドラゴンな感じだな」

 

「じゃあトカゲモドキだね」

 

「ドラゴンモドキでもいいだろ」

 

「えっと...私はトカゲモドキで...」

 

少しズレた話題にそれを修正しようとする綺凛であったが、先輩二人に意見することができず話に乗ってしまう。

だが、自分を無視してワイワイ盛り上がる三人に業を煮やしたのか、トカゲモドキが口を開けて叫ぶと、襲い掛かって来た。

銀光一閃。

トカゲが間合いに入るや否や、綺凛が手にしていた刀を振るい、その首を落とす。

 

「あ、あれ?意外と軽い、です...」

 

見た目と合致しない手応えの軽さに、幼い学園最強は困惑を隠せない。

端から見ていた空や綾斗も怪訝な顔をするばかりだ。

しかして、疑念に違わず摩訶不思議なことが起こった。

切り落とされたトカゲモドキの首が液体のような不定形になると、体の首の切り口に引っ付くと頭が形を取り戻し、最初と変わらない状態に戻ってしまう。

 

「あー、そーゆーね...」

 

それを確認した空が行動を起こそうとする。

 

「あの...高原先輩、ちょっと試してもいいですか?」

 

それを制止したのはやはり綺凛だった。

日本刀を手にした少女は、いつもとは180度違った表情でトカゲモドキを注視している。

 

「まぁ、やれることがあるなら試してもらって構わんが」

 

とんとん拍子に進む事態にあまり着いていけてない綾斗を方っておいて、綺凛はトカゲに刀を振るう。

段々と細切れにされていくトカゲの肉塊の一欠片を、綺凛が切った途端その体は液体となって、戻らなくなった。

 

「最後の...もしかして核となるものがあるの?」

 

やっと事態に追い付いた綾斗が、最後の一刀の手応えからその対処法に気がついた。

 

「はい、妙な星辰力の流れがあったので気になりまして...」

 

この言葉に綾斗も空も、この少女の強さの一端に気がついた。

ただ空はそれをおくびにも出さず、周りを見回す。

そしてそれに気がついた。

 

「避けろッ!」

 

トカゲモドキの出てきた公園の木々から今度は火の玉が飛んで来た。

いち早く気がついた空は大きく飛んでそれを避ける。

空の声に反応して二人も跳躍してそれを避ける。

しかし、神の悪戯か。

運悪く二人の着地の先に火の玉が着弾。それ程大きなものではなかったが爆発を起こし、道路に大穴を開けた。

 

「きゃぁぁあああああ!!」

 

存外に大きな声を上げた綺凛と綾斗はその穴に吸い込まれるように落ちていった。

 

 

 

 

 

▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲

 

 

 

 

唯一地上に残った空であったが、二人を直ぐに救出に行ける程の余裕は無かった。

空が着地した瞬間、同じ所から更に五体のトカゲモドキが出現したからだ。

一先ず空は二人と同じ道を進まないように、氷で穴を塞いだ。

それを好機と見たのかトカゲ共は空に襲い掛かる。

先頭に二体、少し遅れて一体。

そして生意気なことに残りの二体は口を開き、そこを赤くし始めた。

飛び掛かってきた二体の首を前に出ながら掴み、その体を一瞬で凍らす。

そのうち右手の方の氷像を、同じく飛び掛かってきた一体に投げてぶち当てる。

視界から二体が消えると、その向こうから火の玉が飛んで来る。

片方の弾を動いて避け、もう片方を左手で持つ氷像を盾にして防ぐ。

意外と威力があったのか一撃で氷は粉砕されたが、バラバラになったそれは、溶けて液体になるともう一度トカゲを形成した。

投げ飛ばした二体もいつの間にかトカゲに戻っている。

 

「ちっ...めんどくさいな...」

 

トカゲ共はまた飛び掛かってきた。

 

 

 

 

▽△▽△▽△▽△▽△

 

 

 

 

 

「高原先輩、大丈夫でしょうか...?」

 

切り抜かれた柱に座り、未だに戦闘音の続く地上を見上げながら心配そうに言葉を溢す綺凛。

 

「俺にあれがどうにかできたんだから、大丈夫だよ」

 

そう口にする綾斗だが、綺凛の隣に寝転がり顔を苦痛に歪める。

 

 

二人が落ちてきたのはアスタリスクのバラストエリアだった。

バランス調整用の水に着水した二人は、しかしすぐに巨大な生物に追われることとなる。

それは上で現れたトカゲモドキと同じような生命体であり、首長竜のような形をしていた。

泳げない綺凛を抱えたままでは戦えない綾斗は、黒炉の魔剣を抜くと、柱の一部を焼き切り足場を作る。

封印を解放し綺凛の援護の元、流星闘技を使用し討伐に成功した。

しかし流星闘技で星辰力を消費した綾斗は封印が発動。

反動によりロクに動けないような状態になってしまった。

その後ポツポツと自身の境遇を綺凛は語る。

綾斗も自分の事情、目的等を説明して今に至った。

 

 

「あの...綾斗先輩と高原先輩ってどっちが強いんでしょうか?」

 

おずおずと疑問を口にする学園一位。

恐らく随分前から気にはなっていたんだろう。

 

「高原だよ。あいつは反則レベルの強さ」

 

ダルそうにそう言う綾斗ではあるが、その表情は晴れやかだった。

 

「時間制限がなかったり、純星煌式武装を使っても、ですか...?」

 

「うん、封印が完全に解除できればわかんないけど、今の状態であればいくら時間があっても勝てないよ。評価してくれる刀藤さんには悪いけどね」

 

自嘲気味に吐露する。

それでも綺凛は少し不機嫌そうに口を尖らせる。

 

「お、終わったみたいだ。すぐにわかるよ」

 

綾斗がそう言う頃には頭上の戦闘の音はなくなっていた。

そして氷った自分達の落ちてきた穴を見ていると、唐突にその氷が消失した。

そしてその穴から落ちてくる人影。

だがそれは広いバラストエリアの真ん中まで落ちると、氷の羽を広げて減速した。

 

「何やってんの?」

 

明らかに柱が繋がっていたはずの空間に座る綺凛と寝転ぶ綾斗を見て、呆れたように言う闖入者。

その爪先が水に触れる寸前、そこを中心に水が氷り、水面を閉ざした。

氷の上に着地した彼は羽も解き放ち、二人に歩み寄った。

 

 

 

 

†††††††††

 

 

 

 

『End of the Duel!』

 

翌日。

クローディアに連れられ、ユリスを伴って行った演習場のVIP席で天霧と刀藤の決闘を観戦した。

あの日どんなことがあったのかは把握していない空であったが、決闘後の二人をみれば刀藤はちゃんと吹っ切れているのが確認できて安心する。

なお、あのあと空はユリスにこってり怒られたのは言うまでもない。

 

 

「ま、天霧辰明流の多彩さを生かした良い戦いだったな」

 

空が天霧控え室で当人に祝辞を述べると、珍しく同行者のユリスも声を掛けて行った。

それに綾斗は恥ずかしそうに礼を言う。

それが一区切り着いた時、控え室に客の連絡が入った。

綾斗が確認すれば、それは先の決闘の相手刀藤綺凛だった。

おずおずと入ってきた少女は、先の苛烈な戦闘を行った剣客には到底見えない。

 

「綾斗先輩!ありがとうございました!」

 

頭を勢いよく下ろし礼を述べる。

今一度上げた顔はやはり、今までのどこか張り詰めた感じが抜けていた。

 

「それで、負けた身で大変恐縮なのですが、もう一つお願いを聞いては貰えませんか?」

 

どこまで行っても小動物な少女は、顔を赤くしながらそう願い出た。

これは聞いてもいいやつか?―――空がそう思って踵を返そうとしたが天霧は気にせず話を続けさせる。

 

「うん?なんだい?」

 

小さく深呼吸を繰り返していた元序列一位は、ぐっと拳を握り、声を張る。

 

「私と、鳳凰星武祭に出てもらえませんか!?」

 

クローディアと当人を除きその場の全員が驚愕した。

ただ、願われた天霧はすぐに表情を崩す。

 

「俺でよければ」

 

使い所が少し違う...そう思いながらも空はユリスを連れて、静かに控え室を後にした。

後は当人同士の話だし、何よりも同じ出場者が居ては話難いこともあるだろう。

鬼の形相の男とすれ違いながら空はユリスと自分達の鍛練をすべく、来た道を引き返していた。

 

 




や、うん、綺凛ちゃんは綾斗君側だからあんまりモチベ上がんないんだよね。うん。
...最後の方テキトーで、本当に申し訳ない。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。