異世界物語「エイリアン」β   作:ふぉふぉ殿

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犯人発見

 

 

 きのこ雲がペティバションの上にあがっていた。すなわち爆心地はペティバションの町。立派な城壁で囲まれていた町の中は、まさしく地獄の窯の底となっているだろう。あんな灼熱の中で生き残れる生物はいない。例えゼノモーフであっても。

 次の瞬間、レオの脳裏に以前の記憶が蘇る。

 

「まずい!ヤツが来る!」

「ヤツ?」

 

 サラが不思議そうな声を上げていた。しかし耳に入らないレオ。

 そもそもよく考えてみれば、今回の出来事は不可解な点が多すぎる。内陸の山際の町であるペティバションに、どうしていきなりゼノモーフが現れたのか。誰かが持ち込みでもしなければ、あり得ない。そしてその誰かに、レオは見当を付けていた。

 

 不意にドンという何かが落ちた音が、背から届く。振り返ったレオ達。そこに奇妙なものがあった。20メートルほど先の道の中央に、エイリアンクイーンの首が。しかも、それは何故か空中に浮いていた。

 ジェロムもサラも、唖然と理解不能な現象を見つめる。口を半ば開けながら。

 だが、レオの鋭い声が、彼等の意識を覚ました。

 

「サラ!ジェロム!得物を捨てろ!」

「え!?何でです?」

「いいから早くしろ!」

「わ、分かりました……」

 

 訳も分からず杖を置くサラ。しかしジェロムは拒否。愛用のハルバートをしっかり握ったまま。

 

「説明しろ!」

「バカ!死ぬぞ!」

「意味が分からん!」

 

 その時、二人を影が覆った。視界の隅に入るのは、エイリアンクイーンの頭。

 

「何!?」

 

 困惑しながらも、反射的にハルバートで弾くジェロム。さすがの剛腕の騎士と言うべきか。頭を跳ね飛ばした。

 すると奇妙な声が彼等の耳に入った。再生音のような、機械的な声が。

 

『見事な働き、見せてもらった』

「わ、私の声……?」

 

 耳に入ったのは、まさしくジェロムの声そのものだった。つまりレオ達は、ずっと監視されていた訳だ。目の前の存在に。

 

 顔を顰め、目を凝らす騎士。ふと陽炎のようなものがあるのに気づく。すると不思議な事に、陽炎が剥げ落ちるように無くなって行く。やがて、その陽炎の向こうにあるものが姿を現した。ドレッドヘアーに奇妙なマスクをした、軽装の巨躯がいた。その上背はジェロムをも上回っている。

 宙から抜け出したかのように現れた得体のしれない人物に、ジェロムもサラも警戒心を跳ね上げる。すると相手は、腰から円盤状のものを手にした。いきなりレオ達に向かって投げつける。魔導士が叫んだ。

 

「伏せろ!」

 

 レオに釣られるように、身を沈めるジェロムとサラ。ところが円盤状のものは彼等を追尾するように曲がり、ジェロムの頬をかすめた。そして相手に戻って行く。騎士の頬から血が垂れる。憤然と立ち上がる偉丈夫。

 

「何のつもりか!我等は、貴様の相手などしている暇なぞない!」

 

 激高するジェロムに、相手は何も返さない。代わりというべきか、両腕の籠手から隠しナイフを伸ばす。刃で答えると言わんばかりに。

 

「やろうと言うのか!よかろう!」

「ジェロム!止まれ!」

 

 レオの声など耳に入らず、威勢を纏い向かっていく。相手の方は構えただけで、動かない。そして目前に迫ったジェロム。

 

「フン!」

 

 空間を断ち切るかのような勢いで振り下ろされるハルバート。仲間を失った怒りを、全て力に変えたかのごとく。しかしそれほどの勢いを、相手は右手一本の刃で平然と受け止めた。

 

「なっ!?」

 

 驚愕がジェロムを襲う。だが状況を理解する前に、蹴り飛ばされる。2メートルはある偉丈夫が、サッカーボールのように軽々と。騎士はレオ達の前に落ちた。

 

「ぐっ……。いったい……」

「ジェロム!戦うな!」

 

 さっきから続くレオの制止の言葉。

 一方、相手は彼等の様子など意に介さず。腰から短い棒のものを取り出した。それは軽い音と共に伸び、槍となる。そして振りかぶった。瞬時に投擲される槍。

 

「ぐふっ!」

 

 レオ達が最後に聞いたジェロムの言葉は、ただの嗚咽。その胸が、分厚い鎧ごと槍で貫かれていた。心臓のある場所が。

 手を施す暇もなく、息絶える騎士。それを茫然と見つめるしかない、レオとサラ。

 

「あ、あなた……!ど、どういうつもりですか!?」

 

 相手に、泣きわめいているかのように問いかけるサラ。そこにレオの激しい声が差し込まれる。

 

「やめろ!」

「で、でも……!」

「通じない。いや、通じても、こっちの言う事なんて聞かない」

「あ、あの人は、なんなんです!?」

「人じゃない」

「え……?」

「ゼノモーフと同じ。別世界から来たヤツさ。ゼノモーフ持ち込んだのも、たぶんヤツだ」

「……!」

 

 息を飲む女魔導士。

 

「プレデターって呼ばれてた。この世界のものよりも、ずっと強力な武器をいくつも持ってる。体も人間より遥かに強い」

「で、でも、何のため私達を襲うんです!?」

「狩りさ。狩りが趣味なんだよ。ヤツらは。ゼノモーフも狩りのために持ってきたんだろ」

「趣味?趣味なんかのために、町の人も、皆も……!」

 

 いつも控えめな彼女が、怒りを絞り出すように言う。しかし、レオの頭にあるのは別の事だった。どうやってここを潜り抜けるか。

 

「逆に言えば、大して面白くもない獲物は狩らない」

「面白くないって……?」

「武器を持ってないヤツとか、病気のヤツとかさ」

「だからさっき得物を捨てろって……」

「ああ……」

 

 悔いを滲ませる声を漏らすレオ。しっかり説明できれば、ジェロムを死なせずに済んだかもしれない。あの時、飛びかかってでも彼と止めるべきだったか。またも後悔が、彼の脳裏を過る。

 レオはゆっくりと立つと、両手を上げた。まさしく降参のポーズ。そして顎でサラにも合図する。彼女も手を上げた。

 

 対するプレデターは両手のリストブレイドを収め、構えを解く。そして何故か脇を見た。ジェロムが弾いたクイーンの頭の方を。次の瞬間、左肩にある機械、プラズマキャスターが光を放つ。一閃、直撃。爆発音と共に、クイーンの頭は砕け散った。

 

「なっ……!?」

 

 レオは唖然としたまま、破片となったクイーンの頭を見る。そしてプレデターの方へ顔を戻した。今の行動が何のつもりなのか、まるで理解できない。

 だが別の意図には気付いた。プラズマキャスターが今度はレオ達の方に向いていた。

 

「サラ!」

「え!?」

 

 サラの手を引っ張り強引に伏せさせるレオ。同時に二人の周りで爆発が三つ起こる。プレデターが攻撃してきた。しかし何故か命中しなかった。

 警戒しながら顔上げ、見回す魔導士。弾は彼等を囲むように着弾していた。どうも、殺す気はなかったようだ。今は。

 突然、目の前に土煙が上がる。プレデターが飛んできた。あんな距離を一発で。ただただ目を見開き、この異界の狩人を見つめる二人。するとプレデターは指さす。彼等の杖を。レオは、さっきの外した弾の意味を理解した。

 

「そうかよ」

 

 大きな呼吸を一つ。腹を括る。

 

「サラ。どうもこいつは、俺たちとやり合いたいらしい」

「そんな……!だって私達、そんな事してる場合じゃ……」

「たぶん、さっきの爆発でゼノモーフは全滅した。あれもこいつの仕業さ。後始末はしっかりしたみたいだ」

「全滅?自分で放しておいて、自分でみんな殺しちゃったんですか?なんなんです、それ?何が目的なんです?」

「言ったろ?狩りが趣味だって。強い獲物を相手にしたかったんだろう。あのゼノモーフは、獲物の選別試験って訳さ。その試験に、俺たちは合格したんだよ」

「……!」

「どっちにしても、こいつに勝たないと生きて帰れない」

「分かり……ました」

 

 静かだが覚悟が籠ったサラの声。

 二人は杖を手にし、立ち上がる。彼等を見るプレデターは、どこか満足そうだ。

 

『見事な働き、見せてもらった』

 

 またも、さっきのジェロムの録音音声。そしてプレデターは、彼に刺さっていた槍、コンビスティックを抜くと、短くして腰に添える。すぐに光学迷彩、クローキングを発動。文字通り姿を消した。やがて地面を強く蹴る音と共に、気配も失せる。

 

 レオは唇をわずかに噛んだ。全ての真相は分かった。だが結局の所、あのプレデターの狩りという道楽に付き合わされているだけだ。そのせいでペティバションの住民も、ラッジも、エヴァも、クロードも、ジェロムも死んだ。そして次に自分達の命が狙われている。無性に怒りが湧いて来た。この理不尽な状況に。

 その時、不意に頭を叩かれたかのように一人の人物が思い浮かぶ。あの親父が。この世界に生まれる前、奇妙な暗闇にいた太った親父。サングラスをかけ、キャップを被っている。バミューダパンツに半袖シャツを着た薄着た親父。あのハワイ親父は言っていた。『多少の苦労はあるだろう』と。

 

「これがかよ。ふざけんな」

 

 誰もいない虚空に向かって、レオは悪態をついていた。

 

 

 

 

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