異世界物語「エイリアン」β   作:ふぉふぉ殿

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大仕掛けの始まり

 

 

 

 神殿の地下墓地にある、一つの墓の蓋がゆっくり静かに開く。そこから現れる人影が一つ。レオだ。地下通路の出口は、墓に偽装されていた。

 辺りにはゼノモーフの姿はない。事前にサラが、夜目の魔法で先に確認済み。そしてレオは、武器や防具を受け取る。それらをゼノモーフ巣である、内臓のような壁の側に置いた。小声で魔法を唱える。

 

「レオ・トリュフォーが願い奉る。万物の誓いを解き、纏いとなれ。ルコンストリュイール」

 

 レオは息を飲み、ゼノモーフの巣のいびつな壁を見つめる。この世界の魔法が効くかが、まず一つ目の賭け。すると、壁は溶け出し、武器や防具に吸い取られるように集まって行く。しばらくして、それは収まった。安堵と共にわずかに緊張を解く魔導士。まず一つ目の賭けに勝ったと、頭の中でつぶやいていた。

 やがてそれらを手にし、地下通路へ戻る。皆の前にそれらを置いた。置かれた武装を装着するジェロム達。

 

「なんとも、妙な手触りだな」

「気色悪りぃ」

 

 クロードは露骨に嫌そうな口ぶり。サラも被ったローブと握った杖の感触に、顔を顰める。そんな彼等の反応をレオは無視して話し始めた。

 

「それで、ゼノモーフの血を防げるはずだ。あの壁や床のヤツは、連中の分泌物で出来てるからな」

「自分達のものが自分達の血で溶けるはずもない、という訳か」

 

 納得顔のジェロム。しかしレオの表情は厳しいまま。

 

「ただし、装備に薄く纏ってるだけだ。あまり衝撃を与えると、剥げ落ちるかもしれない」

「武器に衝撃与えるなとか、無茶言うな」

 

 クロードが剣先を触りながら言う。

 

「気に留めといてくれって意味だよ。一応、できる限り剥がれないようにしたつもりだ。だいたい計画通り行けば、あまり戦わずに済むはずだ」

「だといいがな」

 

 一つ鼻で笑うと、元盗賊は剣を鞘に納めた。

 

 レオは作戦の大筋をまず話したが、確実に進めるための細かなものもあった。その一つは、ゼノモーフと戦闘可能になる事。クイーンを怒らせた後、配下のゼノモーフと全く戦わないというのは難しい。だが接近戦は酸があるため不可能。そこで酸から身を守りつつ戦うために、ゼノモーフの構成物質自体で装備をコーティングしたのだった。

 次に、配下のゼノモーフ達を身動きできなくする。今ので、魔法により巣の床や壁が変形させられる事が分かった。これで壁に潜んでいるゼノモーフ・ウォーリアを、全部に縛り付けてしまおうという訳だ。成功すれば、外からゼノモーフが入って来るまでの間、クイーンに集中できる。鐘が落ちるまでのほんのわずかな時間が、稼げる可能性が大きくなる。

 

 準備が終わり、レオが仲間の覚悟を確かめるように全員に視線を流した。

 

「始めるぞ」

 

 皆は強くうなずいた。彼等の目的地はこの神殿の正面扉。そこが決戦の場だ。

 

 物音を立てず、階段を上るレオ達。壁や床、天井は益々歪な形を露わにし、禍々しさを増していく。そして一階にたどり着いた。目に映るは、まさしく異界。

 信者が礼拝するための椅子には、エッグチェンバーがいくつも並んでいる。当の信者達は、壁にまるで聖人の彫刻かのように貼り付けられていた。しかも一様に胸に穴が空き、こと切れている。おぞましいを通り越し、前衛芸術のようにすら感じる奇妙な光景。

 そして祭壇に陣取るのは、魔界そのものかのような禍々しさを漂わせる巨躯のゼノモーフ、クイーンエイリアン。見た目も一般のゼノモーフとはかなり違う。扇状に広がる頭に、四本の手。背中の突起は鋭く、尾は遥かに長い。その尾の根元には巨大な排卵管が繋がっていた。

 

 息を飲む一同。驚きの声すら出せない。呼吸も忘れるほど。何があるのかは分かってはいたが、いざ目にすると動揺を抑えきれない。よく知っているレオですら、それは同じ。ここにいるのはスクリーンの中の存在ではない。実体としてそこに存在しているのだから。

 しかし、覚悟をすでに決めている彼等。今までの数々の経験が、すぐに冷静さを掴み直す。目的を思い出させる。正面扉はクイーンの対面だ。彼等は、その場所へと足を進め始めた。

 

 クイーンがレオ達に気付いた。ゆっくりと顔を向け、わずかに声を上げる。同時に壁だと思っていた部分が動きはじめた。壁に紛れていたゼノモーフ達だ。侵入者を排除するために、凶暴さを纏い始める。

 すぐさまサラが杖を構えた。

 

「サラ・ユペールが願い奉る。吠える業火よ、空を舐めよ。ラフラム!」

 

 杖の先から炎が伸びる。それはエッグチェンバーの上をかすめた。そしてサラはクイーンを睨みつける。レオ達の意図を理解したのか、ゼノモーフの女王は別の鳴き声を上げた。襲い掛かろうとしていたゼノモーフ・ウォーリア達が、すごすごと下がり出す。

 この反応は予想通り。まさに映画『エイリアン2』でリプリーが、クイーンを脅した時と同じ流れ。

 

 だが次に、また賭けに挑まなければならない。これから向かう先は神殿正面。20メートル程度進めばたどり着く。しかしそれが難関。その間には、エッグチェンバーの群があるのだから。エッグチェンバーは寄生対象が近づくと、口が開き中のフェイスハガーが飛び出してくる。こいつらを刺激しないように、正面扉にたどり着かなければならない。

 

「さてと……」

 

 レオは、並ぶエッグチェンバーの配置を確認していく。

 隙間なく敷き詰められていれば、ここを通り抜けるなど不可能だろう。しかしこうして見る限り、通り抜けられそうな道があった。クイーンから産み落とされたエッグチェンバーは、配下のゼノモーフによって方々に運ばれる。巣にいつまで置かれている訳ではない。そのため、隙間ができる。問題はそれが広いか狭いかだったが、それなりに広いようだ。この賭けにも勝った。

 レオは、身構えたままのサラの左手に手を握る。

 

「レオさん?」

「クイーン、睨んどいてくれ。俺が誘導する」

「あ、はい」

 

 彼女はレオの手を握り返した。強く。その手からわずかに震えが伝わって来る。しかし、レオが見た彼女の、クイーンへ向かう視線は厳しい。わずかな不穏な動きも許さない、と言っているかのよう。いつも控えめな彼女が、今、最大限の勇気を振り絞っている。それはレオにも届く。改めて思った。ここから生きて出ると。

 

「行くぞ」

 

 仲間に声をかけるレオ。一同は壁沿いに、慎重に足を進み始めた。

 

 難関だったエッグチェンバーの並びから、なんとか抜け出した彼等。目的地まであとわずか。クイーンは相変わらずこちらを見ているが、動きはない。サラの脅しが効いているようだ。

 その時だった。

 

「た、助けてくれ……」

 

 脇から聞き覚えのない声が届く。思わず振り向いた先に、壁に貼り付けられた男がいた。しかも、まだ生きている。死相の浮かぶ顔の淀んだ瞳が、救いを求めていた。しかし、助ける余裕などがある訳がない。だからと言って放っておいていいのか。

 だが、そんなものを考える暇の方がなかった。男が突然、口から血を吐き出した。それと同時に胸からも血が飛び出る。胸に穴が空く。その穴から飛び出すものがあった。チェストバスターが。真っ直ぐ彼等へと、飛んできた。

 

「チッ!」

 

 一閃。クロードが剣を振るった。あっさりと斬り殺されるチェストバスター。一方で、クロードの剣も溶けていない。コーティングは効果を発揮していた。

 だがそんな成果は一気に吹き飛ぶ。 だがそんな成果は一気に吹き飛ぶ。

 

「シャァァァッ!」

 

 突然、辺りから一斉に叫びが上がった。ゼノモーフ達の。仲間を殺された怒りの咆哮が、神殿中に響き渡った。

 レオ達の背筋に、恐怖が槍かのように突き刺さる。今の出来事で、全ての計算が狂った。もう、ゼノモーフ達を壁に縛り付けている時間などない。クイーンだけではなく、多数のウォーリア共まで相手にしないといけなくなった。

 

 

 

 

 

 

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