魔法少女リリカルなのは エース・オブ・エースの弟   作:ロア

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偵察課に入隊して一年。
幾つもの任務を経て、一騎には自信が溢れていた。

油断とも言える、それが。


11話 強行偵察課2

『こちらヴィンズ。虫籠を視認』

『こちらリブレンド。引きこもりの鍵は電子系だ。バグらせるしかない』

「了解。ぼくのリベレーターを使ってハッキングする。クォーツ、見張りをやれるか?」

『二人、か。マリク、悪いが付き合ってくれ』

『りょーかい。タイミングは任せる』

『こちらナグリー。なにやらでっかいセミみたいなのが飛んでる。キモい』

『ライアだ。そのセミ、こっちに来たりしないか? 飛んで火に入る鉄の虫、ってやつを試してみたいんだが』

『色々と間違えてるぜ。バカなんだからカッコつけるなよ』

『うるせーよ、レイド』

「無駄話はそこまでだ。クォーツとマリクが見張りを排除、ぼくが電子錠をハックするから、潤、ティルク、ウィルスはぼくに続いて施設に潜入、破壊する。他のみんなは、お客さんが他に来ないように見といてくれ」

 

 全員から了解、と返答がくる。

 強行偵察課に来てから一年が経ち、ぼくらも随分と任務に慣れたものだと思う。

 まあ、来る日も来る日も同じような任務の繰り返しでは、慣れるのも当たり前だが。

 最初は『偵察課』に行くことに心配していた姉さん達だったが、今ではなにも言われなくなっている。

 それが、言っても聞かないという呆れか、もう大丈夫だろうという安心か、知らないが。

 

行くぞ(move)

 

 その呟きと同時にクォーツとマリクが跳び出し、見張りに組み付いて首を絞めて気絶させる。

 その見張りが膝から崩れ落ちるのと同時に、ぼくは素早く移動し、電子錠に携帯端末から伸ばしたコードを差し込む。

 画面をタップし、解錠用のシステムデータを改竄し、ロックを解除する。

 解除されたと同時にコードを引き抜くと、エラーが発生したらしく、少しだけ抗議の音が漏れたが、気にすることはない。

 なにせ、この施設は今日で役目を終えるのだから。

 

 

~~~~~

 

 

「侵入成功。職員一名排除」

「こっちは二人、警備の人間だな。こいつら、質量兵器もってやがる」

「マップを入手。この施設、大きさはそこまでではないな」

「地下に一部屋、でかいのがありますね。見てきます」

「警戒は怠るなよ」

「了解です」

 

 ウィルスが地下に繋がる通路へと消えていくのを見て、ぼくらは次の部屋へ進んでいく。

 職員が一人。警備はいない。

 これは話を聞くのに最適だな、とぼくは職員を俯せに押し倒し、両腕をきめて頭を床に押さえつける。

 

「ここで何を研究している」

「な、なんだ!? いっ、なんだいきなり!」

「質問に答えろ。ここで何を研究している?」

「ロ、ロストロギアを研究している! レリックというやつだ!」

「それだけか? 地下にはなにがある?」

「なにもない!! 地下にはなにも」

「一騎、警備が来る」

 

 潤が呟いた言葉に、ぼくはやむなく職員を気絶させ、部屋に入ってきた警備の人間を不意打ちで殴り倒す。

 警備の人間は事情をしらないだろうから、ここでなにを研究しているか、なんてわからないだろう。

 

「次へ行こう」

「ラストの大部屋だな。一番なにかある可能性が高い」

「うぇっ、おいおい金属錠だぜ。古くせえな」

「それなら任せろ」

 

 ティルクが錠の前にしゃがみこみ、二本の細い金属棒を使って、ピッキングを開始する。

 一応ぼくらは正当な局員なのだが、今ここまでの状況だけ見たら、ただの犯罪者集団に見えたりするのだろうか。

 

「開いたぞ」

 

 下らないことを考えていると、ティルクが小さく呟く。

 

「んじゃ、行けるか?」

 

 ぼくは光と音を発生させる魔力筒(フラッシュバン)を取りだし、頷く。

 

「はっ!!」

 

 ティルクが扉を蹴り破り、ぼくが魔力筒を放り投げる。

 爆発した音を聞くと、部屋に踏入り、耳を押さえてふらふらしている職員と警備を楽々殲滅すると、潤が大きなコンピュータのコンソールを叩く。

 

「……記録がないな。部屋にも、機材はほとんど無い。ここじゃないのかもな」

『ご名答。地下ですよ』

 

 不意に聞こえてきた通信に携帯端末(リベレーター)を取り出し、反射的に聞き返す。

 

「ウィルス、なにか見つかったのか?」

『ええ。赤い宝石と……まあ、とりあえず来てください』

 

 煮え切らない返事に、ぼくらは地下へ向かうことにした。

 

 

~~~~~

 

 

 薄暗い階段を降りたぼくらを迎えたのは、ウィルスの苦笑めいた顔だった。

 

「見てくださいよ、これ」

 

 そう言って顎をしゃくった方に顔を向けると、ぼくも顔をしかめた。

 120㎝代の生体ポッドが一つ。

 その中に浮かぶ、黒い髪の、小さな少女。

 ぼくはウィルスを見る。

 

「これはなんなんだ」

「人造生命体ですね。最近、優秀な遺伝子を使って子供を創る技術が流行ってるみたいです。まあ、この子はごく普通の魔力資質の人から創られた女の子みたいですが」

「流行なんて、すぐに廃れるもんだがな」

 

 潤の言葉に肩を竦め、ぼくはコンソールを叩く。

 

「どうやらここの人間は、『戦闘機人』とやらを作ろうとしてたみたいだ」

「なんだ、それ。サイボーグみたいなもんか?」

「まあ、簡単に言えばそういうことだな。壊れないように強化した人間に、機械を埋め込む感じだ」

「この子がそうだって?」

「いや。この子は機械を入れる予定は無かったようで、精々潜在魔力量の向上と全体的な能力の強化、思考の成熟化くらい。たぶん、強化人間技術が安定してからレリックとか使うつもりだったんでしょうね」

「そのレリックは、どこだ?」

「すぐそこです。地下室の一番奥ですよ」

「んじゃ、まずこの子を助けようぜ」

 

 そんなことを言ったのは、潤だった。

 

「正気か? とうとう頭がおかしくなったか?」

「アローン、お前最近、俺に対してキツくないか?」

「そんなことはどうでもいい。助けるなんて、正気か? 危険があるかもしれないぞ」

「正気だよ。さっさと開けてくれ」

 

 その言葉にぼくは頷き、リリースボタンを押す。

 ポッドのケーブルが外れ、中に満ちていた液体が放出されると、ガラスが開く。

 

「この液体、ぬるぬるしてんな。気色悪い」

 

 潤がそう愚痴りながら、ジャケットを脱いで少女に羽織らせる。

 

「じゃあ、次はレリックを回収するか。って、ところで、レリックってなんだよ?」

「簡単に言えば、高エネルギー結晶体だ」

 

 見たところ、レリックは機材に付いている、薄いガラスケースに納められている。

 

「一応安全策でいくか?」

「それにはパスワードが必要だぜ」

「やってみる」

 

 ぼくはケースのそばにしゃがみこみ、携帯端末を操作する。

 やけに複雑なシステムだ。少々強引になってしまうかもしれないが、やってみるとしよう。

 

「……よし、でき――ッ!?」

 

 解除したと思ったとたん、点滅する赤い光が部屋を満たす。警報に引っ掛かったか、と思ったが、おかしいことに気付いた。

 赤い光を発しているのは、このレリックだ。

 ぼくの背中に、悪寒が走る。

 

「全員、退避! 巻き込まれるぞ!」

 

 ぼくの叫びに、どういうことだ、という様な表情で首をかしげた。

 ぼくは舌打ちをして、となりにいたウィルスを担いで潤とティルクがいるところまで移動し、全員を覆うように巨大な球状のバリアを張る。

 

「スフィアプロテクション!」

「姉御、どういうことっすか!?」

「しゃべるな! 舌噛むぞ!」

 

 ぼくがエマージェンシーの信号を全員に送信し終え、そう言った瞬間、凄まじい衝撃がぼくらを揺さぶった。

 

 

~~~~~

 

 

「姉御! 兄貴! ティルク! ウィルス! どこだ!?」

「見付かったか!?」

「いや、まだだ。こうも瓦礫が酷くっちゃ……」

「うわ、おっさん掘り出しちまった!」

「放っとけ! 姉御達を探すんだよ!」

「おい!! 見付けたぞ! 地下室に生命反応がある! 瓦礫に埋まってる――手伝ってくれぇ!!」

「姉御無事か!? 生きてんならなんか言ってくれ!」

 

 その騒ぎに、ぼくの意識が覚醒していく。

 ゆっくりと目を開き、身体が押さえ付けられているような不快な感じに、ぐあっ、と声をあげてしまう。

 その声が届いたようで、上から喜色が混じった叫びが聞こえてくる。

 

「生きてる! 生きてるぞ! おい、さっさと手伝え!」

「わかってる! ぬおおおおおおおおおおおお! 重たい!」

「でかいのは数人でどかせ! 比較的小さいやつは、無機物操作で一気に除去するぞ!」

「姉御! 三分……いや二分で助けるからな!」

 

 騒がしい声に、笑いが漏れる。

 どうやら、ぼくはまだ生きているらしい。

 あの大規模な爆発は、レリックのものだろう。高エネルギー結晶体に刺激を与えてしまえば、爆発するのは当たり前だ。

 そんなことは、今までの任務でいくらでもあった筈なのに、今回に限って失念していた。

 そう考えていると、ぼくの身体にのしかかっていた瓦礫の重みが消える。

 

「よかった! ジャケットは展開されたままだ。致命傷は避けられてるかもしれない!」

「兄貴とティルク、ウィルスもなんとか無事だ! いそげ! 回復使える奴はすぐに来い!」

 

 ぼくの身体が仰向けにひっくり返され、様々な色の回復魔法が当てられる。

 少しずつ楽になっていく身体だが、ぼくは一人の手を掴み、そこでやめさせる。

 

「姉御?」

「回復魔法じゃ限度がある。もう無理だよ。帰って、ちゃんとした設備で治療するしかない」

「姉御、大丈夫!?」

「どうした!?」

「おかしい、目の焦点が合ってない!」

「頭を打ったか!? 動かすな、担架持ってくる!」

 

 頭を打った、ということは、ぼくはここで意識を失うわけにはいかない。

 ぼくは、残された集中力をかき集める。

 

「兄貴! 大丈夫かよ!?」

「ぅ……」

「動かない方がいい! 腕が折れて――兄貴、その子は?」

「ここで、創られた……人造生命体、だ……」

 

 霞んでいく視界だが、そこで喋ったのはティルクだとわかった。

 

「ティルク、無理すんな!」

「いや、俺は運よく……身体中の打撲だけだ。応急措置もやったし、もう動ける」

「無理はしない方が……いいっすよ」

「それはお前もだ、ストリート。身体中から出血していたんだぞ。治療魔法で血は止まったから、おとなしくしていろ」

「……頑丈なんだから」

 

 呆れたようにウィルスが言った。

 ティルクが素早く指示を出す。

 

「頭を打った高町を慎重に輸送機へ運べ。斎藤は、折れた腕に添え木をしてから。その子は運よく――いや、斎藤が守ったのか――怪我は無いようだ。輸送機の席で寝かせておけばいい」

「了解!」

「担架持ってきたぞ!」

「姉御、すぐに助けるからな!」

 

 その、ヴィンズの声を聞き取ると同時に、ぼくは意識を失ってしまった。

 

 

~~~~~

 

 

 そして、次に目が覚めたときは、目の前に姉さんの顔があった。

 ぼんやりとする頭に、少し渇いた喉を感じ、姉さんの白い頬に薄く伝う涙を、頭のどこかで幻想的に感じた。

 どういうことなんだろう。そう思いながら、ゆっくりと頭を動かしつつ、状況把握を行う。

 真っ白な部屋、特徴的な薬のような匂い。身体に繋がれた幾つものチューブ。

 病院だ。

 

「一騎っ、目が覚めたの!」

「……姉さん」

「私のことわかる!? 変な感じしない!? なにか思い出せないとかある!?」

「……大丈夫。何も問題は無いよ。姉さんのこともみんなのことも、ちゃんと覚えてる」

 

 そう、掠れた声で言うと、姉さんはぼくを抱き締める。

 チューブが邪魔になったので、ぼくは少しだけ腕を動かしてどかしておく。

 

「よかった、本当に……!」

「……うん」

 

 ぼくはチューブのついていない、細くなった左腕を動かし、姉さんの肩を抱く。

 

「もう起きないんじゃないかと思った……」

「そんなに、経ったの?」

「一騎が事故にあった、って聞いたのは、もう二ヶ月前」

 

 すると、ぼくは二ヶ月も眠っていたことになる。

 

「ぼく、どうなってたの?」

「身体に怪我はなかったよ。でも、頭を打ってたから、脳に少しだけ影響が出るかも、って言ってた」

「影響……」

 

 そういえば、先程からやけにぼんやりしているような気がする。

 ぼんやり、とは視界が曇っている訳ではなく、むしろクリアになっているのだが、頭の片隅で、どこかぼうっとしているような気がする。

 

「なにか変な感じ、する?」

「いや、大丈夫。視界も思考もクリアだよ」

「そう……本当によかった……」

「心配してくれてたんだ」

 

 息を大きく吐きながら言う姉さんに、思わず聞き返す。

 

「当たり前だよ。私の大切な弟だもん」

 

 そう、怒ったような真剣な表情で言われ、ぼくは戸惑った。

 姉さんは今、ぼくのために泣いていた。ぼくの事を心配し、今までほとんど見たことの無い、涙を流していた。

 

 ――それは。

 

「……そうだね」

 

 ――ぼくにはできなかったこと。

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