異世界物語「エイリアン」β   作:ふぉふぉ殿

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 真っ暗な世界に一か所だけ明かりが灯っている場所があった。そこいるのは、南国の観光地にいるかのような恰好をした恰幅のいい親父。

 親父は太い腕を広げ不思議そうな顔を、罵りを口にした男へ向けていた。

 

「何がだい?」

「ゼノモーフとプレデターに決まってんだろ!」

 

 男はハワイ親父を刺すかのように指さして、怒鳴りつけている。

 

 彼はついさっきまで、異世界で暮らしていた。悪魔や天使、モンスターがおり、魔法に溢れる中世ファンタジーな世界に。そこで一流の魔導士として数々の成果を上げていた。トラブルもいろいろとあったが、概ね順調な人生を送っていた。それが唐突に終わった。予想外の出来事で。その原因がゼノモーフとプレデター。映画『エイリアン』と『プレデター』シリーズのモンスターがいきなり現れたのだ。必死に対抗したが、結局は命を落とす事となる。

 

 男の怒りは収まらない。

 

「だいたいなんで映画のモンスターが出てくんだよ!」

「僕はハリウッド映画が好きでねぇ」

 

 腕を組んで楽しげに語るハワイ親父。

 

「はぁ!?なんだそりゃ!そんなのが理由かよ!」

「でもね。僕は言ったよ。苦労はあるよって」

「ハリウッド趣味で、決めたのかよ!ふざけんな!そんなもんのせいで、ラッジも、エヴァも、クロードも、ジェロムも……。サラも!みんな死んじまった!」

「君もね」

「そうだ!俺も!俺……。あれ?」

 

 急に威勢が削げていく男。死んだはずなのだが、こうしてハワイ親父に罵声を浴びせている。奇妙な感覚に襲われる。自分は本当に死んでいるのか。収まりの悪さが心に溢れだした。座り込み考え出す男。脳裏に引っかかるものが、いくつも浮かび上がってきた。

 映画のモンスター達の出現がおかしいのは当然として、目の前の太った親父自身があの世界に現れるのはどう考えても変だ。思い返せば、仲間たちもおかしい。交渉術と統率力が秀でたラッジ。美人で魔法、武術共に長けたエヴァ。器用で動きの素早いクロード。上背があり剛腕のジェロム。一流の闇魔法の使い手サラ。全員、何か一芸を持っていた。まるで誰かからサービス特典を貰って転生してきたかのごとく。彼と同じように。

 

 男はゆっくりと親父を見上げる。

 

「まさか……皆、元々あの世界出身じゃないのか?」

「そうだよ。僕が生まれ変わらせてあげたんだ」

「え……、じゃあ、皆……」

「ここにいるよ。別室っていうのも変だけど、違う所にね」

「……。そっか……そうなのか……」

 

 肩が落ちる。抜け落ちるかのように。男は、これほどの精神的な疲労は感じた事がないという程、脱力していた。

 すると、ふと一つだけ気になった事があった。

 

「あれ?けど、あんたにあの世界で会った時、サラはあんた見てないって言ってたぞ」

「おかしいなぁ。全員に一応挨拶したよ。別々にだけど」

「そんなはずないだろ。太った親父なんて見てない、って言ってたぞ」

「へー。君には僕がそう見えるんだ」

「え?あ……。そういう話ね……」

 

 男は理解した。目の前の人物の姿は、見る相手によって違うのだと。自分には、たまたまハワイ親父に見えているだけなのだと。その意味では、やはり神様らやら仏さまやらの類なのだろう。

 

 全てがどうでもよくなってくる男。疲れたように、床へ視線を落とす。すると親父から楽しげな声が届いた。

 

「ところでさ、もう一度チャレンジする気はないかい?」

「え?できんの?」

「ああ、時間が許す限りね」

「時間が許す?」

 

 妙な言い回しに、眉をひそめる男。そんな彼に構わずハワイ親父は続けた。

 

「どうだい?」

「なら条件が一つ!」

「なんだい?」

「能力変更!あらゆる火器を使いこなせ、しかも空間から出現させる能力が欲しい!」

「これはまた物騒な能力だね」

 

 親父は肩を竦める。

 

「けどそれじゃ、君の鉱業で一発当てるって夢が叶わなくなっちゃうよ」

「全部、生き残っての話だ。それに現代知識は持ってけんだ。なんとかなる!」

「そうかい。うん、分った。希望通りにしよう」

「え?いいの?」

「ああ、構わないさ」

「よし!」

 

 ガッツポーズを取る男。火器さえあれば、ゼノモーフもプレデターにも対抗できる。鉱業の夢は難しくなるが、場合によっては夢の方を変更してもいい。これからの事が、彼の頭を駆け始めた。

 ところが、はたとその思考が止まった。怪訝そうな表情が現れる。彼は質問を一つ口にした。

 

「あのさ」

「何だい?」

「次の世界で絡ませる映画は何?」

「『死霊館』」

「相手、怨霊じゃん!武器いくらあっても勝てねぇだろ!」

「だって楽勝じゃぁ、苦労とは呼ばないからね」

「こ、この……!」

 

 男はさらに理解した。どんな能力を手に入れても、それが通じない相手をこの親父は用意するのだろう。星の数ほど作られた映画からは、そんなものがいくらでも見つけられる。

 彼は黙り込み、なんとか親父の裏をかいてやろうと頭をフル回転。記憶の底にある映画一覧を、網羅する。

 

 不意に、親父が慌てた声を上げた。太い左手にある高級そうな腕時計に目をやりながら。

 

「おっと、もうこんな時間だ。実はこれから予定があるんだよ。早く決めてくれないと、この話、なかった事になるよ」

「もう、その手には引っかからない」

 

 前回はこの手に急かされ、慌てて了承してしまったが、越えがたい困難が待ち構えているのだ。慎重に慎重を重ねるほどでないと、この話には乗れない。

 しかし、親父は待たずに席を立ち、折り畳み椅子を畳んでしまった。そしてまた時計を見る。

 

「残念だよ。時間切れだ。機会があったまた会おう。グッドラック」

 

 背を向けた親父は、最後にサムズアップをして姿を消した。唖然とするしかない男。

 

「え?マジ?ちょ、ちょと待て!」

 

 思わず親父がいた場所へ駆け寄ろうとする。しかしその姿は、もはやどこにも見当たらない。

立ち尽くす男。すると親父がいた場所に、突然文字が現れた。青く輝く文字が宙に浮いている。そこにはこう書かれていた。"Thank you for playing."と。

 

「え?ぷれいんぐ?」

 

 頭の中が真っ白になる。

 突然、アナウンスのような声が響いた。

 

『プレイ時間が終了いたしました。まもなく意識が戻ります。目をつぶり、落ち着ける姿勢でお待ちください』

「何?これ?あ……そうだ」

 

 男は全て思い出した。どうしてこんな所にいるのか。

 新作VRゲームのβ版テストに応募したのだ。見事当選し、テストに参加する事となった。指定された日時と時間は、上手い具合に仕事の後の時間だったので、帰りにゲームメーカーに寄った訳だ。あの親父が最初に言っていた「君は終わった」という言葉は、今日の仕事が終わったという意味だった。

 ただただ気が抜けていく彼だった。

 

 

 

 

 

 瞼をゆっくりと開ける。今までと違う光が差し込んできた。これが現実か、などと男は思う。つまりは意識をまるごとゲームの世界へ移し、現実の自分はその間、ずっと眠っていた訳だ。

 男は映画『エイリアン』の冷凍睡眠装置のような所に寝ていた。違う点は、彼を覗き込んでいる男性が、メーカーロゴのついたブルゾンを着こんでいた事。

 

「お疲れさまです。御気分はどうですか?」

「あ……。なんか酷く疲れました」

「そうですか。これから、別室で健康状態チェックとアンケートを受けていただきます。それが終わり次第、今回のテストは終了となります」

「はい……」

「この度は、弊社へのご協力ありがとうございました」

 

 社員は形式ばった受け答えをしながら、次の部屋へと男を案内していった。

 

 全ての作業が終わり、男は帰路につく。ビルから出ると、外は完全に日が暮れ、夜となっていた。最寄り駅までの送迎バスが用意されており、メーカー敷地内の車両乗り場で待つ事になっていた。そこまで歩き、足を止める。

 男は待ちながらふと思う。あのハワイ親父は、結局、ただのナビゲーターだったのだろう。ムカつく相手ではあったが、そう思うとどうでもよくなってくる。

 そしてもう一つ。あの中世界で過ごしたあの人生。充実していたと言えば確かにそうだった。一方で、慌ただしかったとも思えて来た。抑揚のない自分の人生を卑下していたが、これはこれで悪くないなどと思い始める。

 何気なく視線をずらすと、自分が出て来たビルが見えた。他にも見えるビルの群れ。国家機関の研究所かのような規模だ。さすがは、世界で一番有名なVRゲームを開発したメーカーだ。ここのゲームをプレイしたことのない人間がいるとすれば、ゲームというもの自体に一切興味がない者だろう。

 

「あれ?」

 

 不意に違和感に襲われた。顔を顰め、思い出そうとした。プレイしたこのメーカーのゲーム名を。

 

「なんかやったっけ?いや、やったはず……」

 

 それなりにゲームには精通している自覚があった。だからこそ、この新作ゲームのテストに応募したのだ。にも拘らず、これほど有名なメーカーのゲームをプレイした記憶がない。何かおかしい。男は見上げた。ビルに掲げられたメーカー名を、舐めるように見る。

 突然、閃いた。

 

「あ!」

 

 その時だった。脇からの声が耳に入る。

 

「やぁ」

 

 釣られるように振り向く彼。そこには懐かしいが、会いたくない人物がいた。あの親父だった。

 サングラスをかけ、キャップを被り、バミューダパンツに半袖シャツを着た薄着。紐にくくりつけたメガホンを首からぶら下げた恰幅のいい親父。

 ハワイ親父は黒塗りの高級車の後部座席の窓を開け、彼へ笑顔を向けている。

 

「今度はうまくやりなよ。グッドラック!」

 

 またもサムズアップ。そして窓を閉じると、高級車は走り出した。

 男は茫然とその車のテールライトを見つめる。ただ頭の中では全く違うものがあった。このメーカーの社名が。その名は「イノベイテブ・オンライン・インダストリーズ」。映画『レディ・プレイヤー1』に出てくる架空の会社の名前だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

 異世界ファンタジーにエイリアンを登場させよう、という他愛もない発想で書きました。プレデターはエイリアンが出るなら、出て当然だろうという事で。それと本作ではエイリアンもプレデターも、どっちも人類の敵にしました。やっぱ人類の脅威だからこそ魅力があると思ってるんで。
 ハワイ親父については、どうオチを付けようかと考え付け足した代物です。剣と魔法とエイリアンだけじゃ、スッキリしすぎかなと思ったもので。
 エイリアンとプレデターの設定に関しては、映画はもちろんですがゲームの方も参考にしています。FPSの「Aliens vs Predator」や「Aliens: Colonial Marines」です。エイリアンが匂いで相手を判別したりクイーンが倒されると一時的に麻痺したり、プレデターの武器の名称が日本のではなくアメリカでの名称なのもそのためです。他にも地雷が「AVP2」に出て来たレーザーマインじゃなくてプロクシミティマインなのも、ゲームからです。もっとも話の展開の都合もありまして。爆音がどうしても必要だったのと、輪切りにされるのはちょっとなぁ思ったもので。
 FPSと言えば他に「Alien isolation」もありますが、ゼノモーフはビッグチャップですし、能力に違う部分も多いので参考にしませんでした。
 攻防を考えるのはなかなか大変でしたね。エイリアンとプレデターの能力を生かしつつ攻防を成立させるために、主人公側の能力をどの程度にするかとか。二転三転する展開をどうするかとか。ただまあ、エイリアンとプレデターを動かすのは楽しかったです。
 御通読ありがとうございました。
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