異世界物語「エイリアン」β   作:ふぉふぉ殿

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決闘開始

 

 

 

 ジェロムの遺体に視線を落とし、レオはポツリと独り言を漏らす。

 

「準備時間くらいは、くれるのか」

 

 あの間合いでプレデターに接近戦を挑まれれば、成す術なく死んでいただろう。だがあの狩人はそうしなかった。つまりは、全力の彼等と戦いたいという訳だ。その潔さに、笑いたくなるほど。もっとも、相手が圧倒的に有利なのは変わりない。

 周りに視線を流す魔導士。プレデターなど影も形も見えない。それどころか、去った方角さえも分からない。知ってはいたが、想像以上にクローキングは厄介だ。

 

「まともにやりあっちゃ、勝てるはずないか……」

 

 彼は頭の後ろを誤魔化すように掻く。ふとマントのフードが手に触れた。ゴワゴワとした違和感のある肌触り。

 

「これって……」

 

 急にサラの方へ振り返るレオ。

 

「サラ、とりあえず森に隠れる。行くぞ」

「でも……ジェロムさん、このままじゃ……」

「時間がない。ヤツを倒した後だ」

「……分かりました」

 

 道に仰向けになったままの騎士に背を向けると、二人は道の脇にある森へ入って行った。そして下木が茂った一画にしゃがみ込む。身を隠したかのような動きだが、プレデターが相手となると話は別だ。隠れていないも同然。もちろんこれは、レオも承知していた。

 彼は小声で話し始める。

 

「ローブで体を巻き込め、肌が出ないようにしろよ」

「?……はい」

 

 理由は分からないが、ここは指示通りにするサラ。全てレオに任せる。そう心に決めていた。彼もフードを被りマントで身を包む。そして二人は団子のように小さくなって、進みはじめた。10mほど進み、別の茂みに紛れ込む。レオは小声で話しはじめた。

 

「ここでいいかな。サラ、ローブそのままな」

「はい。あの……これ、なんなんです?」

「ああ、プレデターから姿を隠すためさ」

「姿を隠す……ですか?」

 

 不思議そうに返すサラ。プレデターの事を知らない彼女。こんな反応も無理はない。レオは一つ呼吸を挟み、気持ちを落ち着かせると小声で説明し始めた。

 

「プレデターは熱で物を見てる」

「熱で見る?」

「ちょっと想像しづらいかもしれないけど、温かいものほどよく見えるんだ。例えば、木や地面より人間は温かいだろ?だから見える。つまり、茂みや闇夜に隠れても簡単にばれる」

「あのゼノモーフに似てますね」

「アイツらは匂いだったけどさ。ただ逆に言えば、熱さえ遮断してしまえばこっちは見えない」

「ですけど、マントとかローブじゃ無理じゃないです?」

 

 ローブやマントで熱が遮断できれば、冬に着こまなくてもいい。その程度では熱は逃げていく。だから冬は厚着をする。

 レオは当然の疑問に肩をすくめていた。

 

「ゼノモーフの皮膚は熱を通さないんだよ」

「それがいったい……あ!」

 

 サラは気づいた。二人が身に着けているローブやマントは、ゼノモーフの巣の材料でコーティングされている。ゼノモーフの皮膚と同じ効果があった。あの化物の血から身を守るためにした事だが、予想外の幸運を拾った。

 サラの顔にわずかに明るさが浮かぶ。

 

「これでプレデター……でしたっけ。あれと同じ条件ですね」

「そうもいかない。向こうはどんな姿勢だろうと隠れられるが、こっちは指の先も見せる訳にはいかない。それに、ずっと丸まっとくってのも無理だしな」

「それも、そうですね……」

 

 すぐに厳しさが戻る彼女。

 ともかく手を考えるだけの時間は稼げた。ただできれば、日が出ている内に勝負をつけたい。暗くなれば、赤外線を見られるプレデターの方がさらに有利になる。そして日が落ちるまでの時間は、それほど残されていなかった。

 

 それからレオは、プレデターに知っている知識を全て話す。威力を上げれば城壁にすら穴を空けるエネルギー砲、プラズマキャスター。あらゆるものを切断する誘導可能な投擲円盤、スマートディスク。貫通力抜群な槍、コンビィスティック。しかければ自動で反応する各種地雷、レーザーマインやプロクシミティマイン。相手の動きを封じる網を放つ、ネットガン。接近戦用の収納可能な刃、リストブレイド。他の様々な武装もできるかぎり伝えた。そして人間を遥かに凌駕する身体能力も。

 サラは息を飲んでその話を耳に収める。ただでさえ暗い雰囲気のある彼女が、余計に暗く感じられる。

 

「近づかれる訳にはいかないですね」

「ジェロムでも、相手にならなかったくらいだからな」

「ジェロムさん……」

 

 彼の最後の光景が、二人の脳裏を掠めた。だからと言って、遠距離戦も厳しい。特にプラズマキャスターに対する術がない。破壊力は言うまでもなく、スナイパーライフル以上の精度の高い射撃が可能なのだから。

 ふと、不意に妙なものが頭を過った。あの時のプレデター台詞、『見事な働き、見せてもらった』というもの。ジェロムの録音音声。

 

「待てよ?プレデターって俺たちの事、ずっと見張ってたっけ」

「なんで分るんです?」

「だって、クイーン倒したの知ってたしさ。そうじゃないとクイーンの頭、持ってこれない。つまり俺たちが、どんな戦い方するか知ってる」

「それじゃ、私達の有利な所ってほとんどないって……事ですか……」

「けど、全部は見せた訳じゃない。俺もサラもさ。逆に全部分かったと思ってくれてた方が、裏をかける」

 

 レオはまた頭の回転数を上げていく。そして一つの手を思いついた。サラが見た彼の表情は、ゼノモーフを倒す方法を思いついた時のそれだった。暗い気配を纏っていた彼女の表情が、わずかばかり明るくなる。

 彼は口を開いた。

 

「川が近くにあったよな」

「ええ。確か、向こう……だったと思います。」

「あっちか……。よし、川岸に罠をしかけてヤツを倒す」

「はい!」

 

 サラは力強くうなずいていた。

 

 

 

 

 

 レオ達は団子の状態を維持したまま、川岸へ進む。歩くよりも遅い速度なので、予想以上に時間がかかってしまったが、なんとかたどり着いた。そして丁度いい場所を見つけた。

 

「あそこにしよう」

 

 指さした先は、川のすぐ側。一面が小石で覆われている広めの川岸だ。ただ広さはそれほどでもなく、数メートル先には高い木がいくつも生えていた。彼等はその一つ、ひと際大きな木の脇の繁みに陣取る。

 レオはサラへ、力の籠った声をかけた。作戦開始の合図を。

 

「やるぞ」

「はい」

「レオ・トリュフォーが願い願い奉る。土塊に秩序と誓いを。ドロルンムーレ」

 

 杖を伸ばした先の土が盛り上がり、一つの形を作り出す。それは人がしゃがんでいるかのような形だ。しかも、彫像かのようなリアルなもの。

 

「そらよっ!」

 

 魔導士はそれを蹴り、水辺の際の辺りまで転がす。その後、付近の岩を魔法で動かし土人形を調整、あたかも川岸に人がしゃがんでいるかのような状態を作り出した。次にサラが魔法を唱える。

 

「サラ・ユペールが願い奉る。万物を始まりへと戻せ。土に返せ。セコロンピュ」

 

 土人形に、闇魔法である腐敗の魔法をかける。ただし弱めに。

 腐敗とは発酵現象。つまり熱が発生する。それは火の魔法とは違い、程よい具合に体温と同じくらいになる。そしてこんな開けた場所で、人型が体温を持つ。形状の判別能力が低いプレデターには、これが人間に見えるはずだ。すなわちこれは囮だ。

 

 しばらく二人は茂みの中で、身を縮めその時を待つ。そしてそれはすぐに訪れた。

 光弾が右から飛んでくる。人型の土塊に直撃。爆音と共に粉砕された。

 

「……!」

 

 その様子を、息を殺しながら見る二人。仕掛けるべき時を待つ。プレデターは狩人。虐殺者ではない。狩りの成果を必ず確認に来るはずと読んで。

 

 突然、土塊のすぐ側の岩が跳ね上がった。何かが落ちてきたかのように。ただ、その何かの姿は見えない。だがレオとサラには分かっていた。降りて来たのは、クローキングでカモフラージュしているプレデターだと。待っていた時が来た。

 レオは杖を地面に付ける。

 

「レオ・トリュフォーが願い願い奉る。石厳の絆に新たな結びを。エフォルメラピエー!」

 

 いきなりプレデターの足元が沈んだ。不意の出来事に対応できず、穴に落ち込む。しかも穴に入ったのはプレデターだけではない。場所は川のすぐ側。突如空いた穴に、川の水が一気に流れ込む。クローキングが解け、姿を露わにする異界の狩人。クローキング機能は、水に弱いという欠点があった。

 だが仕掛けはまだまだ続く。すぐさまサラが魔法を唱えた。

 

「サラ・ユペールが願い奉る。流れに静寂を、塊へ誘え。セジュレ!」

 

 川が一気に凍り出す。当然、プレデターが嵌っていた穴の水も。

 下半身を氷で拘束され、身動きできない異界の狩人。リストブレイドを伸ばし、氷を割ろうとするが、すぐに動きだせるほど砕けない。完全に罠に絡めとられたプレデターに、レオは最後の仕掛けを放つ。脇に生えている巨木に杖を添えた。

 

「レオ・トリュフォーが願い奉る。万物の結びを解き放て。ブリズラロッシュ!」

 

 巨木の根元が弾ける。ゆっくりと倒れだす巨木。その先には身動きできないプレデターがいた。

 木が倒れ込んできているのに気づき、プラズマキャスターを続けざまに打ち放つプレデター。爆発の閃光が上がる。だがそんな足掻きも、ほんのわずかな間のみ。巨木は無駄な抵抗と言わんばかりに、地響きと共に横たわった。異界の狩人がいた場所に。

 

「やった!」

 

 思わず立ち上がり、歓喜の声と同時に拳と強く握るレオ。

 

「サラ!やった!助かった!」

「はい!」

 

 サラにも一杯の笑顔が浮かぶ。レオはサラを力強く抱き寄せ、サラもその身をレオに預けた。勝利を掴んだというより、共に生き残ったという事実が二人を包み、高揚させる。

 

 ところが不意に、彼等の眼前で奇妙な事が起こる。突然、巨木の上半分が分離して、宙へと跳ね上がった。そして露わになったものがある。プレデターだ。あの怪物は死んでいなかった。

 巨木が倒れて来た時、プラズマキャスターで撃ったのは木ではなく地面だった。地面に伏せられるだけの空間を作ったのだ。

 単に強力な武器を持っているだけでも、身体能力が優れているだけでもない。機転も利かす。彼等は本能だけのゼノモーフとは違う。野蛮だが知能のある存在なのだから。

 

 歓喜は一転、絶望に叩き落とされた。茫然と狩人を見つめるレオとサラ。そのレオに向かって、まっすぐにレーザーサイトの三本のレーザーが伸びていた。

 

「しまっ……!」

 

 レオが気付いた時には遅かった。光がプレデターの左肩から発生。レオの頭は、死という言葉で溢れかえっていた。

 

 

 

 

 

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