異世界物語「エイリアン」β   作:ふぉふぉ殿

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ゴーストタウン1

 

 

 

 町を出て一日弱。緊急の用件という事もあって、レオたちは少々急いでペティバションの町の近郊へ到着。馬たちも、少しばかり疲れている。

 山の裾野に広がる平地に目立つ構造物が一つ。城塞都市ペティバションだ。周り畑で囲まれ、少し離れた所に川が流れている。辺境ではあるが、農業をするには申し分ない土地のようだ。そんな豊かさが今も変わらぬかのように、とりたてて騒ぎが起こっているようには見えない。だがクロードは違った。警戒するような視線を町に向けている。

 

「臭うぜ」

「何がよ」

 

 素直に尋ねるエヴァ。

 

「ヤバイのがな」

「そう?」

 

 ライトブラウン髪の美人は、鼻をひくつかせる。しかし眉をひそめ、首を傾げるだけ。

 

「何も臭わないけど」

「気配の話に決まってんだろ。マジで嗅ぐヤツがあるかよ。お前バカか」

「な!」

 

 女神官の顔が赤く染まる。怒りで。いつも通りの喧嘩が始まった。そしていつも通り、ラッジが止めに入る。

 

「おいおい、いい加減にしてくれよ。いつになったら学ぶんだか。分かってんのか?今は仕事中だぞ」

「全くだ。だが、クロードの言う通り、様子がおかしい」

 

 ジェロムの一言で、仕事モードに戻る彼等。

 確かにレオ自身も感じていた。妙な違和感を。オークの大軍に襲われたという割には、城壁の周りにはオークの姿など一つもない。とは言うものの城門が破られ中に入られた様子もない。なんとか追い返したならば、畑に農民たちが出て作業をしているはずだ。だがその姿もない。だいたい無事で済んだなら、ブノア達は戻ってきているはずだ。

 パーティの面々は神経を尖らせると、慎重に馬を進めた。ペティバションの町へ向かって。

 

 

 

 

 

 城門の前で馬の脚を止める。町を高い壁と掘が囲っていた。さらに跳ね橋も上がったまま。トラブルがあったのは間違いない。原因が何なのかは分からないが。ただオークの姿が見えない理由がすぐに分かった。連中は城塞を囲む空堀の中に落ちていた。それも折り重なるように。しかも全員死んでいるように見える。

 

「よっと…」

 

 クロードが階段を下りるかのように、オークの死体をクッションにして、軽々と掘の底へ降り立つ。そして、積まれたオークの死骸を調べ始めた。しばらくして、垂らしたロープを伝い、上がって来た。引っかかるものがあったのか、渋そうな顔付き。ラッジが尋ねる。

 

「浮かない顔してんな。なんか見つけたか?」

「やっぱおかしいぜ。連中、ほとんど武器を持ってねぇ」

「武器がない?」

 

 一同の表情が怪訝に染まる。

 クロードの話を直に確認しようと、レオは掘に近づき見下ろした。確かに武器が見当たらない。オークは腕力があるが、それだけで戦うモンスターではない。大抵は棍棒のような簡単な武器を手にしている。それがないとなると、ワルデックの話通り、混乱していたからという事になる。しかし理由が分からない。

 背後では、エヴァが質問を口にしていた。

 

「それで、死因は何?」

「仲間に押しつぶされたヤツもいたが、ほとんどが刺し傷、切り傷だ。ただ傷口が妙だ。刺し傷が槍のせいだとすると、かなり太い。ちょっとした柱くらいだ。切り傷の方はトライデントかピッチフォークで付けたみたいな傷ばっかだ。それに、おかしいのはこれだけじゃねぇ」

「何よ」

「矢傷と魔法の傷がない」

「つまり……オーク相手に接近戦を挑んで倒したって事?」

「あれだけの数をな。後、相手の死体が一つもねぇ」

「……」

 

 相手はオークだ。数の上で圧倒していても、接近戦で被害なしという訳にはいかないだろう。にもかかわらず、実際にはオークと戦った相手は、無被害だったという事になる。しかも何故か長物の、槍やトライデント、ピッチフォークの傷ばかり。接近戦なら、刀傷や鈍器の打撲跡があって当然。しかし、それらしき傷は見当たらなかった。

 レオの口から一つ疑問が出てくる。

 

「何で、全員掘に落ちてんだ?地面に死体が一体もないってのも妙だろ」

「混乱してたらしいから、考えなしに城に突撃して落っこちた?」

 

 考えを口にしたものの、エヴァ自身、腑に落ちないという様子。そもそも、それほどの混乱の理由が分からない。それから、皆が思いつく限りの考えを出す。しかし、納得いくようなものはなかった。ラッジはカーボーイハットを深くかぶると、仕切り直すように言う。

 

「とにかくだ。俺たちの仕事は調査。オークは一先ず置いといて、町に入ってみようや」

「でも…、町も変じゃないです?」

 

 サラが城壁を見上げていた。不安そうに杖を強く握りながら。レオは彼女の側に寄る。

 

「ああ。さっきから人の声がまるでしない」

 

 人の声だけではない。音自体がほとんど聞こえない。人が動いたりものを動かせば、それだけでも音がする。そう大きくない町とは言え、住人の全員が全く物音を立てないなど可能だろうか。

 横からサラの息を飲む声が聞こえてくる。杖を握る手は、緊張のせいか微塵も動かない。レオは彼女のフードをゆっくりと捲った。可愛らしい顔が覗き、大きな瞳が彼へ向いていた。

 

「そんなに緊張すんなって。今までモンスター退治何回やった?十分、お前は強いよ。それに、今回は調査だけさ」

「え、あ……そ、そうですね」

「マジでヤバくなったら、抱えて逃げてやるから」

「あ、ありがとう……」

 

 わずかに笑みを浮かべながら俯くサラの手から力が抜ける。そんな彼等に、ラッジが頭を掻きながら近づいてきた。

 

「さてさて、お二人さんは落ち着いたみたいだな。んじゃ、レオ。町ん中、はいろうぜ」

「ああ」

 

 レオは杖の先を地面に付ける。魔法を唱えた。

 

「レオ・トリュフォーが願い奉る。大地の意を惑わせ、均衡を傾けよ。フェールユヌパンテ」

 

 杖の先が一瞬光り、波のように地面に伝わる。すると地面が盛り上がり始めた。やがて城壁の上まで届く土のスロープが出来上がった。感心して、スロープを見上げるジェロム。

 

「お前がいれば、城攻めなど容易いな」

「戦争なんてもんに興味はないよ」

「商人になるのだったな」

「大商人さ」

 

 ジェロムは分かっているのか分かっていないのか、大げさに一つうなずいていた。物質を操るというレオの力は、応用を利かせればこんなものではない。

 ただ一つ大きな欠点があった。それは対象に杖を接触させないと、魔法が発動しないという点。特に複雑な魔法ほど近づかないといけない。おかげで前回のアークデーモン討伐では、罠のすぐ側で魔法を発動するハメとなった。魔導士が敵の目前まで近づかないといけないのは、あまり褒められたものではない。

 

 パーティはスロープを上がり、城壁の上へたどり着く。広がる町の全景。まず目についたのは、最も高い土地にある城館、そして町の中央には神殿が見えた。双方とも町相応に小さめだ。ただ神殿の方は、不釣り合いな大き目な鐘が設置されていた。

 こうして見ると、普通の町にしか見えない。だが彼等の表情は暗く重い。それも当然だろう。死体があちこちに散乱していたのだから。兵、平民、大人も子供も、男も女も関係なく。戦争で敵に蹂躙された後かのよう。

 一方で奇妙な点もあった。掘と同じように、相手の死体が全くない。それに家に破壊された跡があまり見られない。つまり戦争後のような有様だが、戦争に付きものの破壊と略奪の跡に乏しい。相手が何者だか分からないが、純粋に殺しに来ただけにも思える。

 

 エヴァが何気なくつぶやいた。

 

「悪魔の仕業かしら……」

「悪魔ねぇ……」

 

 ラッジが顎を抱えつつ、こちらも一言。

 悪魔なら、殺しだけが目的というのもありうるかもしれない。しかし、ほとんど破壊跡を残さず、討ち取られもしないなんて事が有り得るだろうか。

 強い悪魔なら、周りの状況など考えず破壊の限りを尽くすだろう。それほど強くないなら多数いたとなるが、それなら何匹か倒された者もいたはず。ここは、まともな城塞都市。悪魔に完全に圧倒されるほど、兵も魔導士も少なくはなかっただろう。だからこそ理由が分からない。

 

 理解し難い状況が、一同を緊張感で包む。ただ一つ確かなのは、この町に何か大きな異変があった事。しかも類のない異質なものが。

 ラッジが足を進め始めた。

 

「とりあえず、降りてみようや」

 

 城壁の階段から、地上に降りる彼等だった。

 

 

 

 

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