魔法少女リリカルなのは エース・オブ・エースの弟   作:ロア

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15話 強行偵察課6

 結局、姉さんと本局に戻ったのは、ミッドの陽が沈んだ辺りの時刻だろうか。

 次元空間にある本局では、太陽など見えるはずもなく、時計を見ないと正確な時間がわからない。

 そして、『強行偵察課』が所有し、拠点となっているS級航行艦『スクィード』に帰ると、まずはみんなのところに顔を出す。

 

「ただいま。戻ったぞ」

「姉御ぉ! 一週間ぶり!」

 

 駆け寄ってきたレイナを撫でながら、ぼくはクォーツに頷き返す。

 

「単独任務って聞いてたけど、どうだった?」

「『舞踏会に出席して要人と接触し、〈ロストロギア〉諸々の情報を手にいれてこい』だってさ。今回はちょっと特殊だったけど」

「特殊?」

「変装して紛れ込んだんだよ」

「変装って、どんな?」

「それは女装だ! 此度の姉御は女装し、お偉方に色仕掛けを仕掛けた! その決定的瞬間の映像が、なんとここにある!」

 

 ぼくは思わぬところから聞こえてきた声に目眩を覚えた。

 

「おお、勇者ライア! お前はやるときはやる奴だったんだな!」

「言い値で買おう」

「まあ待てみんな。まずはサンプルとして最初の十分間だけ観てみよう。値段はそれからだ」

「いい案だヴィンズ。さすがだな」

「ふふん、もっと誉めろ。さあ、投影開始!」

 

 ぼくは止めようとは思わず、むしろおかしいところが無いかどうかの確認のため、椅子に座る。

 開き直ったと言ってもいい。

 

「どれ……わお、結構女の子っぽく見えるのな」

「そりゃ変身魔法を使ったからな。これでできなきゃ」

「だからってなんで女装? 一応男だろ、姉御は」

そういう(・・・・)趣向の持ち主だったからな。詳しいことは思い出したくないから聞くな」

「今からずっと女装して『エース・オブ・エースの妹』で売り出さね?」

「却下」

 

 そう阿呆を黙らせると、ちょうど面白い場面に入った。

 

『おや、珍しい。こんなパーティにきみのようなお嬢さんが居るとは――』

『触るな下衆』

 

 みんなの表情が凍った。

 悪影響を与えないためか、潤がレイナをつれて部屋を出ていく。

 

「おいいいいいいいい!! ふざけんなああああああ!!」

「なにが! なぁにぃがぁ! 色仕掛けだ!! これのどこに色仕掛け要素がある!!」

「いや、これはこれで……」

「この三人怖い」

「映像の姉御も怖い」

「よくこんなんで任務が勤まったもんだねぇ」

「いや、ターゲットはこいつじゃないしな。そもそもなんでぼくが色仕掛けなんか――」

 

 ぼくの愚痴にみんなが、訳がわからない、と言わんばかりの表情になる。

 画面の中では、突然罵声を浴びせられて固まった男を放っておいて、ぼくは別のところに移動している。

 

『おっと失礼……すみませんね、少し手が当たってしまった』

『この手を離せ豚が』

「なんも変わってねええええええええ!!」

「わかった! 詐欺だ! やっぱり詐欺だったんだよ!!」

「姉御から豚呼ばわりとは……羨ましいデブだ」

「この三人とは相容れない」

「こらこら、見ちゃいけませんよ」

「なあ、もしかしてこれ、ずっとこのまんまなのかい」

「目標と逢い引き(ランデブー)するまで何人にも声を掛けられたからな。一々かわすのは面倒なんだよ」

「おいおい後輩たち、さっきからなーに騒いでんだよ?」

「……これは、カズキか?」

「ああ、ハーヴェイにアレクセイ。今回の任務だよ。見たければ見てていいよ」

 

 なんだかんだで、ぼくは途中で飽きたので自分の部屋に戻ることにする。

 

「はい、ここで十分! おしまーい!」

「なんだとぉ!?」

「続きが見たけりゃ買いな。ケケケ」

「くそっ、たれぇ! いくらだ!」

「300円」

「安い! 買った!」

「はーいちゃんと換金して来てねー」

「えっ」

「そもそもなんだ(Yen)って。どこの国の単位なんだ」

 

 

~~~~~

 

 

『高町。報告書を持ってきてくれ。お客さんが来てるんで、手早くな』

 

 次の日、ぼくは課長室に呼ばれる。

 もちろん、報告書は昨夜のうちに纏めているので、問題はない。

 ドアに近付くと、ブザーがなる。

 入れ、と声が聞こえ、ぼくはドアをくぐり――その綺麗な金髪と赤い瞳を見た。

 

「フェイトさ――っ、フェイト執務官。お久しぶりです」

 

 ぼくは寸前で自制し、敬礼をしてそう言う。

 フォレスタ二佐と話していたらしい、フェイトさんも頷き、敬礼を返してくる。

 ぼくは思わず聞いてしまう。

 

「フォレスタ二佐。執務官がどうしてここに?」

「〈レリック〉諸々関連だよ。手に入れた情報、執務官殿に説明してやってくれ。んじゃ、俺ァ陸士部隊の連中と話があるんで、ちょいと出てくるわ」

 

 フォレスタ二佐はそれだけ言うと、制服の上着を肩に掛け、部屋を出ていく。

 時々、あの人の自由っぷりに呆れることがある。

 とりあえず、ぼくらは接客用のソファに腰を下ろす。

 

「では、高町二士。説明をお願いします」

「了解しました。けれど、めぼしい情報はありません。〈レリック〉の不法所持を行っていた一人からは返して(・・・)もらいましたが、全てを回収できたわけではない――つまり、他にも所持している人物はいると考えて良いでしょう。連中から聞き出した座標の『怪しい』施設には、既に偵察課の四人を送っています。これに関しては、彼らの報告待ちです」

 

 ぼくがモニターを表示して説明すると、フェイトさんが、

 

「情報源の人には、怪しい経歴等はありましたか?」

「連中が所持していた携帯端末(タブレット)を調べてみましたが、犯罪者との通信は無く、削除した形跡も見付かりませんでした。どうやら、貴女が追っている人物(スカリエッティ)とは関係無いと思われます」

 

 ぼくの言葉に、フェイトさんは少しだけ落胆したようだった。

 わざわざこんな小さな艦に足を運んで、それでも収穫は無しとなると、わからなくもないが。

 

「今仲間が調べている施設には、もしかしたらなにかがあるかもしれません。お忙しいのは承知の上ですが、連絡があるまでお待ちしますか? 恐らく――もう三十分ほどで連絡は来ると思います」

「……そうですね。では、少しだけ待たせてもらいます」

「失礼します」

 

 そこで、ヴィンズが課長室に入ってくる。

 その手には盆と、それに乗ったコーヒーカップが二つに、クッキーが盛られた皿が乗っている。

 少しばかり足取りに違和感があるが、まあよしとしよう。

 

「では、ごゆっくり」

 

 カップとクッキーを置き、恭しく礼をすると、静かに歩いて戻っていく。

 普段とはえらい違いだな、とぼくが呆れている隣で、フェイトさんはコーヒーを音を立てずに啜った。

 

「あ、おいしい」

「彼はコーヒーメーカー()溺愛する人物ですから。このくらいお手のものらしいですよ。まあ、翠屋ほどじゃありませんが」

「……一騎、もうその口調じゃなくていいよ」

 

 フェイトさんはにこりと笑って言う。

 ぼくも笑い、

 

「じゃ、そうさせてもらうよ。どうも、敬語は難しくて」

「でも、大分様になってたよ」

「そりゃ、何年も使ってたら慣れてくるよ……それにしても、久し振りだね、フェイトさん」

「うん。半年振り、くらいかな?」

「たぶん、そのくらい。やっぱり忙しいんだね、執務官職(偉いさん)って」

 

 ぼくの言葉にくすりと笑い、

 

「もちろん忙しいよ。けど、大切な仕事だし、私がやらなきゃならないことだからね」

「立派だなぁ……フェイトさんの話はちょくちょく聞こえてくるよ。なんの事件を解決したとか、雑誌の取材を受けていただとか」

「なのはが雑誌に出てたのは知ってたんだけど。まさか私まで出ることになるとは思わなかったな」

「マスコミは好き勝手やるからなぁ。上手くかわさなきゃ、あることないこと書かれるよ」

「『エース・オブ・エースの弟、バイセクシャル』とか?」

 

 フェイトさんがくすくす笑いながら言う。

 笑い事じゃないよ、とぼくは返し、

 

「あのときは大変だったんだ。まったく、どうやったらそんな話を書こうと思うんだか」

「もちろん違うよね?」

「当たり前。ぼくは姉さんとフェイトさんが大好きだよ」

 

 ぼくの言葉に、嬉しいな、とフェイトさんは笑う。

 

「それにしてもびっくりしたな。なんでフェイトさんが強行偵察課(こんなところ)に?」

強行偵察課(そちら)には昔からお世話になってるんだ。扱う情報量とか、査察官じゃ手が出せないようなものもあるからね」

「そのかわり、色々とブラックだけどね」

 

 ぼくが肩を竦めると、フェイトさんは少し悲しそうな表情をした。

 

「……なのは、一騎が強行偵察課に行ったこと、あんまり()く思ってないみたい」

 

 まあそうだろうな、と思ったが、ぼくは手をぷらぷらと振って、

 

「どこだって同じだよ。それに、こういう(・・・・)仕事があるから、ぼくはここを選んだんだよ」

 

 どういうこと、とフェイトさんが聞いてくる。

 

「別にぼくは、管理世界の平和とかにはあまり興味ない。ただ、放っておいたら面倒なことをしでかす連中はいくらでもいる」

「悲しいことだけどね」

「そういう連中を、メチャクチャなことを仕出かす前に終わらせる。そうすれば、間接的にだけど、『空』や『陸』は守れる」

 

 姉さんやフェイトさんが飛ぶ空と、帰ってくる陸を。

 

「汚れ仕事を受ける人材は、確実に必要だから。大切な仕事だし、ぼくらがやらなきゃならないんだよ」

 

 ぼくがにっこりと笑って言った皮肉の言葉に、フェイトさんが顔をしかめる。

 

「……一騎も、昔はもっとかわいかったのに」

「そういうこと言うの、やめてくれる。わりと傷付くんだよ」

「じゃあ、その皮肉屋はやめなさい」

「う……」

 

 今のフェイトさんは、少しだけ怒っているようだった。

 

「……すみません」

 

 ぼくは素直に謝っておいた。

 それを聞くと、フェイトさんは一転してまた笑顔になる。

 本当に、きれいな笑顔で笑う人だ。

 

「でも、元気そうでよかった。事故に遭った時はお見舞いに行けなくてごめんね」

「仕事を放り出して来られる方が困るからね。いいよ、今日会えたんだし――っと、通信だ」

 

 ぼくは振動した携帯端末(リベレーター)を取りだし、ボタンを押す。

 画面のモニタにはティルクが映っていた。

 

『任務完了だ』

「どうだった?」

『研究されていたロストロギアが一つ。他に大したものは見付からなかったな。何者かに襲撃された跡も無い。ハズレだ』

 

 それを聞くと、ぼくは隣のフェイトさんに視線を向ける。

 やはり、さほど期待はしていなかったようで、今のを聞いて、目に見えた変化はない。

 

「わかった。今はフォレスタ二佐が居ないから、報告書は明日にでもまとめておけばいいな。輸送機(ジェット)は準備できてるか?」

『斎藤が既に起動させている』

「そっちの世界から本局(こっち)に戻るまでは――そのジェットなら、2、30分ほどで戻れるか」

『ああ。今から帰投する……ん、ビルギンズ、どうした!?』

『なんかよくわからんが機械兵器が襲ってきた! カプセルみたいな形した珍妙なやつだ!』

『アローン! いつまでも喋ってないで俺と前衛だ! ゼルヴィッズ、準備はいいか!』

『了解! 援護は任せろ、兄貴!』

「なんだ、どうした!?」

『機械兵器による奇襲を受けた! 数は――多いな、およそ四〇!』

 

 ティルクからの通信が途切れる。

 ぼくは舌打ちをし、スクィードのブリッジに通信を繋ぐ。

 

「聞こえてたな、ウィルス! 転送装置を使う。セット頼む!」

『了解! 座標セット完了。いつでも行けますぜ!』

「それじゃ、フェイトさん。悪いけど――」

「私も行く」

 

 その言葉に、ぼくは少しだけ戸惑ったが、すぐに頷いた。

 

 

~~~~~

 

 

「イノセントハート! セットアップ!」

「バルディッシュ。お願い」

 

 ぼくらはセットアップをし、転送装置に飛び込む。

 フェイトさんも隣に立つと、ぼくらは光に包まれ、次の瞬間には既にティルク達から百メートル程の場所に転移している。

 ティルク達が、機械兵器に囲まれている。

 それを見るや、ぼくとフェイトさんは同時に飛ぶ。

 

「私は右から! 一騎は左を!」

「わかった!」

「あれにはAMFが搭載されてる! 対策は覚えてるよね?」

「大丈夫!」

 

 ぼくらは同時にソニックムーブを発動し、左右に別れて加速する。

 フェイトさんは既に空高くに移動しており、天候操作を行っているようだ。

 ぼくは地面に砲撃を撃って砕き、瓦礫や岩を魔力を使って操作する。

 杖を前に構え、集中を高めていると、空が暗雲に覆われ、雷鳴が轟く。

 フェイトさんの合図に、ぼくは頷いた。

 

「サンダー――」

「スターダスト――」

「「フォール!!」」

 

 同時に唱えると、雷が機械兵器に直撃し、次々と撃破していく。

 ぼくが打ち出した岩はガジェットを力任せに砕いていく。

 

「一騎、来たのか!? それに、そっちの人は――」

「第二波、行くぞ! 伏せとけよ!」

 

 ぼくはもう一度スターダストフォールを打ち出す。

 機械が数機、こちらにレーザーを撃ってきたが、プロテクションで防ぐ。

 

「イノセントハート! ヴァリアブルショット!」

 

 イノセントハートを突きだし、大量の魔力弾を撃つ。

 それぞれがぼくとイノセントハートに制御され、機械兵器を次々と撃ち抜いていく。

 

「――砕けろ!」

 

 ぼくの近くに迫ってきたやつには魔力で強化した蹴りをお見舞いし、容易く機械を砕く。

 

「ラスト!」

 

 ぼくの魔力弾の掃射とフェイトさんの魔力刃が、残りの機械を破壊した。

 

 

~~~~~

 

 

「助かった、か。感謝します。テスタロッサ・ハラオウン執務官」

「しかし、執務官殿がなぜこのような場所に?」

「偶然スクィードに居て、あの通信を聞いてたんだよ。救援に協力してくださったんだ」

「「大ファンです」」

「話を聞け」

 

 ぼくは機械兵器の残骸を蹴り飛ばし、フェイトさんに詰め寄るライアとレイドにぶつける。

 

「ところでフェイト執務官。さっき、AMFが搭載されている、と言っていましたが」

 

 ぼくはそうフェイトさんに聞く。

 条件反射的に応えて行動したが、流石に詳しい説明を聞きたい。

 フェイトさんは潤達のために一から説明を始める。

 

「あれにはAMFが搭載されているから、それが展開されていると通常の魔力弾や斬撃は通りません。AMFについては?」

 

 それに答えたのはティルクだった。

 

「存じています。アンチ・マギリング・フィールド。魔力結合を解くフィールド系の防御です」

 

 ぼくはそこで眉をひそめ、

 

「あんな機械が、単体でAMFを?」

「ええ。あのサイズでAMFを搭載していて、見ての通り量産が可能になっています」

「……やっかいですね。強行偵察課(うち)でも対AMFの訓練を行うよう、フォレスタ二佐に進言しておきます」

 

 ぼくはみんなに向き直る。

 ぼくの視線に気付くと、最初は潤が話し始める。

 

「やっかいだったな。上手く身体強化が使えなかったし、効果もあまり出てないみたいだ。変換した炎も消えちまったしな」

「魔力斬撃に使う魔力も途中で消されて、力任せに薙ぎ斬ってしまった。ただの剣で斬れるほどやわでは無いようだ」

 

 やっぱりか、とぼくは呟く。

 

「とりあえず、スクィードに戻ろう。潤、ジェットは?」

「無事だ。エンジン切っちまったから、また暖機しねぇとならんがね。乗ってくかい?」

「ああ、乗るよ。フェイト執務官はどうされます? 転送ならオペレーターのウィルスに頼めますが、最近の輸送機(ジェット)の乗り心地も悪くないですよ」

「じゃあ……ご一緒させてもらっても?」

「ええ、もちろんです。……潤、安全運転で頼むぞ」

「エース様が使うタクシーにしちゃ、ちょいと厳ついですな」

 

 潤はコクピットに座り、起動シークエンスを再稼働させている。

 幸い、ここに居た四人に怪我は無いようだった。

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