「まーたこいつか」
ぼくが表示したモニタを見るなり、フォレスタ二佐はそう悪態をついた。
「また、ですか」
「2、3年くらい前からやけに報告が増えてんだ。昨日陸に行ったのだって、こいつ関連だぞ」
「このアンノウンが」
「『ガジェット・ドローン』だとよ。こいつの呼称だ。由来は忘れた」
「ガジェット、ですか――ガジェットが表れたのは昨日だけじゃ無いんですね」
「執務官殿から聞いたんだろ、ガジェットの面倒な性能」
「AMFですよね」
「お前の言わんとすることはわかる。『対AMF』の訓練、うちでもやっていくさ」
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「つまり、魔力弾一つ一つにバリアを張るような感覚でいいんですかね」
「イメージはそんな感じだ。さあ、やってみろ」
「できた」
「うむ」
「ありゃ、案外簡単」
「できん!」
「お前センス無いな」
「まだできとらんお前に言われたかねぇよ」
「兄貴やティルクはどうなるん?」
「俺は身体に回す魔力の密度を高める。解かれんようにな」
「こっちは魔力の圧縮だな。剣に纏わせる魔力を圧縮し、影響を受けないように固くする」
わいわい言いながらも、大体はできているようだ。
なんだかんだで、こいつらはみんな筋が良い。
アンソニーは元から使えるようだし、ハーヴェイとアレクセイは近代ベルカで練度もかなり高いので、必要ないだろう。
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「お兄ちゃん、じゃんけんってなに?」
「あん? ああ、それはだな。いかなる方法による解決にも、必ず勝者と敗者が生まれるという政治的思想を体現した管理外世界の文化だよ」
「嘘を教えるな、嘘を」
自由待機でのんびりと過ごしていると、そんなぼくにレイドが話しかけてくる。
「ねえ姉御」
「ん、なんだ?」
「昨日から気になってたんだけどさ、その指輪なに?」
ぼくの右手人差し指に着けている、姉さんと買った指輪だ。
「指輪は指輪だろ」
「まさかの結婚指輪?」
「けぇっこぉんゆぅびわぁ!?」
「なんだと!?」
素頓狂な声をあげながら突進してきたのはマリクで、その声につられ、後ろからどやどやと阿呆共が部屋に押し入ってくる。
「姉御が結婚!? どこの男だ!?」
「今すぐここに連れてこい! とっちめたらぁ!」
「そう、姉御に相応しいのはこのオレだ!」
「ゴミが調子に乗るな!」
「なんだとナスビ!」
「麻婆茄子食いたくなったな」
「しらんよ」
「まあまて、もしかしたら超絶イケメンの優等生かもしれんぞ」
「そういうやつに限って、裏ではよからぬことを考えとるのだ!」
「黙れよエロゲ脳」
「いや待てお前ら。二人、忘れている人物がいるぞ」
「……ま、まさか!」
「そう、兄貴とティルクだ!」
「くそがっ! 高身長イケメン筋肉男二人が、かよわい姉御と3Pだぁ!?」
「その発想はなかった」
「待て、穴が足りんぞ」
「後ろと口。充分足りとるだろう」
「おほほぅ」
「この変態、ひっでぇ顔してる」
なにやら盛り上がって部屋から飛び出していく阿呆共。
といっても、結婚指輪は左手薬指に着けるものであり、それはミッドでも変わらない、
つまりは、連中は騒ぐ材料が欲しかっただけで、遊びたいだけなのだ。
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『エース・オブ・エース! 弟と禁断の恋』
そのニュースの一面を見てぼくは壁を蹴り付け、それだけでスクィードが大きく揺れた。
ぼくのすぐ隣に居た潤が大きく肩を震わせ、突然の轟音に泣き出したレイナをかばうようにあやしながら、恐る恐ると振り向いた。
「……ご機嫌斜め?」
「ああ、そうかもな」
ぼくは低く呟いた。
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次の日、ぼくはデバイスルームに向かう。
昨日は本局中を飛び回り、とある情報局を一つ潰したりもしたのだが、まあその話はどうでもいい。
「さて、と。イノセントハート、少しいいか?」
《なんでしょうか》
「お前に機構を追加する」
ほほう、と興味深そうな声を出した。
「まずはカートリッジシステムの追加だ。いまはカートリッジの負荷もほとんど無いからな。追加しておいて悪いことは無い」
《当然、〈姉上〉と同じタイプでしょうね?》
「お前もその方がいいだろう?」
ぼくが眉を吊り上げて言った言葉に、イノセントハートは点滅して答える。
「モードも増やす。アクセルモードだけじゃ、できることも少ないからな」
《むしろ俺は、改造されることを前提に作られましたからね。不思議な話ですが。して、どのような?》
「まずは『バスターモード』だな。砲撃を撃つには楽になる。あと、ぼくは遊撃が主だから、近接戦闘用の――そうだな、『ブレードフォーム』だ。柄を縮め、片刃の魔力刃を展開する形がいいだろう」
《現時点では、ひとまずこの3つでよろしいでしょうか?》
「ああ。あまり増やしても使いこなせないからな」
《了解。機構追加はマスターにお願いしますが、それ用の調整は俺がやります》
「へえ、自分でできるのか。そりゃ楽でいい」
とりあえず、ぼくはイノセントハートをアクセルモードで展開し、台の上に置いた。
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しばらくすると、後ろで扉が開く音がし、ぼくは防眼ゴーグルを上げて振り向く。
潤が立っていた。
「おや、こんなところに居たのか」
「なにか用か?」
「いや、朝から見掛けなかったから、なにやってんのかと思ってね」
「見ての通りだ。イノセントハートの改造をしている」
それを聞くと、潤は驚いたように目を見開く。
「お前、デバイス作れるのか?」
「最近、A級デバイスマイスターの資格を取った。何も問題はない」
「へぇ……」
ぼくは首をかしげた。
「どうかしたか?」
「いや、俺はデバイス無しで問題ないからな。興味はあるが……デバイスがあるのと無いのとで、違ったりするのか?」
「術の発動は段違いに楽になる。が、お前の『身体強化』には、大きな効果はないんじゃないかな」
「なんだ。高効率化、とか期待したんだがな。俺は魔力量が少ないから、どうも燃費が悪くてな」
「なら、それ専用の処理……いや、魔力収集機能に特化したデバイスを使えばいい。なんなら、ぼくが作ることもできるぞ」
「いや、忙しいだろ。あんまり手を煩わせんのはちょっとな」
潤の言葉に、ぼくは肩を竦める。
「なに、イノセントハートの改造はもう終わる。それに、『相棒』の頼みだ。引き受けてやるさ」
「……お前のそういう強かさは嫌いじゃないぜ。んじゃ、頼んでもいいか?」
「そのかわり、形はこっちに任せてもらうが」
「あんまり動きが阻害されるのはやめてくれよ」
「ああ、わかったよ。じゃあ、お前の魔力資質をスキャンさせて貰うぞ」
そこに寝てくれ、とぼくが大きめの台を指すと、潤は寝転がる。
ぼくはモニターを複数出し、それぞれを操作していく。
「お前の魔力資質は強化型だな」
「ま、そうだわな」
潤は気だるげに応え、身体を起こす。
ぼくはモニターを操作しながら、
「あとは『炎熱変換』。目新しいものは無い」
「そんなぽんぽん変わるもんなのかい」
「そんなわけないだろう」
~~~~~
「最終調整完了か。どうだ?」
《良い感じです。誤差、反応速度共に0.012。マスターの腕を改めて認識しました》
「ありがとう。じゃあ、こっちの調整もやんなくちゃな」
《「相棒」のですか?》
「ああ、性能としては充分だ。調整もすぐに終わる。後は『慣らし』だな」
ぼくは潤に通信を繋ぐ。もうすぐ完成だ、デバイスルームに来てくれ、と。
「……よし。イノセントハート、チェック頼む」
《了解。……完了。機構良好、現時点で問題は見つかりません》
その結果に満足していると、デバイスルームの扉が開き、潤が入ってくる。
「一昨日頼んだばっかなんだが、早いな」
「昔は改良だけで一週間かかったんだけどな。それに比べたら、ずいぶん成長したと思うよ」
ぼくはケースを開き、イノセントハートを自分の首に掛け、潤のデバイスである、待機状態の腕輪を渡す。
「訓練室に行こう。お前のデバイスの最終調整だ」
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「さあ、名前はいま言った通りだ。なに、安心しろ。七面倒くさい呪文は設定していない」
「親切だな。んじゃ――」
潤は腕輪を嵌めた右腕を突きだし、
「『ブレイブ』。セットアップ」
腕輪が光ると、潤は全身を炎に包まれる。
それが四散するように消えると、そこには黒地で肩口からの袖が無いジャケットに身を包み、コアが嵌め込まれた『ヘッドギア』を装着した潤が立っていた。
「ほお、ヘッドギアか。こりゃ、確かに邪魔にはならんな」
「セットアップしている間、ブレイブが常に周囲の魔力素を収集して、お前のリンカーコアに還元してくれる」
けど、とぼくは強調し、
「あくまで補助的なものだし、効率が良いわけでもない。過信はするなよ」
「オーライ」
「あと、簡単なAIを組んで搭載してみた。身体強化の効率化を引き受けてくれるだけだから、会話はできないぞ」
「至れり尽くせりだな。どれ……」
潤が拳を構えると、拳と脚が炎に包まれる。
右拳を振りかぶり、体の捻りと共に打ち出す。
拳圧が、離れているぼくの髪を揺らした。
「はあ!」
拳を引き、左足を蹴り上げ、そのまま回転して右の足で後ろ回し蹴り。
左の正拳、裏拳に、もう一度右拳を打ち出す。
「なるほど、確かに楽だ」
潤は構えを解き、拳を握ったり開いたりしながら言う。
「まあ、お前のデータをしっかり基にしてるからな。それに、ぼくはお前の戦い方を熟知しているわけだし」
「頼りになる相棒だぜ、ほんと」
潤がセットアップを解除し、腕輪に戻ったブレイブを撫でた。
最近一騎の万能っぷりがすごくなってきました。
長年の努力の賜物です。きっと。