「ああ、そういえばそんなこと書いてたな」位に思って見てください。
翌朝、食堂に向かうと、クォーツとマリクがコックの格好でフライパンを片手に働いていた。
「なにやってるんだ、お前ら」
「やあ姉御。いやね、働かざる者食うべからずという言葉があるらしいじゃないか」
「……まあ、そうだな」
「というわけで、人手不足な食堂を僕とマリクが手伝ってるんだよ。僕らはわりと料理はできるし、姉御も何度も食ったことあるだろ。ちょっとは期待してくれていいぜ」
「料理は愛情! オレの愛を受け取れ姉御!」
騒ぐマリクを無視しながら食事が乗ったトレーを持って、姉さん達を見つけたのでそこのテーブルに向かう。
「おはよう」
「あ、一騎。おはよ」
「おはよーさんや」
「一騎、おはようございます!」
なんだか、久し振りに見る気がするリインがぼくの目の前に浮かぶ。
「リインもおはよう。とりあえずぼくを座らせてくれ」
「一騎の友達、料理上手だね」
「え、本当に?」
フェイトさんの言葉に驚き、スープを口に運ぶ。
偵察課の時に、何度も食べたことがあった筈だが、ぼくは少し驚いた。
「確かに、美味しい」
「ね」
「僕ら、必然的に野営が多いんですよ。偵察課的な意味で」
「うわっ!?」
いつのまにか後ろに来ていたクォーツに、はやてさんが驚いて身を引く。
「ま、まったく気配を感じんかった……」
「そりゃ、僕らの本業は暗殺ですし」
クォーツが怪しい光を眼に湛え、笑いながら言う言葉に、みんなの表情が険しくなる。
「まあそれはともかく、野営が多いから自炊の機会も増え、結果的に飯が作れるようになったわけですよ。腕はまだまだ、本業には及びませんがね」
「料理本も見ずに?」
「最初は獣の丸焼きから始めました」
「ああ……そういえばそんなのも食った事あったな」
ぼくは豪快に焚き火で焼かれる、牛の様な生き物を思い出した。
「とまあ、そういうわけで。これから僕らは食堂で働くんで、よろしく頼みます」
「クォォォォォーツ! はよ戻って手伝ってくれぇぇぇぇぇ!! 人手が足りぃぃぃぃん! あ? メンチカツ定食なんて無ぇよ! メニューにあるもん頼め!」
「あいあい、今行くぜ。姉御、うちの連中は六課に散らばってるんで、見つけたら声掛けてやってくんさい」
クォーツはコック帽をかぶり直し、歩きだす。
「ところで、その格好はなに?」
「クラナガンで買ってきました」
何事も形からですよ、だそうだ。
~~~~~
「シャーリーさん、スペックの最適化を行っておくぜ」
「あ、お願い」
「なんか不具合とかは聞いてないですか、マリーさん?」
「あ、ティルクが『剣が少しガタつく』って言ってたけど」
「わかった、連結部のメンテを徹底します」
ナグリーとリブレンドは、デバイスルームでシャーリーとマリーさんの指示を受けながらてきぱきと働いていた。
「お、姉御。元気?」
「まあな。お前らも元気そうじゃないか。デバイス整備か?」
「暇すぎたし、遊んでたら八神部隊長にマジギレされたからな」
「ま、マジギレ……?」
「おうよシャーリーさん。ありゃ恐ろしかった。オレら全員、二日程意識を失った」
「三途の川って深いんだな、姉御」
「知らん」
「八神部隊長、
まあ、仕方の無いことかもしれない。他の課の課長が好き勝手やってストレスが溜まっているところに、阿呆共が能天気に好き勝手遊んでいたならば、いくら人格者のはやてさんでもキレるだろう。
「で、姉御はなにしに来たん」
「イノセントハートの整備と、機能追加だ」
「よし任せとけ。データを送ってくれりゃ、完璧に仕上げてやんよ」
「……いいか? イノセントハート」
ええ、構いませんよ、と点滅するのを見て頷く。
「それじゃ、頼む」
「40000クレジットになります」
「……………」
「冗談だからやめ――」
~~~~~
六課の中を歩いていくと、中庭で潤がレイナとギンガの三人で話しているのが見えた。どうやら、ギンガにレイナを紹介しているようだ。
最初に模擬戦をしてから潤とギンガは仲が良く、食事を一緒にとったり、訓練で話しているのをよく見かける。
いいことだな、と思っていると、通信が入る。
「はい、こちら高町空曹」
『あ、そういえば姉御は空曹か。オレ達より二つ上だな』
『用件伝えなくていいのか、ヴィンズ』
『ああ、姉御。高町一尉が呼んでいる。訓練場へ来て欲しいそうだ』
「わかった――お前達はロングアーチの手伝いか?」
『ええ、ヴィンズは通信員だからお手の物だし、オレもどっちかっていうと、ドンパチよりも
『ウィルスも通信員に鞍替えしても良いくらい、手際が良い。ここのみんなはオレが淹れるコーヒーも美味いと飲んでくれる。働いて目の前の人間に感謝されるなんて初めての経験だから、なんかくすぐったいが、悪い気はしない』
ぼくは歩きながら、その言葉に息を呑む。
「働いて感謝されるのは初めてだ」。
確かに、強行偵察課の特性上、仕事中に浴びる声は称賛よりも罵倒だ。
どれほど繰り返しても、何度やっても同じことだ。感謝されることなんて、一度も無かった。
そんな仕事を選んでおきながら、ぼくらはその現状に僅かな不満を抱いていた。
かといって、人の為になる仕事は他にいくらでもある。その事にいま、ぼくは気付いた。
「まあ、そうだな。頑張れ」
『ああ、姉御。お互いにな』
『んじゃ、通信終わり』
通信を切られた携帯端末をポケットに仕舞い、ぼくは歩くスピードを速めた。
~~~~~
「姉さん、どうした?」
「あ、来てくれたんだ。フォワード達の模擬戦の相手をしてもらおうと思ったんだけど」
「……ごめん。今はイノセントハートを整備に出してる」
「あらら……じゃあ、久しぶりにレイジングハートを使ってみる?」
「――いや、イノセントハートの方が使いやすいし」
ぼく専用に調整を重ねているから、という意味だったのだが、どうやらその言葉はレイジングハートの機嫌を損ねたようだ。
私があんな
「お、姉御と高町一尉」
「なにかお困りっすか、姉御、高町一尉」
「ライアとレイドか。いや、今デバイスを持ってなくて、フォワードの相手をできないんだ」
それを聞くと二人は顔を見合わせて頷いた。
「オレらがやろう」
「――いいのか?」
「ああ。なんせ、オレ達は戦いしか取り柄が無いからな。
「つーわけで、相手頼むぜフォワード。良いですよね、高町一尉」
「……そうだね、これはいい経験になるかも」
姉さんがそう言うと、二人は弾かれたように飛び出し、杖を手に持ってセットアップをした。
「よっしゃぁ! 実戦経験ならオレらの方が上だ!」
「叩きのめしてやる!」
~~~~~
接戦だったが、フォワードは
といっても、ライア達が弱いわけでは無い。二人はどちらも射撃型だが、練度はそこらの局員とは比べ物にならないものだ。
特にレイドの狙撃は、しっかりと狙える状況ならば、一キロ先の標的にだって確実に命中させる。ミドルレンジの距離ならば、狙わなくても敵に弾を当てられると豪語している。
実際それは事実なのだが、その狙撃弾を弾くか防ぐかすることは可能なので、ダメージを与えられるかどうかは別の話だ。
そして、ぼくはクォーツ達が作った夕食を食べながら、ティルクに今日の事を話した。
「なるほどな。あいつらも色々と考えているのか」
「だろうね……もしかしたら、ぼくはあいつらの
ぼくが呟いた言葉に、どういう意味だ、とティルクが聞いてくる。
「ぼくはマリクが見せてきた『強行偵察課』にみんなを連れて入隊した。けど、それは本当に正しかったのかな、って」
「間違っていた、と?」
「かもしれない。ぼくは姉さん達とは違う方法で、でも姉さん達と同じように『この場所』を守りたかったんだ。姉さんやフェイトさんじゃ手が回らないようなものを、管理内外問わずに世界を飛び回って、災いの種を摘み取っていこう、と」
ティルクは黙って聞いている。
「ぼくはそれでよかったと思う。これから転属を考えるかもしれないけど、今までにやってきたことを後悔はしていない。『ぼくは』だ。あいつらは、違うかも知れない」
「あいつらは、強行偵察課に来たことを後悔してる、と」
「言ってるだろ。後悔してる『かもしれない』。ぼくが勝手に悩んでるだけだ……けど、今日のあいつらはとても生き生きしてて、とても楽しそうだった。偵察課で、仲間だけで集まって馬鹿騒ぎしてる時よりも、よっぽど」
「それは俺も感じていた」
ティルクはフォークを指先でくるくると回しながら、
「だが恐らく、あいつらも俺達も、深く考えていなかったんだ。『強行偵察課』の意味を知らず、ただ『面白そうだ』という簡単な考えで入隊した」
「そう、だろうな」
「そして、やっていく間に、だんだんと慣れてきた。人を殺す仕事だ。直接的にであれ、間接的であれ、な。それに慣れるということは、罵倒にも人殺しにも慣れるということだ」
「だからぼくは後悔して――」
「だが、俺は間違っていたとは思わない」
ティルクは言い切った。はっきりと。
ぼくは驚いて、思わず喋るのを止める。
「強行偵察課でそんな経験をしたからこそ、この普通の日常で、ほんの些細な事で楽しむことができている。普通に生きていたなら、ただ『当たり前』のことだったろうが、俺達にとっては、とても楽しめるものになっている」
ティルクは笑い、
「結果として、それはとてもいい事だと俺は思う」
そう断言した。
「そして六課での経験は、絶対にあいつらにとっていい経験になる。あいつらは今日、それぞれの場所で色々なことをしていたんだろう?」
ぼくは黙って頷く。
「それは強行偵察課で学んだ経験とスキルが活かされているということだろう」
「――そう、かもな」
「これはいい切っ掛けだろうな。お前が言う、あいつらの
「そうかな」
「それに、最初から明確に
「特殊、ね」
「まあ、それ以前に俺達は夢を目指してる訳じゃ無い。だから、色々な経験を積むことができる強行偵察課に所属した、お前の選択は間違っていなかった、ということだ」
そう言ってもらい、今日悩んでいた胸の突っ掛かりが軽くなったのを感じた。
「……やっぱり、ティルクって年上なんだな、って思うよ」
「お前より年も階級も一つ上だ。敬えよ」
「あはは……ありがとう」
誤魔化すように笑っていった言葉に、ティルクは照れたように鼻を鳴らした。
と、視界の隅でちらつく金髪を知覚すると同時に、制服の裾を引っ張られる。
「ん、ヴィヴィオ。どうした」
「なのはママとフェイトママがお仕事の話始めちゃったの。お兄ちゃん、お話しよー」
ママ、か。既に聞いていることだが、やはり驚いたものだ。
最近まで普通にしていた姉達がいきなり『ママ』なんて呼ばれたら、驚くのは仕方ないだろう。
髪の色もあって、ぼくが無限書庫の司書長に対して通信を繋ぎ、『殺してやる』と宣言して転移しかけたのも仕方ないだろう。ヴィヴィオの出生は知っていたと言うのに、思わずそんな行動に出てしまうほど、ぼくはパニックになった。
まあ、そんな呼ばれ方をしているのは、ヴィヴィオにとって姉さんは保護者、フェイトさんは後見人ということになり、面倒臭い言い回しを省くと『ママ』ということになる、とスバルがヴィヴィオに説明したらしい、
そして、ぼくも姉さん経由でヴィヴィオに懐かれ、『お兄ちゃん』と呼ばれるようになった。
末っ子待望の妹である。
そう考えるとなんともいえない愛しさが込み上げ、思わず手が延び頭を撫で回す。
「ん~、くすぐったい」
「そういえばヴィヴィオ、レイナとは最近どうだ?」
「毎日遊んでるよ!」
「遊んでる」
いつのまにかヴィヴィオの隣にレイナ本人が出現した。
この子の『お兄ちゃん』は何をしているのかと探すと、案の定と言うべきか、ギンガと話している。
「お兄ちゃん達がいい感じだったから、席を外したの」
淡々と言うレイナに感心する。
実に気が利く子供だ。いくら
実に馬鹿馬鹿しい。
「で、ヴィヴィオのもとに来た、と」
「うん」
ヴィヴィオはふにゃっと顔を崩し、レイナにしなだれかかる。
「友達だもんねー」
「ね」
レイナは短く返しながらヴィヴィオの頭をあやすように撫でる。
歳相応の無邪気なヴィヴィオと、同い年とは思えない程落ち着いたレイナ。
なんとも正反対な二人だが、相性は良いらしく、二人とも笑顔を浮かべている。
その光景の微笑ましさに、胸が暖かくなるような感覚を覚える。
確かに、強行偵察課に行ったのは、そして六課に来たのは、正解だった。
偵察課に進まなければレイナを助けられることは無く、六課に来なければヴィヴィオと会うことは無かった。
この目の前の二人を見るだけでも、それを実感した。
思わずティルクを見ると、彼は『言った通りだろ』と言わんばかりに、今まで見たことがない程の笑顔で、楽しそうに笑っていた。
シスコン対象→姉、妹。
一騎はユーノが嫌いです。理由はお察しください。
しかしら一応話が進めば考え方も変わり、関係は良好になっています。