「やれやれだぜ。俺もお前も、運よく生きてたとはな」
見舞いに来たらしい潤が、右腕に巻かれているギプスを見せびらかしながら言う。
「まったく。凡ミスで死にかけるなんて、笑い話だよ」
「ま、今生きてんだから、笑えるわな。下手すりゃ一生掛かっても冗談にできなかったんだ」
「ああ、本当にな」
そして、ぼくは潤が連れている少女に目を移す。
「その子は……」
「ああ、そうだよ。あの施設の子だ。『レイナ』っていう。俺がつけた」
ほらあいさつ、と潤が頭を軽く叩くと、慌てたように頭を下げた。
それに微笑みを返すと、潤に視線を戻す。
「結局、強行偵察課で預かることになった。色々とあるからな」
潤が皮肉気に笑って言う。
確かに、人造生命体なんてものを好きこのんで引き取ろうと思う人もいないだろう。
その点、
「ちゃんと面倒見れてるのか?」
「オペレーターの女性陣にも協力してもらってる。なんとかやれてるよ。ところで、お前はいつ退院なんだ?」
「もうすぐリハビリも終わるな。といっても、筋肉が落ちてるだけだから、楽なもんだよ」
姉さんに比べたら、とは言わなかった。
「そっちはどうだ?」
「先輩方はかなり心配してたぜ。うちの阿呆共もな」
「……アンソニーも?」
「ああ、気が気じゃない、って感じだったぜ。バリアントが淹れたコーヒーを吹っ飛ばしてたしな」
「それ、淹れたヴィンズがなんかやったんじゃないのか……にしても、意外だな。ぼくは彼には好かれてないと思ってたんだが」
「好いてない、とは違うだろうさ。ただ、気に食わないだけだろ」
「同じ意味に聞こえる」
「違うんだよ。頭打って判断力飛んだか?」
「どうだろうな」
「ともかく、班長はお前が嫌いな訳じゃない。ことあるごとに姉さん姉さん言ってるお前に、苛ついてるだけさ」
「そんなもんか」
そんなもんだ、と潤は頷いた。
「ところで、その『姉さん』は見舞いに来たか?」
「ああ。むしろ、目が覚めた時にその場にいたんだよ」
「へえ、よかったな。なかなかロマンティックだ」
「ぼくはふざけてられなかったがな」
「にしても、エース・オブ・エースか。お目にかかりたかったね。あの堅物(ティルク)は会った事あるみたいだが」
「空港火災の時にな。緊張してたのは、中々
「羨ましいね」
「ティルクを笑ったぼくのことか? それとも、姉さんと会ったティルクのことか?」
「両方だ」
~~~~~
潤が帰ったあと、リベレーターを弄っていると、病室のドアのブザーが鳴る。
「どうぞ」
ぼくは疑問に思いながらそう言い、携帯端末を置く。
開いた扉をくぐってきたのは、フォレスタ二佐だった。
その瞬間に動こうとしたぼくを、フォレスタ二佐は慌てて止める。
「ったく、悠々と『そのままで構わん』って言おうと思ったのによ」
「どうしたんですか? こんなところに」
「お前の目が覚めた、って聞いてから、来たことなかったからな。一つ顔を見に来たんだ」
「そうですか」
「あと、任務についてお前からも聞いておこうと思ってな」
ぼくは表情を引き締めた。
「レリックで間違いないんだな? あの爆発は」
「はい。レリック、と書かれていました」
「……お前、レリックについて聞いたことは?」
「ありません。あの施設で見たのが初めてです」
「けど、高エネルギー結晶体、ってのはいくらでも見た事あるよな?」
ぼくはフォレスタ二佐の表情に気付いた。
わざとらしい、にこやかな笑みと、とてもわかりやすい酷く据わった瞳を。
ぼくは嫌な汗をかきながら、頷く。
「
「……刺激を与えてしまうと、大規模な爆発を引き起こします」
「わかってたろ? 最近たるんでると思ったら、いきなりこんなことになった。斎藤は腕がまだ治ってないし、アローンは痣が身体に残ってる。ストリートはまだ入院中。しかも、うちの連中は『姉御』の負傷で士気が下がってる」
畳み掛ける言葉を真っ向から受けても、ぼくは黙ってフォレスタ二佐から目を逸らさない。
そんなぼくに少しだけ感心したようにほう、と声を漏らし、
「責任は感じてるみたいだな」
「当然です」
「まあ、下手すりゃ全員死んでたんだ。なにも感じてなかったら、それこそぶん殴ってやろうと思ってたが」
そう言うフォレスタ二佐の言葉は、それが本気だということをぼくに伝えてくる。
「高町一騎一等空士」
そして、ぼくは言い渡される。
「お前を三等空士に降格する」
「はい」
あっさりと返事を返したぼくに、フォレスタ二佐は少し驚いたようだったが、
「そんじゃ、さっさと戻ってこいよ」
それだけ言い、病室を出ていった。
「降格、ね」
ぽつりと呟く。
不満は無い。まあ、自身のミスなのだから、ある方が問題なのだが、ぼくが考えていた以上に、ショックは少なかった。皆無といってもいい。
「まあ、取り戻せばいいだけだ。今度は確実にな」
そう言って、大分太さの戻ってきた腕を眺め、手を握りしめる。
そして、看護師の人が入ってきて、リハビリ始めますよ、と声をかけられると、ぼくはベッドから自力で立ち上がる。