魔法少女リリカルなのは エース・オブ・エースの弟   作:ロア

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31話 StrikerS13

「……どうやったら勝てるか、だぁ?」

「はい!」

「隊長陣に?」

「はい!」

「勝てるわけねぇだろが」

 

 俺はそう返し、反射的に吸っていたタバコを隠す。

 いくらなんでも人前で堂々と吸うのはまずい。ただでさえこの職場(六課)は女性が多いのに、タバコなんて吸っていたら臭いがどうの副流煙がこうので肩身が狭いというレベルでは無い。ただでさえ、レイナを保護してからは、あの子が起きている間は吸わないようにしていたというのに。

 そういうわけで毎晩、こうやって真夜中にわざわざ隊舎の裏という人目の無い場所でこっそりと吸っていたというのに、どういうわけかナカジマが俺を見つけ出し、あろうことか『潤さんはどうやったら隊長達に勝てると思いますか』などと問いかけてきたのだ。

 

「タバコ吸っちゃダメですよ」

「知ってるよ」

 

 あっさりばれたことに溜め息を吐き、タバコを携帯灰皿に仕舞う。

 

「――聞く相手を間違えてんじゃねぇのか? こういうのは、高町一尉に『テスタロッサ執務官にはどうやれば勝てますか』とか聞くもんだろ。よりにもよってなんで俺だ?」

「いやぁ、あたし個人の興味が大半なんですけど、昼間も聞いた分、やっぱり気になっちゃって」

 

 俺は頭を抱えた。

 

「勝てねぇよ。相手が悪すぎる。勝機はほとんどねぇだろうな」

 

 むしろ、隊長達に挑むなんて正気を疑う。

 

「いや、そんなこと無いですよ。潤さん強いんですし!」

「お前は俺の何を知ってるんだよ……」

 

 呆れつつ、少しだけ考えてみる。

 

 えっと、隊長だから――高町一尉相手にはどうか。恐らく完封負けだ。近付くことすら難しいだろう。だが、もしも近付くことができたなら。いくら高町一尉でも、もしかしたら純粋な接近戦を挑まれるのは苦手かもしれない。そこを狙って打ち込むことができれば、可能性はあるだろうか。

 

 なら、テスタロッサ執務官はどうだろう。この人相手は、あの速さに反応できるかどうかだ。執務官殿は装甲が薄い(本人談)らしいので、動きをよく読んで威力を乗せた拳打を当てられれば動きは止められる。接近戦に持ち込めば、まだ勝機はあるかもしれない。

 

 ヴィータ三尉相手なら。接近戦を仕掛けてくる分、まだ二人よりは戦いやすいだろう。避け続けるよりも、打ち合いに行く方がいいだろうか。上手く受けるか弾くかして、急所を狙って攻撃を当てることができればいいんだが。

 

 シグナム二尉は。一騎達の相手をしているから斬撃対策はわりとできているので、もしかしたらこの人相手が一番戦いやすいかもしれない。避けるか防ぐか弾くか。そうして剣を捌きつつ、あの武人の僅かな隙を見つけ、全力で打ち込むしかないだろう。

 

 そこまで考えて、結局は全て、ひとつの結論に至っていることに気付いた。

 おそらく、無意識の内に収束しているこれが、俺が考える『勝つための方法』なんだろう。

 

「どうせ()ってる最中は、相手の技能(これ)がどうのこうのなんて気にしてられねぇ。だから、全力で打ち込む。僅かな隙を突き、急所を狙って、正確な一撃を、な」

 

 そう言うと、ナカジマは呆けた顔をした。

 俺はまずいことを言ったか、と疑問に思い、どうしたと聞くと、

 

「いや、その……ギン姉――あたしの姉も同じことを言ってたので、ちょっと驚いてしまって」

「おんや、そうか? 俺なりに考えて――というか思い当たって――出た結論なんだがな」

「お母さんが言ってたみたいなんです。『刹那の隙に必倒の一撃を叩き込んで終わらせるのが打撃系のスタイル』」

 

 出力がどうとか、射程や速度や防御能力がどうとか、自分と相手のどちらが強かろうが。そんなの全部関係ない。

 相手の急所に正確な一撃。狙うのはただそれだけ。

 その言葉に、俺は見たことも無いナカジマ姉に対して、とても興味が惹かれた。

 

「……打ち合ってみてえな」

「え?」

「お前の姉さんだ。なんか、感銘を受けた。試してみたくなったな――なあ、姉妹ってこたぁ、お前とおんなじ格闘型(ファイトスタイル)なのか?」

「はい! あたしは、主にギン姉からシューティングアーツを教わったんで」

「つまり、お前と似た――下手すりゃお前より強いってことだろ?」

「はい、もちろん私よりも強いです」

「じゃあ、まずはお前とだな」

「え?」

「少し手合わせしようぜ、ナカジマ! なんかもう、我慢できねぇ! 今は思いきり誰かと打ち合いたい!」

「って、今から!?」

「頼む!」

「ええ!?」

 

 

~~~~~

 

 

 中庭でセットアップをして打ち合いを始めた二人を窓から眺めながら、俺は自販機からコーヒーを取り出すと、高町がカードを当ててコーラを購入する。

 

「スバルも大変だな。潤はあれでかなり激しいから、相手をするにはくたびれるぞ。今夜は寝れないかもしれないな」

「……おかしな言い回しはやめろ」

 

 珍しくにやにやと笑いながら言った高町に俺は顔をしかめながら、中庭の二人に目を移す。

 まあ、確かに斎藤は一度火が付くと止まらない。俺達も何度か模擬戦をやるが、あいつのバトルに対する想い――執念ともいうが――は目を見張るものがある。

 本人は普段は興味が無さそうにしているが、あいつは俺達三人の中で一番戦いが好き(バトルマニア)だ。

 

「まあ、ナカジマも楽しそうにやっているから、まだいいだろう」

「格闘型同士、通じるものがあるのかもな――技能は正反対だが」

 

 高町の言葉に頷く。

 ナカジマはああ見えて重装甲型で、敵の攻撃を耐えながら突き進み、馬鹿高い威力の拳打を打ち込んでくる。一度模擬戦をしたことがあるが、俺は彼女の拳を盾で受けたというのに、腕は痺れ、5メートルほど吹き飛ばされたことがある。

 斎藤は柄に似合わず細かい戦闘を得意とする。確実に相手の攻撃を避け、その隙に炎熱の拳を捩じ込む。それなりに剣技に自信がある俺でも、あいつに攻撃を当てるのには苦労する。

 空戦で例えるなら高火力型と高機動型、といったところか。

 

「ぼくも明日辺り、久し振りにシグナムさんとバトろうかな」

 

 高町がデバイスをセットアップして言う。

 その細身の曲剣を見て、俺は前から思っていたことを訪ねる。

 

「お前の魔力剣は、変わった形だな」

(ブレード)形態だからな――って、ティルクは日本刀を知らないか」

「――ああ、知らん」

「いやまあ、イノセントハートは形を真似てるだけだよ。けど、魔力刃の切れ味は、どんな金属よりも勝るし頑丈だ。もちろん調整さえミスらなければの話だけど、形は保てるし、重さもかなり軽いから、自由に振り回せる」

「すこし、いいか?」

「ああ。振ってみる?」

 

 高町からイノセントハートを受け取り、片手で構える。

 右足を踏み出すと同時に袈裟斬り、左足を踏み出しながらの左薙ぎ、そこから回転しての一閃。

 確かに。俺の剣鋸とは比べ物にならないほどの軽さだ。俺の剣鋸が文字通り力任せに叩き斬るのに比べ、高町のコレは鋭く切り裂くためのものなんだろう。

 だが、

 

「なるほどな……俺には合わん」

「だろうな。お前の振り方とは真反対だ」

 

 今から技術を学び直すには、かなり時間がかかるだろうな、と高町が言うのに、俺は頷いた。

 

 

~~~~~

 

 

「……すまん、取り乱した」

「い、いえ、大丈夫です……」

 

 無我夢中でやっていたが、やっている最中に突然冷静になり、棒立ちになってナカジマに殴られたことで、俺は完全に頭が冷えた。

 

「潤さんも、結構なバトルマニアなんですね」

「なんだ、それ」

「戦いが好き、って感じです」

「はっ……どうだかな」

 

 俺は自販機でスポーツドリンクを二つ購入し、片方をナカジマに渡す。

 

「詫びと礼だ」

「あ、ありがとうございます!」

「そんじゃ、また明日な」

「はい!」

 

 ナカジマは頷くと走っていった。

 それにしても、疲れた。何だかんだでどっちも本気になっていたし、久し振りにここまで動いたかもしれない。最近は、訓練でさえここまでやらないのに。

 いや、明日も訓練があるナカジマには、かなり迷惑なことだったろうか。まずいことをした。

 考えを中断し、ひとまず寮に戻ろう、と考えたところで、人影が目に映る。

 

「さっきの騒ぎは、きみが起こしたのか?」

「おんや、ロウラン准尉」

「呼び捨てで構わないよ」

 

 確か、グリフィス・ロウランとだったか。

 歳は知らないが、階級は俺よりも二つ程上、ヴェルディ達と同じ准尉だ。

 

「んじゃ、敬語も取るぜ。どうした、こんなところに」

「中庭で戦闘行動が起きている、と連絡があってね。事が事なら、と思っていたんだが」

「後輩とスキンシップをとってただけさ」

「それだけならいいんだけどね」

「なんだ、意味深に」

 

 ロウランはくすりと笑い、

 

「未成年の喫煙も、報告に受けているんだよ」

「へえ、悪いことする奴もいるもんだな」

「持ってるんだろう?」

「さてね」

「出さなければ、隊長達に報告することになるが」

「証拠も無いのに?」

「調べたらわかるさ。管理局の設備を甘く見ない方がいい」

「毎年ある健康診断はクリアしてるんだがな」

「それに、今も匂うしな」

「そりゃ気のせいだ。さっき海の反対側で焚き火してる阿呆達(やつら)も居たしな」

 

 そこまで言うと、ロウランは黙って俺の目を見る。

 俺も黙って目を見返していると、奴は溜め息を吐き、左手を耳に当て、

 

「八神部隊長――」

 

 俺はポケットからタバコを取りだし、ロウランに投げた。

 奴は満足気に受けとる。

 

「ずいぶんと強かだな。それが出世の近道か?」

「さあね。これは性格だよ」

「ちっ――いいじゃねぇか別に。公共の場で吸っちゃいねぇし、副流煙で誰かに被害を出してもいない」

「そういう問題じゃないんだよ」

「わーってるよ、畜生め」

 

 

~~~~~

 

 

「ちゃんと火見とけよ。もうちょいだけ」

「なあ、なんでこの時期に焚き火なんてやるんだ」

「こまけえこと気にすんな。誰か、なんか飯買ってこい」

「おーい、いま兄貴が部隊長補佐に連行されてたぞ」

「あらま」

「んで、ティルクは姉御とイチャイチャしてた」

「許すまじ。ティルクを殺そう」

「ヴィンズ……お前さん、まだ諦めてないのかい」

「本気で恋をしたことの無い者はわからないんだよ。恋い焦がれることがどれだけ辛いことかがな」

「つまり頭の中がまっピンク」

「お前いい加減にしろよ」

「ピンクも程々にな」

「ふん、茄子は焚き火に当たって溶けていろ。その頭みたいにな」

「ハッ――」

「フン――」

 

 ――プッツン

 

「「やんのかゴラアアアアアアアア!!」」

「いい具合に二人もぶちギレたことだし、そろそろ解散しようぜ」

「出番が少ないからって無理矢理出すのはどうかと思うんだ。ネタもないし」

「ネタが無い、って言うネタかもな」

「意味がわからん」

「本当にねぇ」

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