異世界物語「エイリアン」β   作:ふぉふぉ殿

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大凶

 

 

 

 

 地下通路は、枝分かれもないどころか、曲がり角すらなかった。ひたすら真っ直ぐ進むと、やがて終点にたどり着く。地上へ通じる階段が目の前にあった。しかしクロードは足を止めたまま。渋い声を漏らす。

 

「妙だぜ」

「何がだ?」

 

 ジェロムが尋ねる。レオもサラも、何がおかしいのか分からない。元盗賊は階段とその先にある、出口の戸というか蓋へ視線を止めたまま頭を動かさない。やがて、レオ達の方へ振り返った。

 

「距離が短すぎる。たぶん、まだ町の外に出てねぇ」

「それでは密輸できないではないか。密輸用の地下通路ではなかったのか?」

「いや、それはねぇ。じゃねぇと、あんな隠し戸なんて用意しねぇだろうしな」

 

 確かにクロードの言う通り、この通路の入り口の蓋は石畳に偽装されていた。後ろめたい目的のために使われていたのは、間違いないだろう。

 レオは来た道と出口を、交互に見るとクロードに視線を戻した。

 

「とりあえず、外、覗いてみよう。ここで話してても仕様がない」

「だな」

 

 一同は階段を上がり、出口に近づいた。出口を塞いでいる蓋は石のようで、かなり重い。それでも動かせないというほどではないが。レオが声をかける。

 

「ジェロム。少しだけ持ち上げてくれ。静かに用心してな」

「分かった」

 

 ゆっくりと蓋が持ち上がって行く。わずかに開いた隙間から外の様子が見えた。レオとクロードの目に映ったものは、異界にでも迷い込んだかのような歪な光景だった。やがて蓋を締めると、三人は地下通路へと戻る。サラが不安そうな面持ちで迎えた。

 

「どうでした?」

「最悪だ」

 

 レオは顔を手で覆い、ポツリと零す。銀髪の元盗賊も、渋い顔で髪の先をいじっていた。

 

「ありゃなんだ?」

「ゼノモーフの巣だ」

「巣?あれがか?」

「ああ」

 

 あの内臓を固めたかのような歪な壁や床。まさしくゼノモーフの巣そのもの。すると誇り高い騎士から、動揺の混ざり込んだ問いかけが飛び出した。

 

「どういう事だ!?巣に行きつくなど!?まさかのこの地下通路が、奴らの通り道だったのか?」

「それなら俺たちは、ヤツらとご対面してるはずだぜ。ここには横道なんてなかったからな」

「ならば何故、巣などがある」

「知るか。ただこの道が短い理由は分かった」

 

 クロードが通路に腰を下ろし、語り出す。

 

「ここは神殿だ。この道は商店と神殿を繋ぐ、隠し通路って訳だ。神殿に出入りするもんは税関素通り。たぶん商人と神官が組んで、密輸していやがったんだろ」

「まさか神官達が密輸など……」

「性悪神官の噂なんて、いくらでも聞いてたろうが。密輸くらいよくある話だぜ。ま、だから真面目なエヴァは飛ばされたんだろうがな」

 

 彼女の名を口にしたクロードの顔に、わずかに影が差す。

 確かに、神殿の黒い噂は耳にする。それでも貴族であるジェロムには、少しばかりショックだったのだろう。だが今、考えるべきはそれではない。サラが、皆に目的を思い出させるかのように問いかける。

 

「でも神殿が、なんでゼノモーフの巣になってんです?オークを襲ったなら、森の中にあったんじゃ……」

「たぶん巣を移したんだろう。ゼノモーフは蟻みたいに、開けた場所より閉じた場所に巣を作る習性がある。それに、神殿は礼拝のための広い空間あるからな。巣作りには打ってつけだ」

 

 レオは淡々と解説する。気付くと、クロードの目つきが鋭くなっていた。

 

「って事は、つまりここに女王様がいるって話か」

「たぶん……。っておい、殺ろうってのか!?」

 

 驚きに目を剥く魔導士。視線の先の元盗賊は、闘争心を湧き上がらせていた。

 

「他にどうしよってんだ?」

「クイーンは並のゼノモーフの数倍の大きさだぞ。デカいからすばしっこいって程じゃないが、力はドラゴンかって程強い。殺すったって、どうやるんだよ?」

「バカかてめぇは。この地下道は外には通じてねぇ。戻っても、ゼノモーフ共がいるあの倉庫だ。倉庫から出ても、ゼノモーフがそこら中にいるだろう。こんなんで、町から外に出られるか?こうなりゃ、女王蟻倒して、働き蟻共がボケてる間に逃げるしかねぇだろ」

「それは……」

 

 理屈からすればクロードの言う通りだ。一方で、それがどれだけ厳しい事か、誰よりもゼノモーフを知っているレオにはすぐに分かった。

 ここは映画のような宇宙船の中ではない。クイーンを宇宙へ放りだせば終わる映画とは違う。息の根を止めなければならない。しかも、自分達には植民地海兵隊のような火器もない。魔法はあるが、連射スピードも弾速も現代火器とすら比較にならない程低い。多数を相手にするには無理がある。

 うつむいたままレオが押し黙っていると、手に触れるものがあるのに気付く。サラが彼の手を握っていた。

 

「レオさん。不可能なんですか?」

「サラ……」

 

 いつもの大人しげな彼女からは想像しづらい、強い瞳が真っ直ぐに彼を捕まえる。この窮地で、彼女も変わり始めたのかもしれない。サラから感じるものがある。なんともしても生き残り、共に明日へ向かうという意志が。

 レオは強くうなずいていた。そして腹の内を決める。

 

「分かった。足掻くしかないよな。少し考えてみる」

 

 そう言うと、彼は出口側まで階段を上がり、壁に杖を添えた。

 

「レオ・トリュフォーが願い奉る。大地の結び、露わにせよ。アリナーズストリクチラ」

 

 魔法が発動した。これは地下の構造を知る魔法だ。鉱山開発や製錬の時に土地や原料の状態を知るために、彼自身が編み出した。まさかこんな形で使うとは、思いもよらなかったが。この魔法を応用すれば、建物の構造も調べられた。

 しばらくして、レオが地下通路に下りてくる。

 

「ここは神殿地下の墓地だ。クイーンがいるのは、やっぱり地上の祭壇だと思う。そこが一番、巣作りが念入りにされていた。ただ巣は、こっちの方までは伸びてない。むしろ上に向かって伸びてる」

「そうだとすると……、神殿からここを出ようとしたら、クイーンの側を通らないといけないって事になりますね」

 

 サラが、彼の説明を租借し答えた。普通、神殿の地下墓地に行くには、祭壇の両脇通路の端の階段から降りて行く。少し祭壇から離れているが、遠いとは言えない。そして他に墓地へ向かう道はない。

 クロードに不敵な笑みが浮かんでいた。

 

「都合がいいじゃねぇか。闇討ちできる」

「気付かれず、忍び寄れればな。だいたいどうやって殺すというのだ?硬い皮膚を持つと言うというし。我等の武器で、なんとかなるものなのか?」

 

 ジェロムは勝算の見えない戦いに、露骨に不満を見せる。その後、彼等は自分なりの案を口にしていたが、どれも決定打に欠けていた。その間、床を見つめたまま黙り込んでいるレオ。

 彼の頭の中では、かつての知識と、仲間の能力、そして今調べた神殿の構造が、パズルを解くように組み合わせては元に戻されるという作業が繰り返されていた。やがて一つの答を見出す。彼の瞳に、強い輝きが現れた。おもむろに顔を上げる。

 

「手はある。かなりの博打になるけどな」

「聞かせろ」

 

 クロードの口元がいびつに釣り上がる。復讐に染まった表情に。ジェロムとサラは、厳しい様子を見せたままだが、期待が滲み出てきているのが分かる。そしてレオは話しだす。秘策を。

 

「クイーンを、神殿正面の扉まで誘い出して、ここの鐘で押しつぶす」

「ここの鐘?」

 

 サラが、なんの事かと言いたげな視線を向けてきた。

 

「正面扉の両脇にある鐘楼の鐘さ。城壁から見た時に、やたらとでかい鐘がぶら下がってた。鐘楼に不釣り合いなのがさ。密輸の稼ぎ、つぎ込んだんだろう。いくら皮膚が固いと言っても、あれが直撃すればたぶん潰せる」

「悪徳神官様々って訳だ」

 

 皮肉をたっぷりのクロードの薄笑い。一方のレオは変わらない。

 

「作戦は三段階。まず一階に上がればすぐにクイーンと対面だ。そのクイーンを脅して、配下のゼノモーフの動きを封じる。女王の命令は絶対だからな」

「脅す?脅せるのか!?」

 

 驚きの混ざった声がジェロムから出てくる。レオは淡々と返した。

 

「クイーンの周りには、ヤツが産んだ卵が並んでる。それを燃やすと脅すんだ。あんな化物でも、我が子は大事なのさ」

「……」

 

 悪魔かのような見た目からは、母性があるなど想像もできない。ゼノモーフの意外な性質に黙り込む三人。

 

「次の段階は、並んでる卵、エッグチェンバーの間を抜け扉に向かう。この時、エッグチェンバーを刺激しないのが必須だ。中にはあのフェイスハガーが潜んでる。あいつらはクイーンの命令関係なしに、近づけば出てくる。俺が先頭を行くから、その後を完璧に付いてきてくれ」

 

 ジェロム達はうなずいた。

 

「最後は、扉についてからだ。エッグチェンバーを燃やしてクイーンを怒らせる。向かってきたクイーンをわずかな間でいい。扉付近で動けないようにする。その時に扉両脇の鐘楼を俺が崩して、クイーンを押しつぶす。鐘楼が崩れた瞬間に、俺たちは扉から脱出だ」

「……。確かに博打ばかりだな」

 

 偉丈夫の騎士は腕を組み、いかつい顔の皺を余計に深くする。

 

「脅しが効かんかもしれんし。クイーンを怒らせても、ヤツは来ず配下のゼノモーフ共だけが向かってくるかもしれん。鐘を落とすにも、狙ったように鐘楼が崩れてくれるか分からん。しかも落ちるまで、クイーンを押さえ込めるかどうか。さらに下手すれば、我等も鐘の下敷きだ」

「そうだ。不確定要素だらけだ」

 

 こんなあやふやな案だが、レオの言葉には揺らぎがなかった。すでに覚悟を決めていた。そしてその覚悟を最初に後押ししたのは闇魔法の使い手、サラだった。

 

「やりましょう!」

 

 初めて聞いたような力強い声に、唖然とするジェロムとクロード。やがて口元を緩める。

 

「先に、お前に言われちまうとはな。乗ったぜ、その話。言い出しっぺは俺だしな」

「是非もなし。他の手はないのだ。やろう」

 

 四人の胸の内に、熱いものが芽生える。今の彼等は、前に進む事だけを考えていた。

 

 

 

 

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