魔法少女リリカルなのは エース・オブ・エースの弟   作:ロア

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27話 StrikerS9

「それで、どのような御用件でしょうか、フォレスタ二佐」

 

 はやてさんがそう言いながら僅かに冷や汗を流すのを見て、珍しいと思うと同時に、やっぱりそうなるだろうな、とも思った。

 はやてさんはいつも明るく振る舞っているが、基本的には戦略家気質な人だ。自分の内面を隠しながら相手に意見を示し、確実な方法で勝とうとする。

 議論や交渉などはかなり得意な筈だ。この『機動六課』を半ば無理矢理に設立したことからも、それはわかる。

 だが、そんなはやてさんの手腕でも、フォレスタ二佐には敵わないだろう。

 

「さっき高町弟にも伝えたがな。お手伝いだよ。六課の」

 

 フォレスタ二佐はにこやかな笑みを浮かべてそう答える。

 相変わらず、この人は読めない。

 ぼくは――偵察課(ぼくら)は人の表情や挙動からその人物の考えを読み取る技術を訓練する。

 人間の肉体で必ず起こりうる『反射』を見逃さず、それが嘘であることを見抜く。

 言葉の上擦り、逸らされる目線、緩み固くなる口許、乾いた唇を舐める舌、指先を擦る仕草、靴の中で落ち着かず動く爪先、僅かに肩を上下して荒くなる息。

 ほとんどの人間はそれらを無意識に動かす。そう、無意識だからこそ、それは確実に変化を見せる。

 基本、これらの『反射』は訓練により、ある程度まで反応しないようにすることができ、当然ぼくらもそれを受けている。そのせいで、最近は姉さん達に「ちょっと無愛想になったね」などと言われるようになってしまった。

 だが、フォレスタ二佐のそれは、ぼくらとはレベルが違う。

 なにもかもが、全てがなんの変化も起こさない。どれほど鋭く切り込んでも、誘導して話させようとしても。フォレスタ二佐にはその『反射』が無い。今喋っているそれが嘘か真実か、まったくわからないのだ。

 それをはやてさんもわかっている。だからこそ、はやてさんは警戒しているのだ。

 

「お手伝い、ですか」

「ああ。機動六課のお仕事を手伝うために来た」

 

 はやてさんは黙ってフォレスタ二佐を見る。その眼は鋭く、睨むと言ってもいい。

 おそらく、はやてさんは『新手の査察方法か』と考えているのだろう。本局所属で、その手のエキスパートである『強行偵察課』が航行艦ごと来たことに焦っている。

 そのはやてさんの睨みを見て、後ろに立っているアンソニー達が目を細めた。課長に対する無礼に対し、不快そうな雰囲気を隠そうともしない。

 しかし、フォレスタ二佐は飄々とした笑みを浮かべたままだ。

 

「『俺らも全面的に協力する』。そう言ったろ?」

「……ええ、そうですね」

 

 そう言いながらも、はやてさんの視線は未だに鋭い。

 らちがあかないな、とぼくは思った。腹の探り合いほど意味の無いものはない。

 フォレスタ二佐は絶対にぼろを出さないし、このまま続ければはやてさんが不利になっていくだけだ。

 

「では、お言葉に甘えましょう」

 

 ぼくがそう割り込むと、はやてさんが弾かれたようにこちらを見る。

 ぼくはちらりとはやてさんを見て、

 

「別に人員不足というわけでは無いですが、人手はあって困るものでもありませんし」

 

 それに、腕は確かですし。

 ぼくが続けて言うと、はやてさんは少しの間黙り込み、渋々を装って頷いた。

 

 

~~~~~

 

 

「まったく、ただでさえ問題が山積みや、いうのに」

 

 フォレスタ二佐達が部隊長室を出ていくと、はやてさんは苛立ったように呟き、額に手を当てて背もたれに寄り掛かる。

 

「さっきも言ったけど、フォレスタ二佐達と手を組んで困るものでもないでしょう。逆に利用価値は高いと思いますけど」

「それはそうやけど、あの人なに考えてるかわからんやろ。なにもかもが予想通り、みたいな顔して。正直ちょっと不気味やな」

「みんなそう思ってますよ。たぶん、あの人を知ってる局員全員が」

 

 むう、とはやてさんは唸る。

 

「本当に本局からの査察だったら、どないしよ……」

「まあ諦めるしかないですね。けど……なんとなく、ですけど」

 

 ぼくは彼らが出ていった部隊長室の扉の方を向きながら、

 

「少なくとも、あの人はあの人なりの道理に従って動いてます。当然、その中には善悪の基準もあります」

「……つまり?」

「あの人、たぶんはやてさんを好いてますよ」

 

 ぼくは素直にそう思った。あの人ははやてさんを評価しているように思えた。『お手伝い』も、きっと言葉通りだろう。だから、きっとはやてさんの不利になるようなことはしない、という意味を込めて言ったつもりだった。

 が、はやてさんはおっさんに好かれてしまった、というショックに固まっていた。

 

 

~~~~~

 

 

 そして、ぼくの目の前に出現したモニターには、慌てた様子のキャロが映っている。

 モニターの隅に小さく書かれている数字の羅列は、緊急用の全体通信だということを示している。

 

『こちらライトニング4! 緊急事態につき、現場状況を報告します!』

 

 どうやら、路地裏のマンホールから女の子が出てきたらしい。

 

「ティルク! ジープ出せ!」

 

 ぼくはそれを聞き、そう通信に叫びながら走り出す。

 途中で潤と合流し、隊舎を出たところで足を止める。

 駐機場の方からジープが飛び出してきて、ぼくらの前で横滑りしながら止まる。

 

「ナイスタイミング」

 

 潤が口笛を吹きながら助手席に乗り込み、ぼくは荷台に飛び乗る。

 ティルクがアクセルを踏み込み、街への道路を高速で走る。

 

『リーコン、聞こえる?』

「よーく聞こえてますよ」

 

 モニターに表示されたはやてさんに、潤が笑って応える。

 

『三人は何時ものようにフォワードの援護。ライトニング4の座標には、少女の保護のためスターズ1とシャマル医務官が向かうから、三人は街で広域警戒をお願い』

「了解!」

 

 少し移動すると、目的地に到着するのでジープを停め、ぼくらはモニターを出して操作する。

 

「さて――警戒開始だ」

 

 

~~~~~

 

 

 暫くすると、高町のイノセントハートが魔力反応を検知する。

 

「魔力――これは……」

「アグスタの時と同じ反応だな」

「――行くぞ!」

 

 アグスタと同じ、という言葉を聞き、俺は飛行魔法を使って高速で飛ぶ。

 おそらく、召喚師の少女がいる。

 そして、その少女がいるのなら、あの虫もいるはずだ。

 

「借りを返してやる――」

 

 俺は腰に収まっている分厚い鞘から剣を抜く。

 ギザギザとした刃を見て笑い、魔力を流す。

 刃がチェーンソーのように高速で回転を始め、その振動が俺の腕に伝わってくる。

 

 そして、少女とその隣で紫の羽を生やしている、人形(ひとがた)の虫を見付ける。

 

 振動を無理矢理抑え込むように剣を振りかぶり、虫に向かって加速する。

 

「うおおおおおおおおお!!」

 

 俺の叫びに虫が反応し、寸前でステップをするように移動して避けられる。

 俺は振り下ろした剣を左から斬り上げる。

 虫は腕から生やした刃で俺の剣を受けるが、俺の鋸が火花を散らして刃を削り、半ばから断ち折る。

 そこで俺の腹に蹴りが飛んできて、大きく吹き飛ばされながらも空中で体勢を立て直す。

 俺は剣を握り直し、腕を震わせる振動を両手で抑え込んで脇に構え、突撃する。

 召喚師の少女が飛ばしてきたダガーを剣で弾き、その勢いで回転して遠心力を利用し、少女に向かって加速する。

 やはりと言うべきか、虫が無理矢理割り込んで拳を打ち出してくる。

 

「らぁッ!」

 

 拳と剣がかち合い、弾かれる勢いで俺が左足で蹴りを繰り出すと、虫はそれを右手で受け、左手の未だ健在な刃を突き出してくる。

 俺はそれを避けられずに右胸に食らう。

 鎧が砕け、刃が半ばまで突き刺さり、血が伝う。

 

「ぐっ――おぉあああああああああ!!」

 

 胸でずきずきとした痛みを主張する傷に歯軋りし、叫ぶ。

 突き刺さったままの左腕を掴んで引き抜き、虫に無理矢理剣を叩きつけようとすると、剣の腹で爆発が起こり、大きく吹き飛ばされる。

 

「ッ――くそ、一匹増えていたか」

(ひき)じゃねーよ、(にん)だ」

 

 リインフォース空曹長と同じ位の大きさの、赤い髪が特徴的な、人形のような小さな影が召喚師の隣に浮かんでいる。

 虫と少女だけならなんとかなったが、もう一人増えているとなると、少しばかり面倒だ。貫かれた右胸は信じられないほど痛み、あまりの出血に意識が朦朧としてくる。

 召喚師の少女ともう一人増えていた赤髪が左右に分かれ、虫が突進してくる。

 俺はどうにか盾を構え、虫の刃を防ぐ。

 その力に歯を食い縛りながら耐えていると、連続で拳が叩き込まれる。

 そのラッシュは斎藤並みの激しさで、少しずつ押されていく。

 

「まだだ――ッ!?」

 

 その時、俺の左右で赤髪と少女がダガーと火炎弾を展開して撃ち出そうとしていることに気付くが、盾で虫の攻撃を耐えている俺にはどうすることもできない。

 せめて騎士甲冑の出力を上げ、これ以上の致命傷だけは避けようとし――

 

『ったく、しょうがねえ後輩だな』

 

 ――そんな声が聞こえた。

 同時に、俺の両隣に人が割り込んでくる。

 左の人物は撃ち出されたダガーを双剣で全て斬り落とし、右の人物は身の丈程もある巨大な盾で火炎弾の爆発を防ぎきる。

 そして、真上から虫に向かって砲撃が撃ち込まれる。

 驚いていると、左の人物は俺に向き直り、笑った。

 

一人戦闘(スタンドプレイ)は難易度ハードだぜ」

「お前がここまで熱くなるなんて、珍しいな」

「仮にも分隊長なら、このくらいの状況判断を誤るな」

 

 その三人は、強行偵察課のハーヴェイ・ヴェルディ二尉と、アレクセイ・アブラモフ二尉、アンソニー・モルス一尉だった。

 

「――なぜ、ここに?」

「無茶ばかりする後輩を助けに来たのさ。さっさと引っ込んで治療を受けなきゃ死ぬぞ?」

「後は任せておけばいい」

「先行分隊――フォワードと言うのか、ここでは――も合流してきたことだしな」

 

 アブラモフ二尉の言葉に振り向くと、俺達とは反対側から、ヴィータ副隊長と二人――ナカジマと、あの女性は誰だろうか――が空からこちらに向かってきている。

 右の方にはランスターが射撃準備を完了しているし、ライトニングの二人も近くに居るはずだ。

 

「チェックメイト」

「さ、観念しろ。お嬢さん」

「抵抗するなら、容赦はしない」

 

 その言葉で、少女の無表情に諦めが混じった。

 

 

~~~~~

 

 

「――了解、広域警戒を続けます」

 

 そう言ってアンソニーからの通信を切る。

 

「後輩のピンチに駆け付ける先輩か。かっけぇな」

「『お手伝い』はしっかりやってるみたいだな」

 

 ぼくらがティルクを追おうとしていたら、急にアンソニー達三人が通信で割り込んできて『任せろ』と一言だけ言って飛んでいった。

 あの三人は揃えばぼくらより強いので、任せておいてもなんの問題もなかった。

 

「召喚師は確保。レリックも取り返してるし、これで終わりかな」

「んじゃ、俺もあの人達に挨拶してくるぜ」

 

 潤がビルから飛び降りたのを見て呼び戻そうとしたが、既に地面に着地して走り出していたので放っておく。

 

「さてと、ぼくらも」

『警告。砲撃のチャージを確認。位置情報を出します』

 

 マップに光点が表示される。

 

「砲撃だと……!?」

『サーチャーの映像です』

 

 眼鏡を掛けた女と、巨大な大砲を持った一人の女が、膝立ちになってそれを構えている。

 

「向きからして狙いはヘリか! くそっ、間に合うか――」

『防御は任せろぉ!!』

 

 

~~~~~

 

 

 砲撃が撃ち出される。

 赤い砲撃が一直線にヘリに向かって飛んでいく。直撃コースだったが、そこに割り込む人影が数人。

 着弾し、爆発が起こるが、規模はそれほどでもなく、未だヘリは悠々と空を飛んでいる。

 

「ふぅ、すげえ防御力だな」

「さっすがEシールド」

「荷電粒子砲さえ防ぐんだ。S+の砲撃なんて軽い軽い」

「シュナイダーのをひっぺがしやがって、後でちゃんとくっつけろよ」

 

 そんな気の抜けるような会話を続けるリブレンド達を横目に、ぼくは魔力翼を羽ばたかせ、

 

「一騎、援護!」

「了解!」

 

 姉さんの声に応え、全力で飛行を開始する。

 ビルの屋上から二人の人影が飛び出す。

 フェイトさんが直射弾でそれを追いたて、ぼくがその二人の前に躍り出て誘導弾を撃つ。

 二人は横に飛び出して避けるが、それを予想していた姉さんは既にレイジングハートにチャージを完了させており、砲撃を撃つ。

 直撃し、動きが鈍ったところにぼくとフェイトさんが魔力刃で斬り付ける。

 

「こちらもチェック、だな」

 

 ぼくがブレードフォームのイノセントハートを突き付けると、二人はふらふらとしながらもぼくらを睨み――消えた。

 一瞬移った人影を敵と判断し、イノセントハートに叫ぶ。

 

「消えた――イノセントハート!」

標的を見失いました(反応ロスト)

「――逃げられた、ね」

『こちらもだ』

 

 ぼくの隣にモニターが表示され、アンソニーがばつの悪そうな顔で映っていた。

 

「追跡は」

『無理無理。敵さん、アスファルトから飛び出してきたんだぞ。さすがにビビったぜ。なんなんだありゃ?』

『移動系の魔法なら相応の反応があるはずだ。だが、それも無かった――不覚だ。俺達が気付けなかったとは』

『――報告に入ります。よろしいでしょうか』

『っと、ヴィータ三尉でしたか。お願いしても?』

『はい。ロングアーチ、こちらスターズ2――』

 

 ぼくは大きく溜め息をつき、隣に降り立った姉さんとフェイトさんに向き直る。

 

「タイミングぴったりだったね」

「一騎、フォローありがと」

「結局逃げられたけどね」

 

 ぼくが肩をすくめて言うと、姉さん達が苦笑する。

 

「とりあえず、ぼくらも戻ろうか」

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