異世界物語「エイリアン」β   作:ふぉふぉ殿

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必殺の罠

 

 

 

 レーザーサイトがレオをロック。プレデターの左肩から放たれる閃光。避ける暇も、防ぐ手立てもない。死を覚悟する間も。

 だが何故かレオは死んでいなかった。

 

「え!?」

 

 体を確かめるが怪我すらしてない。一瞬、サラに狙いを変えたのかと思ったが、彼女も無事だ。それどころか、プレデター自身が、怪訝そうに首を傾げている。

 また特徴的な三本のレーザーが彼等を捕らえる。

 

「伏せろ!」

 

 慌ててサラと共に倒れ込むレオ。しかし伏せたくらいで、追尾は外せない。そしてまたもプラズマキャスターが発射された。ところが光弾が飛んだのは、明後日の方角。まるで違う場所が爆発した。

 何が起こっているのか分からない双方。彼は目を凝らす。よく見ると、プラズマキャスターが小刻みに震え、時々あらぬ方へ向いていた。

 

「壊れた!?」

 

 少なくとも、マスクと連動できなくなったのは確かなようだ。倒すのは失敗したが、仕掛けは無駄ではなかった。

 

「逃げるぞ!」

「え!?あ、はい!」

 

 サラの手を掴み、走り出すレオ。

 

「オォォォォ!」

 

 怒号とも威勢とも聞こえる雄たけびを上げるプレデター。思わず振り向いたレオの目に、右手を彼等に向ける狩人が見えた。

 

「マズイ!」

 

 彼はサラに抱き付くと、横っ飛び。放たれるネットガン。辛うじてかわす二人。だが、レオの首が突然引っ張られた。

 

「ゲッ!?」

 

 そのまま、側の木へ叩きつけられるレオ。一体何が起こったのか。痛みに耐えながら、辺りを見回した。するとネットの端にある杭の一本が、マントを貫いているのに気付く。杭は木に刺さり、レオを捕らえていた。

 サラが慌てて駆け寄ってくる。

 

「レオさん!」

「逃げろ!」

「逃げません!」

 

 彼女はすぐさまプレデターの方へ振り返ると、魔法を唱えた。

 

「サラ・ユペールが願い奉る。吠える業火よ、空を舐めよ。ラフラム!」

 

 炎の魔法を放ち、辺りの木を燃やす。彼女はプレデターの弱点をすでに理解していた。プレデターは赤外線を見る。つまりは炎を壁にすれば、目くらましになった。

 サラはナイフを取り出すと、レオのマントを切り裂く。なんとか戒めから抜け出す魔導士。彼女と共に走り出した。火に紛れて。

 

「ウォォォォッ!」

 

 逃げる二人の背後から、またも雄たけびが上がる。振り返ると、木へと飛び移るのが見えた。そしてすぐにクローキングで姿を消す。

 

「ヤバイ!」

 

 レオはサラの前に回り込むと、彼女のローブに入り込み後ろに倒れた。いきなり抱き付かれ、サラの頭は一気に沸騰。

 

「レ、レ、レ、レオさん!こ、こ、こんな時に何やってんです!?」

「ローブで姿隠すんだよ!俺のマントはもうダメだ」

「あ!」

「それに、今、ヤツは木の上にいる!火でごまかせない!」

「え!?」

 

 彼の行為が身を守るためと分かると、彼女も彼を包む様に小さくなる。

 

 しばらく動きを止める二人。サラはこの抱き付いている状態と置かれている状況のおかげで、頭の中では羞恥心と危機感とでぐちゃぐちゃなっていた。ひたすら、落ち着けと何度も自分自身に語り掛ける。

 一方のレオは、冷静さを取り戻しつつあった。そして森を観察する。時々、枝が大きく歪み、葉が擦れる音がした。プレデターは、木から木へと飛び移っているらしい。だがこんな雑なジャンプでは、クローキングをしている意味がない。居場所を教えているようなものだ。

 しかもプレデターはどこへ向かうでもなく、森の奥へ向かったと思ったら戻って来るを繰り返す。四方八方、そこら中を飛び回っている。闇雲に自分達を探しているのか。ただ正直な所、彼には癇癪を起こしているようにしか思えなかった。見下していた相手に、一杯くらわされたのが堪えたのだろうか。

 

「行ける……かもな」

 

 希望が次第に膨れだすレオ。相手が冷静さを失ってくれれば、付け込む隙が大きくなる。

 次の手立てを考える余裕の生まれる魔導士。不意にジェロムの酒場での言葉が思い出された。小声で尋ねる。

 

「ペティバションって温泉出てたんだよな」

「え、あ、はい。随分昔に、出なくなったそうでけど」

「そうか……」

 

 レオは一言だけ言うと、杖を地面に付けた。

 

「レオ・トリュフォーが願い奉る。大地の結び、露わにせよ。アリナーズストリクチラ」

「?」

 

 彼は地下の構造を探る魔法を使った。ただサラには、レオがなんのつもりでそんな魔法を使ったのか分からない。さっきの質問の意味も。ただ彼が何かをまた思いついたのは分かる。その表情に、サラも次第に落ち着きを取り戻してきた。頭をピンク色に染めている場合ではないと。

 次の質問を出すレオ。

 

「畑って、どっちだっけ?」

「畑ですか?」

「ああ」

「あっちです」

 

 川側近くまで畑があったのを、この町に来たときサラは覚えていた。川に沿って行けば畑に付くはずだと。

 

 

 

 

 

 二人はかなり無理をしながら進んだ。一枚のローブと半分もなくなったマントで身を隠しながら。しばらく進むと木々の隙間から、畑が見える場所までたどり着いた。足を止める二人。レオは黙って畑を眺める。

 

「あそこか……」

 

 彼は目的の物を見つけた。そして魔法を唱える。

 

「レオ・トリュフォーが願い奉る。万物を成すものよ。手を携え露わとなれ。ルケイル」

 

 レオの杖の先に、野球のボールくらいの固まりが現れる。それを手にした。サラが尋ねる。

 

「えっと……これはいったい……?」

「硫黄の塊。これでプレデターを吹き飛ばす」

「え?魔法の触媒ですか?それ」

「火薬だよ」

「火薬……あ!」

 

 サラはその言葉にすかさず反応した。表情を明るくして。火薬とは黒色火薬。硝石と硫黄、炭の混合物。

 爆薬は鉱物の生産量を飛躍的に伸ばす、鉱業の必需品。爆発自体は魔法でも起こせるが、魔導士に頼っていては効率が悪すぎる。そのため、レオは各種爆薬の研究もしていた。サラは、その時に教えてもらっていたのだ。爆発を魔法に頼らず起こす方法を。そして、その破壊力も実験で知っていた。

 光明が見えたかに思ったサラだが、表情が曇りだす。

 

「レオさん。でも……炭も硝石もありませんよ」

「あるさ。あそこに」

 

 レオが指さしたのは、畑の一画にあるつつましい家。農民の住まいだ。

 

「たぶん炭が置いてあるはずだ。なくても窯に薪が炭になったのが残ってるはず」

「硝石は?」

「それはあそこ」

 

 今度は、その家から少し離れた場所を指さした。屋根がかけられ、半分地面に埋まった桶を。これは、いわゆる肥溜めだ。長年使った肥溜めには、硝石ができる。

 納得の表情を浮かべるサラ。

 そしてレオは彼女の方を見た。

 

「サラ、手伝ってくれ」

「はい、もちろん」

 

 力強いサラの言葉。火薬は材料を湿らせた状態で作る。だから、乾燥させないと使いものにならない。それをこの切迫した状況下、短期間で仕上げるには、サラの水の魔法による乾燥の効果が不可欠だった。

 しかし、まだ条件が全て揃った訳ではない。大きな問題が一つあった。

 

「レオさん」

「ん?」

「火薬を作るにしても、あそこまでどうやって行くんです?」

「……」

 

 二人は目標の場所を見つめる。畑の中にある家を。つまり森出て、畑を横断しなければならない。しかも、肥溜めにも行かないといけない。

 今は森の中。ローブとマントで身を隠すのが難しくなったと言っても、木々の葉が足らない部分を補ってくれる。しかし畑はそうはいかない。身を隠すものが何もない。そして今の状態では、農民の住居まで見つからずたどり着くのは厳しい。

 ただこの点については、レオもすでに考えていた。

 

「囮を使う。ヤツが引っかかってる間に、あそこまで走る」

「囮って、また土人形?」

「違うよ。もっと大勢で、動くもんさ。サラ、ちょっときついけど頼めるか」

「はい。任せてください」

 

 自信に満ちた言葉を返す女魔導士。確かに窮地にあるが、レオを見ていると不思議と生き延びられて当然のような気持になってくる。

 サラは魔法を唱えた。

 

「サラ・ユペールが願い奉る。すべからく害を制せ。湧き出せ針の気。ラパルファンデアイ!」

 

 ゼノモーフの動きを一時的に麻痺させた、ニンニクの匂いを放つ魔法だ。同時に、レオも風の魔法を発動。不得手な魔法だがそよ風程度なら、発生させられた。ニンニクの匂いが森の中へ充満していく。すると森のあちこちから、鳴き声が響きだした。動物達の声だ。

 

「よし!」

 

 レオは満足に一言漏らした。

 森の動物達は、いきなりの刺激臭に慌てて逃げ出していた。この動物達こそが囮。一斉に動きだす多数の熱源に、プレデターは狙いを定められないはず。この隙に森から出る。それがレオの策だった。

 すると遠方で爆発音がした。

 

「引っかかった!」

 

 レオはプラズマキャスターで、動物を狙ったのだろうと考えた。もっとも壊れていたはずのプラズマキャスターを、何故撃ったのかは分からないが。直したのか、相変わらず冷静さを失っているのか。

 とにかく策は成功。やるべき事は一つ。

 

「今だ!」

「はい!」

 

 身を縮めていた二人は立ち上がると、畑に向かって走り出した。

 サラはローブに身を包み、出ているのは精々手と足首。一方のレオのマントは半分以下、腹から下は丸見えだ。しかし構わず走り続ける。森に溢れる熱源の中、プレデターはこちらに気付かないと期待して。

 森から出るまであとわずか。異界の狩人の気配は全くない。

 

「いける!」

 

 思わず口から出る期待。

 その時だった。すぐ脇で爆発が起こった。

 

「うぉっ!?」

 

 横に吹き飛ばされるレオ。木々の間に落とされ、地面を転がって行く。ゆっくりと、土と枯れ葉にまみれたまま身を起こす魔導士。何が起こったのか理解できない。プラズマキャスターで攻撃してきたのか。だが狙いを付けられないはず。では何で攻撃したのか。しかしそんな思考も、瞬時に消え去る。彼女の顔が脳裏に浮かんで。

 

「そうだ!サラ!サラ!」

 

 その名を繰り返す。四方に視線を巡らせる。探す。共に生きると誓った、半身と言っていい女性の姿を。

 彼女はすぐに見つかった。わずか数メートル先に。両足を失って。

 

「サラ!」

 

 慌てて駆け寄るレオ。フードから覗いた彼女の顔は、すでに血の気がない。視線だけを向けるサラ。

 

「レオ……さん……」

「こ、これ、飲め!」

 

 懐から治療薬を差し出す。なんとか飲み込んだサラだが、流れる血は止まらない。そもそもこれは、軽傷程度にしか効果がないのだから。両足を失うような大怪我には、気休め程度の意味しかない。

 すぐさまレオは、サラの足に杖を添えた。

 

「レオ・トリュフォーが願い奉る。レオ・トリュフォーが願い奉る。万物を成すものよ。手を携え露わとなれ。ルケイル!」

 

 彼女の足を変形させ、強引に傷口を塞ぐ。ただレオにできるのは、これが精いっぱい。もしここにエヴァがいれば、もっとマシな治療ができただろう。だが彼女はもういない。

 止血はしたが、すでに雨後の水たまりのように血が広がっている。最悪の予感に身が震えだすレオ。

 

「もう血、止まった!じっとしてれば治る!」

 

 願いを神に届けるように語り掛ける。叫び。しかし目に映る彼女から生気が失われて行くのが、手に取るように分かった。

 

「生きて……ください……」

「黙ってろ!体力を……」

「レオさんの鉱山……見たかったな……」

 

 そしてサラは口と目を閉ざした。

 

「おい、おい!」

 

 もう彼女はレオの呼びかけに答えない。指先すら、わずかも動かさなかった。

 

「あああああ!」

 

 嘆きか、苦悶か、どちらとも言いづらい魔導士の絶叫が広がって行く。

 異界の狩人は、少々装備を破損したがまだ五体満足。そんな強大な敵がいる森の中で、無防備な慟哭が響き渡っていた。そして、それを聞き逃すほどプレデターは愚かではない。

 

 

 

 

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