魔法少女リリカルなのは エース・オブ・エースの弟   作:ロア

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32話 StrikerS14

 剣戟。

 振り下ろされた剣を、双剣が弾く。

 双剣の連撃を、剣と鞘とがその全てを弾く。

 炎を纏った剣の斬り下ろしと、交差させた双剣が火花を散らして鍔迫り合いの形になり、二人は獰猛な笑みを浮かべる。

 

「やるな、ハーヴェイとやら」

「そっちこそ、シグナム二尉」

 

 視線を移せば、視界には砲撃が映る。

 桜色の砲撃と青色の砲撃がうねるようにぶつかり合い、爆発する。

 それと同時に二人は移動していて、アームキャノンの先に展開された円錐型の青い魔力刃が、桜色のシールドを削る。

 

「精進は怠っていないな、高町一尉」

「アンソニー一尉こそ」

 

 その反対側では、ブースターによって加速されたハンマーを、身の丈ほどの巨大な盾が防ぐ。

 業を煮やしたように、今度は巨大化したハンマーが振り下ろされるが、盾から打ち出された(パイル)が激突して相殺し、互いに崩れた体勢を立て直す。

 

「やるじゃねーかアレクセイ。ザフィーラ並の固さだな」

「そちらも大した威力だ、ヴィータ三尉」

 

 昼飯を済ませた後訓練場に向かうと、そんな光景が繰り広げられていた。

 

「……なんだこれは」

「アンソニー達が模擬戦をしてるのかな。最近おとなしいと思ったら、模擬戦許可の申請してたらしい」

「ああ、なるほど……強行偵察課が六課に来てから、出動がさっぱりだからな。体を動かしたくもなるんだろうな」

「で、潤もあそこに混ざってる、と」

 

 ぼくが指さした先には、その二人が戦っていた。

 ナックルスピナーが回る重厚なガントレットと、炎を纏ったガントレットがお互いに向かって打ち出される。

 

「おおおおおおおおおおお!」

「はああああああああああ!」

 

 雄叫びをあげ、拳をぶつける潤とギンガ。

 今日から六課に出向してきたスバルの姉であるギンガ・ナカジマ陸曹が、潤と模擬戦をしているようだ。

 歯を食い縛りながら耐えていた潤だが、敵わないと見るや受けていた拳を下へ受け流すようにしてギンガを跳び越え、着地すると同時に地面を蹴って跳び込み、鋭い蹴りを後頭部に向かって繰り出す。

 反応したギンガはそれをナックルで弾き、蹴りを繰り出すが、それは潤のステップに避けられる。

 牽制しあい、ラッシュを掛け合いながら、潤の表情が楽しそうなものに変わっていく。

 それは言うなれば、『探していたものを見つけた』と言わんばかりの表情だった。

 それに興味を持ったらしくティルクは潤達の方に向かっていく。

 ぼくはそれを見送り、目の前のモニターで繰り広げられる模擬戦に目を戻した。

 

 

~~~~~

 

 

 拳を弾き、蹴りを防ぎ、ステップで後退しながらも、全身に魔力を供給し、炎を絶やさない。

 その拳や蹴りは凄まじい重さで、俺が食らえば一撃で倒されかねない威力だ。

 だが威力がある分、それは僅かにスピードが遅く、俺からすれば反応するには充分だ。

 その拳を避け、炎を纏った拳打を叩きつけるが、俺の拳は速い分威力が少ないので目に見えたダメージは無く、目の前の相手は苦悶の表情さえ浮かべても、動作は鈍らない。

 とっさにブレイブの中の術式を読み込み、左手に生成された焔を右拳で撃ち出す。

 

「エクスプロージョン!」

 

 だがそれは咄嗟に展開されたシールドで完全に防がれ、俺は大きな隙を晒しただけだった。

 振り切った腕を戻そうとする前に、スピナーの回るガントレットを装着した左腕が俺に向かって引き絞られている。

 

「はぁ!」

 

 抉るようなその拳を腹に食らって俺は大きく吹き飛ばされ、地面を転がり、訓練場の仮想木々を好き勝手に薙ぎ倒したところで、ようやく止まった。

 当然、俺のダメージは甚大で、なんとか立ち上がろうとするも、膝を付いた体勢のまま動けなくなった。

 

「勝負あり、だな」

 

 突然横からアローンの声が聞こえてきて、俺は大きく溜め息を吐く。

 

「まだ終わってねえよ」

「いいや、終わりだ。ナカジマ陸曹の勝ちだな」

 

 俺は諦め、バリアジャケットを解除する。

 俺と戦っていた彼女も解除し、訓練着に戻った。

 痛みを身体に感じながら立ち上がり、俺は笑って手を差し出す。

 

「手合わせ、感謝するぜ。強いな、ナカジマ陸曹」

「いえ、こちらこそ良い経験になりました、斎藤陸曹」

 

 笑顔を浮かべ、俺の握手に応える。

 俺はそれを見てなんとも言い難いむず痒さを感じ、不自然にならない程度に握手を離し、ポケットに手を突っ込む。

 

「やっぱり、スタイルが違うとこうまで難しいんだな。攻撃が怖いのなんの」

「当たらなければ意味はありませんし。それに、斎藤陸曹の打ち込みだって、かなりのものでしたよ」

 

 俺はそこで手を振り、

 

「防御を抜けなきゃ意味が無い。身体強化の効率と火力を見直すか……あと、ナカジマ陸曹。敬語、やめてくれ。歳も階級も同じだし、俺がタメ口なのに敬語を使われちゃ、なんとも」

 

 俺が頭を掻きながら言った言葉にナカジマ陸曹は頷き、

 

「なら普通に喋らせてもらうわね」

 

 それから、と続け、

 

「ナカジマ陸曹、って呼ぶのもやめにしない?」

「……なんて呼べば?」

「ギンガ。(スバル)も居るのに、『ナカジマ』じゃわかりにくいでしょ」

「俺、人を名前で呼ぶの、慣れてないんだが」

「じゃあ、いい練習になるんじゃない」

 

 俺は少し気圧され、アローンを見る。

 が、アローンは「こっちに話が来ないうちに」と言わんばかりに背を向けて歩いていった。

 俺は分隊長を呪いながら溜め息を吐く。

 

「わーったよ――ギンガ。また手合わせ頼むわ」

「ええ。よろしくね、『潤』」

 

 その言葉に、少し居心地の悪さを感じる。

 いまいち、名前を呼ばれるのは慣れない。それも理由にあるだろうが、相手が女性だというのも関係あるだろう。

 いや待て、隊長達に呼ばれるときはなんとも思わなかったのに、なぜ今はこんなに居心地が悪いんだろうか。

 

 

~~~~~

 

 

「終わり、かな」

 

 模擬戦が終わったようで、ぼくは姉さん達に近付く。

 

「姉さん、アンソニー」

「あ、一騎。来てたんだ」

「うん。途中から見てた。アンソニーも、お疲れ様です」

「ああ……弟、お前の姉は随分と思い切りがいいんだな」

「ええ。まあ、ぼくの姉ですし」

「姉弟揃って、か。まったく」

 

 アンソニーはなんとも言い難い表情をした。

 

「でも、姉さんも久しぶりに全力で模擬戦をしたんじゃないの」

「確かに、久しぶりだったかも。アンソニー一尉、私鈍ってませんでした?」

「昔と同じか、それ以上に堅く、強かった。私もまだ精進が必要だな」

「アンソニー一尉だって、遠近の切り替え、また速くなってますよ。反応しきれなかったです」

「完璧に防いでおいて、よく言うな」

 

 アンソニーと姉さんがここまで打ち解けていることに驚いた。

 アンソニーは姉さんを嫌っているのかと思ったが、どうもそうではないらしい。

 

「あ゛~、疲れたぜこんちくしょう。班長も終わったか。お、カズキ、お前も参加するかい?」

「いや、今日はやめとくよ」

「――ハーヴェイの相手をしてもらい、感謝する。シグナム二尉、彼はどうだった」

「かなりのものです。荒削りなところもありますが――双剣の使い方を知っていますね。誰に習ったのですか?」

「ハーヴェイのそれは我流だ。基本的な剣の振り方はともかく、その技は戦闘を繰り返していくうちに、自然に身に付いたらしい」

「なるほど、そういうことですか」

「また手合わせ願えますか、シグナム二尉?」

「ああ、喜んで相手をしよう」

「よっしゃ! お願いします!」

 

 ハーヴェイは笑って頭を下げる。

 そして、後ろからも声が聞こえて振り向くと、アレクセイが立っていた。

 

「アレクセイも終わったの?」

「ああ」

「随分と堅かったな、あたしもちょっとくたびれちまった」

 

 グラーフアイゼンを肩に担ぎながら、ヴィータさんは溜め息を吐いた。

 

「ヴィータさんでも、か。よっぽどの防御だね」

「だが、少々危険だった。盾が砕けるかと思ったぞ」

「砕けなきゃ意味がねえんだよ」

 

 ヴィータさんは悔しそうに言った。

 

「やっぱ、物理的な盾もあると厳しいな」

「純粋な魔力の盾じゃなく、頑丈な金属だからな。だが、これにヒビを入れるとは……」

「後でナグリー達にメンテ頼んどこうか」

「ああ、頼む」

 

 アレクセイが頷き、ひとまずは大盾を背負った。

 この大盾型は待機形態がなく、アレクセイはこれを常に背負って携行している。

 

「そんな重たいの、よく背負ってられるね」

「いざ戦闘となったときに、重たいだの言ってられないからな。普段からこの重さに慣れておかなくては」

 

 なるほど、確かにそういう考え方もあるかもしれない。けれど、普段からデバイスを目に見えて携行しているというのは、常に刀を腰に差しているようなものだ。

 場所をわきまえなければ、すぐに局員の世話になることになる。

 それを言っても、アレクセイは肩を竦めるだけで、考えを変える気は無いようだった。

 

 

~~~~~

 

 

 結局、あれから偵察課と六課で別れ、ぼくとティルクも別れ、五人ずつのチーム戦もやったりした。

 といっても、ハーヴェイはシグナムさんにまっしぐら、潤もギンガに向かっていくし、アレクセイは自身の防御の限界を確かめたいのか姉さんの砲撃をひたすら防ぎ、オールラウンダー同士のアンソニーとヴィータさんが全力戦闘を始めるから、ぼくはティルクの相手をしていた。

 そして、反省会という題目で、それぞれのチームで夕食を取っていると、ハーヴェイがニヤリと笑って喋り出す。

 

「で、どうだったんだ、ジュン」

「どうって、なにがだよヴェルディ」

「とぼけんな。あの嬢ちゃんの具合だよ。良かったか?」

「かなり強かった。だいぶ見切ってきたが、まだ五回やっても勝てるかどうかってとこだ」

「へえ、清楚な見かけによらず激しいんだな」

 

 そう下品な笑いを浮かべるハーヴェイをアンソニーが睨む。

 

「……お前、下らない言い分を続けるなら舌を抜くぞ」

「軽い冗談くらい見逃せよアンソニー。お堅い雰囲気漂わせて、そんなんだから女が見付からねぇんだぜ」

「相手が居ようが居まいが、私の勝手だろう。それに、今は色恋沙汰(そんなこと)をしている暇は無い」

「……ああ、そうだったな」

 

 ハーヴェイが意味深に呟き、アレクセイが眉をひそめる。

 その表情にぼくらは疑問を持ったが、問う前にハーヴェイがフォークを握る。

 

「にしても、この食堂は微妙だな」

「そう? ぼくはなんとも思わないけど」

「ああ、味が薄いっていうか、パスタがパサパサしてる、っていうか」

「量はあるから、腹を満たすには充分だ。文句を言うな」

「美味い飯は重要だぜ。飯が不味けりゃ士気も下がる。特に、俺等みたいな『軍人』はな」

「管理局は軍隊じゃ無いがな」

「似たようなもんだと思うがね、俺は」

 

 潤がそう言って肩を竦める。

 ぼくは呆れながらパスタを口に含む。

 味は、特にわからない。不味くは無い。だが、飛び抜けて美味いわけでもない。

 考えてみれば、最近食事が美味いかどうかなんて、考えたことが無かった。

 

「……まあ、いいか」

 

 別に困ることでもない。

 そう結論付けたぼくは、残りのパスタをかきこみ、スープで流し込んだ。




潤が恋愛に興味を持ったようです。

あと、別に最後の一騎は伏線でも何でもありません。
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