10話 強行偵察課1
「本日より、次元航行部隊第6艦隊強行偵察課に所属となります、高町一騎三等空士であります」
「同じく、斎藤潤三等陸士であります!」
「ティルク・アローン三等空士であります」
「クォーツ・ディレンド三等空士であります!」
「マリク・ケルビン三等陸士です!」
「リブレンド・ツェリアロウ三等陸士であります」
「ナグリー・ベレンズ三等空士であります」
「ウィルス・ストリート三等陸士であります」
「ヴィンズ・バリアント三等空士であります!」
「ライア・ゼルヴィッズ三等空士であります」
「レイド・ビルギンズ三等陸士であります!」
よろしくお願いします、とぼくらが三士合唱を終えると、目の前に座っている男性がゆっくりとぼくらを見回して立ち上がり、敬礼をする。
「強行偵察課課長の、フォレスタ・ケレット二等陸佐だ。若い奴がたくさん入ってくれて嬉しいぜ。『偵察課』は局でも一番の人材不足だしな」
「御期待に添えられるよう、全力で任務を遂行します!」
「その意気だ。じゃあ、先輩達に挨拶をしてみろ」
フォレスタ二佐が指を回すように振ると、三人の男がこの課長室に入ってくる。
「アンソニー・モルス二等空尉だ」
「ハーヴェイ・ヴェルディ。今は准尉だ」
「アレクセイ・ベレゾフスキー・アブラモフ。同じく准尉だ。よろしく頼む」
『よろしくお願いします!』
そして、アンソニーと名乗った男性がぼくを見て眉をひそめた。
ぼくが軽く首をかしげると、彼は首を振った。
疑問に思っていると、フォレスタ二佐が説明を始める。
「んじゃ、うちの任務について知ってもらわなくちゃな。早速だが、任務について説明しようか」
「どのようなものでしょうか?」
「『
というわけで、とフォレスタ二佐がぼくらの前にモニターを出す。
「たった今この瞬間から、お前達はこの部隊の仲間だ。自らの手で人を殺し、施設の瓦礫で職員を潰していく日々だ。異論は無いな。無ければ、モニターに触れて認証を行え」
ぼくらは一瞬も躊躇うこと無く、モニターに掌を当てた。
光の線が掌を伝い、掌紋がスキャンされ、登録が完了する。
「それじゃ、今日は一休みしてくれ。次元移動したから、時差ボケしてるだろ」
ぼくらはそれに甘える事にした。
~~~~~
「『弟』」
そう呼ばれ、ぼくは思わず振り返る。
そこには先程の、アンソニー二尉が立っていた。
ぼくは姿勢を正す。
「弟、とは?」
「姉は『エース・オブ・エース』だろう?」
「ええ、自慢の姉です。それがなにか」
「自慢の、か。確かに、あの腕前は実戦でも十二分に通用したはずだろう」
「姉を知っているんですか?」
「戦技披露会でな。私は彼女に負けたよ。だが、私にはわからんのだ。あの女があそこまで『エース』と呼ばれる理由が。私よりも5、6は歳が下で、しかも、
ぼくは顔をしかめた。
確かに、
それは、『次元世界の存在を知らないこと』や『比較的低い科学水準』が主な原因だろう。
最近では、それは姉さんやはやてさんのお陰でかなり無くなってきたと思っていたのだが、『表には出なくなった』というだけらしい。
「姉の才能が、なにか?」
「気に入らないのはそこじゃない。実力は申し分ないのは私もわかっている」
「何が言いたいんですか」
「納得できないんだ」
「納得?」
「私がエース・オブ・エースに負けた。確かに彼女は強い。エースと名乗るにふさわしい実力だと思っている。だが……」
ぎり、と彼は歯軋りをした。それはまるで憎んでいるかのような、悔やんでいるかのような。そんな表情だった。
「……あのような年端もいかぬ少女を、戦場に出すべきではなかった」
そう、アンソニー二尉は呟いた。
ぼくはむっとして、彼に食って掛かる。
「女だとか、少女だとか。そんなことはどうだっていいでしょう。大昔の白兵戦ならともかく、魔法戦に男女の差は関係ない」
「そうではない。私はただ――彼女をエースと囃し立てる連中がわからないだけだ。自分を守ることすらできなかった少女を、だ」
その言葉に、ぼくはぞくっとした悪寒を覚えた。
この男が言っていること。
「彼女は――」
「黙れ」
ぼくはデバイスを展開し、突きつけた。
「それ以上言うな。
ぼくの反応に、アンソニー二尉は察したように、ためらうように口を開き――ぼくは彼の襟首を締め上げた。
「あんたも抜け。
~~~~~
ぼくは杖型ストレージを手の中で回し、握りなおしてアンソニー二尉をにらむ。
目の前でアンソニー二尉が険しい表情のままバリアジャケットを展開する。
そして、その右腕に光るものを見て、驚いた。
肘まで覆う、アームキャノンだ。珍しい形のデバイスだな、とぼくは呟く。
「本当にやるのか」
「当たり前だ。姉さんを侮辱して――人の過去に踏み込んで。ただで済むと思うな」
そう答えると、まわりに集まっているみんながざわめき始める。
「姉御、マジ切れしてる?」
「なんか喧嘩を売られたらしいぞ」
「いや、姉御の方が食って掛かってたろ」
「姉御がキレるなんて、一体なにを……」
みんなの言葉に、アンソニー二尉は溜め息をつく。
「お前の気に障ったことを言ったのなら謝ろう。だから――」
「今さら遅い。ぼくは――」
ぼくはにやりと笑って言う。
「構えてください、アンソニー二尉」
「わかった……二尉、はいらん。呼び捨てで構わない」
「そうですか? なら、お言葉に甘えて」
ぼくはカートリッジをロードし、杖を両手で保持する。
アンソニーがアームキャノンを構えると、カウントが開始される。
「ディバイン――」
「チャージ――」
カウントが0になる。
「バスター!」
「ショット!」
ぼくとアンソニーの砲撃がぶつかり、互いに押し合う形になる。
「アクセルシューター!」
ぼくはその体勢を維持したまま、誘導弾を回り込ませる。
それぞれを違う方向から追い詰めるように飛ばし、アンソニーの注意が逸れる。
「撃ち抜け!」
その隙を狙い、一瞬だけ砲撃の威力を倍増して、アンソニーの砲撃を相殺する。
アンソニーの行動は早く、撃ち抜かれると見るや素早く地面を蹴り、誘導弾を避けていく。
「シューター弾幕維持……バインド、セット」
設置型バインドを罠としてアンソニーの周囲にセットする。
「砲撃、もう一度だ」
アンソニーが跳ぶ瞬間を狙ってディバインバスターを撃ち込む。
だが、アンソニーはシールドを斜めに張り、受け流すようにして避け、一気にこちらへ突っ込んでくる。
左右に移動を繰り返し、狙いを狂わせようとしているのは明らかだったが、ぼくは落ち着いて杖を両手で構えた。
そして、アンソニーのアームキャノンの先が三つに開き、細長い円錐状の魔力刃が展開され――それが一気にぼくの眼前に迫った。
「ッ――!?」
寸前で顔を逸らすと、刃はぼくの右頬を掠めた。
魔力刃が防護フィールドに触れて僅かに削れ、残滓がぼくの視界で煌めく。
ぼくは左足で蹴りを繰り出し、アンソニーの顔面に叩き込むと、全力で後ろに飛んで距離を取る。
心臓の鼓動が、その一瞬で最高速度で跳ね始める。
(見えなかった)
魔力刃が展開された瞬間は見えた。
だが、それが突き込まれる瞬間は、まったく見えなかった。
反応できたのは、フェイトさんの早さに慣れていたからだ。
とっさに蹴りが出せたのは、シグナムさんに何度も同じことを食らったからだ。
その蹴りが相手を充分に怯ませる威力だったのは、ヴィータさんのコメートフリーゲンを何度も蹴り返していたからだ。
ぼくは、少しだけ舐めていた。
姉さんに負けたアンソニーを、この不躾な男を姉さんと同じ戦法で倒してやろう、とたかをくくっていた。
(ダメだな)
ぼくは、自分の持ちうる全てをもって、この人と戦おうと決めた。
「ロード・カートリッジ」
呟くと、杖から空薬莢が排出され、身体に魔力がみなぎる。
「シュワルベフリーゲン」
手を横に振りながらそう唱えると、目の前に金属の球がいくつも生成される。
それを蹴り出し、アンソニーに撃ち込む。
「攻撃方法が変わった――?」
アンソニーがそれを避けながら、そう呟いたのが聞こえる。
だが、シュワルベフリーゲンは誘導性がある。
Uターンして戻ってきた金属球にアンソニーは目を見開き、シールドを張って受け止める。
金属球とシールドがかち合い、火花が飛び散る。
「ソニックムーブ」
まわりの風景が歪む。
シールドを張って苦悶の表情を浮かべているアンソニーが遅く感じる。
その緩やかな世界で、ぼくは普段通りに加速することができる。
拳を振りかぶる。
そのとき、ぼくに気付いたらしく、アンソニーが振り向こうとする動きを見せるが、今の加速したぼくにとっては、遅い。
ぼくは魔力を纏わせた拳を、腹に叩き込む。
「グッ――!」
くの字に折れた身体の、顎をかちあげるようにアッパーを打つ。
もう一度露になった腹に、今度は回し蹴りを叩き込み、大きくアンソニーは吹き飛ぶ。
そこで、ソニックムーブの効果が切れた。
風景がもとに戻り、加速していた時の反動で、頭痛や身体の軋みが、鈍い痛みをぼくに伝える。
「う――おおおおおおおおおおおっ!!」
それを無視するために叫び声をあげる。
魔力を脚に回し、全力で床を蹴る。
飛ぶように駆け、左手を腰だめに構える。
「ストライクスマッシャーッ!!」
左手を突き込み、零距離で砲撃を撃ち込む。
さらに距離を取ると、アクセルシューターを乱射する。
が、その弾幕にまぎれるようにアンソニーの魔力弾が飛んできて、肩や腹部に被弾する。
「くっ……!」
「な……舐めるなよ……」
アンソニーは荒い息を吐きながら、魔力刃を展開したアームキャノンを振り、接近戦を仕掛けてくる。
けど、遅い。
頭の中がクリアになり、視界のすべてがアンソニーの動きを捉えている。
突き出され、振るわれる魔力刃を、最小限の動きで避けていく。
この、たまらなく、ひたすらな精神の高揚に、ぼくは思わず頬が吊り上がる。
「おおっ!」
「このっ!」
ぼくは突き出されるそれを杖で弾き、左手でもう一度近距離砲撃を撃つ。
アンソニーはそれを避わし――バインドに足を囚われる。
「なに!?」
「かかった!」
ぼくが最初、アクセルシューターにまぎれて設置したバインドが、ここに来て効果を発揮した。
カートリッジをロードする。
「この一撃で――」
アンソニーに杖を向け、マガジンを握り、狙いを維持する。
「沈めっ!!」
全力で、ディバインバスターを撃った。
~~~~~
『アンソニー、意識喪失確認。やるね、新入り。
モニタがぼくの前に出現し、先程の軽い感じがする男――確か、ハーヴェイ准尉だったか――が笑って言う。
ぼくはひとしきり暴れて正気に戻り、自分のしでかしたことに背筋が寒くなった。
「えっと」
「アンソニーのことなら心配はない」
ぼくが視線を移すと、アレクセイ准尉がそう言って頷く。
『まったく、班長もよくやるよ。エース・オブ・エースに負けたからって、弟で憂さ晴らししようなんてな』
「本当に――そんな理由なんですか?」
『んな訳ないだろ。許してやってくれ。班長も、色々と思うところがあるんだよ。しっかし』
その言葉の続きは、ぼくの真後ろから聞こえてきた。
「強いね、新入り。名前は?」
「高町一騎三等空士です。ハーヴェイ准尉」
「ううん、お堅いねぇ。オレのことはハーヴェイ、って呼び捨てにしてくれて構わんよ。敬語もいらん」
「それは、部隊としてどうなんですか?」
「部隊じゃない。オレらは仲間であり、家族だ。そもそも、任務中に敬語なんて使ってらんねぇぞ。な、アレクセイ?」
「ああ。オレのことも呼び捨てで構わない。敬語も不要だ」
「そう仰るなら……わかったよ、よろしく。ハーヴェイ、アレクセイ」
ぼくが笑って言うと、二人は頷く。
「姉御が誑かされてる!」
「しかも落ちかけてる!」
「クォォォォーツっ! なんとかしてくれ!」
「任せろ! ナグリーとマリクの二人と共同開発すること三時間、ついに完成したこのチップを姉御の頭に埋め込めば――」
「埋め込めば!?」
「――姉御はヴィンズを見た瞬間に全力で殺しにかかる」
「なんでだよっ!」
「……お仲間も、中々楽しそうな連中じゃないか、『姉御』?」
「残念ながら、その呼び方はあいつら限定だよ」
「おや、残念だ。んじゃ、カズキと呼ばせてもらおう」
「それならいいよ、ハーヴェイ」
「こうなったら、姉御を無理矢理オレのものにするしかない!」
「待て! 抜け駆けは許さん!」
「そうだ、オレも連れてけ!」
「待て、早まるなチェリー!」
「誰がチェリーだゴルァ!」
「今言った奴出てこいやぁ!」
「叩きのめしてやんよぉ!」
「なんか文句あるか?」
「「「ありません、兄貴」」」
一騎が今現在出せる全力。
ただたんに相手を上手く動かせなかっただけな気がする。
あと、アンソニーは嫌な奴に見えますが、色々と理由があるのです。嫌わないでください。