異世界物語「エイリアン」β   作:ふぉふぉ殿

11 / 16
乱戦

 

 

 

「走れ!」

 

 レオの掛け声と同時に、一斉に駆けだす。

 一方、クイーンの叫びを合図に、ゼノモーフ・ウォーリア達が動き出していた。壁から湧くように現れた。扉にたどり着いたクロード。振り返ると、ナイフを取り出した。

 

「クソが!」

 

 力を一杯に籠め投げる。それはクイーンの排卵管の根元に直撃。正面扉と祭壇というナイフ投げの有効射程をはるかに超える距離だが、元盗賊の腕は常識を凌駕。排卵管と本体と切り離した。

 同時にレオが叫ぶ。

 

「サラ!燃やせ」

「はい!サラ・ユペールが願い奉る。吠える業火よ、空を舐めよ。ラフラム!」

 

 エッグチェンバーへ向かって火が走る。一斉に炎に包まれる化物の卵。神殿中央はまさしく火の海。しかし、壁も天井も自由に這うゼノモーフにとっては、障害にならない。

 

「レオ・トリュフォーが願い願い奉る。石厳の絆に新たな結びを。エフォルメラピエー!」

 

 少しでもウォーリアが近づくのを遅らせようと、壁や柱の形を変形させる。突然の変形で、跳ね飛ばされるのもいたが、思った程の効果はない。

 そして最初の一匹が壁を這い、下りてきた。異形が殺気を纏い、真っ直ぐ彼等へ向かってくる。その異質な気を跳ね除けるかのように、ジェロムが叫んだ。

 

「おのれ化物!」

 

 襲い掛かって来た一匹の腰を、愛用のハルバートで真っ二つ。飛び散った返り血を小手で防ぐ。次にクロードが別の一匹を、巧みな足さばきでかわし、これまた腰を両断。

 レオは今までにないほど、彼等に感心していた。これほど頼りになるとはと。

 

 ゼノモーフの皮膚は確かに固い。しかしそれは場所による。特に腰はそれほどでもない。連中の敏捷さを支えるのは、この柔軟性のある腰の部分だからだ。そして胴体で一番細い部分でもある。ただそこを攻撃するという事は、ゼノモーフの懐に踏み込む事も意味していた。それをやり遂げているのだから、技が卓越しているなどという言葉では言い表せない。

 

「シャァァァッ!」

 

 突然、今までにない咆哮が上がった。ゼノモーフには違いないが、ウォーリア以上だ。同時に、神殿中央の炎が弾けていく。地響きと共に。向かってきた。クイーンだ。

 次々と襲い掛かって来る、ゼノモーフ・ウォーリアを捌きながら、ジェロムが叫ぶ。

 

「こちらは任せろ!」

「ああ!」

 

 レオは杖を床につけ、真正面を見る。目に映るのは巨躯のゼノモーフ。まっすぐ向かってくるその姿に、気圧されそうになる。だが意識に緩みはない。チャンスを待つ。化物の右足に集中する。そして、その時が来た。

 

「ルコンストリュイール!」

 

 詠唱を済ましていた魔法が発動。床に敷き詰められているいびつな造形が、さらに歪む。クイーンの足を引っかけるように盛り上がった。そこに右足が引っかかる。

 

「ギッ!」

 

 さすがに驚いたのか、ゼノモーフの女王はわずかな声を上げ、バランスを崩した。しかし、この巨大な体であってもさすがはゼノモーフと言うべきか、倒れるのを防ぎ踏みとどまる。しかもそれだけではなかった。その場で足を止める。まだ扉まで達していない。

 

「チッ!」

 

 レオは舌を打った。計画では、転ばせ、石床を変形させて一瞬動きを止めてしまう手筈だった。しかし失敗。さらに今クイーンのいる場所は、まだ遠い。これでは鐘が当てられない。

 そんな事を考えている、レオの眼前を影が過った。

 

「ボケてんじゃねぇ!」

「クロード……」

 

 気づくと、頭の上にクイーンの長い尾があった。扉に突き刺さっている。クロードがレオを庇ったのだった。

 だが同時に理解する。クイーンが、あの距離でも攻撃できたという事を。つまりゼノモーフの女王は、無理に扉の側に近づく必要がない。益々、鐘を当てるのが難しくなった。

 その時、ガラスの割れる音が神殿内に響く。ステンドグラスが割れ、日が差し込んできた。だがそれはすぐに遮られる。なだれ込んでくる、ゼノモーフ達の影によって。万事休す。絶望感でレオの背に汗が噴き出す。

 

「これじゃ…、もう……」

「まだ終わってねぇ!」

 

 目の前の元盗賊が咆哮を上げた。

 

「少しの間だけでいい。連中の動き、止められねぇか?」

「できる訳ない!」

 

 配下のゼノモーフの動きを止められるのはクイーンを倒すほかない。他に方法があるなら、クイーンを放って町からの脱出を考えている。すると意外な所から了解の答が出てきた。黒い魔導師から。サラだった。

 

「やってみます!」

 

 すぐに詠唱を開始するサラ。

 

「サラ・ユペールが願い奉る。すべからく害を制せ。湧き出せ針の気。ラパルファンデアイ!」

 

 魔法の発動と同時に、頭を殴るような強烈な刺激臭が鼻を満たす。

 

「なんだ!?これ?ニンニク!?」

 

 レオは思わず、鼻を押さえた。息をしたくなくなるほどの匂いだが、ニンニクで間違いない。

 サラは元々魔法ポーション屋で働いていた。香水などの香料も当然扱っている。匂いを作り出す魔法など、慣れたもの。もっとも確かにニンニクは、害獣害虫避けや魔除けとしても使われてはいる。だからと言って、ゼノモーフに効くのか。レオ達は同じ疑問を頭に浮かべていた。

 しかし彼等の目に、驚くべき光景が映る。ゼノモーフ達が悶えているのだ。ふとレオは気づいた。ゼノモーフが相手を認識するのに最も頼るのは、匂いと音。連中は鼻が良かった。むしろ良すぎた。

 

 一時的にゼノモーフの攻撃は止まる。しかしレオには安堵感など全くない。この状況は長く持たない。ここは屋内だからこそ匂いがしばらく留まれるが、すでに窓が開いてしまっている。匂いが弱まるのも時間の問題だ。だがこの一瞬の間を、喉から手が出るほど欲しかった者がいた。

 クロードがジェロムに声をかける。ロープを放りながら。このロープ。掘を上るときに使ったものだ。

 

「俺が合図したら、引っ張れ」

「何!?」

 

 渡されたロープの端を、訳も分からず手にする偉丈夫。その反対側を見ると、クロードの体に結ばれていた。すぐにその意図を察する。匂いに悶えバランスを失っているクイーンに飛び乗り、転ばそうというのだ。確かに前に倒れれば、なんとか鐘を当てられる場所に届く。

 ジェロムの日頃からでかい声が、さらに大きくなり響く。悲痛さを伴って。

 

「バカ者!無茶だ!」

「バカはてめぇだ。俺がこの程度こなせねぇと思ってんのか?」

「し、しかし……」

 

 苦悶の表情を湛えたジェロムを、レオが制した。

 

「行けるんだな」

「任せろ」

「頼む」

 

 口端を上げて答えるクロード。すぐに走り出した。隣ではジェロムが口を強く結んでいた。彼も分かっている。この状況で、他の手などないと。腹を決めると、ハルバートを置きロープをしっかりと両手で握った。

 

「レオ、サラ!悪いが、雑魚共の相手を任せるぞ!」

「ああ!」

 

 レオは叫ぶと同時に魔法を発動。まだ悶えているゼノモーフ・ウォーリアを、床や壁を変形させて捕らえる。サラは冷凍魔法を発動。どちらもゼノモーフの命を奪える魔法ではないが、時間を稼ぐくらいはできるはずだ。

 

 クロードはクイーンに向かって、真っ直ぐ突進。ターゲットの方は、未だ足元がふらついていた。クロードの不敵な口元が、さらに釣り上がる。

 

「鼻塞ぐくらいの頭もねぇのか!」

 

 異形の女王の懐に飛び込むのにも、悪態をつく元盗賊。一瞬でクイーンの鼻先まで迫った。さすがに気付かれたのか、巨大な右手が振り下ろされる。だが這うかのように姿勢を低くし、寸での所でかわす。背後で床が砕ける音。

 

「遅ぇ!」

 

 だが一歩進んだ先には、クイーンに口が鋭い歯が待ち構える。被さるように迫る。クロードは、勢いをそのままにスライディング。さらに低くなった彼に、歯が届かない。しかし、これで終わりではない。中からもう一つの口、インナーマウスが弩を放ったかのように飛び出した。だがこれも身を翻し、かわすクロード。

 

「ヒュッ!」

 

 冷や汗と共に、声が零れる。

 インナーマウスについては事前に聞いていたとは言え、初見でかわす身の軽さは木の葉が舞うかのよう。後は、クイーンの足を踏み台にして、背後に飛び乗るだけ。

 しかし突然、その身が止まる。何かに引っかかった。その場所を見る。目に映ったのは、掴まれている左手。先ほど交わした巨大な手にではない。胸元の小さな手にだ。クイーンには腕が四本ある。二本は肩に、残りの二本は胸元から生えていた。長さ自体は短いが、それだけに懐に入った時には厄介な障害だった。

 

「チッ!」

 

 舌を打つのと同時に、右手で剣を抜くクロード。狙うは掴んでいるクイーンの腕の間接。硬い皮膚の隙間を見切り、見事に腕を切断。しかし、そこから血が噴き出した。酸の血が。彼の左手にまき散らされる。

 

「ぐあっ!」

 

 溶けだす左手。

 

「クロード!」

 

 仲間の叫びが彼の耳に届く。

 

「クソが!」

 

 元盗賊は、焼けるような痛みが走る左手を無視し、起き上がるとすぐに動き出す。クイーンの左足へ飛び、そこから跳ねる様に背に取り付いた。ロープを背の突起に巻き付ける。

 

「やれ!ジェロム!」

「おう!」

 

 ジェロムがあらん限りの力を込め引っ張る。身体中の筋肉が、一斉に十全の力を発揮する。しかし状況に変化はない。

 

「う、動かん!」

 

 その言葉が、焦りとなって皆に突き刺さった。

 相手はクイーンエイリアン。並のゼノモーフでも熊以上の力があるというのに、いくらジェロムの腕力が人並み外れていると言っても比較にならない。例え足元がまだおぼつかないと言っても、クイーンはクイーンであった。

 レオが杖を手放す。

 

「サラ!手伝え!」

「は、はい!」

 

 二人の魔導士はロープを掴んだ。しかし、それでも動かない。レオはロープを引っ張りながら、視線をクイーンの背後に巡らす。割れた窓から次々と張り込んで来るゼノモーフ達の姿が見えた。背筋を締め付けるような切迫感が走る。もはや猶予など、一呼吸する間ほどしかなかった。

 

 クイーンの背にしがみ付くクロードの額に、焦りの汗が浮かぶ。動かせないクイーン。窓からあふれ出す大量のゼノモーフ。ニンニクの匂いも薄れはじめている。さらに、ふらついていたクイーンの動きがしっかりし始めた。

 

「ざけんな!」

 

 こんな所で終わる訳にはいかないと、言わんばかりに叫ぶ。エヴァの仇を必ず取るという決意を、噛みしめる。

 クロードは残った右手で剣を抜いた。そしてクイーンの背、固い皮膚の隙間を見切り、突き刺した。

 

「ギャッ!」

 

 鼓膜を割くような咆哮と共に背中を大きく振る、異界の化物の女王。クロードを振り落とそうとする。

 

「色気のねぇ声出すな!女王様だろが!」

 

 意地でも張り付く元盗賊。しかし、相手はクイーンだけではなかった。その叫びを聞いたウォーリア達が、一斉にクイーンを目がけ走り出した。自分達の女王に無礼を働く不届きものに向かって。

 

「へっ」

 

 自分に飛びかかって来るゼノモーフ達を見ながら、クロードは笑っていた。

 クイーンの背に5匹のウォーリアが飛び乗る。不埒な人間を始末するために。だがこれこそ彼の狙いだった。いきなり多数のゼノモーフに乗りかかられたクイーンは、バランスを崩し前に倒れる。

 クロードが渾身の力を込め叫ぶ。

 

「レオ!やれ!」

「……!」

 

 躊躇する間などない。次にクイーンが起き上がれば、完全に終わる。打つ手はない。レオは杖を床に付けた。

 

「レオ・トリュフォーが願い奉る。万物の結びを解き放て。ブリズラロッシュ!」

 

 扉の両脇にある鐘楼の壁に、真っ直ぐヒビが入った。次の瞬間に崩れ出す鐘楼。

 一方、ジェロムが扉に向かって、ハルバートを振り下ろす。一発で壊れる扉。

 

「出るぞ!」

 

 騎士の掛け声を聞くまでもなく、レオとサラは走り出していた。皆、外へ向かって飛び出す。同時に背後で響き渡る破壊音。舞い上がる土埃。目前で火山が噴火したかのごとく。

 

「グギャッ!」

 

 崩壊に混ざり込む悲鳴を、レオ達はしっかりと耳で捕らえていた。クイーンの断末魔を。一瞬の安堵感が、彼等の胸に芽生える。しかしすぐに別のものが、彼等の脳裏を過った。

 

「クロード!」

 

 ジェロムがロープを力任せに張った。そして瓦礫から姿を見せる元盗賊。奇跡が起こった。あれほどの破壊の中から、彼を引っ張り出せたのだ。

 

「しぶとい奴め!あんな状況で……」

 

 大柄の騎士の言葉はそこで切れた。一瞬歓喜に染まったジェロム達の顔が、暗く沈む。確かにクロードを引っ張りだせた。しかしそれは、上半身だけ。ただその表情は、満足そうに見える。いつもの小憎らしさを漂わせた、笑いを湛えていた。

 

「クロード……。見事な働き、見せてもらった。あれほどの動きができる者なぞ、二人とおるまい」

 

 ジェロムが彼の瞼をいたわるように閉じる。それを思いつめたような表情で、無言で見つめるサラ。だがその二人に、静かだが鋭い声が届いた。レオだった。

 

「サラ、ジェロム。急ぐぞ」

 

 仲間との別れに水を差す声に、不満げな顔を向ける偉丈夫。しかし目に入ったのは、息をするのも忘れるほどの異様な有様だった。サラも口元を押さえ、同じく言葉を失っている。

 ゼノモーフが山のように積まれていた。折り重なっていた。下水のドブネズミを一匹残らず追い出し、始末したかのように。これほどの数がすでに生まれ、クイーンを守るため集まって来ていたのだ。ゼノモーフは千匹以上いるかもしれないとレオは言ったが、あながち外れていないかもしれないと思ってしまう。

 

「うむ……。急ごう」

 

 ジェロムに厳しい表情が戻って来る。レオ達は、気を引き締めた。今ここで倒れているゼノモーフ達は死んだ訳ではない。クイーンを失い、一時的に痙攣しているだけだ。せっかくクロードが命を賭して作ったこの瞬間を、無駄にするは訳にいかない。

 

 三人は化物の山を避け、走って城壁へ向かう。無言のまま。やがてたどり着くと、レオがスロープを作り出した。すぐに城壁の上まで上がる。そこから見えるのは、外へ出るスロープ。来たとき作ったものが、そのまま残されていた。

 

「馬は無事らしい。行こう」

 

 魔導士が掛け声をかける。滑って降りる三人。木に結び付けていた手綱を解くと、馬に飛び乗った。すぐに走らせる。レオはしばらく進むと、ペティバションの町へ視線をわずかに向ける。ラッジ、エヴァ、クロード。三人の仲間を失い、そして置いてきてしまった。

 道の先へと目線を戻す。唇を固く結びながら。何を悔いればいいのか分からない。頭の整理がつかない。とにかく今は、町に戻る。それだけだ。ゼノモーフは全滅した訳ではないのだから。次の戦いはさらに過酷になる。レオには、そんな確信があった。

 

 その時だった。暗闇と言える程の真っ黒な影が、目の前に現れる。しかもそれは自分の影だ。理解が追い付かない。これはなんなのか。ただ一つだけ分かる事がある。強烈な光が背中から差してさしていると。

 振り返ったと同時に、耳を切り裂くほどの爆音。それに伴う、猛烈な突風。レオ達は馬共々吹き飛ばされた。

 

「な、何事だ!?」

「きゃっ!?」

 

 ジェロムとサラから悲鳴が上がった。転げ落ちながらも、身を守る三人。大した怪我もなく、ゆっくりと立ち上がる。すでに光も突風も収まっていた。しかし、残ったものがある。茫然とそれを見る三人。サラが指さしながら口を開いた。

 

「何……です?あれ……?」

「分からん……」

 

 ジェロムは何も返せない。

 レオも答えない。だが彼には分かっていた。目に映るものが何なのか。巨大な爆発の後に発生する、強烈な上昇気流で起こる雲。きのこ雲だ。

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。