「一騎さん、この部分任せていいですか?」
「ああ、わかった」
ぼくは処理機能用のコンソールを手許に出し、構築にかかると、シャーリーはケースに浮かんでいる『剣』を眺めて息を吐く。
製作にかかってから一週間ほどで、ようやく形をなしてきたところだ。
ティルクからの要望は「剣の形にしてくれ」とだけなので、形さえ保っていれば幾らでも手を加えられる。
「それにしても、なんだかすごい形になってますね」
「剣の周りの『刃』を鋸状にして、魔力を流せば回るようにしている。いってしまえば、剣型のチェーンソーみたいな感じだな」
「かなり反動とかがキツくなっちゃいますけどね」
「ティルクなら使いこなせるさ」
ぼくは笑い、コンソールを叩く。
単純な剣としての威力を底上げし、限りなく少ない魔力で処理ができるように調整する。
ティルクは空戦魔導師だから、空を飛ぶし、高速機動もする。戦闘中の魔力消費量は潤よりも多い。
その分、潜在魔力量も潤よりは多いのだが、負担は少ないにこしたことはない。
「一騎さんの
「そうかな」
「ティルクさんが純粋なベルカ式、っていうのもありますけど、魔力放射を一切省いて、ここまで特化してるのなんて、見たことないですよ」
「ぼくだって見たこと無いさ。他のデバイスマイスターと話すこと自体、ぼくとしては稀だしな……っと、今日はここまでにしとくか」
窓の外が暗くなっているのを見て、ぼくはキリの良いところで構築を中断する。
「おさき」
「はい、お疲れさまです」
ぼくは頷き、デバイスルームを出た。
~~~~~
出たところで、姉さんと鉢合わせた。
「姉さん、今日は終わり?」
「あ、一騎。そっちもみたいだね」
「うん。ティルクのデバイスももうすぐ完成だから。のんびりやるよ――姉さん、どうかした?」
姉さんの表情が暗いことに気付き、ぼくは思わずそう聞いてしまう。
姉さんは首を振り、
「ううん、
「――そう、対処しきれないものだったら、ぼくも協力するよ」
ぼくはそれだけ言うと、姉さんと並んで歩き出す。
気付いたのは最近だが、やっと姉さんの身長に追い付いてきた。
「六課には慣れた?」
「慣れたというより、ぼくらで好きにやってる感覚が強いね。正直、メンバーが少ないだけで、強行偵察課と変わらないよ」
実際、ぼくらがここに居る理由がわからない。
『強行偵察課』の協力を得たいなら、ただ頼めばいいだけだ。フォレスタ二佐ならよろこんで協力してくれる筈だ――あの人の機嫌を損ねなければ、だが。
あの人を怒らせたが最後、社会的地位と財産を全て失い、危険生物が棲む管理外世界に身一つで放り出される――らしい。
情報源はハーヴェイなので、頭から信用はしないことにしているが。
「まあ、よっぽどの事が無い限り、ぼくらは勝手にやらせてもらうよ」
そう言った瞬間、警報が鳴り響く。
ぼくは今回も待機だろう。
「気を付けて」
「うん」
それだけ言うと、ぼくは走っていく姉さんを見送ると、デバイスルームに戻った。
考えてみれば、今のように、ぼくらも何時出撃が掛かるかわからない。
肝心なときに装備がない、では話にならないし、ティルクも納得がいかないだろう。製作を任されている以上、できる限り早くに仕上げるべきだ。
そういうわけで、ぼくは急ピッチで作業を進めることにした。
そして、1時間ほど経っただろうか。
「魔力変換システム……完了。これなら、明日には仕上がるかもな」
「一騎」
デバイスルームの扉が開き、シグナムさんが入ってきた。
「どうしたんですか?」
「少し、いいか。お前には辛いことを思い出させるかも知れないが……」
「……どういうことかはわかりませんが、ご一緒します」
そして、ぼくはこの発言を激しく後悔することになる。
~~~~~
まずモニターに映ったのは、幼い頃の姉さんの映像。
昔の朝食の風景。
そこには父さん達が笑い、姉さんも笑い、ぼくも笑っている。
ぼくはまず、昔の自分にある無邪気さを直視できなかった。今のぼくには無い、あの無邪気さを。
昔のバカな自分が恥ずかしい訳じゃない。むしろ、今のくだらない自分の方が恥ずかしいくらいだ。
それから続けて、姉さんとフェイトさんが出会ったジュエルシード事件。姉さん達が、今ここでフォワードメンバーに説明しているシグナムさん達と戦うことになった、闇の書事件が映る。
映像のなかで姉さんは、負荷の強い集束砲撃に、反動の厳しいエクセリオンモードを使用している。
いけない、と思った。
この流れは、まずい。
シグナムさんは今、姉さんの『無茶』を説明している。
『フォワードのセンターが誤射をした。それからも姉さんに反発し、今日決定的なバカを仕出かした』。そんなことが発端で、今ここで姉さんは晒されている。
ああ、だからってなんでそんなくだらないことで、姉さんの過去を掘り下げるんだ。注意なんて口頭ですればいいじゃないか。聞かないなら実力行使に出たって構わない。それでも通じなければ、放っておいて勝手にミスで死なせておけばいい。
だから。これ以上は本当にまずいんだ。やめてくれ。
そう言うわけにもいかず、ぼくは荒くなる呼吸を抑え、震え出す身体を腕で抱く。
心臓が激しく脈打つ。
そして、画面に包帯だらけの姉さんが写し出される。
同時に、様々な映像がフラッシュバックする。
ストレッチャーで運ばれていく姉さん。
泣きじゃくっていた自分。
隣で顔を蒼白にしたフェイトさん。
そして、狭い病室に場面は切り替わる。
そのベッドでは、姉さんが泣いていて――
ぼくは小さな悲鳴をあげた。
~~~~~
となりの一騎の様子がおかしいことには気づいていた。
だから、一騎が細い悲鳴をあげ、膝から崩れ落ち、その身体が床に倒れ込む前に受け止めることができた。
「高町!?」
「おい、一騎!」
身体を揺するが、一騎は掠れた声をあげただけで、気を失ってしまった。
「これが、一騎のトラウマだ」
そう静かに呟いたシグナム二尉は、辛そうに顔をしかめていた。
「知っての通り、こいつはなのは隊長の弟だ。だからこそ、この一件では、本人に次いで心に傷を負っている。こいつは――」
――一騎は、姉が傷付くことを極端に恐れる。
その言葉に、俺はハッとして、アローンが唇を噛んだ。
『ぼくは、姉さんの為に生きてるようなもんだ。生まれた時からずっと。姉さんが居なければ、ぼくが生きている意味が無くなるほどに』
『いや、なんでもないよ。そうだ、姉さんは完璧なんだよ』
盲目的なまでの姉への想いはこれが原因だというのか。
そして、この事件があったから、こいつは
いまのこいつと、映像に映っていた昔のこいつ。
その違いは明白で、そして、その理由も今わかった。それは仕方の無いことだったんだ。
そうしなきゃ、こいつは立ち上がることができないほどに
「……とはいえ、こんなのってねぇよな」
俺は小さく、青白い顔で気絶している一騎に呟いた。