「模擬戦?」
ぼくは思わず声をあげ、姉さんに聞き返す。
「そう。フォワード陣が模擬戦やるから、相手をしてもらおうと思ったの」
「ぼくが?」
「潤とティルクもだけど……一人でやる?」
ちらりと、隣に座ってこちらを見ている潤とティルクを見る。
勘弁してくれ、と言わんばかりに潤が肩を竦め、ティルクが頷いた。
ぼくは姉さんに向き直り、
「一人でやる」
~~~~~
「というわけで、一騎と模擬戦。全力で」
その言葉に、フォワードの四人は愕然とした表情で固まった。
「お手柔らかに頼むよ」
「こっちの台詞です!」
「なのはさん、これはちょっと!」
「一騎さん相手はキツいです!」
「しかも、全力って……」
「四人で頑張れば、勝てないことはないよ。教えたことをしっかり守って、全力でやってみよう」
勝てないことはない、という言葉に少しだけかちんと来たが、正直ぼくはこの子達の実力をほとんど知らない。
が、それぞれを見れば、おおまかに役割は把握できるので、判断を誤らなければそうそう負けることはないだろう。
「姉さん、どのくらいでやればいい?」
「んー……油断してたらやられるよ?」
意地悪く言った姉さんに、ぼくは笑った。
「いくら姉さんの教え子でも、ぼくだって相当に実力はある。そんな簡単に、ルーキーに負けやしないよ」
ぼくが言った煽りの言葉は、フォワード達に十分な効果を与えたようだ。
全員の表情が変わり、作戦会議をするかのように話し合いを始めた。
~~~~~
「判定は?」
「蓄積ダメージ30%。それを越えたら負けね」
「ふーん……了解。まあ、簡単には負けないよ」
ぼくはイノセントハートをセットアップし、構える。
フォワード陣は訓練中の白いシャツでは無く、バリアジャケットを纏っている。
「「「「お願いします!」」」」
「こちらこそ」
そう返すと、モニタが表示され、姉さんが映る。
『それじゃ。レディー……』
ゴー、と言った瞬間に、ガードのエリオが消えた。
エリオは高速移動で回り込み、後ろから突っ込んでくる。
《sonic move》
ぼくは同じく高速機動を使い、ブレードフォームにしたイノセントハートでブースターを噴出しているストラーダの穂先を斬り付け、角度を変えて地面に突っ込ませる。
ソニックムーブの効果が切れると、エリオが地面に叩き付けられ、高速移動の反動でぼくの身体が一瞬固まる。
「クロスファイア!」
その瞬間を狙い、センターのティアナが誘導弾を撃ってくる。
寸前で硬直が解け、ぼくはイノセントハートを振るう。
十以上の誘導弾を全力で切り落としながら、横から拳を構えているアタッカーのスバルが突進してくる。
ぼくは二つの誘導弾を身体に食らいつつスバルに向き直り――真後ろでストラーダを振りかぶるエリオを感じた。
一瞬の判断で、ぼくは腕を交差させるようにしてスバルの拳を掌で、エリオのストラーダをイノセントハートで受け止める。
「ブラストレイ!」
そこで、キャロがぼくに向かってフリードに火球を撃ち出させる。
ぼくは歯を食い縛り、カートリッジをロード。イノセントハートが術式を構築する。
火球が到達する直前に巻き込まれないようにスバルとエリオは離れ、同時にイノセントハートの構築も完了した。
左手を突き出す。
「ストライクスマッシャー!!」
左手から砲撃が撃ち出され、火球を打ち砕く。
全力で後ろに跳び、爆発の余波と大量の誘導弾を避ける。
「……やるな」
『だから言ったよね。油断してたらやられるよ?』
「ああ、確かにね」
頭の中に響いてきた姉さんの声に苦笑しながら、ぼくはイノセントハートをバスターモードに切り替える。
「砲撃で殲滅す――っ」
そして移動しようとした瞬間、ぼくの身体を地面から生えた鎖が絡めとる。
確か、キャロの魔法だ。魔力ではなく金属で出来た鎖なので、対拘束魔法の対策である
「だったら」
ぼくは肘から先が動く左手に、魔力を集め、杭のように圧縮する。
そこで魔力弾が飛んできてさらにぼくの体力を削るが、それを確認する前に左手の魔力を地面に向けて打ち出す。
「ストライクバンカー!」
杭の様に圧縮して固められた魔力は、容易く地面を砕き、鎖の根本を引き抜く。
拘束力を失った鎖を振りほどきながら、もう一度高速移動を開始する。
今度は全力の機動なので、これほどの実力を持つフォワードでも、一瞬ぼくを見失う。
というのも、ぼくが大きく旋回して、フルバックであるキャロを追い越し、更に長い距離を取っているから、というのも理由の一つだ。
少し高めのビルの屋上に着地し、イノセントハートを構え、チャージを開始する。
そこで、フォワードはぼくの場所に気付いたようだ。ティアナの素早い指示によって散開するが、少しだけ挙動が遅れた、キャロが乗っているフリードに狙いをつける。
「ディバインバスター」
轟音と共に砲撃が撃ち出され、フリードとキャロを呑み込む。
フリードが墜落するのを確認し、素早く場所を移動してカートリッジをロード。次は一番の脅威であるスバルに砲撃。
寸前で気付かれたらしく、スバルはプロテクションを張るが、いくらスバルの防御が固くてもぼくの砲撃に長く耐えることはできないようで、バリアが砕けた感覚があった。
「これで二人。やっぱ砲撃重視の方がいいかな」
《俺もそう思います》
イノセントハートが大量に蒸気を噴出しながら応える。
「サンダー――」
ぼくはなんとか反応し、後ろにシールドを張る。
「――レイジッ!!」
雷を纏ったストラーダがシールドにぶつかり、爆発を起こす。
一瞬でぼくの位置を把握したっていうのか。補足されないためにできるだけ音も立てず、砲撃も一瞬で終わらせたというのに。
「ちっ――!?」
爆発に吹き飛ばされたぼくはなんとか体制を立て直そうとし――後ろから大量の魔力弾を食らう。
「ぐあっ!」
《蓄積ダメージ20%》
ぼくはティアナに向かって牽制で砲撃を撃ち、その反動を利用して大きく吹き飛ぶようにして距離をとる。
体勢を立て直すと同時、危険を感じてイノセントハートを両手で握って頭の上にかざす。
迫っていたエリオのストラーダを防ぐが、また魔力弾がとんできたので、ぼくは先にティアナを落とすことにした。
エリオを捌いて隙をついて砲撃で吹き飛ばすと、ティアナの位置をサーチしていたイノセントハートからの情報を受け取り、そこへ高速機動で突入した。
が、そこにティアナは見えなかった。
魔法か、と判断し、ぼくは後ろから姿を消してダガーを突き刺そうとしたティアナの腕を弾き、回し蹴りを叩き込もうとし――横からスバルに殴り飛ばされた。
「な、スバル――くそ、エリオか!」
さっき砲撃で抜いた感触があったはずなのに、と考え、舌打ちをした。
先程、バリアが砕ける瞬間に、エリオが高速機動で助けたんだろう。
スバルの拳を、身体を回転させながら紙一重で避けると、その勢いを利用して背中にイノセントハートを叩き付ける。
体勢を崩したスバルに砲撃を撃ち込み、今度こそ気絶させたことを確認すると、広域サーチを発動する。
「キャロとスバルは撃破。後はティアナとエリオの二人だ」
『発見。上です』
ぼくは直角に突っ込んできたエリオを避けるために横に転がり、そのまま走る。
後ろから三角飛びのように、ビルの壁を蹴るようにしてエリオが追ってくるのを感じて舌打ちしながら、ぼくはブレードフォームで構える。
突撃してくるエリオを剣で弾き、走る。それを続けながら、ぼくは打開策を考える。
(面倒なティアナが仕掛けて来ていないのが気になる。が、好都合か。だったら先にエリオを――)
その時、ティアナの誘導弾がぼくに襲いかかる。
それをバリアで防ぎ、追撃に備えるが――ティアナはそれっきり撃ってこない。
なにを考えているのかは知らないが、まずはちょこまかと攻めてくるエリオを落とすべきだろう。
そう判断したぼくはまた突っ込んできたエリオをかわして剣を叩き付け――すり抜けた。
「しまっ――」
「でやぁぁぁぁぁっ!!」
ぼくの横腹に、エリオのストラーダが突き刺さる。
《蓄積ダメージ25%》
「くそったれ!」
ぼくは左手でストラーダの穂先をずらし、全力でイノセントハートを振りかぶる。
「おおっ!」
ぼくの斬撃をエリオはしっかりと防いだが、その瞬間イノセントハートがエリオを囲うようにアクセルシューターを展開して撃ち出し、撃墜する。
「ラスト!」
ぼくはそのまま魔力弾を避けながら、ティアナに向かって走り出す。
既に相手は一人なので、集中すれば避けるのは簡単だ。
そして、ティアナに砲撃を撃つと、すり抜け、かき消える。
その瞬間、ぼくの回りに大量のティアナが出現する。
「また幻影かよ……イノセントハート」
《判別不能》
「ああもう、面倒だ」
ぼくはイノセントハートをアクセルモードに戻し、カートリッジをすべてロードする。
イノセントハートを掲げ、ぼくの足元に魔方陣が展開され、頭上に大量の魔力スフィアが生成される。
「纏めて潰す――アクセルシューター・アラウンドシフト!」
ぼくは四方八方にスフィアから魔力弾を撃ち出し、幻影を次々と潰していく。
素早く周囲に目を走らせながら、ぼくは僅かな魔力反応の乱れを見逃さない。
(――見付けた!)
振り上げていたイノセントハートを、左斜め後ろのビルの屋上に向けた。
屋上で魔力をチャージしていたティアナと、目が合ったのがわかった。
その目を見て、ぞくっとした悪寒が走り抜ける。
「弾幕集中! 撃ち落とせ――ッ!」
ぼくはそう叫んでシールドを張ろうとし――
~~~~~
「あいつ、あんなに弱かったか?」
「さあな、バカみてぇに動き回って。熱くなりすぎだっつーの」
俺は肩を竦め、今訓練所のど真ん中で気絶した相棒を見る。
「ノックアウトだな。あの程度の撹乱と狙撃に反応できないとは――鈍ったな、あいつ」
「高町一尉、これはどうなるんです?」
「最後のティアナもアクセルシューターの弾幕でやられちゃったし、一騎は撃ち抜かれて気絶……引き分け、かな」
アローンが溜め息をついた。
「ルーキー相手にあいつがここまでやられるとはな。高町一尉の教導の賜物ですか」
「ルーキーって言うけど、スバルとティアナは救助隊で経験積んでるから、実力はかなりのものだよ」
「ほお、救助隊。それじゃ、結構なハードワークをこなしてたわけだな」
俺らほどじゃないかもしれないが。
「でも、一騎が上手く動けてなかった気がする。訓練してなかったのかな」
「いや、基本
「じゃあ、一対多のやりかたを忘れたのかも。今度からリーコンも訓練受けたらどうかな?」
テスタロッサ執務官の提案に、良いですね、と返す。
多少動いているとはいえ、俺も大分鈍っている気がするからだ。
「あいつらを運んでくるぞ。フォワードも、もう少しで目を覚ますだろう」
俺の肩を叩きながらアローンが言った言葉に頷き、全員を運ぶために動き出した。